二三 激突(1)
今回はちょっとイラストおやすみ
次に掲載します
二三 激突(1)
……思い出した。いや、そんな能力のことはもちろん知らない。思い出したのはあのときの情景。それはむしろ、頭の奥に追いやった映像が、井戸の幽霊宜しく這い上がってきたと言う方が正確だ。
それが本当の記憶なのか、自分の中でさらに脚色されたものなのかは分からない。だけど、確かにあの日、数分に渡る予知夢のようなものを経験した。
予知と言えば予知だが、それはいつも見る数秒程度の予知とは明らかに異質のものだった。視覚だけで感じるものではなく、あれは五感に訴えるものだった。
「時空レベルで影響を与えるバグ。最も厄介なものだ。君がこの世界を破壊してしまう前に、俺がその原因を絶ってやる」
俺が世界を破壊する?
――自分の能力は厄災を齎す。だから、いなくなった方が良い。確かに彼は、子供の頃からそう思っていた。それが本当なら、エンバッシュの言葉は彼の希求と一致する。
そう、そうだ。奴の言っていることは正しい。そうなんだろう。
俺だったら、それを理解できる。この世界に命というものがあるのかは知らないが、潔くこの命を捧げることができる。
……これまでは。
だが、今は違う。……きっと。
あいつの言うことは理解できる。でも、なぜだかそうは思えない。
これは、単純なワガママ。俺の自己中心的見解に他ならない。
真理望、霧生、信司、結浜のおっさん。山田や華凛やレジルは……まぁどうか知らんけど、あいつらが、それが、仲間という奴なのだとしたら、俺は、その中に居たいと、今は思える。
あいつらが俺を拒否するのなら、俺はエンバッシュの意に従おう。だが、今はまだ、それさえも聞いてはいない。
だから俺は、俺のワガママで、俺自身がそれを守りたいと思う。心のようなものの奥底からくる衝動が、それ以外の選択肢を選ばせてはくれない。そんな気持ちは、自分でも想像していないものだった。
彼は、動揺した。これまで軽んじていた自分というものが、知らぬ間に重みをもち、自分の中で存在を主張し始めていた。
それは、いつしか忘れていた自分というもののアイデンティティーに他ならない。彼を取り巻く振り切った個性の仲間たちは、お互いに否定しながらもそれをしっかりと受け止めていた。
今までにはなかったもの。だからこそ、彼はようやく理解できた。
――彼には守りたい仲間がいる。
それが今の彼を作るレゾンデートル。世界を天秤にかけてでも、守りたいもの。
だが、エンバッシュの言うことももっともだ。自分がいることで、彼らを、この世界を破滅に導くリスクがある。それはおそらく、事実なのだろう。そんな二律背反が彼の脳内を攪拌する。
――決まったのか?
俺は何を選ぶ?
……分からない。あいつの言っていることも、俺が何をすべきかも。それは考えて導けるものじゃない。
そう、分からない。そのとおり、分からないんだ。
エンバッシュの言葉は俺の理解を超えている。俺がバカだからなのか? それならそれでいい。分からないから、分かることからやる。
そうだろう?
だったら、分かり易いじゃねぇか。救世主が聞いて呆れるけどな。
――まずは、約束を果たす。
プロメテウスに戻ること。余計なことは考えるな。
彼の気持ちは固まった。
「うっせぇ。関係ねぇよ。今は他にやるべきことがある。俺に問題があるなら、後でゆっくりどうしたらいいか考えるさ」
魁地の耳に、背後の線路に響く振動を感じる。そしてまたあの音が電車の通過を知らせる。
「責任の放棄か。まぁいいさ。俺は俺でやるべきことをするだけだ。死んでもらおう」
エンバッシュが攻撃態勢に入る。鋭い爪の先が光を反射し、魁地は眩しさで目を瞑った。エンバッシュはその一瞬を逃さない。
一瞬で間合いを詰めるエンバッシュ。
魁地の首を爪の軌道が掠めるが、魁地はそれを予知し間一髪のところで避ける。
さらに、魁地は半身を返してエンバッシュとの立ち位置を入れ替えた。魁地に反撃までの余裕はないが、そこまでは計算通り。




