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二 案内人(2)

挿絵(By みてみん)


二 案内人(2)



「ふふん。あたしを舐めないでよね」


 そうだ――魁地は思い出した。

 真理望は学校のセキュリティー委員に所属しているが、配属初日から初めて見るシステムにハッキングしてその虚弱性を次々と露呈させたという事件があった。

 この学校の情報セキュリティーは政府も採用する最高位の独自システムを適用しているため、その改修には国が動いたとまで言われていたが、すぐに騒ぎが落ち着いたために魁地は大方冗談だと思っていたが……こいつは、ただの巨乳じゃないんだ。ただならぬ巨乳だ。


「この学校のセキュリティーなんて、私に言わせればまだまだ蜂の巣みたいに穴だらけよ。生徒の個人情報も筒抜けよ。ほら、あんたのだって」


 真理望が五本の指を蛸のようにくねらせていくつも出力したツールを瞬時に操作していく。するとセキュリティーカメラで撮影されていた魁地の写真や学歴、さらにはテスト結果などのプライバシーデータが次々に飛び出してくる。


「へぇ、最近ネットで買ったゲームは萌え燃えマスクメロンちゃんの恋愛学園生活、って超引くんだけど」

「――だぁーーっ! って、てめぇ、なに他人の情報勝手にあさってんだよ!」

「うっさいわね。ボケッ! 変態!!」


「……あの、とにかく、行きましょう」めずらしく霧生があきれたような表情をしていた。


 魁地は真理望の暴走を止めるべく、一旦霧生に話を逸らすことにした。


「そうだ。霧生の言うとおり。とにかく、今は先生に従って行こうぜ……っていうかさ、だからそもそもどうして俺たちだけ別枠で実験棟に行かなきゃなんねぇんだよ」


 霧生は最低限の力で開かれた目を魁地に向け、じっと見つめる。睨んでいるようにも見えるが何せ感情が読めない。いや、そもそもその焦点は俺に合っているのか? むしろ、俺の表面を通り越して中身を見ようとしているような気がする。


 覗き込まれるようなその視線に彼は恐怖を覚えた。


「もう、ご存知だと思いますが……あなた方はすでに能力を発揮している。すでにお気付きになっていますよね?」


 何だって? この女は、何を言い出しやがるんだ?

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。身に覚えがないね」


 魁地は両手の平を空に向け、夜の通販ばりに大げさな表情をつけてみせる。


 沈黙。

 ……これはすべったってことか?

 それとも、こいつらは俺のことを信用していないってことなのか?


 魁地は居た堪れなくなって真理望を見た。そもそも、霧生の言うことが本当だとすれば、こいつは能力者ということになる。


「あんたねぇ……その顔、見ててムカつくんだけど。って言うか霧生さんも何言っちゃってんの? わ、私には、そういうの、ぜん全然、なな、ないわよ」


 霧生のそれと違い、真理望の目はよくものを言う。っていうか、全身から彼女の心のうちを垂れ流しているように魁地には見えた。


 こいつの焦りようは何かある。


「……まぁ、いいです。とにかく、ついて来てください」

「あ、あぁ」


 魁地らは校舎を出ると、ゲートの脇を通ってグランドの対角に向かった。そこには授業中に魁地が窓から眺めていた清掃車が二台停まっている。運転席にいる者も含め、清掃員五人が工具箱や清掃具をいじり、慌しく仕事をしているようだ。

 先を行く霧生の背中を追うように、魁地は彼らを横目に実験棟に足を向ける。


「はぁ……やれやれ、こいつら、一体なんだっつぅんだよ……」魁地が呟いた。


「えっ? なんか言った?」真理望には魁地の言葉が聞き取れなかった。

「あっ、いや、なんでも」


 真理望は魁地何を言ったのかが気になった。

「なによ。あんた何か隠してるでしょ?」

「だから……なんでもねぇって」


 魁地は上の空で答える。真理望は軽く無視されたと思い彼を睨みつけてみるが、なんだか様子がおかしい。彼女には、彼が何故だか緊張しているように見えた。

 そして、はぁっ、っとため息をついた魁地が、ちらりと自分を見たのを真理望は見逃さなかった。

 ……人間の行動って、本当に予測できないわね。



 魁地はせっせと働く清掃員に視線を流すと、ごくりと生唾を飲んだ。

「……しょうがねぇ。すまねぇ、真理望」

 魁地はそう言いながら、流れるように真理望の横につく。彼女は何を言われたのか理解できていない様子だったが、彼は突然、彼女を突き飛ばした。


「きゃっ!」と叫んだ時には、真理望の体は宙を舞っていた。


 くるりと体が反転して彼女の視界が背後を捉えたとき、そこに映ったのは銃を持つ清掃員の姿だった。

 そして、その銃口から幾筋かの閃光が散り、彼女の顔のすぐ脇を空気を裂くような衝撃波が通り抜けた。それが本物の銃弾であることは、彼女でも一瞬で察しがついた。魁地の行動がなければ、その衝撃波の軌跡は彼女の中を通過していただろう。


 真理望が地面に倒れこむ瞬間、飛び掛った霧生が彼女を支えた。


「だ、大丈夫ですか?」

 霧生の腕の中で、真理望は魁地を見たまますくんでいる。

「なんなの、一体なんなのよ!」


 清掃員の奇襲を予見していたかのように、すでに魁地は彼らの元へと駆け出していた。


「っざぁけんなよ!」

 鳴り響く甲高い銃声が真理望の耳をつんざく。それは何発も発射された。

「きゃぁー! た、多綱!」

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