くるり廻れば国喰らう
何、簡単な話だったのだ。誰も彼もが、【ライブラリ】すらもがこんなクソ簡単な事実を失念していた。
冥響のオルケストラは確かに謎多きユニークモンスターであるが、その本質は音楽プレーヤーだ。ユニークシナリオEXの性質上、その存在のバックボーンを探る事は基礎も基礎。であれば何度挑んだってヒントは増えない、リヴァイアサン……いや、あそこにいるであろう「奴」の可能性もあるか?
ルーツを辿るのだ、あの音楽プレーヤーがどこに行くのかではなくどこから来たのか、そこに攻略のヒントがあるんじゃないのか?
「エリーゼ・ジッタードールというヒントもあるしな……」
聞けばリヴァイアサンは第三殻層にとんでもない規模のアミューズメントパークを作っているらしく、単純にそこが楽しすぎるのもあるが未だに第四殻層へと進んだ者はいないという……いいね、オルケストラの攻略以外にも目指すべき目標があるってのは悪かない。
そんなわけで暇してたサバイバアルを誘ってリヴァイアサンの攻略に挑まんとする俺は今……
「なんか随分と久しぶりな気がする」
ラビッツに来ていた。
"戦災孤児"の素材で生産強化するつもりなのもあるが、それとは別件でエムルを経由してビィラックから呼び出されたのだ。何でも「例の物」が届いたとか何とか、はて何のことだったか……
そんな風に首を傾げながらビィラックの工房で俺が見たのは、時代錯誤が過ぎるチンピラ兎と、そいつに睨まれてビクビクと震える二足歩行の三毛猫……あぁそれか、思い出した。窃盗問題とかあったなすっかり忘れていた。
「完成したんだって?」
「は、はひぃ。こ、このダルニャータめの全身全霊を込めまして作り上げました、「兇嵐帝証・極」に御座いま、す……」
恭しく差し出された箱を開けば、そこには何やら奇妙な物が収められていた。なんというか……歯車と車輪と風車を足して3で割ってそのどれとも似なくなったモノ、というかなんというか。
少なくともこの段階で分かるのはこれがアクセサリーであるということと、二つで一組のアクセサリーということくらいか。とりあえずテキストを読んでみるか、フレーバーもそうだが性能が気になるところだし……な。
・兇嵐帝痕・極
神ならざれど、祀られ、その身を顕現させし霊帝の断片。
装備状態で一定以上の速度を出すことで琥珀に封じられた効果が発動する。
「密封の琥珀」シリーズは琥珀の中に封じ込められた属性の他に封じ込められた物の危険度でクラス分けがされる。クラスは「雑」「密」「純」「災」「極」の五つに分けられ、その中でも「極」級は雑味無く、過密であり、純粋で、災禍の言葉ですら不足する究極の凝固である。
名を刻み、肉を授け、命に貶める。故にこそ彼の一閃は森羅万象、真理を分別つ。
※特殊状態「殲嵐のメビウス」……状態付与時、対象者の歩行、走行、ジャンプなどのモーションの際に踏み出した足に対応して特殊な加速が発生する。
さらに追加効果として常に対象者を中心として走行中はノックバックの発生する風を纏う。
分かったような分からないような、つまり使ってみろということだろう。というわけで実際にやってみた。
アクセサリースロットに装備した兇嵐帝痕・極は左右の腰のあたりに一つずつ浮遊しており、指でつつくと僅かな反発を感じた。
「円形コロシアムだから微妙に加速が難易度高いが……よしっ」
封雷の撃鉄・災を発動、各種スキルでステータスを上げて……ゴー!!
円形のコロシアムをサーキットに見立てて駆け出す、速度を上げて上げて上げて……腰付近で浮く二つの輪が速度に比例して回転率を上げていくのが分かる、そして!!
「ほはっ?」
右足で前に踏み込んだ瞬間、ぎょるんと世界が一瞬で横線の積み重ねだけになった。いや違うこれ頭おかしいくらいの反時計周りの回転が……!?
あまりに速過ぎて逆に転ばない、という奇妙な状態で独楽のような状態になっているがいつまでも続くはずがない。ここはまずバランスを………
「はごっ!?」
そう考えて左足で地面を蹴った瞬間、信じ難いがそれまでの物理演算を全て無視して時計回りの超回転が俺の全身をぶっとばした。今度こそバランスを崩した俺はべぢぃーーーーーん!!!! と雑巾を渾身の力で壁に叩きつけたような音と共に暗転………
「サ、サンラクサン……?」
「あー、うん。原因は分かった」
不意打ちだったのもあるし慣れてないのもあったが、どうやらこのアクセサリー……加速がオートで付与されるんだな、俺自身の意思で作った加速じゃなくて俺の意思とは別枠の加速だから過剰伝達状態との相性が悪い意味で最高すぎるのか。
この加速、条件を達成した時点で前に足を出しただけで身体に独楽のような回転を伴う推進力が発生する。そして過剰伝達は肉体の動きに対してそれを増大させるわけで、回転エネルギーに対応しようと体を動かせば……
「こいつと組み合わせて使うと今の俺じゃ間違いなく死ぬ」
少なくとも壁や広さに限界がある空間じゃ確実に制御できない。とはいえこの恐るべきアクセサリーが無駄無能というわけじゃあない、そこだけは断言できる。
「だってそうでしょう兄貴、わざわざ見に来たくらいなんですから」
「おうともよぅ、そいつを使い熟すなぁ難儀するだろうがなぁ……」
「オヤジぃ!!」
チンピラ兎が驚きの声を上げる、まぁ俺も余裕綽綽に見せつつも内心ではいつヴァッシュが現れたのか全く分からなかったので似たようなものだが。
「血肉を使い熟す、それ即ち血肉をよう……己がモノにしたってことだぁな。サンラクよう、俺等ぁが出した課題はよう……覚えてんだろうなぁ?」
「晴天流の熟達で、ご助力頂ける……でしたか」
「いんや? 俺等ぁよう、確かにこう言ったぜぇ……力を貸すってよう」
ひゅるり、と肌が切れたと錯覚するような冷たい風が吹いた。いいや違う、ヴァッシュが取り出した「それ」が放つ威圧感がそう錯覚させるほどの代物だったのだ。
「オヤジ、ま、まさか、それは……」
「オヤジぃ!! まさかそれをコイツに貸すってのか!?」
ビィラックとイーヴェルの反応が尋常ではない、さもあらんと納得はできるがそれほどの物なのか。
「あいつらがそこまで無茶ぁ通すんならよう、一時振らせんのも悪かぁねぇ……まぁ持ってみなぁ」
「え、いや……ウッス」
事情を理解できていないエムルと早々に気絶してひっくり返ったダルニャータを除き、残る三匹の兎達からそれぞれ違う視線を向けられつつも俺はヴァッシュから差し出されたそれ……この俺の身長に匹敵するほどに長大な、それでいて素直にそうと認めるにはあまりに異形の「大太刀」を受け取る。
「重い……それに、抜けない?」
「そらぁそうよ、そいつぁかつて己が身一つで覇たらんとした国喰らいの兇らう嵐……故も知らねぇ人間に抜かせるほど安かぁねぇ」
あーね、資格がいる系ですね分かる分かる………ねぇこれ大丈夫? カテゴリ的にはレイ氏の剣とか勇者武器と同じカテゴリじゃないの? そんな靴べらとか孫の手みたいな気軽さで貸していいものじゃなくない?
「ま、くすねようなんて不義理はしねぇと信じているがぁなぁ……今のままじゃあよう、ただ見てるだけになっちまうぜぇ?」
くかか、と笑うヴァッシュだけが自然体な笑顔だ。俺の笑顔は引きつっているし、ビィラックの笑顔は気持ち悪いし、イーヴェルの笑顔は怒りを隠すためのそれだ。思えば兎の表情に随分と詳しくなったもので……
「ビ、ビィラック、練習用の刀とか打ってもらえる? 約束があるんで昼までに」
「………」
無言、無言でじぃぃ………っと大太刀を凝視しているビィラックであったが、頷きを返したのでOKということらしい。そして射殺さんばかりの眼差しで俺を睨みつけるイーヴェルに対しての返答は色々考えたがやっぱこうじゃないとな。
「おいチンピラ」
「あ゛?」
「すごく優越感(指差しながら)」
「表出ろやコ゛ラ゛ァアッ!!!!」
◆
「おうサンラク待たせたな……って、男に戻ってるじゃねぇかどっかで死んだのか?」
「いやちょっと不慮の事故で壁のシミに……」
「あん……?」
あの後もイーヴェルと殴り合いになったりビィラックが無言で気持ち悪かったりしたがなんとか待ち合わせには間に合った。
どうやら「ガチ」の装備で固めてきたらしいサバイバアルの疑問に適当に答えつつ見上げれば、そこにはリヴァイアサンの巨大な「頭」が。
「いや、気にしなくていい。サバイバアルお前も一層はクリアしてるんだよな?」
「ん? おう、仇討人関連で忙しかったから二層はロクに攻略しちゃいねぇがな」
「俺も似たようなもんだよ……っし、行くか」
いざリヴァイアサン、小手調べに第二殻層だ。
第三者視点から見るといきなりゴーシュートしたサンラクが回転しながら壁に激突して弾き飛ばされ、いきなり逆回転になってすっ転んだそのままゴロゴロ転がりながら床と壁に跡を残して死んだ
ヴァッシュが渡してきた大太刀は分かる人なら分かるアレ、具体的にはTwitterでゲロったけどどちらにせよ後々明らかになるから見逃して
なんか鞘がキュビズムみたいなエグい形になってる




