遠き無念の残影
久々に本編でシャンフロに関して文章を書けたので連続更新です
しばし沈黙。同じくこの擬態文房具が何を言っているのか理解できていない玲さんと若干顔を見合わせ、チャーシューを口に入れて咀嚼、嚥下…………
「もしもし国家権力?」
「現実見てないでゲームの話しようよ」
「合ってるけど何もかも間違ってる気がする………まぁいいや、クーデターってことは権力に楯突くってことだろ? 名前忘れたけど王国に」
確かシャンフロ世界で「国」として成立しているのは旧大陸を統一した国家ただ一つだったはず。新大陸の方は色竜だったりクソ広いマップだったりで人類種が集落以上に発展していないはずだからな。ギリ魚人族は結構発展してるみたいだが……
「エインヴルス王国、今この王家で起こってるゴタゴタに関して少なくともサンラク君は無関係じゃないでしょ?」
「んー………まぁ、そうだな」
エインヴルス王国は現在、王位継承権第一位の第一王子がクーデターを起こすという謎すぎるストーリーを経て国王と第一王じ………………例のあの人が追放されるというなかなかに類を見ない展開になっている。
俺は聖女ちゃんの依頼を受けて新大陸にて暗殺されようとしていた王族親娘を救出し、名前忘れたけど絶頂剣の人をボコってしまっている。つまり現時点で現国王に思いっきりツバ吐いてるわけで。
「話はちょっと変わるけどサードレマがレイドモンスターに襲われてるせいでヤバいってのは知ってる?」
「えと、はい。話には聞いてます」
「まぁ、うん」
知ってるも何も超高速ルチャを仕掛けた間柄だ、彷徨う大疫青君とはもう実質マブダチみたいなもんだ。友情は暴力によって成立する………!!
「実はなんか現国王が相当失礼カマしたらしくて、サードレマ大公がブチ切れてるんだよね。それこそ王国成立時に結ばれた盟約を当代で破棄することも辞さぬ! くらいの怒りよう」
「あー、なんとなく見えてきたぞ」
今こいつが話しているのはユニークシナリオEXのクリアによって進行したワールドストーリーだ。世界そのものが変遷した結果……あるいは変遷する過程に関する物語。旧大陸の王家にまつわるゴタゴタであり……恐らくサードレマ大公に与する=前国王父娘の復権と考えていい。
「要するにクーデターってのは今の国王をボコって以前の状態に戻したいってことか」
「そーゆーこと。多分現国王もサードレマ大公も大々的にプレイヤーを雇うっぽいんだよねぇ」
うわー、プレイヤーも巻き込んだ戦争フェーズってか? ワクワクするような、シャンフロでそれやったら相当ギスギスするんじゃないかと不安になるような。
「………………で? お前の狙いは? 義憤で動くようなタマじゃねーだろ?」
「んー、サードレマに味方して恩を売って街でも貰おうかなー、と思わなくもないけどぉ…………ま、「本命」はそっちじゃないんだよね」
そう言うとクオン何某は声のボリュームをさらに下げ、それこそ同じテーブルにでもいない限り絶対に聞き取れない音量で口を開いた。
「墓守のウェザエモンに関するアフターシナリオが王城の地下にあるんだよね」
「むぶっ………マジで?」
「墓守の、ウェザエモン………!」
その名は、俺にとっても無視できない名前であり…………この魂を外道色に染めている畜生文房具であっても、こいつが「アーサー・ペンシルゴン」というアバターを使っている限りは絶対に無視できない名前だ。
墓守のウェザエモン。
シャングリラ・フロンティアというゲームにおいて一番最初に撃破されたユニークモンスターであり、現状判明している中では唯一EXクリア後に再戦の可能性を一切見せていないユニークモンスターでもある。少なくともジークヴルムですら死亡していない可能性を真理書で提示しているのに対して、こちらは完全な消滅を持ってシナリオクリアとしているためまず間違いなく一度限りのオンリーワンだ。
「アフターシナリオ……というのは、どういうこと……なんですか?」
「んー、後で旅狼のメンバーにも説明するけど………ほら、私ってシナリオクリア報酬で花飾りのアクセサリーを貰ったじゃん?」
「そうだな」
「あれってさ、実は隠し効果みたいなのがあって………セッちゃん、「遠き日のセツナ」に関連する場所を知らせるロケーター的なものなんだよね」
まだ一年も経ってない筈なのに随分と懐かしく感じる名前だ。だがイマイチ詳細が見えてこないな。
「具体的な説明」
「そうだね……ちょっと前までは新大陸一直線のロケートしか示さなかったんだよね。一通り調べたけど多分新大陸の西方面に何かある」
「西か……ヤバいってことだけは知ってるが」
「うん。でもそっちは今は関係ない、問題はジークヴルム撃破後に追加で四つのロケーションが示されたことなのよねぇ」
追加で……四つ?
「最初から示されていた一つを除いて、フレーバーテキストが更新されたからそのまま抜粋すると………「青き聳弧、赤き炎駒、白き索冥、黒き角端、墓守の残影は佇む。祓われし無念の暗雲は再び広がりて………」だってさ」
なんじゃそりゃ。聞きなれない名前に首を傾げていると、なにやら携帯端末を操作していた玲さんがちょんちょんと俺の肩を指でつつく。
「あの……調べて、みたんですけど………今挙げられた名前は、別種の麒麟だそうです」
「はぁ?」
え、麒麟ってオリエンタル・ファンタジー・モンスターについてはそりゃ知ってたけど色違いバリエーションとかあったの? というかシャンフロ世界における「麒麟」って………
「厳密には文字が違うけどさ、四種類の「騏驎」ってつまりさぁ………そういうことだよね?」
「無いと思われていたウェザエモンの再戦要素、ってことか……?」
オリジナルのウェザエモンは既に塵となって消えている。クリアした俺達がそれを目撃しているのだから間違いない。であればジークヴルムの消失……ワールドストーリーの進行に伴って現れた四体の「麒麟」は一体何なんだ?
「四つのロケーションのうち、二つは新大陸で二つは旧大陸を指し示していた。実はそのうちの一つ……炎駒はもう見つけてるんだよね」
「は?」
「えっ」
ペンシルゴン曰く、赤の「炎駒」は旧大陸のサードレマから分岐する三つのルートのうち、神代の鐵遺跡ルートから行ける翔風楼結の大河というエリアに発生した隠しルートの最奥に存在していたらしい。
「戦ったのか?」
「え? サンラク君じゃあるまいし」
「ぶっとばすぞ」
俺を悪い例えみたいに使うな。
「私が知りたいのは見ればわかるからね……新大陸の方は現状手がつけられないから旧大陸の方を確かめたいわけ。パチモンウェザエモンが何色増産されようが知ったことじゃないけどさ………」
「……………」
単純なゲーム攻略以上の感情を秘めた目が静かに俺を見る。口をつぐんだ為に遮られた言葉の、そこから先を理解できるのは多分俺とカッツォだけだろう。このNPCをノンがつくとはいえプレイヤーキャラとすら見ない外道が数少ない温かな心を得たというNPC……つまりこいつはコピーウェザエモンの出現に伴って「遠き日のセツナ」の色違いも出現していないかを知りたいってことだろう。そしてこれまでの話を纏めれば見えるものがある。
「何色かは知らないが……旧大陸側のもう一体は王城の真下か」
「前々から噂はされていたけど「王城の真下には何らかのフィールドがある」ってのがこんな形で確定するとは思ってもなかったよねぇ」
「ええと………今の国王に掛け合うとかは、できないんですか?」
「え? もしも彼女がいるとしたら一々国王におべっか使って地下エリアに行くの面倒じゃん」
「へ? えっと、あの……」
こ、こいつっ、なんて澄んだ目で………っ! てか要するに「王城フリーパスで通れる権力ぶん取っておきたい」ってことじゃねーか!!
「それに多分、現国王放置してると新大陸側と敵対フラグ立つよまず間違いなく。創作じゃ割とよく見るけど人間至上主義? 的なキャラクターらしいし」
「それ味方するプレイヤーいるのか?」
「金と恩赦でごり押してくっぽくてねー……少なくともPKerは陣営につくだけでレッドネームの清算ができるし、多分相手陣営をPKする免罪符が出ると思うんだよね……」
「一気に幕末じみてきたな」
「形骸化した陣営概念と藁より脆い同族意識はあそこだけの風習ですぅー」
一理あるので何も返せない。それはそれとしてカルマ値の清算やPKKされた場合の借金がチャラになるとなれば王国側につくプレイヤーは結構な数になるだろう。なにもカルマ値の影響を受けるのはPKだけじゃない、賞金狩人が出勤するラインがPKというだけであってカルマ値の蓄積やそれに伴うNPCからの悪感情は別問題だ。教会で懺悔だとかカルマ値の減少方法は色々あるようだが「王国」という巨大権力に所属してカルマ値徳政令の恩恵にあずかれるなら……と考えるプレイヤーは絶対にいる。
ペンシルゴン単体から始まった欲望の実現は、どうやらプレイヤー全員を巻き込んだ大戦争に直結しているらしい。
・想起されし墓守
詳細不明、なんらかの原因によって新旧大陸それぞれに二体ずつ現れたウェザエモンの残影。
厳密にはウェザエモン本人とは一切関係のない現象なのだが四体の想起体はいずれも異なる色の「麒麟」を従えている。
それぞれの「麒麟」に付き従う想起体はそれぞれが異なる武装を携えており、それはあたかも「墓守と成り果てたかつての英雄が見せなかった戦いの姿」であるかのようにも見える。かの英雄が遺した魔法の鍵、その中に収められていた至宝の数々は、決して飾られるだけのものではなかったということだ。
それが墓守だというのなら、守るべき墓も共にあるのか? であるなら、であるならば。願わくばもう一度、そうでないなら興味はない。その為なら女は天上の王権にだって弓引けるのだ。




