親愛なる我が黎明へ 其の二十四
皇金剣。
偏食を克服し、美食家となった水晶蠍の王。その素材をふんだんに使って作られたこの剣は金属、宝石……おおよそ「鉱物」のカテゴリに属していれば吸収して刃を生成する、という能力を持っている。
この「鉱物」の範囲は広いようで狭く、鉱物のようなモンスターの素材では吸収の適用外となる。あくまでも採掘でドロップするような鉱物でなければならない。
だが、真なる竜種を撃破して手に入れた三つの結晶体……真竜の宝証を手に入れた時からずっと思っていた。
発端は「これ鉱石区分なのか?」という疑問だったが、本来は別々の要素が一本の……思考の線で紐づいた時点で俺の脳裏には「皇金剣に真竜の宝証を使う」という選択肢が生まれてしまっていた。
何があれって、似合うってことだ。
水晶の蠍と、金属刃の竜。刃を持たぬ剣に、刃そのもののようであった竜の力を宿す。
コラボレーション、マリアージュ、スーパーコンボ、シナジー。形容する言葉はなんだっていい、つまるところ”かっこいい”というのは無視することのできない理由だった。
だってそうだろう、かっこいいも可愛いも……自分の中の理想像の具現で。それができるからゲームは楽しいんだ。
「こういうのは大ボスの前でやるのが一番イケてるんだが……まぁいい」
喜べウワア、お前が伝説の第一目撃者だ!!
宝証を吸収しきった皇金剣が怪しい光を放つ。
普段のちょっとわざとらしいくらいにギラギラの黄金とは違う、もっとクリアな……例えるなら、恐ろしく研がれた包丁が光を反射したような。
まさしく、あの全身刃物のドラゴンを思い起こさせる鋼の光だ。
パキパキと音を立てて皇金剣に刃が形成されていく。
だが通常のそれとは明確に異なるそれは、刃を生み出すだけではなく剣そのもののデザインが変貌しているのだ。
材質的に悪趣味なくらいギンギラギンのキラッキラだっただけで、剣そのもののデザイン自体は割とシンプルだった皇金剣が刺々しく、そしてあの皇帝にはなかった黒色が混じり始める。
どこか見覚えのあるその刺々しさの強いデザインは間違いなくあの竜の翼を模したもの、あるいはとげとげしい水晶と刃の王冠のような……そうして水晶の集合体のようだった刀身がゴボゴボと溶け落ちる。
「誕生日パーティーだ、巻きで悪いがな」
パーティーの主役を紹介しよう。
「いくぜ皇金竜剣!」
熔け落ちた水晶の中から現れた黄金のラインが脈打つ黒銀の刃をウワアへと突きつける。
まぁとりあえず………タンマ、武器説明を読ませてもらえるだろうか?
「アはハはハはハ!!」
うーん、ダメそうだ。人生はいつだってぶっつけ本番だぜ!!
こいつ、身体のどこからでも殺傷力のある速度で槍を生やせる事をいっちょ前に切り札として隠していやがった。
だが切り札は捲られ、白日の元に晒された(夜だが)。
故に、もはや隠す必要はないとばかりにこちらに向けられたウワアの手から毒の槍が高速で発射される。
───ほんの一瞬、「流し」とすら言えないような一瞬の閲覧。だが確かに皇金竜剣の能力テキストには「攻撃命中時」の一文があった。それだけは読んだから間違いない。
ならば俺だけじゃなくこの剣もぶっつけ本番! 当ててみれば何かは分かる!
毒の槍を弾き、何が変わるのかを観察……
ペリッ
「ペリッ?」
◇
無尽のゴルドゥニーネ。
その名に冠する「無尽」の二文字は、その出自と性質ゆえに「ゴルドゥニーネ」という存在が無尽蔵に複製、増殖することを端的に示している。
だが、その全ての個体が全く同一の性能であるわけではない。
1を抜き、10以降を除いた2から9までの八体。始まりの八と呼ばれる個体だけは別なのだ。
原初、大いなる蛇として肥大する自我に破裂した一番目のゴルドゥニーネ。
肥大し、切り分けられた自我は一匹の臓腑を掻き回し貪り尽くした感情を抱えて生まれた……切り分けられた数は八。
その八人から、以降のゴルドゥニーネ達は生まれた。
脱皮した皮と、その中身の関係を無理やりに「親子」と例えるならば………始まりの八とは、今に至るまでの全ての「ゴルドゥニーネ」の発生源なのだ。
故に。
「───いいヨルだな?」
始まりの八と、それ以降とを隔てる「年月」という覆しようのない格差。
なんでもない、ただ偶然出会ったから挨拶をしただけ……そんな気軽な「二番目」からの言葉に、その場にいた全てのゴルドゥニーネが例外なく死を自覚した。
「ウ、あ……」
「イスナ?」
「あ、イつハ……ダメ、アイつダケは、ダめダ……!」
自らの手で斬り捨てたプレイヤーから、半ば奪取する形で契約したゴルドゥニーネ……イスナの様子が明らかにおかしいことは京極の目から見ても明らか。
他のゴルドゥニーネ達もまた、イスナとそう大差のない反応をしている。
「まさかあれがサンラクの言うボスドゥニーネ?」
「いや、あいつじゃない……はずなんだけど……」
ユニークモンスター「無尽のゴルドゥニーネ」との交戦経験のある京極からすれば外様のプレイヤー、シユーが動揺する彼女らの代わりに違うと答える。
では、ただ挨拶をしただけでこの場の空気を一変させた「彼女」は誰なのか…………否、
「…………」
京極の関心を強く惹いたのは、そこではない。
「……刀、か」
それは龍宮院京極の知る文化財と呼ばれるようなものと比べれば、随分と粗末なデザインの刀。
いい感じの枝にいい感じに削った鉱石をくっつけただけのようにも見えるし、あるいは大自然という名の名工が生み出した傑作のようにも見える。
だが、京極が見過ごすことができなかったのは、そこではない。
「ワタシコジンとしてはウラみはないのだがな……まぁ、メグりアワせだろう」
スラリと腰に佩いた黒曜の刀を抜き放ったそのゴルドゥニーネの立ち振る舞い。
なんでもないような動作の中に、如何なる奇襲にも対応する後の先への備えを秘めた挙動。
───お祖父様! もし街中で悪い侍に襲われたらどうしますか!?
───まずは儂に挑む度胸を讃えるところだがなぁ……よいか京極、そうなったらまず第一は逃げるべきだが立ち向かわねばならぬなら………
なんて事のない、幼い日の愚かな質問。
だが厳格な祖父は彼なりのユーモアで、「時代劇のような状況」に対するアンサーを返してくれた。
それは今なお京極の中で色褪せない宝物であり……そのゴルドゥニーネの自然体の振る舞いは、まさしくそれそのものであった。
「………なるほど、なるほどね」
「どしたの京極ちゃん」
あるいはそのわずかな呟きの中に渦を巻く感情を嗅ぎつけたのか、ペンシルゴンが緊迫した状況でありながらもまず京極へと問いかける。
「いや? ちょっと私用かな………うん、こんなコッテコテのセリフ言うことになると思わなかったけど………」
すらり、と刀を抜いて京極は口を開く。
「ここは僕に任せて先に行っててよ、悪いんだけどイスナも連れて……さ」
京極が見据えるは無尽の写し身、あるいは………無双の剣士の影法師。
トレースAIシステムはユートピア社が特許を取得しており、またそのデータはユートピア社に帰属します。
・皇金竜剣
分類的には竜滅装備。
「竜を打ち倒した者が持つ武器は竜滅装備である」という逆説保証によってそのとき使われなかった武器が竜滅装備になったもの。
ゲーム的には真なる竜種との戦闘中に竜滅装備に該当する武器防具が破損して消滅した場合、あるいは竜滅装備にできない装備を使っていた場合にある種の救済措置として「任意の装備を竜滅装備にできる」という報酬。
鋼と宝石、という決定的に違うがそれでも大地に強く紐づいた二つはサンラクが思っているよりもずっと相性が良い。
基本的にかつてあった……あるいは遥か彼方の神の名を冠するものは強い、それがシャングリラ・フロンティアの基本原則です。脳みそ君もそうだそうだと言っています。




