地底の神と不世出の蛹
シャンフロに帰ってきたぜ……ぬるりとな
深淵のクターニッドはそう、例えるなら複数ある鍵付き引き出しの最初の一段だけが開いているような状態だった。その中を覗き込めば中に入っているものは分かるが全貌を知ることはできない………最初からウェザエモンを倒す、ただそれだけが提示されていた墓守のウェザエモンと同じタイプだと思っていた冥響のオルケストラはその実クターニッドと同じタイプだったわけだ。
全ての引き出しを開かなければ完全攻略には至らない、鍵を見つけて施錠された二段目以降を開かなければならなかったのだ。
「簡単な事実だ、とても、あまりにも簡単過ぎる事実だったんだエムル」
「は、はいな?」
「オルケストラの真実がなんにせよ、その正体は音楽プレーヤーだ。曲が入ってるって事は当然使ってた奴がいる、持ち主がいたって事だ」
ユニークシナリオの基本は奴ら自身のルーツを明らかにする事だ。ウェザエモンであれば遠き日のセツナの祈りを聞き、クターニッドであれば亡国の女王が遺した手記を読み、ジークヴルムであれば当事者の叫びを聞き届ける。
じゃあオルケストラは? 征服人形はブラフだ、落とし物を拾った奴らに何が分かる? せいぜい見た目と中に入ってる曲の解説くらいしか出来ないだろうよ。
「じゃあどうすればいいと思うインテリジェンス」
「推察:……当機等以上の情報蓄積量を誇るデータベースへのアクセス」
「ナイスインテリジェンス! 10ポイントやろう、100ポイント貯まったらパーフェクト・ジーニストを名乗っていいぞ」
「言質:取りました」
都合が悪くなったらしらばっくれるから大丈夫! お前の記憶容量バグってね? ってな!!
脳から放たれた電光の如き閃きは脳が動かす電脳のアバターにも影響を与えるらしい。【ライブラリ】に祭の告知をした後、一秒すら立ち止まるのが惜しいとばかりに早足で質問の嵐を振り切った俺は行動に移る前にすっぽかした十日分のブランクを埋めるべく先ずは戦場のど真ん中に作った隠れ家に匿っているドヘタレユニークモンスターの元へと向かう。
「ようウィンプ! 生きてるか? 餓死してないよな?」
「やぁぁぁぁっときたぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「うおっ」
土の塊が突っ込んできた!? いや違う、土の塊のように汚いがよく見てみれば土の塊はあんなヘタれた涙目を浮かばない。土汚れに塗れたウィンプであった。
「いやどうした、サミーちゃんさんは?」
「サミーちゃんならあそこ! それよりもたいへんなのよ!」
ドヘタレとはいえパワーレベリングでそれなりにイキってきたウィンプをこうもヘタれさせるとは……何が起きた? まさか1LDK以下のクソ狭住居に耐えられなくなった蠍が地下を掘ってきたとか?
だが俺の予想は半分当たりで半分外れ、といったところであった。簡単に言えば地下を掘ったのは合っていたが下手人はウィンプであったし、見つけられたのはウィンプではなかったのだ。
「こ、これぇ……あたしてきに、すごくかかわりたくないというか」
「うーん、俺もあんまり関わりたくなーい」
「サ、サンラクサン、こ、ここっ、これって……」
「解析:超高密度に圧縮された始源性物質。眷属種とは異なる成分の混沌性は……オリジンかと」
超銀河枝毛じゃねぇか……いや、ヴァッシュからネタを聞いてたこともあるし、この大陸のど真ん中ということは背中のど真ん中って事だ。見つかってもおかしくはなかったが……
「……サイナ、仮にこいつをへし折ったとしてエレボスが覚醒する可能性は?」
「……契約者の正気を疑う発言ではありますがおそらくは問題無いかと。この程度の欠損で目覚めるようならそもそも次世代原始人類は現段階まで定着していないでしょう」
成る程。
「じゃあ掘るか」
ツルハシを取り出して振りかぶった俺の姿をウィンプとエムルが正気か!? と見つめてくるが俺は至って大真面目、貪る大赤依と戦った時になんやかんやで調べ損ねた分をここで取り戻す! はーいマイニーン!!
ガヅィーン!!
「……くぉぉぉぉぉ」
硬い……ものすごく、硬い……! いやマジか、剛掘の鶴嘴に使ってる素材は最上級だぞ? それを以てしても弾かれるとくるか。
「だがめげない! しょげない! 掘らずにはいられない!!!」
連打! 連打っっ! ツルハシの耐久が削り切られるギリギリまで叩きつける!!
だが削れない、アイテムの一つも落ちやしない。これはダメかと諦めの境地で耐久的に最後の一振りを叩きつけたその瞬間───
「お」
「あ」
「んぃ?」
ぽこり、とその硬さを身をもって体感したからこそ恐ろしいくらいあっさりと転げ落ちた枝毛の欠片にこの場にいる全員が視線を奪われる。
「お、おお……こんだけ掘って泥1とか確率腐りきってるけど逆に言えば一個は出たわけか……」
「も、もうさいせいしてる……」
この程度の角質、ダメージですらないってか?伊達にゲームオーバー級のサイズしてないってわけかよ。だが貰い受けたぜゲームオーバー級モンスターのアイテム、さーてフレーバーを拝見っと……
・始源黒片エレボセル
黒く、黒く、暗闇は万象を内包する。
暗闇を恐るることなかれ、混沌に身を委ねよ。
白は隷属を説くが黒は一体化を説く、大いなる闇の渦こそが安寧の終着点である。
黒い神の細胞は始源眷属の性質を昂め、濁り深まる五色はより神に近しい証となる。
貫禄のオールフレーバーテキストだよこの野郎、ロクでもない事しか書いてないのに役に立たないわけじゃなさそうなのが厄介だ。
「ど、どうするんですわそれ……」
「見なかった事にするかぁ」
「雑に片付けたですわ!?」
流石に今始源関連に首突っ込み始めると「祭」に間に合わなくなるかもしれないからな、枝毛のキューティクル削ったくらいなんだから放置しても大丈夫だろう。どちらにせよツルハシが限界だからこれ以上の鑑賞も難しいし。
「さて、厄ネタは埋めるに限る。土に埋めて全部無かった事に……」
「まだあるわよやばいのが」
……えぇ?
これからカチコミだってのになんだって隠れ家の大掃除ばかり……と思わなくもないが、放置するわけにもいかない。ていうかなんでこんな本格的に地面掘り起こしてるんだ、って話なのだが。
「ひまだから」
の一言がいっそのこと清々しかった。娯楽が料理しかないからな……あまりに暇だと地面に穴掘りたくなるよね……こう、枝とか拾ってぐりぐりとな。いやそんな理由で化石発掘並の大穴開けるなや。
「いやこれに匹敵する厄ネタとか何があるんだよ……」
ぱきり。
「……ぱきり?」
「サイナ、顔面割れた?」
「理解:脳に甚大なダメージ」
サイナじゃないなら一体……
「サンラクサンっ! あれですわっ!!」
「何が……んん!?」
恐らくウィンプが途中で発掘を止めたのだろう。
形状的に全体の半分程度まで露出したそれの一部が、陶磁器のように割れて地面に落ちていた。
「おまっ、何掘り当てた!?」
「だからやばいっていったでしょ! あれ、いきてる!!」
ぎゃいぎゃいと叫ぶ視線の先、恐らく埋まっている部分も含めれば5メートルはあろう巨大な「蛹」が羽化しようとしていた……!!
この蛹、実は旧大陸にもいる。




