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三二 誤算(1)

三二 誤算(1)



「と~ちゃくっと。やぁ多綱くん、先日はどうも。色々とお世話になったねぇ」

 スーツ姿のエンバッシュが上着の砂埃を払いながら言う。その口調は、相変わらずの上から目線と言ったところだ。


「てめぇ、何しにこんなとこまで来たんだよ!」

「何しにってことははないだろう。俺は君のお陰でこの通りズタボロにされたんだぜ。見てみろよ。自慢の爪は折られるしね」


 エンバッシュは左腕を出し、折れた爪を魁地に見せる。


「てめぇ……一体どうして俺たちがここにいるって分かったんだよ?! レジルがリークしたのか? この中では場所の特定ができないって聞いてたぞ」

「はははっ、君は愚かだね。もちろん、レジルから情報を得ることはできたさ。いやしかし、周到な結浜のことだからトラップもそこかしこに仕掛けてあることも懸念していた。だから万全を期してアーティファクト内でレジルと直接コンタクトをとるのは避けていた。まぁ、やり方はどうとでもなったが、結果的に我々にこの場所をリークしていたのは君だよ、多綱くん。お陰で助かったよ」


 魁地は凍りつく。――なんだよそれ。まるで古典的な錯乱作戦だ。しかし、周囲を見渡すと、魁地を見る彼らの目からは一様に湧き出す疑念が滲み出ている。


「はっ? な、何を言ってんだよ。嘘に決まってんだろ。おい、あいつの言うことなんか信じちゃいけねぇぜ」

「魁地、あんた……まさかそんなことないよね」

 真理望は様々な可能性を頭の中で探っているが、思考がオーバーフローしている。彼女の至大な演算能力は、逆にシンプルな問題ほど答えを出せない。


「おいおい、お前ら、あいつの作戦だよ。騙されんなよ! てめぇ、エンバッシュ。姑息なことしやがって!!」


 エンバッシュはニヤリと笑い、徐に折れた爪を出し入れしている。


「何を言っているんだい? 本当のことじゃないか。だから、こうやってほら、爪を折られてね……さて、この先っちょはどこに行ったのでしょうか?」


「なにっ?」

 魁地は彼の左腕の中に違和感を覚えた。その違和感はみるみる増大し、痛みへと変わる。


「うぐぁっ、何だこれ?!」

 魁地の左腕を割るようにして鋭利で硬質な針のようなものが突き出てくる。だが、次にそれは軟質化して何本かの小さな触手を持った生き物のように変形し、彼の腕から完全に這い出してエンバッシュの方に跳ねて行く。


「先日の戦いのときに仕込んでおいたんだよ。こいつは俺の一部だから、デバッガーを利用すればローカルに距離を探知することができる。君の動きをモニターしておけば、その導線からこの場所や、施設内の詳細マップを得ることだって容易にできたし、今もリアルタイムにここに辿り着くことができた。君の働きには感謝しているよ。ベリーグッドだ」


 魁地は蒼白になった。よりにもよって自分自身が敵に加担していたとは、予想すらできなかった自分の愚かさに、彼は愕然とした。


「まさか、そんなことが……。すまねぇ……俺のせいで――」


 結浜が魁地の肩に手を掛ける。魁地は折り曲げた体を一瞬ビクつかせて結浜を見上げる。


「いや、君のせいじゃない。私もここまで周到な敵は初めてだ。ペネルの言うように、こいつは相当悪知恵の働く奴だな」


 結浜の目は一点フェルベアードを捕らえて離さず、目の前の事態を打開する術を探るのに集中しているようだ。否、むしろそれ以外のことには構っていられない、と言った方が正解だろう。

 それを見た魁地も、今やるべき最善は何かを考えることにした。とにかく、原因を作った自分が事態を打開しなければ、彼はそう思った。


 フェルベアードが両腕から光の刀を作り出し、退屈そうに口を挟む。


「エンバッシュ、お前が俺に新しいルートオブジェクトを設定したおかげで磐境から開放されたのには感謝している。だが、お前が手古摺っているバグズっちゅうのはこのガキどもなのか? 俺にガキの世話をしろと?」

「まぁそう言うなよ、フェルベアード。見た目に騙されちゃいけない。こいつらは非常に危険なバグアビリティーを持っている。それにペネルもいる。油断は禁物だ」

「さぁ、どうだかな」


 フェルベアードがニヤリと笑うと、破れた頬の下に金属のような骨格が露出し、黒ずんだ歯がほとんど剥き出しになって異常な不気味さを醸し出す。

 明滅する照明がストロボのように照らし出す粉塵のきらめきが当たり一面に漂い、まるでこの世とは思えない景観を作る。だが、そこはあまりにも息苦しく、魁地らに危機感以外を伝えようとしない。


「霧生、なんかやばそうだな……」

「とりあえず、山田くんの拘束は解きます」


 霧生は敵を睨んだまま、横で大人しく座り込んでいる山田の肩にそっと手を添える。


「……っぷはぁー! てめぇ、霧生! 勝手に俺の体操作してんじゃねぇぞ!!」

 山田は息を吹き返すと、早速わめいて悪態をつく。


「山さん、今はそれどころじゃねぇぜ。ご存知だろうが、あいつは本当にマジやばい気がする」

「ああ、俺だって分かっている。あいつの光は絶対に触れるな。物理的な強度とか関係ねぇんだ。何でもぶった切っちまう。それに、なんか嫌な予感がするんだ。あいつ、他にも何かある」

「……いずれにせよ、黙って見ているわけにもいかねぇし、やるっきゃねぇよな。信司、真理望を連れて奥に隠れてくれ。霧生、リンク頼むぜ」


「魁地……」真理望はその後「私も」と言おうとしたが、彼女はその言葉を?み込んだ。フェルベアードとエンバッシュを前に、自分ができることなど思いつかない。魁地の足を引っ張るような真似はできないと、彼女は思う。


「分かった。絶対……戻ってきてよ」

「多綱さん、僕もやります!」信司が言った。

「何言ってんだよ。設計責任者に何かあったらどうすんだよ。だったら、真理望と霧生を守ってやってくれよ」

「魁地くん、私も一旦身を隠します。リンクすると体を動かせないので、そこを狙われると終わりです。本当はずっと近くにいたいところですが……」

「ああ、分かってる。霧生、頼んだぜ」


 霧生はフェルベアードを睨みつける魁地の横顔を見て、彼の『分かってる』が分かっていないと思った。そして、うっかり口走ったその言葉の真意を悟られないよう自分の中で捻じ曲げ、何もなかったように装う。


 そのやり取りを見ていたエンバッシュは呆れたような表情で眉を八の字に歪める。

「おいおい、お別れの言葉はもう終わったのかい? 多綱くん、まずは君から消そう。君はアーティファクトの時間軸を破壊しかねない、我々にとって危険すぎる存在だ。早急に是正しなければならない」


「うっせぇ、バァカ!」

 魁地はエンバッシュに向かって中指を立てた。


「……君はもう少しロジカルな思考を持つべきではないかな」


 ロジカルな思考、そんなものは頭のいい奴が持っていればいい。俺には関係のないことだ。

「ロジカルはどうでもいい、正しいかどうかだけだ。おい、死に損ないとミイラ野郎! 俺が相手になってやんぜ!」


「待て待て、俺を忘れんな!」

 魁地と山田がフェルベアードを前に構える。そのとき、彼らは後ろから肩を掴まれ、グイッと後ろに引き戻された。


「まぁまぁ、ちょっと待ちなさい。ここは私の城だ。君たちも後ろに隠れていなさい」

 二人の間から結浜が歩を進め、フェルベアードに対峙する。魁地は予想していなかった結浜の行動に驚きを隠せない。


「ま、待てよおっさん! あんたのアビリティーは結合操作だろうが。それでどう戦おうってんだよ!」


 結浜が振り返って魁地を見ると、片目を瞑って不敵な笑みを溢す。

「君はまだ分かっていないんだよ。結合というものの本質をね」

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