あなたの為のオーケストラ 其の十四
シュレディンガーのスタレ
「大使館」の最奥……氏族の長、すなわちディルナディアの執務室……的な部屋の中で俺はディルナディアと対面していた。
「いい加減起きろエムル、お前関連だぞ」
「きゅー……」
ダメだ、こりゃしばらく復活しないな。
「すまん、話を続けてくれ」
「分かった……そも、ドルダナは英雄であるが……その英雄譚は彼一人によるものではないのだ。かの物語はドルダナを含めて四人の英雄達による竜退治の物語として語り継がれてきた」
「成る程……その中にヴァッシュ……ヴァイスアッシュの名前が」
「旅兎ヴァイスアッシュ、それは杖と刃を携え世界を旅する兎……彼はドルダナと別れる間際に三つの約束を交わした。それは後世へ伝える二つの言伝と、一つの「座標」だ」
座標……それに言伝。どうやらディルナディアは先に二つの言伝から話すつもりのようだ。
「───一つ。波濤を越えて来たりし者共よ……郷愁せよ、母を探せ」
「………母?」
ウチの母ならアフリカの保護区で働いているリアルアマゾネスみたいなイヴォンヌおばちゃんとゴライアスオオツノハナムグリについて盛り上がってますけど。
輸入禁止されてるからそのうちアフリカ旅行しようかしら? とか言ってるけどマジでやりかねん、つーか部屋にコロンビア旅行のカタログと登山装備のカタログがあったの知ってるからな? ゴライアスオオツノハナムグリも気になるけど天然モノのリッキーブルーも狙ってるそうです。
「我らとて仔細は知らん、お前達と比べて長命なる我らとて長く伝えられて来た約束なのだ」
成る程ヴァッシュの年齢がますます怪しくなりましたね、今に始まったことじゃねーや。
だが真面目に考えるとするなら、要するに「プレイヤーアバターはどこから来るのか」って事なんだろう。メタ的な視点で言えばいくつかの例外を除けばファステイアに存在する広場にスポーンする、だがある程度シャンフロの作り込みを味わったプレイヤーはこう思うわけだ。
───これ、プレイヤーにもヤバイくらい設定があるんじゃね? と。
実際ありました、ウェザエモンさんを初めとしてヤクザ兎やAI鯨女やらがちょいちょい匂わせてるからほぼ確定と言っていい。
そしてそれらの断片的な情報といまの「言伝」で八割確定したと言っていい……
三体存在するという超巨大宇宙船バハムート、残る二隻の内の一隻はファステイアにある。
「思ってたより重要アイテムじゃねーか………」
いや、そもそも三パーツまとめて存在してたのが奇跡みたいなもんか? あの地下空間……エドワード何某が死の間際まで使っていた研究室、明らかに正規手段ではない方法で辿り着いたが……本来はもっとグランドクエストなりなんなりが進んだ後に訪れるべき場所だったのかもしれない。
「その言伝には心当たりがある、確かに受け取った」
「うむ……では次の約束だ。これは我らにも関係があるが……波濤の者、巨人族が認めるに値する勇士現れし時、低き巨塔への道を授け共に征くべし」
「低き巨塔?」
なにその押す引き戸みたいな矛盾ネーム。物理的にあり得ないとは言い切れない辺りがまたなんとも。そう、例えば地下深くに一階を作って最上階だけを地表に出せばそれは低き巨塔と言えなくも…………地面に埋まってる?
「……………」
「どうした?」
「いや、脳が疼いただけ」
今何か、とんでもない事実に触れかけたような……何か、具体的にこれと断定できないが何かパズルのピースに指が引っかかったような………パチッと何かがスパークしたような。
「アラドヴァルのサンラクよ、我らオディヌ氏族はお前の力を認めている。故にお前が望むのであればフィオネと共に北の地を目指すがいい」
「なんでフィオネ指定?」
「初めにお前を見出したのは妹だからだ」
「成る程……最後の「座標」ってのはその低き巨塔までの道のりか?」
「いや違う、それは二つ目の約束に付随するものだ」
となると三つ目の「座標」とやらはこれらとは別件か……
「最後の座標……それはこの「絵」だ」
「んん?」
柱かと思っていたが、どうやら木箱だったらしいそれがディルナディアの手によって開かれる。中には一体何の皮なのかはさっぱり分からないが、所謂羊皮紙的な紙が巨大な槍か、それこそ柱のように丸められていた。
ディルナディアの背丈は三メートルくらいだ、その彼女が持って脇差くらいの長さがあるということは俺から見たら完全に槍か小ぶりな丸太である。
紐と呼ぶには随分とワイルドな……髭? か何かを結って作ったのだろう紐が解かれ、巨大巻物の内側に描かれたそれが露わになる。
「……ナニコレ」
「うむ、巨人族の長が代々書き上げる「座標画」だ」
ああ……画伯であらせられましたか……
自信満々に広げた巻物に描かれていたのは、なんというか……その………小学生が書いた落書き? どっちかというと下手くそが描いた輪郭ガタガタの絵? 色はぐちゃぐちゃだし変な模様だし……俺でももう少しマシに描けるぜ。
ははは、見ろよこのペンギンとか羽が分離してるぜ。それにこっちの妙な形した変な動物……スッポン? いや違うなやけに突起の多い頭の亀かな? そいつらがはっけよーいでもして…………して………………
………………んん?
「んんんんんん!!!?!?!?」
先ほどの引っ掛かりとは比べ物にならない雷霆が脳裏を駆け巡る、この形、この不自然すぎる輪郭、動物、獣、大陸……!!
「地図か!!!」
「地図? いやこれは……」
いいや間違いない、思い出したぞこっちのスッポンの形状は多少の差異はあるが旧大陸の全体図とほぼ一致している。新大陸と違って旧大陸の方は大陸規模での地図がすでに完成して攻略サイトに載っているのだ、だから俺も見覚えがあった。
そして左側の変なペンギン、その中心部にある碧と紅の二色の点、頭の付近が妙に緑色……間違いない。
「嘘だろ……」
流石の俺をして目眩がする特大の爆弾だ。何せこれを公開するだけでトットリ・ザ・シマーネのクランが存在価値の全てを失う。
何がやばいってこの一枚だけでこの世界の秘密が半分以上暴かれる。まず始源獣だろ? 新大陸のエリア毎の特色だろ? それを差し引いても千切れたペンギンの羽は南の方に島がある事を指し示している。
「ん?」
なんか、変な斑模様がついてるなこの千切れ羽…………黒丸の上の方からフランスパンみたいな楕円が伸びてる………………あぁ、兎のマークですかこれ。
「ラビッツかよ………」
ラビッツはやたら広い、少なくともサードレマに匹敵するかそれ以上にデカい。まぁ実際は農地とかばかりなので見所があるわけじゃないが……ラビッツはその全周を霧のような靄のような妙なものが囲んでいるので、どれだけ目を凝らしても水平線も地平線も見えないのが特徴だ。
だから新大陸の何処かにあるのか、島なのか……この地図によってこれまでの疑問に結論が出たわけだ。
ラビッツは新大陸の下、つまり南にある島だったというわけだ。バカンスに如何? このゲームの海って控えめに言って地獄だけど浅瀬なら大丈夫なのかな? でもアラバの話だと最低でもめっちゃアクティブに動く足の生えたイソギンチャクとかいるらしいけど。
さて、本題に戻ろうか。この地図……恐らく代々の巨人族が描き伝えてきたという事は原本とほぼ同じデザインと考えて間違いないだろう。
そしてヴァイスアッシュとの約束に関する絵であるということはこの「矢印」もヴァッシュが描いたものだ。
「ラビッツから海を通って前線拠点を通る矢印に、旧大陸側に丸印……」
さて、兄貴………あんた一体、何を仕込んでるんだ?
ちなみにディルナディアさんは絵心めっちゃある、先代の座標絵を完コピしたくらいには画伯(真)
というか歴代オディヌ氏長に画伯(偽)はいない、つまり………ヴァッシュにだって、絵が下手な時期はあったんです




