サイエンス・ファンタジーに夢を詰め込んで
息抜きに本編の別視点書いてたら爆速で書き上がったという……
リヴァイアサン「裏」第三殻層……「戦盤」。
娯楽としての面が強調された表面「戯盤」に対し、血生臭いあるいは鉄臭い雰囲気の漂うこのVIPコンテンツはプレイヤー自身が戦闘を行うコロシアムが最大の目玉と言っていいだろう。
船内で多種多様な怪物を作り出すベヒーモス程ではないにせよ、様々なモンスターの再現体や第四殻層のボスモンスター「ウィズダムガード」に酷似した機械型モンスターなど様々なモンスターと戦い、勝利すれば報酬を勝ち取ることができる。
一応、コロシアム内で闘うプレイヤーとエネミーのどちらが勝利するかを予想するトトカルチョじみた賭博コンテンツも存在するにはするが、未だリヴァイアサンの制覇者が少ない現在においてはいつ来るかも分からない他プレイヤーを待つよりも自分が戦った方が手っ取り早いと言える。
『Battle Ended. Winner : ルスト』
そして今、全身に銃器を仕込んだ機械獅子がスクラップに変わり果てたことで勝利者を確定するアナウンスが鳴り響いた。
『───素晴らしい、素晴らしいスコアですよこれは』
「………まだまだ余裕」
『一勝ごとに難易度が上昇するステップアップ・チャレンジで二十連勝もされてしまっては疑うべくもありませんね。ですが申し訳ありませんルスト様、ただいま倒されました「アルゴレオン」が現状実装されている最高難易度でして……ここから先は未だ設計中なのです』
その銃装機甲獅子とて、つい先ほど実装されたばかりの難度20のモンスターである。十五分程でスクラップに変換された最新機になんとも言えない視線を向ける鯨の乙女は、それを成した少女の様子を見て「もっと凶悪なのを作るべきでしょうか……」と呟く。
聞こえているのか聞こえていないのか、当の本人はと言えば、これ以上の「稼ぎ」は出来ぬと判断したのか難度20をクリアした時点でチャレンジを終了、無敗のままに稼ぎきった賞金……莫大量のスコアを受け取る。
「……そう、じゃあ難度21が実装されたら言って。また一から連勝し直すから」
『うぅーん………戦術機レギュレーションとはいえ驚嘆すべき戦闘力ですね。あるいはウェザエモン・アマツキに匹敵するのでは……?』
「……私は、ウェザエモンと戦ったことはないけど……褒め言葉として受け取っておく。じゃあ「裏」第四殻層に転移」
『かしこまりました〜』
……
…………
………………
シャングリラ・フロンティアは狂気的なまでにファンタジーを追求し、狂気的なまでにリアリティを追求し、そして狂気的なまでにSFを追求したゲームであるとルストは認識を改めている。その最大の理由こそがこの場所……インベントリアの格納空間と同様の技術で形成されたVIP向け兵器開発階層……「裏」第四殻層「工廠」を利用し始めたからだ。
「あ、ルスト」
「やぁルストさん、稼ぎは終わったのかい?」
「……ん、楽勝」
『おかしいですね………ソロ向けとはいえ出力的には分隊との拮抗を想定した調整のはずなんですが』
「……一人旅団もその気になれば出来るし」
『あはは、ご冗談をルスト様』
冗談じゃないんだなこれが、とコンソールを操作しながら呟くのはモルドだ。ある理由から周回を前提とした金策に追われるルストとは異なり、一回の挑戦で必要な通貨を稼ぎきったモルドは二日ほど前からずっとこの「工廠」で作業していたのだ。
「ちなみに難度20ってどんな感じだった?」
「……フルバーストするライオン」
「僕好みだなそれ……ねぇ「勇魚」、それテイム……あー、戦術機みたいな感じで使えたりしないの?」
『そこそこ燃費を度外視してるので船外ですと10分活動できるかできないかですよ?』
「あー……そりゃ厳しいね」
この場にいた二人のうちのもう一人、彼らと同じくリヴァイアサンを制覇したプレイヤーであり……彼ら二人とは毛先こそ違うが利用する施設が同じであるが故にこの場にいるヤシロバードは「勇魚」の言葉に苦笑いを浮かべながら肩を竦める。
表立っては口に出せない出自故に継戦力の重要性を心得ているヤシロバードは、たった十分で使い物にならなくなる装備を個人運用するのは少々無理があると全身銃器の獅子を飼いならす夢を諦める。
「そうだルストさん、これ作ったはいいけど生身だとイマイチなんだよね。どう?」
「……悪くない、買う」
「20万スコア」
「…………」
ルストは無言で稼いだスコアの内から20万という端金とは言えない額をヤシロバードへと渡し、彼が「設計」したデータを受け取る。
彼らがこの場所でやっている事は、表面の第四殻層における装備の形成をより深化させたもの………文字通りゼロからの設計と製造である。銃器に狂った男であるヤシロバードとロボに狂った女であるルストは設計図を作っては作り、作っては作り、作り、作り、作り、作り作り作り…………当然ながら製造の為のスコアが足りずに金策に走るということをこれまで何度も繰り返していた。
戦術機一機に自身の要望を詰め込んでいるモルドは既に設計図を基に製造する段階にまでたどり着いているが、モルド以上にこの階層にのめり込んでいるはずのルストはこれから設計図の完成を目指すことになる。
それは、彼女の半ば暴走したロボ欲が妥協という言葉を許さなかったからであり………
「……これで、全部作成可能」
『そうですね、まさかお一人で六機も保有すると言い出すとは思いもしませんでしたがそれを実現するとは』
情報体として全てが成立した空間の中で、ルストがコンソールを操作すれば彼女の前に六つのウィンドウが表示される。
・RS:Ο伐斬凱青
・RS:Ο黄梁一粋
・RS:◇殲顎緋砕
・RS:◇玉堰紺攻
・RS:Δ牙龍鳳枢
・RS:Δ黒紫無双
「……ふふっ、ふふふふひひひひひひ」
「ルスト……」
「分かるなぁ……目標が手の届く距離までくると笑顔になるよね」
少々情熱がマグマの如くねばついた高温となっている二人を眺め、モルドはため息をつきながら手元にあるコンソールを操作する。そこには彼が今製造しているものの名が表示されていた。
・安全領域
なおモルドはこの中で一番のクソ機体を作っている模様




