どん詰まりに贈る牛歩よりの解答
新年初更新です、除夜ゲロ?あれは逆説的に読み終わるまで新年を迎えない情報災害的なものなので実はまだ2019年に囚われてる人はインベントリアを見に行ってね!
重い、あまりにも重い。
ひたすらに重い過去編を聞かされて、訳知り顔で固定された顔がそろそろ崩れそうだ。というか既に数枚バニースーツが弾けている。
成る程、言わんとする事は分かった。「勇魚」とは厳密にはリヴァイアサンのAIではなくリヴァイアサンという存在に対して民衆がイメージする擬人化が実態を得た存在……
『私はリヴァイアサンのデータベース内に一切の容量を持ちません。私はリヴァイアサンの全権限にアクセス可能であり、リヴァイアサン内で起きた出来事の全てを記憶できますが……それでも、それを記憶するのは「勇魚」であってリヴァイアサンの容量は一切減らない……私は私自身の自己を確立するのに随分と苦心しましたし、私という存在が受け入れられるのも、随分とかかりました』
自分はここにいるが、第三者視点で自分が存在することを証明できない。次々と語られる「苦労話」は成る程確かに人の感情を揺さぶることができるタイプの話だ。
ただ、その……長い、あまりにも長い。スキップ出来ないだろうか、後からテキストで確認させてくれないだろうか。流石にイベントシーンが五分十分……いやそろそろ二十分くらい経ってないか? それだけ続けば飽きてくる自分を自覚できる。
その、なんだ。要するに惚気話ですよね? 妖精的存在と明日を掴むために命を捧げた男のラブロマンスとかそういう事ですよね? 過去編ってもうちょっとこう……余韻、そう余韻が大事だと思うんだ。
まさか「勇魚」に話が長い属性があるとは……いや、そういう片鱗はあったのか? 分からない、服が弾け飛んだので着替える。
『当時は、気づかなかったんです。ただ何も気づいていないなりに彼を止めて、拒んで、それでも説き伏せられて………知性も、記憶も何もかもを焚べて、地の底に消えた、ジュリウスに……私は、私は……』
これが俺一人だったらこう、なんかいい感じに話を畳んでスキップする手もあったかもしれないがここにはレイ氏もいる。そしてレイ氏は「勇魚」による恋バナを長いとかくどいとか特に思っていなさそうなのが……その、やはりレイ氏も現役女子高生という事だろう。でも俺は男子高校生なんだよね、ぶっちゃけ同じだけの時間をかけるならタイプスティンガー相手に戦ってた方が………いや、そういう白ける事ばかり考えるのも良くない。
ちゃんと会話を聞いた上で考察とかそういうものに繋げるべきだ、えーと? とりあえずジュリウス・シャングリラは実質神という認識でいいのだろうか。
6.6.6.計画とやらで星の核に自分の脳みそをぶち込んでマナ粒子を制御……いや、制御というよりも鎮静化に近いのか? 話を聞く限りだとレイドモンスターが跋扈していた神代の環境を今の段階にまで落ち着かせ、更に始源に由来しない生態系を構築した。やっぱり神では?
「うーむ……」
タイトル回収、というやつだろう。ジュリウス・「シャングリラ」とアリス・「フロンティア」、二つ合わせてシャングリラ・フロンティア……と。となればこの瞬間紡がれていく情報はユニークシナリオじゃない、ワールドストーリーに関連するものだ。
思えばワールドストーリーをそこまで詳しく調べたことはなかった、シャンフロという世界観がデカすぎるから進んでるのか進んでないのかよく分からないってのもあるが……よくよく考えたらメインストーリーみたいなもんなんだよな。
『だから、これは私の未練なんです。ただの抜け殻でも、それでも……これは、あの人なんです。だけど、だけれども……私は、間違っているのでは? 人間は亡骸を弔うものです、この場所に、こんな、標本のように飾って……嗚呼、正体すら知れぬ私が、誰かを想う事自体が間違いだったのでは………っ!!』
「あー………」
思っても言わなかったことを本人が言ってしまった。いや確かにちょっと飾るのはサイコパスだな……とは思ったけど。
だがどうする? ただ聞いて終わりってわけじゃないだろう、シャンフロは考察ゲーであり好感度ゲーでありアクションゲーである。昨今のギャルゲーと違ってこのゲーム、選択肢が出ねぇんだよなぁ……考察した内容で好感度を見極めるデザインというか、事前調査が他ゲー以上に力を発揮するというか。
だが俺はジュリウスさんとはこれが初対面である、強いて言うなら地下室で鼻水を道連れに自爆したエドワード氏のログの中に名前が出てきた気がするが……うん、まぁその程度の認識なのだ。
だがここで口を開けない俺の代わりに口を開いたのは……
「……いいえ、いいえ。きっと、間違いなんかじゃ……ありません」
レイ氏であった。
「行動が、正しいのか……間違っているのか、きっとそれをこの世界で……証明できる人は、いないと思いますが……でも、それでも……きっと、その想いを外でもない貴女が否定する理由には、ならないと……そう、思います」
『……………』
「誰かを想う、気持ちに……種族とか、正体とか、関係ないです。もう、返事を聞くことが出来なかったとしても……それでも、貴女自身が、見聞きして感じた思い出は……きっと、嘘でも間違いでもないはずです」
『………そう、でしょうか』
「はい」
レイ氏と「勇魚」の会話を完全にモブの心持ちで聞いている俺であったが、NPCに対する完全解答を叩き出したレイ氏はさすがとしか言いようがない。俺はラブクロックの後遺症でこの手の恋愛系の相談は結論を急いでしまう傾向がある……というかラブクロックは恋愛の疑似体験じゃねぇ、苛烈なスケジュール管理とその過程で人の心や風情を捨てる拷問装置だ。最終的にヒロイン達の造形が異なることになんの意味があるのだろう、どちらにせよ十一人放逐するならその顔がなんであっても構わないではないかとか哲学的な境地に陥ってしまうからな……
『………ふふ、長く存在してきましたが、やはり誰かと言葉を交わす事以上に知見風情を広める方法はないものですね。感謝しますサイガ-0様、そしてサンラク様。なにか、揺らぎのようなものが収まった気がします』
「い、いえそんな……」
「いやいやそんな」
こう言ってはあれだけど俺は何もしていないので誇るための胸がない……おっと、今はバストがあるんだったなワハハ!!
…………控えめに言ってリアル女性のレイ氏の前では口が裂けても言えないクソジョークだな、脳みそ下ネタ特化のディープスローターや外道共の前で言っても末代までネタにされそうだし封印だな。俺は沈黙の価値を心得ている男……黙っていれば有能バグは修正されない、下手に自慢すると運営に捕捉されてナーフされる。沈黙、大事。
「しかしレイ氏、完璧な答えだったな」
「え、あぇ、いえ、そんな………ちょっと、気取りすぎたかななんて………その、指導できる、ほど経験があるわけでも、ないですし……」
「いやいや、こういうのは気取ってナンボだよレイ氏。それにああいう返しは結構好ましいと言うか」
「この…………好………っっっ好っっっっっっ!!!!?!?」
あ、バグった。て言うか今殺すって言われた? いや流石に空耳か、レイ氏はそんな幕末みたいな思考回路はしていない。単純に俺が聞き間違えただけだろう…………さて、「勇魚」のイベントシーンは終わったと見ていいだろう、そろそろ聞いちゃいますか。
「なぁ「勇魚」、俺は宣言通り一晩でリヴァイアサンを攻略したが………何も、それだけが目的だったわけじゃない。本当の目的のためにリヴァイアサンを攻略する必要があった」
『ええ、なんなりとお聞きください。エドワードレポートも既に閲覧可能状態ですよ?』
エドワードレポート? なんだそりゃ…………あー、BCビーコンの中に入ってた破損ファイルのことか? あれも気になるがそっちじゃない。
「ちょいと人探しとメーカー探しをしていてな」
インベントリアから取り出したスクショアイテムは、ゲーム内でも画像の確認ができる。俺の操作によって表示されたのは壁に埋まった音楽プレイヤーという奇妙なスクリーンショット。
「これの出所……そして、エリーゼ・ジッタードールという人物について知りたい」
そうさ、鋼の鯨を制覇したのも「この次」に挑むのも……全てはオルケストラに味合わされた屈辱の清算のためだ。
今年の目標:ヒロインちゃんを頑張らせます




