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Make A Friend  作者:  
一学期
2/8

四人組


-高校へ通い始めてから1か月が経った月曜日


 ここまでは何事もなく順調である。

俺は、相変わらず友達が一人もいない。実際、作ろうとしていないのだが。

 一方、入学初日に友達になってくれないかと問いかけてきた彼女は,女子およびクラスの中心グループに所属していた。ぼっちからの大出世である。

 そんな彼女のグループの様子をここ数日間、観察していた。

分かったことが幾つかあった。グループは山吹含めて全員で5人。

リーダー格と思しき金髪のギャル、短髪の可愛い子、釣り目の性格のきつそうな子、ハーフの美少女。

 いつも話の中心にいるのはギャルと短髪と釣り目だった。

ハーフの美少女は無関心そうに聞いていた。山吹はただ笑っているだけだった。

話に参加している様子はなく、相槌を打ち、時々聞かれたことを素直に答えたりするだけだった。

 彼女たちが友達には見えなかった。まるで・・・


『金魚の糞ってか?』


 そう廊下からクラスの様子を伺っていた俺に話しかけてきたのは中学時代を共に過ごした親友だった。


「久しぶりだな」


『相変わらず、ぼっちだな』


 そう言って、ニヤリと笑う。

嫌味なのに、不思議と嫌な気分にならない。

それどころか懐かしくて、とても居心地の良い気分になる。


「うるせ」


 やれやれと言った表情をする。

顔は笑っているが目が笑っていない。きっと彼は俺のことを心配しているのだ。

・・・だって、いつも彼が俺の目の前に現れる時は・・・


『そんな調子だと友達ができないぞ』


「できないんじゃない。作ろうとしていないだけだ。それに…」


 握り拳に力を籠める。


「いらねぇんだ。友達なんて…」


『もし、俺のためだって言うんだったら今すぐやめてくれないか?』


 今度は顔すら笑っていなかった。

 どうしてお前が悲しそうな顔をするんだ。悪いのは俺なのに・・・

 どうしてお前は・・・いつも・・・いつも・・・そうやって・・・


『俺は、お前に高校生生活を楽しんで欲しいんだ。

 それに、そんなことも言っていられないぞ。来週には宿泊研修が控えているんだろ?』


 宿泊研修・・・学校行事・・・クラス全員・・・集団行動。

 俺が最も嫌いなものだ。


「良い思い出がないな」


『全くだな』


 歯を見せて笑う。

いつも彼が心から笑う時はこうして歯を見せる。


『賢治~!購買行こうぜ!』


 どこからか賢治の名前を呼ぶ声が聞こえた。


『おう』


 その声に対して元気よく返事をする。


『悪いな、呼ばれちまった。...きっと大丈夫だ。

 だから、その、お前も頑張れ』


 そう言って俺の肩を叩く。

 そして、賢治は俺の前から消え去っていった。

 賢治は上手くやっているみたいだった。彼なら当然っちゃ当然のことか。

賢治は中学時代、クラスの人気者だった。優しくて周りに気を配れる奴だった。

そんな彼と話したきっかけは宿泊研修だった。

ある理由から中学時代から友達を作ろうとしなかった俺は、班作りのときに一人取り残されていた。

クラスの奴らは俺の方を見向きもしなかったが、賢治だけは違った。

俺を賢治たちの班に招き入れてくれた。宿泊研修を通して、賢治と話す機会が増えた。


-昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る


 チャイムを聞いたみんなが、慌ただしく各自の席へ戻る。

みんなが着席したタイミングにガラガラと教室の扉を開いて担任が入ってきた。

まるで外から教室に入る機会を伺っていたように感じられた。


「えーと、これからホームルームを始めます。内容は来週に行われる宿泊研修についてです」


 宿泊研修という単語にクラスが反応する。

先ほどまで静まっていた教室が一気に騒がしくなる。

中には、「同じ班になろうぜ」などの話し声も聞こえてきた。


「静かに。えーと、その宿泊研修で共に行動する班をこれから決めてもらいます」


 ひそひそと、あちらこちらから声が聞こえる。それだけじゃない。

目で何やら合図を送っている。その光景はまるで心理戦を展開されている戦場のようだ。

 俺にはそんな高度な心理戦を展開できるほどの相方もいないので、誰とも目が合わないように担任を見つめる。

そんな俺の熱すぎる視線を感じたのか、担任と目が合った。

 すると、すぐさまに目を逸らした。


『教え子と目が合って、すぐに逸らすってどんな教師だよ』


 気を取り直すためなのか、場を静めるためなのか、はたまたその両方か。

 担任が何度か咳払いした。


「えーと、基本的には自分たちで決めてもらいますが、決まらない場合は出席番号順にしようかなと思っています。それで…」


 担任が説明を終える前に立ち上がるクラスの連中ども。

 仲がいい奴らが集まり、もう既にグループがいくつも出来ていた。


『人の話は最後まで聞こうよ』


 担任の方をチラッと見ると、もう好きにしてくれと言わんばかりの表情だった。

 山吹は既に例のグループで固まっていた。

 少しばかり焦って周りを見渡す。既に俺以外の人がグループを成していた。

 でも、人数がバラバラだった。


「あ、えーと、言い忘れていましたが一班5人です」


『そこ肝心なところだろ』


 急いで頭の中で計算する。 

クラス全員で40人。つまり8班できるわけか。

 でも、男子22人、女子18人・・・男子だけの班が4班。女子だけの班が3班。

残りは、男子2人と女子3人の男女混合の班になるのか。


「先生、余りが出るっす」


 そんな俺の疑問を口にしてくれた。


「あ、えーと、そのことですが言い忘れていましたね」


『この人、大丈夫か』


「男子二人、女子三人の班を一つ作ってください」


 ひゅーひゅーと茶化す男子の中心グループ。

 単純というかなんというか。


「えーと、いま決めている班は学外研修を一緒に行う班で、部屋の班はまた別に決めてもらいます」


『それは先に言うべきだろう。本当に大丈夫ですかね』


 先程まで茶化していた奴らから悲鳴が漏れる。

 

『いや、当たり前なんだよな』


 部屋まで一緒だったら学校問題だ。いや、それどころか日本の社会問題になり兼ねない。

全力で教育委員会が乗り出してくる未来しか見えない。奴らは保守的な組織だからな。

 

「わかったっす」


『それ、敬語でもなんでもないんだよな』


 周りを見渡すと既に班同士で話し合っており、明らかに俺だけが取り残されている様子だった。

 

-非常にまずい


 この状況から脱出できなければ、担任が動き出してしまう。

あの担任のことだ、俺のせいで出席番号で班決めになんてなることが考えられる。

そうなれば、注目どころか非難を浴びてしまう。

 俺はもう一度、周りを良く見渡す。

すると、教室の片隅に話し合いに参加していない班があった。その班の人数を数えてみると、4人しか集まっていなかった。

見た目からして、陰キャグループだろう。

おおよそ、話し合いに参加できずにいるといったところか。


『俺にとっては好都合だ』


 これなら目立たずに班に入ることができる。

 意を決してそこへ向かう。

そして、陰キャグループの目の前まで来た。

奴らから、俺たちの領域に踏み込むなと言わんばかりの視線を送られてくる。

 凄い威圧感だ。

確かにこの様子じゃ参加するどころか参加させてくれないわな。


「あ、あの、一人足りないよな?」


 久しぶりに母親と妹以外と話す。

 自分から話しかけることは思った以上に緊張する。

こいつらの無駄に強い威圧感のせいもあるのだろうか。

 目を逸らそうとするが、奴らは逸らす気配がない。俺もじっと堪える。

そして、奴らは俺から目を離さずに答える。


「そうだが?」


 百キロは軽々と超えていそうな巨体が前に出てくる。


「んで、なにようだ」


 巨体に賛同するかのように今度は、ひょろ長いのが出てきた。

巨体の印象が強すぎて雑魚に見える。


「そ、その、人数が足りていないように見えた、から」


「だから、何が言いたいんだべ?」


 『...べ?』


 今度は制服のポッケに両手を突っ込んだ奴が出てきた。

いかにもイキっている奴だ。

 語尾の、べ、というのは方言かなにかだろうか。


「...」


 残りの一人は何も言わず立っているだけだ。

これといった特徴のない奴だ。


「「「そ、れ、で?」」」


 4人全員で問い詰めてくる。いや、実際は三人か。

一人では何もできないが大勢になると威勢が良くなる。まるでゴブリンのようだ。


「...そ、それでだな」


 その威圧に押し負け、「俺を班に入れてくれ」と言おうとした瞬間だった。

 

「えーと、無事に班が出来たようですね。

 えーと、では班の中で代表を決めてください」


 担任のナイスタイミングのお陰でこいつらに頭を下げずに済んだ。

 

「まだ決まってねえよ」


 と、ヒョロがブツブツ不満を垂れ流している。

どうやらデブとイキリ、無言は仕方なく受け入れる方針を取ったようだ。


「仕方ないだろ。どっちにしろ一人足りなかったわけだしな」

 

 と、デブがヒョロに向かって言う。

デブのような理解力のある人がいて助かった。

ヒョロのような奴しかいない場合は・・・考えただけでゾッとしたので、これ以上はやめておこう。


「なんなら班長は、部外者のお前がやるってことでいいべ?」

 

 と、イキりが言い出した。

 話の繋がりが全く見えてこないが、俺はその話を飲むことにした。


「ああ、わかった」


 部外者である俺を不本意ながら受けて入れてくれたんだ、これくらいのことはして当然だからだ。

俺は性格は悪いが、話の分からない奴ではない。それに受けた恩は恩で返す。


「...」

 

 恐らく無口も納得したのだろう。

 そんな感じで何事もなく班が決まり、班長も決めることが出来た。

 教室の雰囲気を感じ取ったのか、担任が次の指示を出す。


「えーと、では決まった班長から前に来て、この用紙に全員の班員名を記入してください」


『この担任...空気を読むことだけには特化してるのな』


 というか、班員名とか知らないんだが。

それどころか、さっき初めて会話を交わしたのだが。

 次々と前に出ていく班長達を見て焦る。


「あ、あの、俺、お前たちの名前とか全く知らないんだけど」

 

 その瞬間、四人が一斉に顔を見合わせた。

 すると、突然、笑顔になりだす。


「そりゃ、そうだ。では自己紹介をするか。

 俺は鏡屋 琴音だ。」

 

 デブの名前はカガミヤコトネ。

その姿に似つかわしくない可愛い名前をしている。

少し親近感を感じた。これが噂にいうギャップ萌えというやつか。


「俺は、菅 雄大だ」

 

 ヒョロの名前はカンユウダイ。

こちらも姿とは似つかわしくない名前だ。

もう一層のこと、お前ら二人の名前を入れ替えちまえよ、などとツッコミを入れたくなるが押さえておく。


「俺はな、関 龍央だ」

 

 イキリの名前はセキリュウオウ。

 こいつは見た目通りの名前で安心した。


「...」

 

 どうやら無言は自己紹介の時すら無言らしい・・・と思っていると・・・


「声が小さいぞ」


 鏡屋に注意された。


「そんな声量だから聞こえないんだよ!」


 続いて関に言われる。

 

『え、今まで話してたのか』


 どうやら今まで無言ではなく話していたらしい。

だが、あまりにも声が小さすぎるため聞こえていなかった。

 無言が何か話そうとしているので耳を澄ませる。


「……伊東 叶です。」


 辛うじて聞き取れた。

 無言の名前はイトウカナエ。

何とも女の子らしい名前だ。


「俺は、楓馬 優斗」


 なんとか、こいつらの名前を知ることが出来た。

無事に班員の名前を書き終えると担任から諸注意事項などの説明がされた。

それが終わると、その日のホームルームは終わりを迎えた。

 それからは自己紹介はしたものの積極的に話すことはなかった。それどころか避けられている様子だった。

結局、俺とあいつらは宿泊研修の話し合いを除いて、一度も会話を交わすことないまま宿泊研修を迎えた。

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