12月15日:斬刃を見て何を思う・2
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楽しい。カローシスUQの率直な感想であった。
別に午後十時軍のメンバーとの時間が退屈だとか、つまらないとかそういうわけではない。綿密な計画を立て、万全の準備を整え、予想外を極力発生させない動きで成功を得る。地味な素材周回も強力なモンスター討伐も、無尽蔵に時間があるわけではない自分たちがそれでも手持ちの時間を十全に楽しむ確実な方法だとカローシスは確信している。だが、それでも。
「はははっ……参るなぁ。先の見えない大苦戦だ」
ぶっつけ本番、パーティメンバー同士の情報共有すらロクになく、挙句それぞれが好き勝手に動くことすらある。
戦闘の流れでいつしかパーティリーダーのような役目を請け負っているカローシスの指示を無視して動くときもあれば、逆にカローシスへと一方的な指示が飛んでくることもある。
この戦闘におけるカローシスの役目は中距離で前線の援護をしつつ、後衛にヘイトが向くのを防ぐ中衛の立ち位置だ。よく言えば遊撃的バランサー、悪く言えば中間管理職である。だがその中衛を前衛と後衛が全力で活用しようとしてくる。
「カローシス! バフ頼む!!」
「カローシスさん、ちょっとの間あいつの動き止められたりしないかな」
現に今も、強化支援要請と攻撃要請の二つが同時に飛んできた。サンラクが切り落とした腕刃を見てパーティメンバーの面々は一気に攻勢に移ろうとしている……故にカローシスの負担は加速度的に増大していく。だがカローシスは指示の板挟みにそれでも笑う。
午後十字軍の、リソースを計画的に合理的に使うような攻略とは違う。エリクサーを初手で使い切るようなギリギリの……ひりついた攻略。それはカローシスにとっては普段感じられない新鮮な刺激だ。
「いいね、ドラゴン退治で勿体ぶる方が間抜けさ……!【小さき掌に大きな勇気】!!」
高額な使い捨て魔術媒体も、手間のかかりすぎる儀霊剣も、温存を捨てた全力稼働でカローシスは動く。
敵は真なる竜種トマホーク。きっと、討伐が成功したその時………何もかもを失っていても笑顔で受け入れられるだろうと信じて。
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天に落ちる彼と、僅かでも確かに身体を砕かれた金属の竜。ディープスローターは高揚と鎮静の乱高下を繰り替えす自身の感情を何とか制御しながらも、その目はじっとサンラクを見ていた。
「嗚呼………やっぱり君だよ、君しかいない…………君しかいらない」
トマホーク。見れば見るほどにディープスローターの心を揺らす不愉快な竜。一体何が癪に障るのか、と聞かれたとしたら「大体全部」と答えるだろう。
それはディープスローターが実は「真なる竜種」という存在の知識をある程度ではあるが有しているから、そして「全身が金属の真なる竜種」という存在であることそのものが癪に障るのだ。
トマホークが怒涛の攻撃を耐えしのぎ、反撃する姿が不愉快で。
トマホークがその性能を十全に発揮し、君臨する姿に反吐が出る。
だからこそ。
だからこそ、この場にいる誰よりもサンラクの焔剣がトマホークを斬った事実に歓喜しているのはディープスローターだ。ディープスローターがトマホークに重ねた不快の影を斬って裂いていく姿は、まさしくヒーローのそれで。
「ふふふ、ふふふふふ! サンラクくぅん……君は本当に、私を助けてくれるんだね……君のためなら私はなぁんだってしてあげる……」
実現杖ザ・デザイアー。非攻撃魔法の出力を倍加させるただ一つの杖は、無条件でその恩恵を使用者に与えるわけではない。使用条件の一つとして倍加能力使用後は装備変更ができず、なおかつザ・デザイアー自身は攻撃魔法を発動することができない。
その問題点をディープスローターは貪る大赤依戦の討伐報酬である「渇望の手」である程度解決こそしているものの、消費MPや片手で装備できる武器性能の兼ね合いからザ・デザイアーは気軽に使えるものではない。だがそんなことはどうでもよいとディープスローターは実現杖ザ・デザイアーを行使する。
「ふふ、今ならその剣にだって喜んで焼かれてあげる。あ、いつものことか……じゃあもっともっと強くしてあげなきゃあね………その剣で、その炎で影を……私を蝕む現実を斬って、斬って、斬って………!」
天に落ち続けていた人影がかろうじて肉眼で確認できる位置でゆっくりと止まる。僅かな対空、そして正しい重力にようやく従った身体が今度は下へと落ちてくる。
サンラクの身体は殆どの魔法を殆どの場合弾く。それは腕を含む胴体と腰を除いた下半身という体の大部分を占める胴と脚にリュカオーンの「呪い」、その発展形が刻まれているからに他ならない。
つまりサンラクに魔法的干渉をする場合は特定の範囲全体に適用されるタイプの魔法は使えず、弾丸のように付与対象へとぶつける魔法を使うしかない。
その前提を踏まえると、目まぐるしく動くサンラクの後頭部へ的確に魔法支援をぶつけていたカローシスの腕前はディープスローターをして"出来る"と評価するものであったが……なればこそ。
「それ以上の成果を出さなきゃ君は満足できないよねぇ?」
ディープスローターは超高出力の魔法を運用する為にHPやSTMのゲージをMPに変換できるようにキャラクターを構築している。
ディープスローターの命と活力を吸い上げ、ザ・デザイアーはその大きすぎる欲望を実現する。
「出力十倍……【天使の恩寵矢】」
この後に使う魔法を単体化に変え、さらに射程を伸ばす強化魔法支援魔法とでも言うべき倍化魔法。だがそれだけではただの弓、弓とは矢を射ち放ってこそ真価を発揮する。
「ふふふ……エンゼルだなんて」
ディープスローターの背中から生えた渇望の手が動く。その赤い手に握りしめた短杖が強化魔法の発動を行い、光を握りしめた杖を握ったままザ・デザイアーへと近づけて……引き絞る。
それは両手で大弓を握り、第三の手で弦を引く異形の弓法。魔力の輝きがザ・デザイアーに弓のような輪郭を取らせ、ギラギラと鋭い光を宿すディープスローターの視線の先……今度は自然落下速度で落ちてくるサンラクへと照準を定める。
「天使の鏃を受け取ってね、サンラクくぅん」
───射ち放つ。
距離にして246メートル。さらに魔法使い個人が運用する単体対象支援としては最長にして屈指の難易度を、だからどうしたと言わんばかりに支援強化の矢が空を割いて飛んでいく。
エンゼルの矢は胴体を射ち抜けない




