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二六 古傷(2)

すみませんが、シーン的な関係で、これもイラストないっす

二六 古傷(2)




 魁地は自の人生を被害者面してアルバムに収めていた自分に苛立ちを覚えた。それは、自分だけじゃないんだと、ここにいる誰もが気付かせてくれる。


「なぁ、あんたも、華凛も……随分すげえ奴だな。最初にあんなこと言ったけど、俺なんか敵わねぇや」

 山田は横の魁地に目をやると、袖でぐいと涙を拭う。

「……いや。俺なんか、華凛の足元にも及ばねぇよ。ったく」


 魁地は一人で突き進もうとしていた山田に自分の影を感じていた。大きな山田の背中。魁地はその背中をバシリと叩いた。その手には、鍛えられた分厚い筋肉が強い反発力となり、その体に内包された力強さが伝わった。背中を丸めて縮こまった山田はこの体に相応しくないと魁地は思った。


「何言ってんだ。なぁ、山田くんよ……いや、今から親愛をこめて山さんと呼ばせていただこう。山さん、このままじゃ終われねぇだろ、俺も含めてさ。なぁ、あいつの仇を取ってやろうぜ」


 ――山田は魁地の目を見る。自分に固執するあまり、突然やってきた魁地を拒絶した。しかし、華凛の一件で一つのベクトルに固執することの無意味さを知った山田は、魁地の目に映る偽りない素の感情を信じてみようと思った。今だからこそ、素直にそう思うことが出来た。


「……山さんってなんだよ馬鹿野郎。お前だけじゃ心配だ。チームで行こうぜ」ニヤリと笑う山田。

 魁地は彼と同じようにニヤリと笑う。


「おい、レジルはどこだ?」

 山田は汚れたジーンズを手で払って立ち上がり、辺りを見渡した。だが、彼女の姿は見えない。

「ああ、あいつなら空気読まないでまたあっちで寝てるぜ」

「ったく、相変わらず呑気なもんだな、ザルバンってやつはよ」

 魁地は応接エリアの端に撒かれている毛布を掴んで振った。すると、パジャマのレジルが猫のように丸まって落ちてきた。

 ボテッ! 「うにゃぁっ?!」

 レジルは余らせたパジャマの袖越しに頭をボリボリ掻き毟る。そして寝ぼけた半開きの目で魁地を睨む。

「おい、外道。かわゆい寝顔で就寝中の乙女を襲うとか、救う余地なしやな」

「クソガキ、何度も言わせんな。俺はロリコンじゃねぇ。自意識過剰も程々にしろ。それより、山さんが用があるってよ」


 山田は、レジルに対して怪訝な表情を浮かべ、口を開いた。

「おい、レジル。デバッガーの新しい分析結果はないのか?」


「デバッガー? なんだそれ」魁地は尋ねた。

 するとレジルがふふんっ、と得意顔で答える。


「レジーはアーティファクトのセキュリティーとデバッグを専門にしよる研究員やでの。レジーの開発した画期的なデバッガーが、未来の異常検知もできるんよ。アーティファクトで発生したバグや異常を分布化して、カテゴリーの組み合わせで多次元アウトレイヤーを作って表面化しない異常を検知できるっちゃ。ただし、膨大なデータが必要やけ、相当の時間はかかるっさ。レジーは自分ら含め、アーティファクトの監視役として常時分析にあたっとるが、進展は二点」


「なに? 何が分かった?!」山田はレジルの肩を掴んで振り回す。


「イタタタ、ばかもん! その馬鹿力なんとかせぇや! ったく。分かったのは、多綱の能力っちゃ。今判明しているアビリティー以外にも、アーティファクトの次元構成を司るシステムディメンジョンのダイアグ領域に影響を与えているようじゃな。元々、おぬしの『予知』は、そこに実装されているデバッガーの機能にハッキングしちょるみたいやが、さらに深部のコアモジュールにまで届くバグ波形が定期的に観測されとる。おそらく未知のバグアビリティーによるものじゃろ。システムにとっては致命的っちゃ。警戒レベルが引き上げられそうやな」


 魁地はエンバッシュの言葉を思い出す。それが、五年前の事件に関係があるのだろうか。だが、自分がいくら気にしたところで、今はどうしようもない。


「コイツの話はどうでもいいよ。それより、もう一つは?」山田が魁地の頭をど突きながらそう言う。


「もう一つは、信司」

「なに?! 信司がどうかしたのか?」


 魁地は驚きを隠せない。そして、対照的に、山田は好奇の目を隠そうとはしない。


「どういうことだ。詳しく教えろ!」山田はまたもレジルの肩を掴んで振り回す。

「イタタタ、何しよっと、この筋肉馬鹿が! ったく。筋肉脳はこれだから嫌いじゃ。それより信司じゃが、あいつの能力はバグ検知と言われちょる。が、それがどうも怪しいんじゃ。レジーのデバッガーでもその詳細は分析不能なんじゃ。あいつには何かありそうやけ、注意せんと」

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