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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

旅する狼よ、大志を抱け

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レアアイテムは命よりも重い

とは言っても、やはり首のみを狙ってクリティカルを出すのはそう容易い事ではない。二体の分身を斬首し残るは双剣持ちの分身、そして遠方から攻撃を放つ弓持ち分身と本体だ。

「ラ—————————!!」

歌いながらまるで舞うかのように双剣で斬りかかってくる双剣持ち分身の攻撃を避けつつ、内心は切羽詰った時間に焦る心を落ち着かせる。分身とはいえエリアボスを一撃で屠れているのはクリティカルによる弱点への攻撃以前に、盛りに盛ったバフによる効果が大きい。
効果時間が切れればリキャストを待たなければならないし、五分を超過すれば俺のステータスは大幅にダウンしてしまう。早急に決着をつけなければならないが、焦るほどに綱渡りは不安定になる。

「……そこっ!」

「ラ、ァ、ギィィ—————ッ!?」

首と背骨を分離された歌う髑髏(しゃれこうべ)の断末魔もそのままに、俺は弓持ち分身と本体の元へと駆け出す。
当然こちらへと放たれる矢と魔法をムーンジャンパーで跳んで回避、エムルの放ったマジックエッジが本体へと飛翔するタイミングに合わせて弓持ち分身の懐へと入り込む。

「ううううぁぁぁ、なんかぬるっとした!」

「ちょっ! 危ないですわぁ!?」

聖なるエンチャントが付与されていなければあらゆる物理攻撃を透過する、という特性を利用して弓持ち分身の身体に肩が触れる動きで突っ込んで背後を取る。分身の身体を抜ける際に右肩を撫でる気色の悪い感触に思わず悲鳴をあげつつ喪失骸将(ジェネラルデュラハン)の斬首剣で首を斬り飛ばす。
残り使用回数二回、残る敵は……本体ただ一体。

「さぁ、潔く負けを認めるなら介錯してやるぜ? こう、スパッと」

返事は言葉ではなく魔法。エムルを上にぶん投げると同時、真正面から噴きかけられた瘴気を俺はモロに浴びる。上の方で何やら悲鳴が聞こえるが、きっとこの渓谷に残留する悪霊とかそういう類だろう。

「お前の敗因は……そうだな、あの時の俺と同じだ。運が悪かった(・・・・・・)!」

気分は嫌になる程死んで攻略法を見つけ出した機械武者が放つ必殺の大上段。構えは揺るぎなく、振るう腕に迷いなく、ただ真っ直ぐに叩き斬る!

「強いて言うなら真似(オマージュ)天晴(テンセイ)ってか」

斬り落とされたのは合唱から独唱になった歌う瘴骨魔(ハミング・リッチ)の首ではなく、腕。外したわけではない、本体が斬撃一発で倒せるとは思っていない。所詮軽戦士にバフを盛って誤魔化しただけの火力では決め手に欠ける。確実に殺しきる……確殺の火力を叩き込まなければならない以上、フィニッシャーは俺ではない。

「よく耐えた斬首剣! あと二回ほど踏ん張ってくれ!」

振り下ろした姿勢から限界まで肘を後ろに引き、真っ直ぐ刃を射出する刺突の姿勢へと移る。
ここまで温存したのはこの為だ。俺はスキル、グローイング・ピアスを起動し、真下から突き上げるように歌う瘴骨魔(ハミング・リッチ)の下顎と首の付け根へと喪失骸将の斬首剣を捩じ込む。グローイング・ピアス、多段ヒットする刺突スキルであるドリル・ピアッサーから正当に進化したこのスキルはヒットすればするほどに威力にボーナス補正が入ると言う効果を持つ。
ヒット数は全部で五回、その全てを刺突に乗せた斬首剣の鋭い切っ先が歌う瘴骨魔(ハミング・リッチ)の骨を穿って進む。
ピシリと剣身にヒビが入り、斬首剣が悲鳴を上げる。だが確かにその刃は砕ける事なく残った。

「やっぱり分身よりも硬いか、俺では倒しきれない…………が、これで終わりだ悪趣味スカル」

切り替わり(スイッチ)。まるで不恰好なネクタイのように首から剣を吊るす歌う瘴骨魔(ハミング・リッチ)の前から俺は数歩後退し、代わりにスレッジハンマーを構えた小さな影が躍り出る。

「すまんの……じゃが、勝つ為にわちはお前を打つ! マテリアルフォーカス…………フォートレスブレイカー!!」

「………んゃぁぁぁぁあああああへびゅっ!!」

瘴気から逃す為に結構な力で上へ投げ飛ばしたエムルをキャッチすると同時、真下から真上へと振り回すビィラックのカチ上げが喪失骸将の斬首剣の柄尻を打ち据える。聞けばウェザエモン戦における騏驎と相対していた二人はこうやってロボに変形した騏驎を倒したんだとか。

「人力パイルバンカー……いや、この場合兎力パイルバンカー?」

「サンラクサンいきなりは酷いですわぁ!」

「はい人参」

「わぁ……じゃなくて! さすがに誤魔化され」

「なんと今ならオマケで二本つけちゃう」

「わぁい」

「チョロいなぁ」

戦闘職ではないとはいえ、レベル98のフルスイングによって射出された斬首剣はその総身に亀裂を走らせながらも歌う瘴骨魔(ハミング・リッチ)の髑髏を貫き、後頭部から切っ先を覗かせる。

「カ、ァ…………!!」

断末魔すらも首を穿ち頭蓋を貫く一撃に縫い留められた髑髏では叶わず、斬首剣と同様に全身に亀裂を走らせた歌う瘴骨魔(ハミング・リッチ)は遂にポリゴンとなって爆散する。

「…………ふぅ、見事なバ火力ブッパだったぜ」

「むぐぐ……褒め言葉は受け取っとくが、まずはかこいつを直すことが先じゃ!」

カランカランと地面に落ちたヒビだらけの剣を抱え上げ、修理し始めたビィラックを傍目に俺は斬首剣と同じく地面に落ちたドロップアイテムを拾い上げる。

「怨骨の欠片、ねぇ……説明を読む限り魔法、呪術系のアイテムっぽいし使わないかなぁ」

売り払って銭にするくらいが精々だろうか。いや、どうせならインベントリアにでも突っ込んでおくか。
この渓谷に瘴気を撒き散らしていた元凶が倒れた為か、気持ち瘴気が晴れたような気もする渓谷を見上げていた時、ふと思いつく。

「……いやいや、流石に今すぐはないな、うん」

とはいえ、人は開けるなと言われると開けたくなってしまう生き物だ。パンドラの箱なんてお話があるが、あれ絶対神様側もパンドラが箱を開けると分かっていたと思う。じゃなきゃカードゲームの一番下(デッキボトム)にキーカードを入れておくような真似はしないだろ。つまりパンドラは神話クラスの芸人だった可能性が……ああダメだ思考が変な方向に爆走してる、軌道修正しなければ。

「……なんかサンラクサン悪いこと考えてる気がしますわ」

「いやいや、ソンナコトナイヨ」

とりあえずはエイドルトへ向かってランドマークの更新だな。後で預けるからとビィラックを説得し、ぶー垂れた黒兎からボロボロの剣を預かると、インベントリに放り込んで再び偽装形態……半裸にマフラーとファーコートだけ、という極めて変態的な人間一名という何か色々犠牲にして兎二匹を隠蔽する状態に。
というかそもそもビィラックの大きさとサンラクというアバターのタッパの差が大き過ぎてちっさいマントくらいにしかなっていないというか……いや、変態である事に変わりはないのか、ははは泣ける。











「さて……」

名前的に八つ目の街である「エイドルト」に到着し、一旦ラビッツに戻ってパーティ解消。ビィラックはどちらにせよ斬首剣を修繕したそうだったのでこれ幸いと斬首剣を抱えて鍛冶場へと跳ねていった、エムルはブー垂れていたがなんだかんだ人参と説得で納得させた。別にあいつの兄とかそういうのでは全くないしそもそもNPCだが、エムルのチョロさは少し心配になってくる。
だが今から俺がやろうとしていることは、少なくとも俺一人であることが大前提なのでエムル達と一緒にやることはできない。ちらと横を見れば先ほど通過してきた奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)の出口に黒い瘴気がまるでカーテンのように渓谷内を隠しているのが見える。
きっと誰かがあの悪趣味なスカルと戦っているのだろう。頑張れ誰とも知らぬ同胞(プレイヤー)よ、聖職者ジョブいないと八割詰むぞ。

「さぁ……登るか」

俺の本命は渓谷内ではない。見上げた先に聳える断崖絶壁……とまでは行かないな、頑張れば歩きで登れてしまいそうな急斜面、その先にあるレベル100オーバーの蠍とやらがひしめく奥古来魂(おうこらいこん)渓谷(けいこく)における隠しエリアとでも言うべき「水晶巣崖(すいしょうそうがい)」が今から俺が向かおうとしている場所だ。
レベル100オーバーのモンスター相手に俺一人で勝つ見込みは……無い! なら何故行くのか? そこに未確認フィールドがあるからさ。ゲームなら誰だってやるだろう? 明らかに今の自キャラでは攻略不可能だけどとりあえずどんな場所なのか見に行く、偵察と書いて自殺と読むピクニックってやつさ。
何、おやつは幾らまでだって? ははは、袋叩きに遭うこと前提で突貫するんだから裸一貫に決まってるだろう。
凝視の鳥面すら外し、わっせわっせと崖を登ること大体四分。斜面を構成する物質が岩100%からポツポツと水晶が混ざり始め、急斜面がいつしか平面になる頃には完全に岩と水晶の比率が逆転していた。

「おぉ……なんて歩きにくいフィールド、足場は最悪(最高)だな」

不規則な大きさ、不規則な角度、不規則な長さの水晶が崖一面を埋め尽くす程に広がる光景は、状態こそ千紫万紅の樹海窟と同じであるがあれよりももっと幻想的だ。
聞く話によると、件の水晶群蠍クリスタル・スコーピオンは非アクティブ時はこのフィールドに埋まるようにして擬態しており、感知範囲に入った瞬間アクティブ状態になるらしい。
とはいえ今の俺の幸運は三桁、既に下手なレベルカンスト勢に匹敵する幸運を備えた俺ならそう簡単に引き当てることは……

ズザザザッ(三体同時アクティブ状態)

………………ふぅ。

「まぁ落ち着け。アイムサイトシーイング、イエスイエスノープログレム…………畜生せめてマップ内を爆走して景色くらいは見てやるぁぁぁぁぁ!!」

足場が最悪な水晶の地面を半ば飛び跳ねるように爆走し、さらに奥へ奥へと進んで行く。背後から重厚な音を立てながら迫る三体の大型トラック並の死神から全力で逃げていると、ふと前方に光が見える。
それはまるでオーロラ。太陽の光は輝く水晶の中で乱反射し、キラキラと美しい津波となって…………うん、あれ全部水晶群蠍クリスタル・スコーピオンだ。

「ウッソだろお前一体につき十体呼ぶって重複しないのかばぼろぁ!?」

袋叩きと言う言葉すら生ぬるい、レベル70ちょいのプレイヤー一人相手にレベル100オーバーが三十体以上でフルボッコを仕掛けると言う、オーバーキルがオーバーフローした大質量に飲まれた俺は一秒と持ち堪えることなく粉砕され、ポリゴンと散るのだった。





この程度で諦めると思うなよ……!

ラグエル大橋、メリア、ゴゴール。この作品における根幹のモチーフになった作品だったり
明らかに歯が立たない強敵が普通に闊歩してるってイイですよね……
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