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不下(ふか)

作者:太ましき猫
夏のホラー企画参加、初挑戦です!
こちらの作品は、関連アトラクションの中から「観覧車」を選択しております。
 二〇〇×年八月某日。
 俺達は、あるツアーに参加した。合法的に立ち入り禁止区域に入れる、いわゆる廃墟ツアーだ。

 俺と同僚の吉峰よしみね、それに後輩の川添かわぞえは、旅好きで写真好きの共通点があったせいか、プライベートでも外出の機会を持つことが多かった。男三人で枯れてやがると自他ともに笑うが、バカやって笑い合える時間を持てるなど楽しい限りじゃないかと俺は思う。
 そんな俺達の中で、川添がこの廃墟ツアーの話を持ってきたのだ。

『~非日常をフレームに~廃墟ツアー二〇〇X』

 概要は、一九九三年に閉園した「裏野ドリームランド」に立ち入り、思い思いの写真を撮るという企画ツアーだった。どうやら、川添の知り合いが企画したツアーらしく、客の入りが低調のために頼まれたらしい。
 俺と吉峰は、二つ返事で了解した。日帰り旅行の気軽さと、普段は入れない場所に入れるという好奇心、それに廃墟を撮影できるという機会そのものにも魅かれていた。

「忘れ去られた場所って言うか、時が止まった様な雰囲気とかいいよな。ノスタルジーって感じがして」

 川添が持ってきたツアーのチラシ、そこには観覧車の写真が載せられていた。雲一つない青空を背景に、足元には刈られることなく伸び続けている草、物悲しく揺れる音が聞こえてきそうな姿は、過去を偲ばせる切なさの様な魅力があった。
 ツアー当日の朝七時。俺達は集合場所へと到着し、早速ツアーバスへと乗車した。催行人数ギリギリといったところだろうか、集まった人数はまばらではあるものの、それぞれが自分のカメラを手にしている。

「楽しみだな」

 そう俺が言うと、吉峰が大きく頷く。

「人数が少ないってのも、いいかもな」

 その言葉に、川添が一言。

「こちら、俺の高校時代の同級生で、本ツアー企画者の羽田はだです」

 俺達に頭を下げる羽田さんに、吉峰は慌てて取り繕い、俺はその様子を苦笑しながら見ていた。
 目的地に着いたのは、正午過ぎであった。

「お配りしたパンフレットにある注意事項を、再度確認することをお願いします。後は、ご自由に写真撮影を楽しんでください」

 バスの中でも説明を受けたが、俺達は再度注意事項を通し読みする。
 アトラクションの周りには黄色いテープによって立ち入り範囲がしめされ、それ以上の侵入はしない事が条件だ。また、どうしても入りたいという場合には、ツアー担当者でありガイドでもある羽田さんが同行することで、可能な場合もある。

「やっぱり、先ずは観覧車かな」

 二人も同意し、早速観覧車へと向かった。チラシの写真に影響された部分が大きいが、他にも気になる事があったのだ。
 ツアー参加の前に、俺はこの「裏野ドリームランド」についてネット検索をしていた。場所や廃園の経緯を調べておきたかったのだが、検索で妙な事を目にする。それは、ある噂だった。

『観覧車から声が聞こえる』

 廃墟と言えば肝試し、そんなところだろう。検索でヒットしたものの中には、有名心霊スポットとして「裏野ドリームランド」が掲載されている記事もある。子供が消えた、死亡事故が起きた、何かが写り込むやら声が聞こえるやら。根も葉もない噂話だろうが、妙に気になる記事があったのだ。
 観覧車から声が聞こえた、確かに聞こえたんだ、そう記事には書いてあった。掲載されている画像はやけにブレていて、それがかえって作為的にすら感じてしまう。けれど、そこに一つ映る姿に目がいった。
 観覧車の一つから、手の様な物が出ているのだ。

『おい、これ手じゃねぇか?!』

 掲示板では、面白がった奴らが尾ひれをつけて話していた。無論、そんな部分は読み飛ばしだが、途中で出てきた一文に画面をスクロールする手が止まる。

『下ろしてって、言ってるじゃないか』

 唐突に書き込まれている一文、掲示板の書き込みが異様な加熱をしたのが読みとれた。だが、この一文を書いた者はその後一切書き込みはしておらず、最終的には犯人探しも有耶無耶となった。

「なんか、不思議な感じがしますねぇ」

 観覧車を見上げて、川添が呟く。チラシの写真のままに、その観覧車は建っていた。誰も来ない遊園地、忘れ去られたアトラクション、倒されることを静かに待つ観覧車。見上げる程大きなそれが、寂しく悲しいものに見えた。
 立ち入り範囲を示す黄色いテープは、かなり観覧車の近くに設置されている。

「これなら、観覧車の中とか、中から外を見る様な写真が撮れるかもしれないな」

 確かに、観覧車の乗り場近くには一つのゴンドラが止まっている。ドアは開け放たれており、望遠を使えば観覧車の窓越しに外を見る様な写真が撮れそうだった。
 俺達は各々でカメラを手にし、テープのギリギリまで近づくとカメラを構えた。レンズ越しに見たゴンドラは、錆びついた内部に柔らかな光が差し込み、どこか静かな美しささえ覚える。

 いい写真が撮れそうだ。

 そう思った矢先だった。
 手が、白い手が見えたのだ。
 俺はカメラをおろしゴンドラを見るが、そこに誰かがいるとは思えない。例え、ツアー参加者の誰かが悪戯にそこにいたとしても、姿を隠せるとは到底思えないのだ。

「な、なぁ」

 俺が二人に話しかけると、二人はカメラを構えたまま答える。

「何ですか、先輩。邪魔はなしですよ」
「そんなんじゃないって。今、手が見えなかったか?」
「冗談を言うタイプだったか?」
「そんなんじゃない、真面目な話だ」

 二人はカメラを下ろすと、俺と同じくゴンドラを見る。

「誰もいないじゃないか」
「そうですよ、いるわけないじゃないですか」
「でも、確かに……」
「ほら、他の人達が来る前に、とっとと撮影しちゃいましょうよ」

 光の加減で、そう見えただけだろうか。
 俺は気を取り直し、再びカメラを構えた。数枚の写真を撮り、もう一枚と構え直したときに、それはまた現れたのだ。
 しかも、手だけではない。そこには、黒い髪を垂らす頭が見える。

「わぁ!」

 俺の声に驚き、二人も顔を上げる。

「ここ、そういう趣旨のツアーじゃないですよ」
「いや、見えただろ! 手だけじゃない、頭も!!」
「何を言っているのやら。俺にはさっぱり見えないぞ」
「同じく」

 ゴンドラを見つめるも、二人の言うとおり何も見えない。レンズ越しに見ない限り見えない、そんな馬鹿な事を考えた。馬鹿馬鹿しい、どこぞのホラーゲームかよ。
 それでも、カメラを構える気になれなくなった俺は、二人の気が済むのを待つことにした。風が出てきたせいか、ゴンドラが小さく音をたて始める。

『……て』

 声が聞こえた。
 その声は小さく、何を言っているのかさえ分からない。だが、確かに声だった。

「あれ、何か言いましたか?」

 川添が顔を上げ、俺の方を見た。どうやら、川添にも声が聞こえたようだ。

「なにも、言ってない」
「おかしいなぁ、確かに声が聞こえたんですけど」

 すると、今度は吉峰が弾かれた様に立ち上がる。

「俺にも、見えた」

 何が見えたかなんて、聞かなくても分かる。吉峰の顔色が、一瞬にして青ざめているのだから。
 おかしい。この遊園地そのものかは分からないが、少なくともこの観覧車は何かがおかしい。あの声こそ、噂そのものじゃないのか。そして、その主がアレではないのか。

「せ、先輩方。他に、行きませんか?」

 川添もまた、顔色を悪くしている。
 俺達は目配せをすると、観覧車から離れようと歩き出した。

『……て、……て』

 三人とも、足が止まる。風によるゴンドラの軋みなどではない、明らかに人の声だ、か細く響く女の。
 再び、足をすすめる。すると、後方から確かに聞こえたのだ。

『助けて! 下ろして!!』

 反射的に振り返った俺達は、見てしまった光景に目を見開く。
 幾つものゴンドラから白い手が、助けを求める様に中から伸ばされているのだ。陽射しの中で透けるその手は、何かを求める様に空を切り続けている。掻き込まれる様な動き、響いてくる呻き声。そこに、アレが現れたのだ。
 乗り場近くに止まったゴンドラから、白い手と、長い黒髪を垂らしゴンドラから出ようとする女が。

「マジものかよ……」

 隣で、川添が座り込んでしまった。どうやら、腰を抜かしてしまったらしい。そういう俺だって、足がガクガクと震えている。
 そんな俺達に、吉峰は言った。

「少し離れちゃいるが、後ろにはツアー参加者が数名がいる。その後ろにはガイドだっているんだ、走って逃げるぞ」

 俺は吉峰と協力して川添を肩に担ぐと、ゆっくりと踵を返そうとした。
 その時、観覧車から大きな音がしたのだ。あり得ない事が、起きた。

「観覧車が、回る……」

 ギギッ、そんな音を一つさせると、観覧車が動き出したのだ。そして、乗り場近くにあったゴンドラのドアが閉まっていく。

『あぁ……助け、助けて……下ろして!』

 ドアはピシャリと閉まり、観覧車は回転速度を上げていく。
 伸ばされていた手が、刈り取られるようにゴンドラの外に飛び散っては光にとけ、ゴンドラ内は赤く染まっていく。呻き声は絶叫に変わり、軋む音と合わさり狂気が奏でられる。青空を背景に、赤く染まったゴンドラ内は揺らめいていた。地獄が、そこに映しだされている様だった。
 中で何が起こっているのか、覗き見る事など、まして近付くことなど出来るはずがない。

「川添ー、お前も手伝ってくれー!」

 ハッとして、俺達は後ろを振り向いた。
 少し離れた場所から、羽田さんがこちらに手を振りながら近付いてくる。

「お、おい、羽田! 駄目だ!!」

 川添が羽田さんを制止しようとするも、羽田さんは足を止める様子が無い。

「いつまでお二人さんに支えられているんだよ。怪我でもしたのか?」

 羽田さんに、緊張感や不安の色は無い。
 俺達は再度、観覧車を見た。そこには、来たときと変わらない、回ってなどいようはずもない、静かにたたずむ観覧車があった。
 呆然として観覧車を見つめる俺達に、羽田さんは訝しげに訪ねてくる。

「どうかしましたか? もしかして、お二人も体調がどこか悪いとか」
「いえ、全くそんな事は」
「ならいいんですが。向こうから見ていたのですが、三人とも立ったまま微動だにしておりませんので、ちょっと心配になりましてね」

 羽田さんには、見えていなかった。
 けれど、俺達には見えていた。あの、信じられない光景が。

「向こうに比較的痛みの少ない建物がありまして、皆さん写真撮影に忙しくされてますよ。数カ所にステンドグラスがあって、幻想的な写真が撮れるって話です」

 羽田さんに連れられ、俺達は振り返ることなく観覧車から離れた。


 その後、川添から廃墟ツアープランから「裏野ドリームランド」が外されたことを聞いた。俺たち以外にも、奇妙な体験をした人達が出たらしく、会議の結果そうしたらしい。
 週末、俺達は行きつけの居酒屋に集まった。それぞれがテーブルに出したのは、あの場所で撮影した写真だった。当然、観覧車の写真も。

「なぁ、明日にでも行くか」
「……早い方がいいな」
「そうですね」

 俺達は明日、神社に行こうと決めた。
 

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