表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
793/941

12月15日:残酷に斬刻を

大体三十分経過。


熱疲労ってのは、金属に度重なる熱による負担が掛かることで柔軟性を失って破損すること……だったはず。だがそれは何度も何度も……それこそ数千数万と熱して冷やしてを繰り返した果てに起きる事だ。じゃなきゃ世界中のフライパンは紙皿よりも高コストな消耗品になってしまう。

だがシャンフロというゲームにおける超常の物理現象である魔法ならばワンチャンいけるんじゃね? と全身を金属質な甲殻で覆うトマホークに対して「熱して冷やして作戦バーン・トゥ・フリーズ」を仕掛けたわけだが………金属を赤熱するほどに加熱し、冷却してまた加熱する。この一連の動作、とある「作業」では別の名前で呼ばれている。


即ち、鍛造における「焼き入れ」と。


「だあああああああああ!!?」


ヴァウンッ!! と文字通り風を切ってトマホークの尾が円弧を描く。月の光を受けて草木も凍るような冷めた輝きを放つそれは加熱と冷却、そして打撃にも負けずさらなる冴えと鋭さを見せている。

当然あんなもの直撃したらサン/ラクになってしまう。サ/ンラクかもしれないがそれはどうでもいい。一つ言えるのは、バーン・トゥ・フリーズ作戦は完全に失策だったという事だ。


「クソーッ! なんでどいつもこいつも自信満々だったんだよ!?」


しかもあの剃刀ドラゴン、どうも自前で焼き入れするモーション待ちというか、途中から炎系魔法を当ててないのに奴自身が高温化している気配がする。加熱していないはずの膝部分が紅く熱と輝きを放っている上に、それを利用して器用に膝蹴りをウル・イディム氏にかましていた……それは「膝が白熱していること」が想定内でなきゃ出来ないことだぜ。

だが、これでトマホークの能力が段々分かってきたぞ。


まず第一に肉体の超振動。全身から衝撃波を放つ身震いや腕刃や尻尾を振動させて威力を上げる超振動ブレードなど、シンプル故に使い回しが良い。一応、音や見た目で予備動作の察知は容易なのでトチらなければ対処はできる。


第二に、肉体の加熱とそれに伴う自身への焼き入れ強化。

これもまたシンプルなのだがそれ故に厄介だ。下手に触れれば火傷しかねない温度まで甲殻を加熱、そして外気に触れて冷えると肉質が一気に固くなる。どれくらい硬いかってウル・イディム氏の攻撃でも歯が立たないレベルだ。


だが、視点を変えればそれらはこちらの攻略に役立つチャンスでもある。


「ディープスローター! さらに加熱しろ(・・・・・・・)!」


「いいよぉ〜……カローシス君、ちょっと協力してもらってもいいかなぁ? はい、【熱照鏡ルーペン・アディオンヒート】」


「把握した、【炎獄海の渦焔インフェルノ・ストローム】!!」


カローシスの持つ儀礼剣から放たれた炎の渦が空中に生み出された光の穴へと吸い込まれていく。そして次の瞬間、炎熱が一点に収束したレーザーの如き一撃がトマホークへと解き放たれる。

炎魔法のピントを"絞る"事で威力が上がった炎熱の光に対し、トマホークは両腕を交差する事で防御とする。鋭く、そして強固な外殻は鉄板程度なら容易く貫通しそうな炎熱の光を受けて尚、耐え切ってはいるものの外気に触れる程度では治らない程に加熱され、白銀の外殻は紅く熱を帯びていく。


「焼けた刃で勝負と行こうぜトマホーク!」


松脂が燃え尽き、銀に輝く竜狩りの炎。焔研(トルク)第三の炎たる銀焔の剣を握りしめて加速。今の俺は、キャラクタービルドにおける最後の一線(・・・・・)すらも超えている。この速度は踏み超えた者にしか追いつけねーぜ!!




シャンフロにおけるキャラクタービルド。それはステータスパラメータは当然のことながらスキルと魔法を如何にして鍛えるか、という命題と向き合うことにある。

上は近接、下は生産までシャングリラ・フロンティアには多種多様なスキル魔法が存在し、しかしそれらは無限に習得できるわけではない。


スキルと魔法の習得数には上限がある。それは決まった数ではなくプレイヤーのレベルやスキルの性能にもよるが……少なくとも、プレイヤーはある時点からスキルや魔法をそれ以上習得できないラインがあることだけはプレイヤーの手によって解明されている。

まぁ要するにポイント制みたいなもんだろう。プレイヤーは100ポイント持っていて、このスキルは覚えると20ポイント消費、こっちは15ポイントで保有ポイントを使い切るとそれ以上は習得できませんよ的な。


だがこの習得上限……実は魔法とスキルで共有されている。100ポイントの内、50ポイントを使ったら魔法も50ポイント以内でしか習得できないということ。つまり真の意味でスキルだけに、あるいは魔法だけに己の可能性を捧げた者とはこの習得上限に収まる範囲の全てをどちらかに偏らせた者を指す。


「俺は純物理アタッカーを卒業した……」


今の俺はピッカピカの純スキルアタッカー(・・・・・・・・・)だ。魔法を覚えられる可能性を潰してその代わりに得たもの……それはかつて習得し、強化あるいは進化で消失したかつてのスキルの再取得!!


「まだ冷えてねーんだ! そんなヤワな刃にアラドヴァルが負けるかァ!!」


そして、スキルの再習得はさらに予期せぬ可能性を齎す。

スキルの発展性はプレイヤーの行動と密接に関わっている、二人のプレイヤーが同じスキルを持ってスタートしたとしても別々のプレイスタイルから違うスキルになるように、かつての俺と今の俺が同じスキルを持ったとしても同じ道を辿るとは限らない!!


「くたばれニュートン! 俺はお前を全否定する!!」


無重律の恩寵(スペースチャージ)」……プレイヤーの意思で重力の方向を変える、というシンプル故にそれ以上の効果が余分とさえ思える再取得したスキルを発動し、俺は万物が有する「上から下に落ちる」という大原則を逆転させる。これで俺は下から上へと落ちる(・・・)状態になったわけだ………今こそ見せよう、これが新技その1!! 同じく再取得した「遮那王憑き」が鞍馬天秘伝とは別の道を辿った新・進化スキル!! その名は「黒影逆落とし(いちのたにたゆうぐろ)」!


落下速度を加速させる、というお手軽自殺促進装置としか思えない効果も落ちる先が果て無い空ならば無尽蔵の加速となる! 無重律の恩寵は効果時間中なら何度でも重力方向を変更できるからそのまま宇宙へ───なんてことにはならないし、最悪インベントリアに逃げ込めばなんとかなる。

そして!! 地より天に落ちる俺を叩き落さんと振り下ろされた剛腕……それこそがもう一つの新技を発動するための最後のピースだ。キャッツェリアでアラミース君一押しの秘伝書で覚えた斬撃版クロスカウンター、敵の攻撃に対して向かっていくことで威力が上がる斬撃系スキル。攻撃スキルだしせっかくなので音声認証。


交衝迎閃クロスラッシュ・ブロウ」!!」


激突する二つの熱刃。だが片や単なる加熱現象……こちとら生憎、竜殺し!!

銀焔の刃がトマホークの腕刃にめり込んでいく。叩き切るのではない、「竜を狩る炎の刃」という性質故に竜の肉体を焼き斬ることに特化したアラドヴァルの斬撃は熱を帯びた代償に硬度を損なったトマホークの外殻を焼き溶かしながら剣たる本懐を果たす。


クリティカルヒット故に焔爆(ニトロ)による強化を受けたアラドヴァルから伝わる粘り気の強い粘土を断ち切ったような感覚と共に、全身に凄まじい浮遊感。上空へと落ちていく(・・・・・)中で、遠ざかる大地を見ればそこには溶断されたトマホークの腕刃が千切れ飛んでいくのが見えた………よっしゃ部位破壊。素材落ちるかな?

・習得技能上限

実際のところ、これが埋まるのは余程節操なしにスキルや魔法を習得した時くらいである。

というのも、ゲームプレイ的に「最低でもメイン二つサブ二つ、合計ジョブ四つ分」程度はキャパシティがあるので技能上限までスキルや魔法を覚えないプレイヤーの方が多いくらい。

ただ、同調連結に手を出すと途端にこの習得技能上限と嫌でも付き合っていくことになる……なにせ優れたスキル同士を連結するほど強力なスキルに生まれ変わるなら、リソースのデカいスキルを大量に覚えないといけないので。


え?魔法には同調連結みたいなのは無いのかって?






あるよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
バカほどテキストが長いのも強いけど、某禁止の壺のようにカードを二枚引くみたいな短いテキストも当然強いよねって言う。
サンラクに万有引力を全否定されてニュートンさんも草葉の陰で泣いてるよ……
[一言] フレ/ンダやんけ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ