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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

此岸より愛を込めて花束を

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刹那に想いを込めて 其の五

 「真化」とは
 極めて優れた名匠ともなれば、ただ優れた武器を製作するだけではない。ただより優れた武器に強化するだけでもない。武器に宿る経験(・・)を読み取り、より相応しい形へと……即ち「真なる姿」へと変える技術である。

 微妙に公用語が混ざったなんちゃって広島弁のビィラックの言葉をまとめると、大体そういうことらしかった。

「ヴォーパル……「致命(ヴォーパル)」を冠する武器は、強者への挑戦をこそ記憶するけん。ワリャが今まで戦こうてきた記憶と、ワリャがオヤジに渡した強者のカケラを混ぜぇその形を変えるんじゃ」

「ふぅん……」

 ヴァッシュが金槌を致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)に叩きつけるたびに、火花と同時に魔法陣が浮かび上がる。それは吸い寄せられるように致命の包丁へと吸い込まれていき、そしてまた新たな魔法陣が火花と共に生じる。

「……い夜空に……の炎……」

「え?なん……おぐふぅ?!」

「サンラクサン!静かにす……きゃひう!?」

 え? なんて言った?
 そう問おうとした俺の口は、脛に兎の脚力でローキックを食らうという実に脳筋(ダイレクト)な手法によって強制的に中断される。
 おま……NPCが自発的にダメージ与えるのは……おま……っ!
 思わず振り向けば、そこには兎というウサギ目ウサギ科の植物食という草食系生物であるにもかかわらず、ブラックパンサーもかくやと言った威圧を放つビィラックの姿が。
 頭を抑えて無言の悶絶をするエムルをバックに、肉食獣じみた威圧感を漂わせながらビィラックはただ一言。

「謹聴。」

「いや、おまえ……」

謹聴(謹んで聞け)。」

「「……はい。」」

 漫才じみたやり取りなど聞こえていないかのように、ヴァッシュは金槌を振り続ける。騒音(俺とエムル)が静かになったことで、ヴァッシュの口から漏れ出すそれが歌であると気づく。




「昏い夜空に、炉の炎。

火花は生まれ、闇が舐め取る。

踊る金槌、歌う鉄。

トンカラカンと、コンキンカン。

お前は刃、お前は力。

土より出でて、木を焚べ、火を育み、金を鍛えて、水にて冷やす。

世界は巡り、しかして停滞(とま)る。

金より鉄を、鉄より鋼を、鋼より刃を、刃より剣を。

明ける夜空に、剣の輝き。

光を映し、闇を切り裂く。

踊る剣に、歌えや世界…………」




 …………なるほど、CVが極道の親分みたいな渋い声じゃなくて、顔面触手宇宙生命体みたいなロリボイスであれば、一曲300円くらいで売れそうだが、いかんせん短すぎるしボイスが親分系だし……いや、岩巻さんが去年くらいだったか、極道の女がテーマの乙女ゲーをクリアして暫く雰囲気が劇画調になってたっけ。つまり親分系ボイスでもきっとどこかに需要があるということで……要するに俺は今にも泣き出さんばかりの勢いで震えるビィラック程の感動は感じなかった、ということだ。


「で、説明とかもらえると嬉しいんだが(小声)」

「あれはおとー…カシラの「鉄打ち唄」ですわ、ビィねーちゃんはあの歌が大好きなんですわ(小声)」

 AtoZ全ての兎の好感度管理の必要性、という恐ろしい単語が頭を()ぎったのを頭を振って振り払う。流石に八方美人ならぬ二十六+一で二十七方美人のギャルゲーはつらい。
 十二人同時なら経験はあるが、あれはちょっともう、本当に思い出したくない。乱数調整を含んだ秒単位スケジュール、ひたすらストップウォッチで一秒ジャストを狙い続けるような苦行……RTAでもないのにBGMのどのタイミングで話しかけるかなどの綿密なチャートを作り、コンマ一秒のズレでイベントの発生に失敗してそれを起点にドミノが如くヒロイン達の好感度が下がっていく……み、脈拍が不安定になる。

「か、顔色が悪いですわ? 大丈夫ですわ!?」

「大丈夫……ただ、ちょっとランチでイタリアンを選んだら巡り巡って何故か全員イタリアに留学してバッドエンドになったのを思い出しただけで……」

 意味分からなすぎて数分動けなかったからな、生徒会長も風紀委員長も運動部のエースも不良も全員イタリアにピザ修行留学ってどういうことなんだよ、学園とイタリアにどんだけ太い繋がりがあるんだよ、そら公式SNSも派手に炎上しますわ。
 なんであれピザに関係する選択肢を選んだ瞬間にピザルートに直行する十二人のヒロインを相手にひたすら乱数調整する目押しスケジュールゲーム「ラブ・クロック」……うう、頭が。

「おう、出来たぜ」

「え? あ、出来た!? オッケオッケ、それはなにより!」

 脳内に染み出したフェアクソとはまた別方向でトラウマとなった記憶を目の前の情報で洗い流し、ヴァッシュの方へと向き直る。

「そうだぁな……致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)はここに真なる名ぁと姿を得た。その名も兎月【上弦】、そして兎月【下弦】だ」

「おぉ……!」

 調理器具を武器として使う、というギャップから放たれるホラーは何処へやら、ヴァッシュが俺へと手渡したそれは完全に調理器具から武器(・・)へとその姿を変えていた。
 食材を切ることに適した刃の形状は敵を斬ることに特化した姿へと変化し、殆ど同じ形状をしている【上弦】と【下弦】ではあるが、下弦の方はどうも上弦とは違って逆手持ちのようだ。

「武器としての形ごと変わっちまうのは久しぶりだぁ」

「形ごと?」

「こいつらぁよう、二つで一つの刃。両方揃ってぇ初めて意味を成す……「対刃剣」ってやつよ」

「対刃剣……」

 少なくとも今現在の俺の攻略度合いでは聞いたことのない名前だ。

「サンラクサンが前に欲しいって言ってた合体する剣ですわ」

「マジですわ!?」

「真似っこー!!」

 なんたる偶然、まさに僥倖。あれだろうか、無意識的にあの合体ハサミ双剣欲しいなぁ欲しいなぁと考えていたのが致命の包丁に染み付いていたのだろうか? ともかく俺は念願の合体双剣、もとい対刃剣を手に入れ…………ちょっと待て。
 今、俺の記憶の片隅で何かが語りかけてきたぞ。何か忘れてないかって…………





「サンラクサンは好奇心旺盛なんですわなぁ、アレは相当技量が無いと扱えないんですわ。」

「マジかよ技量戦士になります。」



「アレは相当技量が無いと扱えないんですわ。」



「技量が無いと扱えないんですわ。」






 震える手で、受け取った兎月の上・下弦をインベントリに入れて、説明欄を読む。





兎月【上弦】
対刃剣
対となる刃の名は下弦、空に浮かぶ上弦三日月の刃を持つ剣。致命兎の魔法が込められたそれは、真の姿を未だ叢雲に隠している。

・自身よりレベルの高い相手と戦闘する場合、クリティカル攻撃に成功するとHPを減少させる代わりに次の攻撃の威力に補正がかかる。
・一定回数クリティカル攻撃を当てることで合体ゲージが蓄積される。
・必要ステータス「STR40」「DEX50」「TEC55」



兎月【下弦】
対刃剣
対となる刃の名は上弦、空に浮かぶ下弦三日月の刃を持つ剣。致命兎の魔法が込められたそれは、真の姿を未だ叢雲に隠している。

・自身よりレベルの高い相手と戦闘する場合、クリティカル攻撃に成功するとHPが回復する。
・一定回数クリティカル攻撃を当てることで合体ゲージが蓄積される。
・必要ステータス「STR40」「DEX50」「TEC55」



 オチツケ……落ち着け、簡単な算数の問題だ。別に世界の真理に挑むような数式を解けってわけじゃあない。
 ええと、必要ステータスの合計が145で? 今の俺の該当ステータスの合計が52で? 引くことの93で? 1レベル上がるごとに5ポイントだから5で割って大体19レベル分の…………うん、丁度レベル50まで上げれば装備できるな。

「ノォォォォ………ッ!」

「サ、サンラクサーーーン!」

 まさかのステータス制限という伏兵に、俺は呻き声と共に膝をつくのだった。











 あれ程苦心して脱出したサードレマへ戻る、というのは少なからず複雑な感情を抱かずにはいられなかったが、カッツォの奴がようやくサードレマに到着したばかりである、という理由からシャンフロでの待ち合わせはこの大都市になってしまった。
 再びサードレマで未確認生物騒ぎを起こしても面倒なので最短コースを最速で走り抜けて今現在、俺はサードレマの裏通りにひっそりと開店しているペンシルゴンオススメのNPCカフェ「蛇の林檎」の中で、ニッコニコのペンシルゴンと相対していた。

「さてリアルじゃ間違いなく110番待ったなしのサンラク君、その変態的ファッションもさることながら三時間近く待ち合わせをすっぽ抜かした事について何か言い残すことは?」

「こっちのユニークでウェザエモンについての言及が」

「よし許す」

 解決!
 本当は別件で少し作業していたのだが、説明するのも面倒なのでユニークシナリオで一括纏めで説明する。

「いいなーユニークいいなー」

「やーい羨ましかろう……おいバカフォークはやめろフォークは!」

 VIT一桁になんてことしやがる、下手すりゃ致命傷だぞ。とはいえ少し大人気ない煽り方だったかもしれない、次はもっと奥ゆかしく煽ってやろう。
 明らかに喉を狙う気満々だったフォークを引っ込めて、ライトアーマーを着込んだモドルカッツォは味が薄いだろうにわざわざケーキなんて……ん?

「オイカッツォ?」

「ん? あー、シャンフロの垢はこれだよ」

「追い鰹かよ」

 相変わらずネーミングセンスがしょーもねぇなオイ! そもそも魚と臣と慧(圣)で鰹ってのが既にシャレなんだよなぁ。

「お前が俺のプレイヤーネーム聞いて数秒くらい考え込む時は大抵「つまらんシャレだなぁ」とか考えてるんだろう?」

「ははは、何を馬鹿な」

「はいはい漫才はそこまでそこまで、とりあえずカッツォ君はそれ完食、サンラク君は情報を吐いてね」


 しばらくオイカッツォがケーキをパクつき、俺が情報を話すだけなのでイベントスキップ。


「……と、まぁ直接攻略に役立ちそうなもんでもないが、「死に損ない」と形容されるってことは生きてたけど死んでるような状態、アンデット系のモンスターなんじゃないかってだけだ」

「…………そうだね、確かに思い返してみれば戦闘開始時は動きが硬かった。そうか、てっきりサイボーグ系とばかり思っていたけどアンデットなら納得できる点が……」

 俺からすれば考察くらいにしか使えないんじゃ、と思っていたがどうやらペンシルゴンにとってはそうではなかったらしい。
 熟考し始めたペンシルゴンだったが、思ったよりも早く思考の海から浮かび上がってきたのか、バッと顔を上げると俺とオイカッツォを交互に見る。

「私ちょっと用事ができたから夜まで別行動かも」

「まぁそれは構わないけど、じゃあ今日はどうするわけ?」

「とりあえずこれを渡しておくから、夜まで「神代の鐵遺跡」でレベリングしてて」

 そう言って手渡されたのは、地図と……釣竿? 思わずオイカッツォと顔を見合わせる。話を聞こうにもペンシルゴンは既に店を出る気のようで、席を立ち上がり店の出入り口に行ってしまっている。

「行けば分かるから! じゃあまた夜にここで!」

「行っちゃったな」

「せやな」

 これ以上ここにいても仕方がないので、俺とオイカッツォも店を出て裏路地を歩き出す。は?表通りなんか歩いたら目立っちゃうだろ?
 ただでさえ段々サードレマにもプレイヤーが増えてきたんだ、少なくともここで面倒ごとは御免だ。それ故にオイカッツォにも脛に傷でもあるかのようなコソコソ移動をやってもらう。幸いサードレマのマップ情報は以前覚えこんだのがまだ頭に残っている。三回道を間違えたけどセーフだセーフ。
 そしてようやっとサードレマを出て、千紫万紅の樹海窟へと続く道とは別の、森の中に申し訳程度に作られた道を俺達は進む。

「釣りでレベリングってどういう事だ?」

「今アイテム説明見たけど普通に釣竿だねこれ」

「お魚はお肉赤いのより白い方が美味いってお、カシラが言ってたですわ」

「サーモンって白身魚らしいな」

「マジ? 今度チームメイトに教えてや……誰今喋ったの」

「エムル、「毛皮由来のマフラーのフリ」とかいう宴会芸はやめていいぞ」

「え、宴会芸じゃないですわ!れっきとしたヴォーパルバニーに伝わる緊急隠密の……」

「うおおマフラーが喋った!?」

 突如喋り出した(・・・・・)俺の首にくっついたモコモコにオイカッツォが叫ぶ。ああ、そう言えばオイカッツォは見るの初めてなんだっけか。
ここらへんからようやく主人公のガバが発覚してきます

Q.なんでエムル変身してないの?
A.カフェにたどり着くまでにMP尽きました
+注意+
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