運命神の憤慨
諸事情(早く次章書きたくなったのと三千字も書くことがなかったため)間章三話目「調律神の胃痛」はお蔵入りです
二度は蹴らない、流石に自分の膝がそれを可能にする程のタフネスがあるとは思っていない。
「ったく毎度毎度毎度毎度毎度の事ながら好き勝手しやがってからに……」
忌々しいと思いつつも、何故それだけの「改良」を短時間で誰にも気づかれずに遂行するだけの腕前があんな女に宿ったのかと運命を呪わずにはいられない。
「……だが、一理あるのも事実だ」
ユニークモンスターが短期間で次々に撃破されているのも問題だし、ある程度の空白期間があったとはいえたった一日で制覇されたリヴァイアサンも運営スタッフの間では驚愕で語られている。
だが最大の問題はユニークでもバハムートでもなく……レイドモンスターだ。
「新大陸はまだともかく、まさか旧大陸の方までここまで攻略が遅いたぁな……」
レイドモンスターとの総交戦数が想定を超えて少ないのだ。撃破数ではない、交戦回数だ。
お試しの一回を含まなければ貪る大赤依ですらまだ一度も撃破されていないし、プレイヤー達の大半が未だにペンヘドラント大樹海地帯を拠点として砂漠以降へと進出していないのが原因だ。
「クソがっ、自分達で無茶苦茶にして自分達でドツボに陥ってんじゃねぇよアホユーザーどもが……!!」
理由はわかっている。本来は色竜を各個撃破の末に戦うはずだったジークヴルムシナリオが色竜集結の上で大戦規模となってしまったこと、さらにリヴァイアサンの浮上や王国側のクーデターイベントの発動、それによる攻略遅延と獣人族イベントと王国イベントでPvPイベントがブッキングするというアクシデント……要するに、やる事が増え過ぎた状態なのだ。
今やグランドクエストはどれをどう指標としてプレイヤー達に示せばいいのか、律達運営スタッフすら一概には言い切れないのだ。
だからこそ、創世が無断で行ったレイドモンスターの性能強化はある意味では渡りに船でもあった。
何せ、レイドモンスターはある種の隠しパラメータとして内蔵された「リミットミッション」を最終フェーズまで進行させた場合、ゲームそのものを終了させかねない危険を保有している。
特に今不味い状態にあるのは旧大陸の「緑」とワールドストーリー第六段階までに倒されなければ「黒」と「赤」、そして新大陸の「黒」「白」「緑」だ。
幸い、ともすれば初心者達が倒せない可能性も十分にあった旧大陸の「青」が撃破された事は朗報といえば朗報だが……プレイヤー達が未だにレイドモンスター達とまともに戦闘すらできておらず、かつ創世が「リミットミッション」を解くつもりが無い以上はレイドモンスターの方から見つけ出されに行くしかない。
「特に白大壁がやべぇんだよ……くっ、気合いで見つけろよユーザー共。年越したら都市から城塞都市になりかねねぇぞアレ……」
創世曰く、リミットミッションが最終フェーズまで到達したとしても「最終防衛ラインがある」と豪語していたが……その内の一つがつい最近大満足の末に討滅されたばかりだ、律の不安は増しこそすれ減る事はない。
「奴の世界だとしても、アタシのゲームだ」
そこだけは絶対に譲らない、たとえ己が巨大な世界を間借りしているアブラムシと呼ばれようとも……この世界を歴史に多少名を残す程度のいちコンテンツのまま終わらせるつもりはない。
「シャングリラ・フロンティアは世界に誇るゲームだ、永遠に愛され続けるコンテンツでなければ……」
今も獄中生活を送っているのだろう、あの忌々しき父親と同じ世界に飛び込んだ意味がない。あの父の「やらかし」によってぐちゃぐちゃにされた若き日の悪夢を、それ以上の「夢」で塗り潰さなければ律の悪魔は永遠に終わらないのだ。
神気取りの創造的管理者の譲歩をロクに引き出せなかった以上、いつも通り知恵を絞って帳尻を合わせるしかない。その気になれば創世一人で運営できるシャングリラ・フロンティアにおいて優秀なスタッフを集めたのはこのためでもあるのだから。
「全員もう起きてるな!? あのバカは二度寝しやがった、楽しい帳尻合わせの時間だ!!」
「天地さん! 見てくださいよこの会心の出来をォ! 今からでも遅くないっスからリヴァイアサンのタイプメン強化プランの中にこの拡張装備データをですね」
「いやいや待ちなさいよ哀川クン! 言っちゃあ悪いがタイプメンの個人保有率はあまりに少な過ぎる! ここはボクがデザインしたこの愛と勇気とほんの少しの羞恥をスパイスにした新規衣装をだね……」
「はぁぁあ!!? 冗談はバターを揚げて食うだけにしてもらえませんかねマッケンジーさんよォ!! 保有率を増やすためにレッドワンちゃんに広告塔になってもらう必要があるんスよ!!」
「ワンオフ単独無双ロボに憧れる気持ちは分かりマスがこちとら全国五千万人の魔法少女を夢見るガール達の期待背負ってるんだよねぇ!!」
「うるせぇ!!!!」
ボヨンボヨン! と鼻息荒く律に迫っていた少々肥満気味な男性二人がキレた律によってその腹をグーで殴り飛ばすものの、悲しいかな打撃力が脂肪の装甲を貫通できなかったため、わずかに腹の肉を揺らすだけに終わった。
「動作チェックは! 変な動きした時にパラメータがバグってねーだろうな!? テクスチャは!!? 問題ねぇならあのバカにメールで送っとけ! 運がよけりゃ晩には返事が来るだろうよ!! 次! 由布院、オルケストラは?」
「いやこりゃ無理っすね、オルケストラに繋げる為の鍵穴が他のサーバー同士で高速キャッチボールされてる気分ですよ。この大電脳時代にこんな物理的な鬼ごっこさせられるセキュリティ貼られるとは思いませんって」
「無理なら無理と簡潔に言え! 昨日から徹夜だろ、しばらく休んどけ」
「うぃーっす……ちと寝てきます」
「四十万! 王国の方はどうなってる?」
「黄金の天秤商会がダンマリ決め込んでるから今のところ均衡取れてますけどこれ、商会が抱えてるリソースがサードレマ側に渡るとワンサイドゲーム確定ですね」
「王国側の素材貯蓄の数値をサイレントで嵩増ししろ、質より量で拮抗させないとPvPが成り立たなくなる」
「あのー、天地さん?」
「なんだ相沢! バグか?!」
「服も着替えてください、匂いは服にも付着するんですから」
そっと服の臭いを嗅いだ律は肉体の方を綺麗にシャワーで流したからこそ分かるなんとも言えない匂いに、そっと肩を落とすのだった。
ケニー・マッケンジー
魔法少女的変身のやべーやつ、背中は露出してもセーフだと思っている。仲のいい女性二人あるいは少女二人の間に挟まろうとする不逞な輩を一撃でぶちのめすべく右ストレートを鍛えている。
哀川 鋼
ロボットのやべーやつ、自爆は今時流行らないと思っているが出力120%は今でも通じると信じている。タイプメンに関する考察論文を創世に叩きつけるという無茶をやらかすもその熱意から首が飛ぶ事なく昇進した。




