皇帝は、万事に於いて、優れたり
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スッとログインしてスッと転移する。あまりにも美しすぎる流れは数人いたプレイヤー達に一切気づかれることのない離脱を可能とする。
ニッコニコの笑顔で征服人形達にマウントを取っていたサイナの回収には苦心したものだが……まぁ、それはいいとしよう。「N」パッチのインストールとオルケストラの攻略を成し遂げた、という事実はどうもヒエラルキー的に最上位に位置するらしい。
もう人(形)生楽しくて仕方がねぇ! と言わんばかりのサイナを残していく案もあったが、俺がログインしていることをサイナが他のプレイヤーに話しても面倒だ。ラビッツに向かうとはいえ最終的にはどこかに出るだろうし……まぁ、目立たないに越した事はない。
「んー………………」
どうすっかな。とりあえずやるべき事はあるけどそれを終えた後に何をするかだが……うーーーーん……やる事は多いんだけど最優先になるようなものがないが故の停滞か。
「とりあえず返却からか」
多分いるだろう、オルケストラ撃破直後だし……ヴァッシュの出現パターンってつまりそういう事だろうしな。
……
…………
………………
兎御殿最奥。
「おうサンラクよう……その様子じゃあ、ちゃあんと抜けたようだなぁ?」
やはりそこにいたヴァッシュへと、俺はいつの間にか復活していた箱入りの刀を差し出す。
「へい、アガトレオ氏には世話になりやして……」
物理的に背を押してもらったというか声援に後押しされるってそういう意味じゃない気がするが役に立ったのは事実だ。性能の良し悪しではなく「サンラク」がコピーできないってのが素晴らしい。贅沢を言えばこのまま借り続けたいくらいだがそれをやると俺はビィラックに薪の代わりにされそうなので却下。
「カカカ、あの跳ねっ返りの風をぉよう……たとえ僅かな片鱗だとしてもよう、使いこなせりゃ上々だぁな……」
あまりにも当たり前のように俺の手元にあった覇国兇嵐を手元に出現させているが、それどういう理屈なんですかね? プレイヤーも習得可能? 無理?
「さぁて………あぁそうだサンラクよう」
「へいっ」
「ビィラックん処に行ってやんなぁ……どうにも悩みがあるらしいかんなぁ……」
あ、今のフラグだろ! こんなコッテコテのフラグ提示、すごいゲームっぽい!!
とはいえ実質俺の専任鍛治師であるビィラックが何か困っているというなら身体を張るのが顧客の矜恃、人里に行く以外ならちょいょいのちょいって寸法よ!
……
…………
「素材じゃけぇ!!」
「お、おう?」
「いつも以上におねーちゃんが荒ぶってるですわ……」
大体キレてるか気絶してるかのどっちかになりつつあるビィラック氏の本日の様子はこれまでにない狂乱っぷりであり、ガンゴンと何も置かれていない金床を叩く姿は「狂った?」と聞きたいくらいだ。
「よぉ聞けサンラク! ワリャが持ち込んだ蠍の素材! ありゃあ最高じゃけぇ!」
「お、おう」
「それ故に!!」
もう聞いちゃおうかな、狂った?
テンションに比例して金床を叩く速度と強さが上がっていくビィラックはビシッ! と金槌を俺に突きつけるとこう口にした。
「もっと上質な素材が必要じゃ!!」
「上質な? アムルシディアンとかじゃダメなのかよ?」
「ダメじゃな、普通の金晶独蠍ならそれでいいかもしれん、じゃがこの素材は強すぎる。覇槍の穂先ですらつり合わん」
マジか、いや確かに"皇金世代"はおやつ感覚でアムルシディアン・クォーツも含まれているだろう宝石塔をボリボリ食ってたな。あの超硬質鉱石ですら砕かれるなら確かにその力関係はイコールではないだろう。
「とはいえあれ以上のモノをゼロから探すのか?」
「当てはある」
「その言葉を待っていた」
0から1を探し出すのと、1から100を見つけ出すのは大きく違う。増える数こそ隔絶しているが難易度は圧倒的に前者の方が面倒だ。バグ技を見つけるより再現する方が簡単なようにな……
「イムロン、おるじゃろう」
「いるね」
「奴の持っちょる聖槌……あれを構築する金属が何か知っちょるか?」
「知るわけないだろー、サイナは?」
「検索:………、…………ウィッシュド・ウェポン。材質不明、由来不明、しかしながら知的生命体の「願い」に関わる武器と推測されています」
「おい待てサラッと爆弾情報を出すな、なんて?」
ウィッシュド・ウェポン? ていうか征服人形達は勇者武器について情報を持っているのか?
「ありゃあ武器にして実体化した祈りの代行、故に世界そのものが鍛えた武器……本来は「素材」なんてもんは存在しない……だが、」
───勇者武器と同質のものは存在する。
そう断言したビィラックにエムルとサイナが目を見開く。まぁ俺は鉛筆がそれっぽい事を言ったことがあったので知ってたんだが。あの野郎「どうせ放っておいてもそのうち見つけ出しそうだし100円あげるから見つけたら教えてよ」とか言ってたけど絶対教えない。
俺はRMT、リアルマネートレードはしない主義なんだ。
「鉱人族を知っちょるか?」
「話には聞いたことがある」
アラバの持ってるネレイスが宿る刀を作ったのが確か鉱人族の……えぇと、名前が思い出せない。とにかく鉱人族だったはずだ。エルフがあんなのだからテンプレート通りってわけじゃなさそうだが鍛治を得意とする種族である点はテンプレートに沿っているらしい。
「彼奴等が秘する聖地の最奥に黄金のマグマが湧き出る泉がある」
「それ泉か? マグマ溜まりでは?」
「細かい事をごちゃごちゃ抜かすなや。大事なのはワリャはそこに行ってマグマを汲んでくるって事じゃ!」
一瞬脳裏に「不法侵入」の四文字が思い浮かんだ、もしくは「押入強盗」。いや待て冷静になれ、普通に譲って貰うよう頼むって選択肢もあるだろう。
「つってもマグマだろ? 水とは話が違う、どうやって回収するんだよ?」
「ぬかりはありゃせん! 武器に使う分を引いてもアホ程余ってる"皇金世代"の皇金殻を使った……皇金桶カイザーバケットじゃ、これを使いぃ」
これはびっくり、水晶の野に君臨する皇帝の亡骸がバケツに大変身!
……"皇金世代"も草葉の陰で泣いてるぜ。
ついに開示される勇者武器の秘密
あれは「願い」の武器なのです、思考を持つ全ての生き物が抱く「脅威に対抗する力を求める祈り」の権限なのです
何もないに越した事はなく、されど何か起きたならばせめて抗い得る力を。
獣も、人も関係ない。原始的で根源的な願いに応えた星の武器。故に地殻の底、深淵の果てより湧き出るマグマは「鎧」に至る鍵なのだ。
・皇金桶カイザーバケット
地上最強のバケツ、金色のバケツはバケツでありながら威風堂々たる王の威厳を纏い、そのひと掬いは水を土を、灼熱すらをも手中に収める。
アイテム枠なので武器として装備する事は不可能だが半端な武器より頑強なので椅子に縛り付けた「参考人」の頭にかぶせてガンガン叩けばバケツの皇帝パワーできっと素直にお話ししてくれる。
ちなみに「聖剣」に優先されるとはいえ摂取した鉱石の成分が何割か甲殻にも割り振られるので恐ろしく硬い、バケツが凹む前に剣が刃こぼれする




