余裕有る無しの鉢合わせ
やりたい事とやるべき事が多過ぎる
◆
自分ではどうしようもできない精神的苦痛を赤の他人にぶつける、古来も古来人類がマンモス追いかけてウンババ言ってた時代から続いてきたマイナスの娯楽……人それを八つ当たりという。
他人に迷惑をかける上に何も解決しない、だが気分は多少晴れるのが厄介なところだが幸い幕末ならどんな理不尽なストレスをぶつけても笑って報復してくれるから気楽でいい。
「くっそー……苦い終わり方だ」
目につく奴を片っ端から斬り倒してただけなのに! 百人集めて寄ってたかって袋叩きにするなんてあんまりだ! 奴らめ、人の心がないのか? 四十人は迎撃したと思うけど騒ぎに引き寄せられてレイドボスさんが来ちゃったのであとはお察しだ。まぁさらにバージョンアップしたレイドボスさんが来なくても負けてただろうけど。
その後に藻屑海蘊(と、団子の串に追い回されていた京極)と一緒にNPCの頂点でありAIが操る最強の剣士たるSYO-GUNを暗殺しに向かったのだが……ヤバイよね、最終的に忍者と幕臣の大群が的確に殺しにくるから結局打ち首獄門だ。噂じゃ将軍はビームを出すらしいが残念ながら見ることは叶わなかった……
とはいえそれはそれ、ゲームでブイブイ言わせても現実じゃ時間しか進まないのが絶対摂理。そして時間は進んでいるのでJGEの開催日が来てしまったわけだ。
速達にしたので服は間に合った、懐は若干寂しいがまぁ問題はないはず……最近はあまりクソゲー買ってないから貯蓄があるし大丈夫。いざって時は家庭内司法取引で前借りした金を…………
「行くか」
◇
「…………」
自室にて、荒ぶる心を鎮めるべく行なっていた瞑想に毛ほどの効果もない事を悟った玲は静かに立ち上がった。
果たして自分は平常を保って楽郎に会うことができるだろうか、そう今の心境を例えるなら……
「絶体絶命……!」
「玲、逢瀬に赴く女の言葉ではありませんよ」
「逢瀬というわけでは……」
「見敵必殺です、玲」
「………いってきます」
あながち間違いでもないな、と思ってしまった自分に抗えぬ斎賀の血を感じながらも、玲は戦いの地へと赴く───
そう、理想とする青春がやたらと爛れている長姉やカップ麺の懸賞で湯沸かし器が当たったと結構な喜び様を見せる次姉のようにならない為にも!!!
◆◇
なお、現在の時刻は六時八分。当初の集合時間は八時半であるものとする。
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集合は八時半、まぁ早めに駅に着いて駅内のカフェか何かで朝飯食いつつ時間を潰そうと思っていたのだが……
「「あ」」
現在六時半、集合まで二時間近くあるというのに………何故か斎賀さんとバッタリ遭遇した。
「お、おはようございます?」
「お、おひゃ……イマキタトコロデス!!」
「お、おう」
駅の入り口で会ったからまぁそりゃ見ればわかるけど。斎賀さんも早めに来て時間を潰す算段だったんだろうか、危ねぇ……集合にプレイヤーが後から来るパターンはラブ・クロックなら一発でピザ留学になるところだった。ルート分岐前にフラグ立て損ねるとヒロインが全員イタリアに行くの、一周回ってもはやギャグなんだよな。和気藹々とイタリアに想いを馳せるヒロイン達を教室の隅から眺めるだけの主人公……半年くらい大炎上したのも無理はない。
「どちらにせよリニアが来るまで時間かかるし、どこかで時間潰す? 斎賀さんって朝食済ませた?」
「い、いえっ! まだです! はい! その、服!!」
服? ああ、そういえばそうだな。えーと? この手のコメントは程よく褒めろって外道鉛筆が熱弁してたっけ。
「互いに私服で会うのって二回目くらいだっけ? 前は着物着てたけど今日は洋装なんだ……うん、似合ってると思う」
「ふぎゅっ………………………………………ら、楽郎君も似合ってるとオモイマス」
あ、ロード入った。が、割と早めに復帰した。
とりあえず突っ立っているのもアレなので早朝から店を開けていた喫茶店に入ることにした俺たちはまぁ当然ながら相席で向かい合うことになる。
「コーヒー……コーヒーかぁ」
流石に堅気でライオットブラッド連発するのもアレだし、悪かないか……朝食セットは何があるかな? あ、これとかいいかも。
「すいませーん、オリジナルブレンドカフェオレとこのシーフードエッグベレディクトを……」
噛んだ。
「あ、じゃあ……その、私は…ウィンナーコーヒーと、ベジエッグベネデュっ…………」
斎賀さんも噛んだ。
「「………」」
わずかな沈黙。俺と斎賀さんがなんとも言えない顔で撃沈しているのを店員のおばちゃんにものすごく生温い目で見られてしまった。
「ふふふふ……シーフードとベジのエッグベネディクトですね、少々お待ちください」
くっ、初っ端からハードな一日になりそうだぜ……エッグベネディクト、必殺技みたいな名前しやがって。
「あー……二人とも同じ単語で噛むとはね」
「そ、そですね……あの、JGEなん、ですけど……どこから、行きますか?」
「え? ああ、うーん……シャンフロのブースって何かあったっけ?」
まぁ、共にやっているゲームな訳だし、今や日本ゲーム界の頂点に君臨するこのゲームのブースに行かない理由はないだろう。
基本的にアングラというかニッチというか、マイノリティ側の界隈に住んでいた人間なので光の祭典たるJGEに出展しているメーカーやゲームはどれも知らないタイトルだったり知っていても興味の湧かないタイトルばかりで……ああでも、ネフホロのブースは結構デカいな。なんだか巣立ちを見送る親鳥の気分だ、あの過疎ゲーがこんなに立派になって。
「ゲーム内のNPCが、描いた絵を、元にした画集とかあるみたい…ですね」
「………想定の斜め上を飛んでいくのがお上手なことで」
ゲーム内NPCですってよ奥さん、現実のデザイナーとかではなく? それ以外にも専用のマシンに自分のアカウントを読み込ませることで自キャラの肖像画を描くイベントだったり……科学の力ってすげー。
「楽郎君は、何か気になるメーカーが、あるとか……」
「え? あ? えー、まぁ……はい」
いやまぁありますよ、ナンバリングタイトルを派手に爆散させたメーカーの完全新作タイトルとか、キャラクターに開発努力の九割を費やしてるからゲームバランスがゴミと評判のメーカーとか、幕末という修羅の金魚鉢を保有しながら人畜無害そうな顔で新タイトルを発表したメーカーとか…………おや、思ったより行きたいところ多いな。
「お待たせ致しました、こちらオリジナルブレンドカフェオレとウィンナーコーヒーでございます………今日はデートですか?」
「デッ…………!?」
「ははは、彼女とはゲーム友達なもので、今日はJGEっていうデカいイベントに」
「あら、そうなの……楽しんでね?」
「ええ、そのつもりです…………斎賀さん?」
ああダメだ、フリーズした。
Q.玲ちゃんずっと顔赤そうだけどなんで楽郎は気づかないの?
A.中学の頃から楽郎の視界に入り込んだ斎賀さんは全て顔を赤らめていたからそれがデフォルトだと思っているため、まさか自分の方が見られていたとは思ってもいないニーチェ




