道徳を逆手に取って
書くとすぐ見せたくなる、良くない兆候だ……
20thクェーサーのカードナンバー、「-」は「_」に……硬梨菜から言えるのはここまでです。没ネタと性癖とマニーな話しか呟かない処を見つける一助になれば……
話題を切り替えよう、この話題で俺のテンションが好転する未来が見えない。0と100だけは乱数の女神をして干渉できない絶対の領域、即ち「確定」という名の宣告だ。そうだな……
「そ、そういえば玲さんは英語とかどう? どうせ10点分は道徳問題だから平均点高そうだし」
「そ……う、ですね。大須賀先生は……その、多分今回も最後の作文はいつものでしょうし」
大須賀・Makiko先生……日本語の名前をわざわざアルファベットにしたとかではなく、マジでMakikoという名前のアメリカ人だ。
日本人の旦那さんに嫁入りしたから大須賀という名字になっている英語教師はとても道徳的に繊細なお人なので、世間に不安な話題があるとすぐにそれをテストに反映させる変な癖がある。「昨今では詐欺が横行していますが貴方はどう思いますか?」とかそんな感じの。
つまり期末テストが作られるだろう大体二週間前くらいからニュース番組を追ってあらかじめ文章を考えておけば最低10点は確実に取れる。
学生間ネットワークで最有力とされているのは「最近横行している新型薬物」か「一週間前東北の高速道路で起きた大規模衝突事故」のどちらかだろうと予測されている……どちらも縁遠い話題だがテストに出るとなれば見て見ぬ振りもできない。オッズは6:4、賭けるなら薬物のほうだな、テストに必要なのは一発逆転ではなく確実に点を取るアベレージヒットだ。
「大須賀先生は問題文に引っかけ入れるからなぁ」
よく読むとちゃんと分かるのがまたイヤらしいんだ、流し読みだとひっかかる文章を作るのがやたら上手いから英語のテストは他と比べても気合を入れないと時間が足りなくて詰む。
チャートはちゃんと立てないとな……まず最初に時事ネタ作文で確実に10点確保しつつ……
「あ、その、わ、私英語は対策立ててるのでっ、よければその、お教え……します、よ?」
「マジ? 是非是非」
流石は玲さん、抜かりがない。
……
…………
………………
「いえ、そんな……」
「いいよいいよ気にしないで、別にこんな間食程度で威張るわけじゃないけどせめて奢らせてよ」
気づけば夜七時、仮にも高校生なのでまだまだ「活動時間」だろうが夜遊びする程無茶でもない。図書館を出た俺と玲さんは帰り道で立ち寄ったコンビニで肉まんを購入、二つ買ったうちの一つを玲さんに手渡す。
正直今日発売のゲーム雑誌の表紙に書いてあった「衝撃! シャンフロ最新アップデート内容最速特集!」の文字がそこそこ気になったのだが、まぁどうせ新ジョブ開放とかそこらへんだろう。流石に玲さん放置して雑誌立ち読みするほど神経ずぶとくはない。
「はい」
「あ、ありがとうございましゅ……」
もうめっきり寒くなってきたからこういう買い食いが捗ること捗ること。少し齧りつけば露出した餡が空気を熱して煙のような湯気を立てる。うーん風流、一句詠めそうだ。
寒い中
かじる肉まん
いとうまし
実は金欠
懐寒し
……なんて事だ、百人一首が百一人一首になってしまうな。これには松尾芭蕉もびっくり、なんてな。
そんなアホな事を考えつつ完食、コンビニのゴミ箱に包み紙を投げ込んでいると……ふと、緑と赤で装飾された店内の光景からそういえばと思い出す。
「そろそろクリスマスか」
「んぐっひゅ!!」
そう呟いた直後、玲さんが派手にむせた。
「ごほっ! ごほっ!!」
「大丈夫!? 水買ってこようか?!!」
「だい、ら、らいじょうぶ…ですっ」
いや大丈夫じゃなさそうだから心配してるんだけど……とはいえ自己申告に偽りはなかったらしく、しばらくむせ込んでいた玲さんであったが呼吸が完全に詰まったわけでもないようだ。
「ソ、ソーデスネ! そろそろクリスマスのシーズンですねっ!!」
クリスマス……クリスマス、か。限定イベントの日という認識しか無いのはうら若き高校生としてどうなんだろうと思わなくもないが、ウチに来るサンタクロースは事あるごとに釣りと虫取りを激しく推してくるので俺も瑠美も小学生でその正体に気づく。
いちばん怖かったのは小六の時に枕元にブラジルへの飛行機チケットが置いてあった時だな……え、確定なの?って幼心に恐怖を覚えた。いや父よ、行こうぜポロロッカじゃねーんだわ。
「クリスマスか……」
幕末例年通りなら北鏖聖伐飛将軍サンタクロース討伐イベントがあるだろうしネフホロは限定カラーリングが取れるイベがあるからルストがうるさそうだ。ギャラトラは……どうせ亡霊船団セント・ニコラウス撃滅戦だろ? テラトン級がバカスカ沈む魔の戦争宙域に誰が行くんだよ。
「あ、あのっ!!!!」
「ん?」
「その、ええと、ですね。もし、あの、その、もしも……その、24日……ごっ、ご予定がなければ………」
「うん」
先程まで咳き込んでいたせいか、未だ赤みの取れない顔でこちらを見ながら玲さんは口を開く。
「わ、わた、私と…………っ!!」
おや、これはまるで世間一般というか現代日本的なクリスマスの───
「シャンフロしませんかっ!!」
「いいよ」
流石だ玲さん、そのシャンフロにかける廃色の熱意はとても好ましく思うぜ。正直今シャンフロは色々とキッツいものがあるのだが、同じラビッツ組でガチ廃人の玲さんの頼みとあれば恥を忍んでログインするのもやぶさかではない。
「いやぁ、なんか玲さんと話してたらシャンフロへの忌避感も薄くなってきたよ。ありがとう」
「…………はひぃ」
◇
玲は37.6度の熱を出した。
◇◇
サードレマ大公城、城内サロン
赤鉛筆のロゴを服に鎧に刻み付けた者達が集まり一人の女を見据えていた。
女は黙し、瞑目し……されど、その心中にてなんらかの結論が出たのか、目を見開いて口を開ける。
そして一言。
「爆弾影武者作戦! 志願者だーれだ!!」
「俺がやるぜ!」
「いや私が!」
「自分公女か王女希望っス!!」
「いやその声で女役は無理でしょ」
「でも口を開いたらこの声出たら面白くね?」
「しかも自爆する」
「あーそれいいかも」
「静粛に! 静粛に!! もう、みんなこの役目好きすぎでしょ」
爆弾影武者、かつて世紀末と化した円卓において非人道兵器とされた悪魔の戦術である。内容は至極シンプル、要人NPCに化けてプレイヤーを巻き込んで自爆する……それだけである。
シンプル、故に悪辣。特に死にデメリットのないゲームであればあるほどこの戦術はしつこい程に繰り返され続ける。最終的には前線に大量の同じ顔が溢れ、武器を構えながら突っ込んでくる同じ顔……という光景が繰り広げられる感染型外道戦法、それが爆弾影武者作戦なのだ。
「ふふふ……協力者のお陰で自爆魔法のストックも着々と溜まってるし、これは捗りそうだねぇ……で、諜報班の方はどんなもんかな?」
「とりあえず向こうが配信してる方はそこそこ追ってるけどなんかフツーって感じっすわ。時々妙に効率的なプレイしてるんで裏で情報交換してるのは確定っぽい」
「あとカリントウ追いかけるのは無理、なんなら今も配信中ですよあの人」
でしょうね、とペンシルゴンは自信に満ちた笑みを崩さないまま心の中で苦笑する。友人と言うには少々アクの強い二人もそうだが、世の中にはショートスリーパーという言葉で片付けていいのかというレベルでオールタイムを戦う人種がいる。
徹夜騎士カリントウはその中でもさらに極端なタイプだ、なまじ暮らしていけるだけの収入を得られるからゲームの息抜きにゲームをしてさぁゲームをやろう、なんて思考になるのだ。
配信者連合の厄介な点は一定数のプレイヤーを常にシャンフロにインさせられるという事だ、それはこれからペンシルゴン達がやろうとしていることを考えればとてもとても都合が悪い。
新大陸からフィフティシアに帰港する船から前王トルヴァンテと王女アーフィリアをサードレマまで護送する。どう足掻いても新王勢力を突っ切らねばならないミッション………RPAは既に、道徳という楔を脳から引き抜いた奴しかいない。
(理想を言えばサンラク君をフィフティシアに投げ込んでおけば何とかなりそうなんだけどねぇ……)
少なくとも新王勢前王勢が正面衝突する時くらいまでは人里に現れることはないだろうな、と案外シャイな友人を思い浮かべながらペンシルゴンは嘆息するのだった。
要するにサンタクロースカラーの呂布だよ、トナカイってレベルじゃないツノが生えた赤兎馬がソリを牽いてる




