傭兵稼業は金と義理
次で終わらせる!(素振り)次で終わらせる!(素振り)
そのヘルメットに今尚人類の繁栄に最も貢献するエネルギーを流した時、脳が広がるような感覚を得た。
わずかに目眩のような瞬間的暗転が二度、そうして視界が安定した時には既に世界は拡張されていた。
お前はただものを見ているだけで、ものを理解してなどいない。そう説破されたかのように目でものを見る以上の情報が流れ、浮かび、消えて……なんだか自分がとても賢くなったような気さえしてくる。
だがきっとそれは錯覚、幻とすら呼ばない勘違いだ。だがそれでもこのMR対応フルフェイスヘルメットが俺の世界を広げたのは事実であり───
「はっ!?」
な、何か今ヤバい電波を受信していた気がするぞ……や、やはりこのヘルメット、単純な科学では説明しきれない類の何かが宿っているのでは……くっ、だがしかしわざわざ玲さんの時間を幾分か貰ってまで揃えたオール・バドゥガモスの読み込みができるのはARに対応したこの曰く付きのカボチャヘルメットだけなのだ。
「四のバドゥガモス……揃えて読み込ませると何かが起きる」
そしてその情報は、この戦いにおいてきっと勝利を塞ぐ扉を開く鍵になる……そんな気がしてならないんだ………
まぁ本音を言うと今のうちにやっておかないと確実に忘れる、という直感があるからだ。相対するはクソ高いプラネタリウムマシンを持ってそうなブルジョワガチ勢、いざという時はこれを盾に………
◆
唐突な離反、唐突な裏切り。呆然の感情から一番最初に抜け出したのはGカップムネ肉氏だった。
「………それが嘘ではない、と信じるにはこの状況は少し演劇のように過ぎると思わないかな?」
「劇的な展開はお嫌いで? 最高のタイミングで最大の成果を出してこそ売りになるかと思ったんだけどな」
くるくると手の中で回していた拳銃を床に投げ捨て、手の中に何も入ってないゼスチャーを行いながら一歩前に進む。
「いや、やはり信用ならないな。サンクチュアリを貫通できるだけの爆弾を抱えているとも限らない、話すならそこで、だ」
「おー、流石の警戒心だ。ならこうすればどうだろう?」
二歩後退し、インベントリから出したアイテムをわざとらしく見せつけてからスイッチをぐむ、と押し込む。
『………っな!? 艦内から爆発だと!?』
これまで黙り込んでいた愛板氏が驚愕の声を通信越しに上がる。Gカップムネ肉氏もコンソールか何かをいじって確認しているようだが、ゲームがバグっていなければ愛板氏の三番艦が土手っ腹から盛大に爆煙を吐き出しているのが見えるだろう。
「悪いね愛板氏、でもいきなり都合よく決起集会に紛れ込むなんて偶然……あるわけないだろ?」
『まさか自艦を………くっ、出力が落ちて砲が使えん……謀ったか!』
「………成る程、獅子身中の虫と。だが解せないね、今ここまで来て裏切る理由は? このまま私を倒せば然るべき報酬が得られたはずだ」
腹の内から爆炎を食らったグレートウォールはそう長くはない、それを為した俺に対してGカップムネ肉氏の警戒がほんの僅かだが緩められる。何をするかよりも、何故そうしたのかが気になったということだろう。
「ま、簡単に言えば伝手と報酬……訳あって重課金プレイヤーの支援が欲しくてね」
「ふぅむ? だがそれはそこの愛板でもいいはずだ」
「ネタがネタでね、強力でも孤立してる愛板氏じゃ足りないと考えての今回の行動なわけで……見せたほうが早いかな」
ええと確か、読み込んだ時点でセーブデータにアイテムとして追加されてるんだっけか……あれ、てっきりインベントリの一番下かと思ったんだが、あれぇ? あぁ、あったわ。完全に別枠として収納されてた訳な。
「なにぶん個人で抱えるにはデカすぎる特ダネだ……Gカップムネ肉氏、伝手のあるアンタならこれの攻略にも人を集められるんじゃないか?」
「それは………」
「超文明自律構築金属制びょっ………」
沈黙。思わず笑いそうになった口の端を必死に押さえ込みながら一つ咳をして訂正。
「んん゛っ、失礼。超文明自律構築金属制御端末……これはとある生物に対して特定の信号を送ることでその本来の役割を果たさせる端末だ」
「超文明…………まさか」
「そうその通り、話が早くて助かる………手に入れたんですよ俺は、幻のダイヤモンドバドゥガモス君人形をね………っ!!」
今度こそGカップムネ肉氏の警戒がそれ以上の驚愕によって塗り潰された。バドゥガモス・クエスト、それは愛板氏やGカップムネ肉氏すらをもひよっこ扱いできるギャラトラの最上位プレイヤー……老い先短いから愛板氏達すらちょっと引くレベルで課金し、VRマシンに横たわった状態の死体が見つかっても構わないと言わんばかりの廃人ログイン率を誇るエルダープレイヤー達すら完全攻略できていない………それどころか攻略のための門の鍵すら見つけられていないのが現状の中で、突然降って湧いた俺という「鍵」の存在。
「流石にあんたらみたいな重課金と張り合うわけじゃないが、伝手は多いほうがいいってことだ」
「確かに愛板はこっちじゃ敵に回してる奴が多い。より多くの支援を得るならこちらに頼る、というのも一理あるか」
「クラウドファンディングじゃないけどな」
愛板氏だけをパトロンにするのではなく、Gカップムネ肉氏にあえて敵として「性能」を見せた上でその伝手と被害状況というこれ以上なくわかりやすい性能成果で自分を売り込む。俺の作戦を読み取ったらしいGカップムネ肉氏はようやく俺の行動に合点がいったのか、腰掛けていた椅子から立ち上がった。
「くくく、個人主義が仇になったな愛板………地球から再出発するときには友達を作ることから始めたらどうかな?」
『…………言ってくれるじゃないか』
「グレートウォールが行動不能になった時点で勝負は決まったようなもの、最早降伏勧告は出さない………そのまま宇宙の塵となれ」
『…………』
「そして…………ええと?」
「サンラクです」
「ふむ、サンラク君。バドゥガモスを揃えるのはてっきり彼らだろうと思っていたところに君という存在が転がり込んできたのはなんの偶然か………だが、自己PRは気に入った。双丘の大艦隊は君に協力しようじゃないか」
「………では」
「ああ、この戦いの勝利を持って我々はバドゥガモスの謎に挑む…………そういうことだ」
立ち上がり、俺の前まで歩いてきたGカップムネ肉氏が俺に手を差し出してくる…………何もかもが俺の計画通りだ、俺は勝利の確信と共に口を開く。
「時にGカップムネ肉氏」
「なにかな?」
「傭兵稼業で大事なことってなんだと思いますか?」
「そう、だな…………勝ち馬に乗ること、かな?」
いいや?
「金と義理ですよ」
発砲音。
「な………ぁ………!!?」
「ここで一言どうぞ」
『ふっ………ふくくくくっ、いやぁすまんね。ドッキリ大成功だ』
銃弾は直線にしか動けない………それが普通、それが大前提。だがその銃から放たれた弾丸は内蔵されたセンサーとフレキシブルヴァレルシステムによって必ず眉間に命中させるために弧を描く。
代償は必然の不殺。十発撃ち込もうが百発撃ち込もうがHPを1以下にすることができないという究極の峰打ち、永遠に描かれることのない龍の眼。
俺の肩を避けるように弧を描いてGカップムネ肉氏の眉間に弾丸がめり込み、その身体が大きく吹き飛ばされる。サムズアップしながら振り返れば、そこにはヘルメットに三発分の穴を作りながらも問題なく立ち上がる大蛇の姿があった。
・ブラインドドラゴン
盲目の龍、画竜不点睛、要するに峰打ちスマートピストル
銃に内蔵されたセンサーと特殊な可変ライフリングによって確実に対象の頭に相当する部位に弾丸を飛ばすことができる。ただし弾丸側も専用の加工が必要なため威力が極端に弱いというデメリットがあり、ゲーム的には「確定でヘッドショットになるがどれだけ命中させてもHPを1以下にできない」ものになっている。
ぶっちゃけコレクション以上の価値はないはずだが、今回は愛板氏主導のドッキリ大作戦においてノリノリで協力したサンラクによってフレンドリーファイアの偽装として用いられた
ちなみにパイソンが普通の銃ではなくこれを使ったのは死を偽装するためにウィンドウを操作できなかったことと、確実に外さずヘッドショットして怯ませるため。ちなみにギャラトラでは地面に「落とした(落としてしまった、ではなく)」時点で所有権を一時的に放棄できる




