三五 起死回生
すみませんが、イラストなしっす
三五 起死回生
山田が浮き上がって上部に移動し、フェルベアードが両手の閃光刀を掲げて視点を上に移したのを見計らい、魁地は一気に間合いを詰めてフォールディングブレードを振る。
「甘いわ!」と、フェルベアードの閃光刀が柄の部分から反対にも伸びて上下に刃を有した。
「げっ、そんなことも?!」
魁地の二股のブレードの一本がその閃光刀に触れた。強固なロンズデーライトはまるで寒天のように何の抵抗もなく切断される。
「死ね、マルチバグ!」
「やべっ!」
フェルベアードの閃光刀が魁地の首筋を捉えようとした瞬間、突然それが消え失せた。
「何っ、強制アクセスだと?!」
「魁地! 今よ、離れて!!」
真理望の呼びかけと同時に、魁地と山田が一気に距離を離す。そして、フェルベアードの正面に位置取って予め準備していた結浜が、周辺の水素原子を核融合させ、連続爆発させた。
爆発音のエコーが頭の中でいつまでも響き渡る。
視界いっぱいに広がる煙と熱気が、周囲の造形を歪ませている。そのせいでフェルベアードの姿は見えない。
「やったのか?」魁地は視界を開こうと手で煙を掻き分ける。
強烈な核融合爆弾の衝撃は、電源供給経路を一部破壊していた。そのため、ダンパーで切り替わるはずの強制排煙装置が稼働せず、一向に視界が戻らない。
「くそっ、何も見えない……やったのか?」
「排煙装置が稼働していない。しかたない、自然排気でも徐々に視界が戻るはずだ」
結浜は、手元のコントロールパネルで全ての自動扉を解放した。
時間の経過とともに、立ち込めた煙幕が徐々に薄れていく。
すると、そこには上半身のほぼ右半分を失って白い液体を辺りに噴出するフェルベアードが何が起きたのかも分からないと言った表情を浮かべて立ちすくんでいた。
「き、きさまら……何を?!」
「やった。ざ、ざまぁ!」
魁地はガッツポーズを決めるが、信司の声で制止される。
「まだです。アイツの心臓が、まだ残っています!」
ごっそりと抉られたフェルベアードの体。その穴の隅から光が漏れ出しており、心臓の存在を裏付けている。
「そ、そんな……」魁地は膝を落とす。
フェルベアードは、爆発のほんの一瞬前に危機を察し、身を引いていた。それを察した結浜は焦点位置を補正したが、追従し切れていなかった。
「くそ、奴の動きに反応し切れなかったようだ。それに、心臓の位置が、想定よりも数センチずれている。そのせいで誤差が大きくなった……」
結浜も、もう手詰まりという表情で、悲壮感を漂わせている。
――どうする?!
よく見ると、外郭で守られている心臓が、わずかに露出している。
少し時間が経っちまったが、まだ、間に合うかもしれない。プログラムの完全復帰までにあの心臓を破壊できれば、何とかなる。
「ちっきしょう、俺が行く!」
「多綱くん、危険です!」
魁地は制止する霧生を無視してフェルベアードの懐まで一気に駆け寄り、その心臓に手を伸ばした。そして、その塊を掴む。
――やった。俺の力で、こいつをぶっ壊してやる!
「……あれ?」
しかし、彼が力を入れようとした瞬間、その感覚が失われた。
いくら力んでも反応が返らない。そして、彼の視界には『ERROR』の表示が出力される。
何が起きたのか理解できない魁地の前に、眩い直刀が光を揺らめかせている。そして、フェルベアードがニヤリと笑うと、目の前の魁地を思い切り蹴り飛ばした。
「ぐはぁっ……いったい、何が起きたんだ?!」
魁地は床に這いつくばるように、フェルベアードを見上げた。彼の心臓には、それを鷲掴みにする自分の腕が、鋭利な断面を剥き出しにして垂れ下がっている。
彼は慌てて右腕を触ろうとするが、肘から下がない。
「あぶなかったよ、正直言ってギリギリだった。プログラムの復帰が間に合わなかったら、本当にやられていたかもしれん。まさかこんなガキ共に追い詰められるとはね。だが、起死回生だ。これでもう、終わり。ご苦労さん」
魁地にはもう、術がなかった。全ての手を尽くした。これ以上は、何も残っていない。腕の痛みが徐々に増大してくる。
フェルベアードが閃光刀を彼の首目掛け、一気に振り下ろした。魁地は目を瞑ることなく、彼を睨み付けていた。それが、彼にとって最後の抵抗だった。
ドンッ
不意な衝撃が彼を襲う。
彼は地面に倒れ、頭を打ち付けた。
「イテテ、なんだ?」
命はまだあるようだ。そして、彼は胸の中に小さく温かく、柔らかな感触を覚えた。
「き、霧生?!」
それは、彼の胸に飛び込んできた霧生だった。彼女は彼の胸の中で震えている。
「何をボーッとしているんですか。早く避けないと……」
「おい、き、霧生」
彼は残った左腕で彼女の背中を摩る。すると、そこにべっとりと湿ったものが纏わりつく。
「これは……おまえ、怪我してんじゃねぇかよ!」
彼女は魁地を助けようと彼に飛び込んだ際、フェルベアードの刀を背中に受けていた。その傷の深さが致命的なのは、流れ出る血の量で魁地にも容易に想像がついた。
「くそっ、何やってんだよ。俺のことなんかどうでも良いのに!」
「そういうわけには行きません。多綱くんは救世主です。生きてもらわないと困ります。それより、早く逃げて……」
フェルベアードの体が見る見る修復されていく。そして、機嫌悪そうに彼らの所にどしどしと重い足音を近づけていく。
「そういう恋人ごっこはデータトラッシュの向こうでやってくれよ。目障りだ。二人仲良く細切れになりな」
くそっ!!!
魁地は無駄と分かりつつも、フェルベアードに向かって拳を振り上げた。だがそれよりも早く、フェルベアードが刀を突き出した。




