12月20日:伝承曰く、必勝は飛翔にこそあり
結果として4話更新すれば……!帳尻は合わせられる……!!
◆
皇金剣は、食った金属の性質をそのまま刃に反映する。一度に食わせられる鉱石は原則一つ、故に鉱石を百個食わせて地上最強の剣、とはいかない。
だが今回食わせたのはアムルシディアン・クォーツ。その硬度においては単一金属としてはトップクラスだ。
この対戦で一番必要なものは、あのタワーシールドとぶつかり合ってもへこたれない刃!!
傑剣への憧焉終刃でもいいんだが……いや、正直に言うとガル之瀬相手にクリティカルを常に出し続ける自信が無い。
クリティカルによる無限耐久は「受け」に秀でた奴との対人では……特に盾使い相手ではそれこそレベル差で押し込まなければ無理だ。
盾、盾、盾かぁ………あれ一枚なら無理矢理ブチ破る選択肢もあるが、流石にそりゃないだろう。盾を破って即攻撃を叩き込む、は出来るが……肘パリィできる奴なんだよな。
そうなるとまぁ、当初のプランで行きますか。
「よっしゃあ!!」
俺は見せびらかすようにお披露目した皇金剣を勢いよく真上へとぶん投げる。
と、同時にガル之瀬が俺へと猛進してくる。早歩き、程度の動きだがあれが急加速だの急カーブだのしてくるのはさっき体験済み。ならばこうする!!
「っ!!」
俺が皇金剣の投擲と同じタイミングで取り出していたそれ……投げナイフにガル之瀬の目が見開かれる。
「どうするガードマン! 弾けるか!!」
そのまま投擲。それが果たしてただの金属塊か、あるいは人を一撃で殺傷せしめる破壊兵器であるのか。その二択がガル之瀬へと飛んでいく。
「チッ…」
カンッ、と弾かれたただの投げナイフと、盾を構えて進みながらナイフを受け止めたガル之瀬の様子に俺は思わず舌を打つ。ブラフを見破られたか、あるいは「ブラフと信じて」突っ込んできたか。
まぁいい、剣は落ちてくる。そして俺は既に構えている。
「蹴っ翔べ!!」
ガル之瀬が俺を射程に収めるより先に、俺の回し蹴りが先に皇金剣を"撃つ"。
蹴武「ディストーツトリガー」。漆黒の風を纏う黄金は叢雲と月の如く。向こうもまた接近していたが故に、蹴り放たれた剣は至近距離と言って差し支えないショートレンジを一瞬で詰めてガル之瀬に迫る。
「おぉお!!」
だが、弾丸の如く捻り回りながら迫る皇金剣を奴は対処してみせた。盾を構え、しかし僅かに傾けたタワーシールドにスキルの光が宿る。
正面から受けて弾くのではなく、傾けて弾き流す。軽々と扱うどころか細々と操ってくれるぜ全く……!!
だが。
「蹴武の歴史は俺が百年進める、これが新時代だぜ!」
迫るガル之瀬からバックステップで距離を離しつつ、俺は左手を前に伸ばす。
左手の甲のあたり、厳密には左手に装着したインベントリアにくっついているかのような形で浮遊するメダルのような円盤。それは俺単体では使うことのできないインチキ。
ガル之瀬は気づいただろうか。サイナがブリュバスの甲板から艦首へと移動し、こちらをじっと見ていることに。
本来は征服人形が物品を回収する際に使うガジェット「回収者」。だが操作そのものはプレイヤーが担うことが可能!!
明後日の方向に飛んでいった皇金剣に視線を向け、回収者を起動する。必要なのは「対象を見て」「起動する」ただそれだけ。
たったそれだけで───
◇
ガル之瀬がそれに反応できたのは本当に偶然であり……実のところを言えば反応は出来ていなかったり………しかし反射がガル之瀬に反応させたのだ。
武器を蹴り飛ばす、というこれまでに見たことのない攻撃方法。銃のような剣だけではなくそんなサッカー少年のような方法で遠距離攻撃手段を獲得していたのかと舌を巻いたサンラクによる「蹴り飛ばし」。
ガル之瀬との立ち合いが始まる前の、連続組手で使っていたからこそガル之瀬はその可能性を把握していたし、対処することが出来た。
タワーシールドを「壁」ではなく「角」を形成する一辺とした上での受け流し。黄金の剣を弾き、そしてサンラクの左手から放たれた光───ガル之瀬はこれをレーザーと認識した───が外れたのを視界に入れながら、一気にサンラクへと距離を詰めていた。
「ガル之瀬」というキャラクタービルドは、どちらかと言えば鈍重寄りのステータス配分だ。ただし、スキルによる移動で半径2メートル以内での急接近による奇襲的カウンターをメインとしている。
突然タワーシールドを持ったプレイヤーが肉薄してきた際に、相手が選ぶ「咄嗟の選択」に対して攻勢、あるいは守勢のカウンターを仕掛ける。
故にサンラクの行動、蹴りによる投擲とレーザーによる奇襲を弾き、避けたガル之瀬は「攻めるならばここ」とメイスを振りかぶる。
「斬首凶技」によるエクトプラズム・ウェポンの追随は幸運の食いしばりを貫通する多段ヒット……シャングリラ・フロンティアの対人戦における必須スキルを担う。
(獲っ──────)
───ガル之瀬の意識は、完全に攻撃一色となっていた。
だが、僅かに空いた思考の余剰………殆ど無意識に近い直感がチリ、とガル之瀬の背筋を焼いた。
「っ!!!!!?」
外した、と断じたレーザーが消えていないことか。
あるいはそのレーザー(?)の光の動きに違和を感じたか。
あるいは………サンラクの立ち振る舞いが追い詰められた獲物のそれではないと感じ取ったからか。
否、否である。それらは思考にすらならない認識の欠片、情報として辛うじて脳に届いた「どうでもいい要素」だった。故にガル之瀬の直感を喚起したものの正体は、やはりローンウルフの記憶だった。
ローンウルフ2に登場するボスモンスター。裏ボスであり、歴代最クソと言われた「祈る神剣フラガリエ」…………剣を自律行動で飛ばし、自在に操りながらも自身も近距離戦を仕掛けるそのボスの影がガル之瀬の脳裏を一瞬よぎった。
だからこそ、レーザーだと思っていた光の線が飛んでいった剣を掴んで戻ってきた光景を見た瞬間、硬直ではなくギリギリで対処できたのだ。
しかしながら、完全な虚を突かれた隙は如何ともしがたく………
「輝き砕け……刃糧煌剣!!」
黄金の剣が生み出した漆黒の刃が光に溶けて消える様を、膨れ上がる黄金の光が熱を伴うことを、そして……刃としての形が溶けて散り消えるまでの須臾のひと時、ガル之瀬は彼らの聖剣を見た、聞いた、そして……自らの身体で味わった。




