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曇天の夜空:影は踊り、開拓者は踏み出した

長編サブタイは終わったけどもう少し続く


なんて事はない、ずっと違和感はあったのだ。

そして風が教えてくれた、答えはずっとそばにいたのだと。

海蛇の林檎から出てしばらく歩き、前線拠点から樹海の中へと入った頃。俺は行動を開始した。


「………」


走る、飛ぶ、剣を振り回しインベントリアで即座に別の武器へ切り替え、銃をリロードしつつトリプルアクセルして着地。

その間、ずっと俺は「それ」を見ていた。スキル「永劫の眼(クロノスタキサイア)」による思考加速でずっと、じっと。そこで見たものと、あの時「海蛇の林檎」の入り口で見たものを合わせれば……確信に至る。


このゲームでは、プレイヤーの視界は暗闇とは無縁だ。それはつまり……どんな暗闇の中でも、そして当然ながら灯りの中でも、絶対に「影」があるということだ。


「炎の揺らめきでブレない(・・・・)影がこのゲームにあるわけねぇよなぁ……!!」


違和感の正体、それは一定以上の速度と目まぐるしい動きを続けていると……ほんの少しだけ、それこそ思考加速中に凝視しないと意識することができないほどほんの少し、影の動きが本体の動きより遅くなるのだ。

あたかも、輪唱で自分よりもワンテンポ遅れて歌う声を聞くように。

この影に擬態した何か……アーカヌムの言葉をなぞるなら黒く貶められた「真実」なのだろうこいつこそが逆位置を解く為のフラグ。


なんて事はない、俺はずっと解決策を引きずったまま無様を晒していたって事だ。


「………」


俺が真相に気付いてなお、この真実君は俺と同じ動きをしている。しゃがんで、触れてみれば……指が影に沈んだ。咄嗟に引き抜くが、特に何か指に付着しているわけでもない。

影に触れる事……いや違うな、それならとっくに偶然影を踏んだ足から沈んでる筈だ。だとすれば意識して触れる事が条件かな。


「まぁいいか、なんとなく何が起きるか想像がつく」


なんというか……タイミングが、うん。

いや、だってこれアレでしょ? 自分と向き合う系の奴でしょ? 「戦ってる中で成長した!?」で自分のコピー的なやつを凌駕する系の。

どうするんだよ、直近でそれ系の頂点みたいなオルケストラをクリアしたばかりなんだが?


とりあえず自分の影に転がり込むように沈み込んでみる。おぼぼぼぼ、呼吸は問題なくできるけど水の中に沈んだような感覚だ。

水? をかき分けてみるが進んでいるような気配はない。ローディングみたいなもんかな、しばらく待ってみる……


………


………あ、なんか地面に尻が当たった。


「……で? 何が出るかだけど」


うんうん、段々真っ暗だった視界が薄く白くなっていく。軽く床を爪先で蹴ってみると思った以上に冷たく硬い、大理石とかそういう磨かれた石の床みたいだ。

そして白くなっていく空間の中で丁度人一人分の黒い塊が段々と人の形に……あっ……


「ま、まさかおれじしんとたたかうことになんてなー……」


反応に、反応に困る。

思いっきりコンテンツが被ってしまっている、大丈夫かシャンフロ運営。いや逆なのか? この逆位置シナリオで自分自身を超えたと思ってるプレイヤーをオルケストラは上位互換AIで粉砕するのか?


いや待て、まだ分からない。そういう楽観視でしっぺ返しを食らったんだ。よしよし段々腹が立ってきたぞ、程よく怒れば身体に力が湧いてくる。

見た限り、逆位置版「俺」は本当に俺のコピー、と言った様子だ。黒一色のシルエットなので顔の造形とかは分からないが少なくとも変な仮面をつけていたりはしない。


「えーと……ゴングは必要?」


普通に襲いかかってきた。ラウンドワン、カーン(脳内ゴング)!!

結局のところ「サンラク」というキャラは防御力を削った機動力特化のキャラだ、オルケストラ戦で散々積み上げてきた対策はそのままこの戦闘に転用することができる。

だがやはりそっくりそのままとはいかないらしい………オルケストラが再現した「サンラク」はリアルタイムでこちらの情報が反映されていた。つまりそれはスキルを覚えれば向こうも同じ技を使い、こちらが新たな武器を仕入れたならば向こうも同様の武器を使えるということ。

そしてそれは、マイナス方面でも同じでなければならないはずだ。


「おうおうおう、俺への当て付けかこのヤロー」


オルケストラの「サンラク」とはまた異なる神秘(アルカナム)に由来する「サンラク」。全身真っ黒なシャドーサンラクとでも言うべき敵の行動は、今はもう使う事が出来ない非常に見慣れた動作。

漆黒の雷、あのクソPKとクソアプデの併せ技で失われた封雷の撃鉄・災の発動エフェクトそのもの……成る程、こっちはシンプルに「プレイヤーの全盛期」か何かで出てくるのか。オルケストラなら向こうも封雷の撃鉄・災を使えないはずだからな。


だとするとこのイベントは……


「逆位置補正を受けたプレイヤーと、正位置補正を受けた影との戦い……!!」


神秘「愚者」の正位置効果はスリップダメージの倍化、回復行為の確率半減、そしてリキャストタイムの半減。

それに対して逆位置効果はスリップダメージの半減、回復行為による回復量の倍化、そしてリキャストタイムの倍化。


まさにタロットカードの正逆のようだ、正位置の愚者は安寧を捨ててでも己の性能を高める。そして逆位置は安寧を求め、自らを愚鈍にしてしまう……

飛び込んできた影サンラクの動きは速い。成る程、思考加速だとやっぱり対処に困るな。3。

冥王の鏡盾(ディス・パテル)で影サンラクの斬撃を防御、その一瞬で思考加速スキル「永劫の眼(クロノスタキサイア)」を起動。リキャストタイムの懸念を踏み越えて高速で駆ける黒い雷を目で追う。5。


過剰伝達状態は実のところ、そこまで器用には動けない。厳密には曲線の動きが極端に苦手になる、なにせちょっと強めに腰を捻るだけでトリプルアクセルしかねないからな。

加速力で直線機動を刻む(・・)ことで円のような多角形運動をすれば擬似的なカーブもできないことはないがやはりインファイトで滑らかな動きは素の性能では困難だ。6。


「くっ」


だがそれはあくまでもスキルを使わなければ、という前提の話だ。

ステータスもアクセサリーも再現するような敵がスキルはパクれません、ってのは流石に希望的観測だ。非常にわかりづらいが恐らく目があるのだろう場所に見慣れたエフェクト…… 永劫の眼(クロノスタキサイア)だ、向こうも思考加速を使った。7。

NPC、というかAIが思考加速をわざわざ使う意味はよく分からないが重要なのは「思考加速を使ったサンラクの行動」であるわけで、先程の跳ね回るスーパーボールのような挙動に滑らかさが加わる。8。


厄介だ、オルケストラ戦でも散々思ったがミラーマッチ、というのはキャラとしてのアドバンテージが薄れてプレイヤーの腕前が直接問われるものだ。9。


盾が弾き飛ばされる、回復量が何倍になろうと俺本体の体力はゴミのようなもの。流石に「俺」が相手ならよほどの火力でなければ一撃死こそしないがそれ故の二刀流、連続攻撃の初動を右腕の剣をインターセプトして無理矢理中断させる。

スキルを総動員させての一歩後退、だが既に向こうは二歩踏み込んで確実に俺を仕留めに………!!


「10秒だ」


そこまで再現してるなら当然、過剰伝達のデメリット効果もお忘れではないですよね? 正位置効果にだってデメリットはあるんだぜ。


一歩、とは片足が前なり後ろなりに移動することを指す。つまり今俺が一歩(・・)後ずさったと言うならば、もう片方の足は依然として動いていない。だからこれが「二歩目」だ。

残った片足……右の足だけを前に、摺り足の要領で前後に開脚するように押し出す。するとどうなるだろうか。


過剰伝達(オーバーフロー)は外部からの衝撃による身じろぎにも適用される、例えばこのように足を引っ掛けられて転んだならば───


「……「(サンラク)」の攻略法なんざ範囲攻撃を使うまでもねぇ」


コケたら死ぬ(・・・・・・)

10秒で体力が半減するデメリットが「愚者」の効果で倍増する、つまり10秒ごとにHPが強制的に1になるダメージを受けながら戦うのが「サンラク」というプレイヤーだった。

そして転倒によるダメージは自傷でも反動でもない、つまり幸運パラメータが持つ「自傷、反動ダメージへの食いしばり」が発動することなく「即死級のダメージを受けた際、確実に一度はHP1で耐える」方の効果が適用される。


「知ってるか「俺」、銃弾は剣より射程がある」


そして顔面から派手にイった影サンラクの無防備な後ろ姿に叩き込んだ弾丸は、思考と挙動の両方を加速させた「全盛期」の俺を再現した影サンラクでなお対応の隙を与えることなく、至極あっさりとその身体を撃ち抜いた。


「………はぁ」


こんな、こんなクソチョロい(・・・・・・)戦闘をサボっただけであのザマか。


タイムマシンを手に入れたらやりたいことランキングが大きく変動したな……

「一番強いムーブ」と「一番有効なムーブ」は似て非なるもの


影サンラク「もう少しこう、苦戦するべきでは!?」

正典サンラク「道路標識とデコトラが足りない」




Q.なんでサンラクは壁のシミになるん?

A.転ぶ→地面に叩きつけられた際の動きとそれまでの加速でバウンドする(ここで食いしばりを使いきる) →反射的な行動で一歩踏み出したせいで余計に加速して制御できなくなる→そのまま壁に激突して死ぬ

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― 新着の感想 ―
端々にイラつきは出ているサンラクなんだけどその上で軽快な文体やツッコミも健在なのは安心した。
【一言】。3。顔みたいで好き
このイベントを放置したのが最大の「愚者」だったという……
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