鯨は謳い、扉を開く
「サンラク! 来るぞレーザーブラスターだ!!」
「よっしゃ来やがれ!!」
タイプスティンガーの右鋏から放たれる人の身体程度なら容易く分断するレーザーの光を冥王の鏡盾の鏡面装甲で受け止める。
「く、ぬぐううううう……!! 【超過機構】!!」
魔力喰らいの鏡が花開き、破壊兵器の光を己が炎へと変換する。
「っしゃあ! 燃えてきたぜ!!」
「いや物理的に燃えてるじゃねェか!!」
『……光った、転移する!』
ウィズダムガード:タイプスティンガーには三つのインベントリアが取り込まれている。それにより、奴はワープ・エスケープを可能としている。
「朱雀」を装備したルストが放った一撃はしかし、命中する直前に異形の機蠍がその姿を消失させたことでそのまま空間を素通りする。そして数秒後、各部位の武装を発動可能状態にしたタイプスティンガーが同じ場所に出現。
だが既に出現地点には武器を振り上げたレイ氏とサバイバアルが立っている……こちとらナーフ後検証まで済ませてんだよお前よかよっぽどインベントリアへの理解は深い!!
「タネが分かれば待ち伏せ余裕だぜぇぇぇぇ!!」
「行きます……!!」
ズガゴォン!!!! と異形の鎧騎士とSTR重点のネカマによる挟撃がタイプスティンガーの左右を撃ち震わせる。これまでの戦いの中ですでに限界を迎えていた左鋏はレイ氏の大剣によって砕かれ、右鋏もまたサバイバアルの攻撃によって煙と火花を散らしている。
「ノックバック取れれば上等!!」
「【クライスタガミー・フリーゼ】!!」
轟音、その音源は明らかに近すぎる距離からスナイパーライフルをぶっ放したヤシロバードからだ。銃全般に言える事だが当たれば対象は衝撃を受ける、スナイパーライフルで頑丈な機械を撃てば尚更にな……!!
両鋏を攻撃され、脚を砕かれ、進退極まったタイプスティンガーはやはりというか当然というか、尻尾のブレードで俺達を薙ぎ払うつもりらしい。
だが尻尾の動きは近距離からの狙撃によってノックバック、さらにモルドが放った氷結の魔法でブレードそのものが凍りついた事で致命的な隙を晒すことになる。
「尻尾は任せろ決めろルスト!」
『……言われずとも』
銕刀【廻渦白波】を構え、雷ではなく風を纏ってタイプスティンガーへと肉薄、空から炎を纏って突っ込んでくる機械の鳥人を音で知覚しつつも目指すは尻尾のただ一点。
己が身を燃やす炎が風の渦と、俺自身の回転で竜巻となって機蠍の背中を踏みつけ踏み越え……ここだっ!!
「晴天流…… 「廻風」!!」
『朱雀、低空でブースト』
廻渦白波の刃が硬い何かに当たった感触は一瞬、それを思考で理解する前に全身にかかった回転エネルギーが刀の動きを阻むそれを力づくで断ち斬る。
居合抜刀の補正も含めて独楽の如く回る身体の勢いをかろうじて着地で殺しながら、振り返ればそこにはタイプスティンガーの背中を溶断した艶羽の朱雀が急上昇していくところだった。
……
…………
「……これだからマルチってやつは」
タフ、あまりにもタフ。その一言に尽きる……。
弱点はあった、決して万能というわけでもなかった。だがタフだった……インベントリアを吸収したせいでこっちの大技に反応して格納空間に逃げるし! チェストリアを吸収したせいで部位破壊しても予備武装で修復されるし! そして何よりアホ二人のイチオシ武器の性能テストでこっちが的にされるし!!
そのくせ六人マルチ用の体力だからまぁクソほどしぶといんだこれが!! そういうのとは無縁だと思ってたシャンフロでMMO特有の大縄跳びをさせられるとはな……
「良かった……サバイバアルに借金までしたのにロストしたら流石に運営にメール爆撃するところだった。おかえりチェストリア……」
「ンなに銃があっても使わねェんだよなあ……おうヤシロバード、追加で借金してみねぇか?」
「………………分割払いでも?」
「俺ぁお前がリアルでも破産するんじゃないかと不安になってきたぜ……」
会社の金に手をつけて逮捕の方がはっきりと形の分かる予想図じゃねーかな。まぁいい、ゲーム内ならガンマニアが何人破産して何人前科持ちになっても問題ない。
「どうだ見たか「勇魚」……王手だ」
『ふふ……喜ばしい事は事実なのに、焦がれていたのも事実なのに、何故だか少し寂しくも感じます。案外「象牙」もマトモな思考回路であんな戯言を言っていたのかもしれませんね……いいえ、彼女としてはこれからが喜びの時かしら?』
「うっすら理解できるが今は目先の欲に注視させてもらうか……」
第四殻層のギミックは攻略され、買い物カゴは五層に密着している。そして第四殻層のボスは打ち倒され、割と奇跡的に全員生還した状態でここにいる。
特に俺とサバイバアルは三回くらい死にかけてたし仮に十発のミサイルがあるとしたら七発はモルドしか狙ってなかった。いや本当モルドはよく生き延びてたな、終盤ルストがヒートアップしてモルドのカバーを打ち切った時は「あ、モルド死んだな」感が全員から放たれていたというのに。
おっと、くだらないことを考えている場合じゃないか。どうやらイベントシーンに入ったらしい。これまで形の違いはあるにせよ視点だけは俺達と同じ高さにいた「勇魚」がふわりと浮かび上がり……俺たちを見下ろして口を開く。
『私から最大の祝福を! サンラク様、サバイバアル様、サイガ-0様、ヤシロバード様、ルスト様、モルド様。貴方達六名は叡智の門を開くに至り、そうしてリヴァイアサンはここに神代の中枢を解き放ちます』
歌うように、踊るように買い物カゴの中を浮遊しながら移動する「勇魚」の手に光が灯る。
『貴方達は何を成しますか? 神代の力は強大です。森を焼き、川を枯らし、湖を埋め、大地を均す。人を殺すなどあまりに容易い……ですがそれすら上等なのです、人が人によって滅びるのであるならば、それはずっとずっと健全です』
光は形を整える、それはこのサイエンスなフューチャーのフィクションには似つかわしくない原始的な施錠を解くための「鍵」だ。
『私は「勇魚」、されど私は「勇魚」、人に寄り添いしかし人にはなれない機巧の獣……生まず、育まず、それでもせめて教え導く事はできたでしょうか?』
ガゴン、と地面が揺れ動く。いいや違う……動いているのは第五殻層の外壁だ、そしてさらに補足するなら壁じゃない、開閉し、施錠されるソレはまさしく……
『扉を開きましょう。叡智とは過去より積み重ねられ、現在に積み上げ、そして未来に果てを見る人類の歩みそのものなのです───』
光が、床から漏れ出して………!!
『アンバージャックパス:レベル4を取得しました』
『称号【Re:前人未踏】を獲得しました』
『称号【勇魚駆け】を獲得しました』
『称号【真実に触れる手】を獲得しました』
『第四殻層統括試練対象撃破報酬として「新正規量産品BWビーコン」を獲得しました』
『グランドクエストが進行しました』
称号【Re:前人未踏】
かつての人類が作り上げた叡智の鯨を最初に制覇した者に与えられる称号。それは数多の足が踏んできた地、されど初めて踏みしめられた地。
称号【勇魚駆け】
B-2リヴァイアサンの第五殻層に辿り着いた者に与えられる称号。星泳ぐ鯨を制覇する、それはかつて星の海すらをも航海した者達の影を見たようで───
称号【真実に触れる手】
「勇魚」の好感度を最大にした状態で第五殻層に入場すると自動取得される称号(複数人のパーティの場合は一人でも好感度最大のプレイヤーがいれば他のプレイヤーも取得可能)
「勇魚」は嘘をつかない。ただ彼女とて乙女なのだ、隠したい秘密くらいはある。
それはたった一度の恋と、今なお色褪せない愛。




