親愛なる我が黎明へ 其の二十二
FGOの終章、良かったっスね
◇
「うーん、これ普通に分散しても戦力減少してボス戦突入するし、カッツォ君には悪いけど今後の襲撃は全員で対応しよっか!」
オイカッツォが異様な膂力の毒乙女をただ一人で引き受けてから五分後のことであった。
笑顔のままにオイカッツォの献身を捨て駒と言い捨てた”あの”アーサー・ペンシルゴンにこの場にいる「本体」の面々(無論【旅狼】の面子も含む)は、しかしその非情の決断が結果的に間違ってはいなかったのだと痛感していた。
「どうシテ、どうしテェ!!」
他者を疑う疑惑ではなく、ただ理不尽に我が身の理不尽の何故を問う疑問。
そうありながらも他者に納得を求める事を諦め、答えを持たぬことへの理不尽な八つ当たりを繰り返す失望。
かつては血肉を分けた家族とも言うべき同胞の蛇、「答えを返せないなら不要」とその頭を叩き割った五番目。
その舌に染み込んだが如く連呼する言葉ゆえに、古くは「ナゼ」と呼ばれ恐れられた少女の形をした怪物が記憶の毒より再びこの世界へと戻ってきた。
眼を覆い隠す前髪の奥から、爛々と毒紫に輝く瞳が「本体」の面々を襲う。
己が身の上を呪い、何故このような生まれであらねばならぬと叫びながら、答えは聞いていないと暴力を片手で振るう。だがその鉄板の如き大剣は未だ誰一人として叩き潰してはいなかった。
「こいつが無尽のゴルドゥニーネ本体!?」
「イや……こイツじゃない!」
京極の問いかけに、イスナが否を返す。
ゴルドゥニーネとは本質的に同一であるが、しかし眼前の個体はあの嫌悪と憎悪の塊のようなそれとは全く別の塊だ。
それを強く感じ取ったゴルドゥニーネ達が「奴は違う私だ」と叫びを上げる。
「攻撃自体は単調だけど……っ!」
サイガ-0のフルスイングが如き大剣の薙ぎ払いを避けながらモルドが呻く。
この場の誰も知らないナゼの攻撃は単調で、避けるのはそう難しいことではない。だが……
「動きが止まらない! スタミナが切れない!」
今現在ターゲッティングされているモルドはその脅威を端的に伝達する。
サイガ-0の両手持ちによるフルスイングに相当する薙ぎ払いを片手で為しながら、その上で動きが止まらない。
息切れもせず、狙った獲物を叩き潰すまでどこまでも追い詰める。まさに蛇の執念、疲労という名の毒で仕留められない命はこの世に存在しない。
決して得られることのない答えに渇く、失望の連撃がじわじわとモルドを追い詰める。
だが、追い詰められているのは………
「今だ、【罠草結び】!」
『……視野が狭い。それが許されるのは1vs2くらいまで』
「っ!?」
モルドの詠唱破棄による魔法の行使。
ナゼの足首に絡みついた雑草がティーンエイジャー相応の体躯でしかないナゼを一瞬崩す。
そしてその一瞬を脚本通りとでも言わんばかりの完璧なタイミングで緋色の鉄拳が真横からナゼの顔面を打ち抜いた。
『……できれば2〜3メートル程度のパワードスーツとか着て欲しい。殴りづらいから』
「馬力はパワードスーツ相応、ってことで我慢してねルスト……」
RS:◇殲顎緋砕を纏うルストが振り抜いた右ストレートの姿勢で駆動音を響かせる。
『……見た目の割に手応えが硬い』
HPを削り切ったという確信がない。そんな手応えにルストが呟きを漏らしたと同時、肯定するかのようにナゼが立ち上がる。
「どウしてェ……? ドウして、こんナコとスルのォー……?」
『……無傷? ……小癪』
「カッツォ君が引き受けた奴と同じ……いや、上位種かな」
オイカッツォが引き受けた個体も眼前の個体同様に人外の膂力を誇っていたが、まだギリギリ「人型の敵」と言える範疇にあった。
だがこの個体は違う。白目を毒々しい紫に染めているという点こそ人間離れしているが、理性を欠いたその様子は損なわれる理性を持っていなければ成立しないものだ。
ちら、とペンシルゴンは戦術機による右ストレートを余裕で耐えきった「ゴルドゥニーネ」を見つめる自陣営の「ゴルドゥニーネ」達に視線を向ける。
(ボス側陣営についたゴルドゥニーネか……あるいは、あの毒分身の最上位版か………あーやだやだ、絶対この子一体で済まないでしょこれ)
うっすらと見えてきた「無尽のゴルドゥニーネ」戦の全貌にペンシルゴンは僅かな頭痛を感じた。
なにせペンシルゴンの予想が当たってしまったのなら…………それは言うなれば、墓守のウェザエモン戦が各所で同時多発しているに等しいのだから。
◇
───彼女を中心に広がり、大地を染める毒の領域。
それを行使することに重いコストや条件があるわけではない。
───毒の領域より這い出る彼女と同一の、しかし異なる彼女たち。
それを生成することに物量の制限や制約があるわけではない。
───生み出された「彼女」達が、万が一にも大元たる彼女に反逆することはない。
それは強制でも支配でもなく、そういうものとして行使されるから。
「…………………」
では何故、彼女はこうも苦しそうに……今にも崩れ落ちてしまいそうなほどに消耗しているのだろうか。
唯一、彼女の側にある事を許された龍蛇の一体が身を案じるように彼女を見つめる。
「う、うゥ……………!」
かつて「いた」者達を、毒の中より召喚する。
奇跡に等しい行いにコストも、条件も、制限も、制約も、反逆もありはしない。
ただ、その行いそのものが彼女の信念を、彼女を構成する根幹を腐らせていく………それは、どんな獣の牙や爪に引き裂かれるよりも痛く、つらい。
だがそれでも、魂を捩じ切るような嫌悪感を呑み込んで彼女は「自分」を生み出し続ける。
「………………」
今まさに毒の領域から這い出た"ゴルドゥニーネ"がじろり、と"ゴルドゥニーネ"へと視線を向ける。
敵意とも悪意とも違う、しかし彼女をひどく不快にさせる眼差しに……それでも不敵な笑みを返す。
「誰ヨりも、先ニ生まレタあなたが……私にコき使わレるのハ、不愉快かシラ?」
「……いいや? このワタシをコロしたあのヨルから……まだコタえはまだミつかっていないようね」
「黙リなさい……行ケ、二番目」
「…………」
律儀に黙って去っていった少女……始まりの夜、原初たる一番目の臓腑を食い破るように生まれ落ちた"ゴルドゥニーネ"達の中で最も早く生まれ落ちた個体、即ち二番目のゴルドゥニーネ。
かつては自ら名を定め、自分自身の生き方を探し続けていた彼女の言葉を受けて……"無尽のゴルドゥニーネ"は上を見上げる。
輝く三日月。
あの夜と同じ月の形をじっと見つめ……そして、目を逸らす。
思い出とは、もう決別した。
・始まりの八
原初の一番目、アリス・フロンティアから直接の「施術」を受けた始まりの蛇はあまりにも成功しすぎた。
それ故に、複製と増殖、分裂を繰り返した末に膨れ弾けた中で生まれ落ちた「蛇達」は人に近い姿となり散り散りとなった。
始まりの八はまさしく原初の一番目の混じり気のない複製であり、それ故に断片の、しかし色濃く原初の「成功しすぎた力」を持っている。
その殆どは長い年月の中で「無尽のゴルドゥニーネ」によって討ち取られ、取り込まれてしまった。
客観と渇望を求道の糧とした二番目のゴルドゥニーネ「ヨゾラ」もまた、死闘の末に敗れ毒の中へと消えた個体。




