あなたの為のオーケストラ 其の十
こ、こせ、こせせせせせせ、こせんじょっ(白目)
拳法、拳法だ。吟遊詩人のなんちゃって威嚇拳法が俺に閃きを与えてくれたのだ。
下手に武器を増やす必要はないんじゃない、その気になれば蛇腹剣からチャクラムまで扱う自信のある俺であるがそれが付け焼き刃であることは否めない。
最悪のパターンはこっちが付け焼き刃なのに向こうが完璧に使いこなしてきた場合だ、実質相手を有利にしただけになる。それにあんまり「俺」をメタりすぎるとそのまま俺に跳ね返ってくる危険性もある。
だが拳法ならどうだ? 拳法、徒手空拳、素手喧嘩、すなわち人という生き物が戦う為の最小単位。
どんなプレイヤーもゲーム開始時点から持っている最も原始的な武器を扱うという事だ。その習熟度は言うまでもないだろう、何せ生まれて今に至るまでゲーム、リアルを問わず使い続けてきてるわけだしな。
仮に相手も同じ拳法を使ってこようと、それが上位互換だろうと。
これがゲームなら対処できる、対処する!!
「二回戦えばだいたい見えてくる」
あのAI、確かに凄まじい再現度だ。武器とかスキルじゃない、んなもんデータなんだからいくらでもコピペできる。ヤバいのは俺の動きをトレースするモーションの方だ………だが、厳密にはあれは俺自身の動きとはちょっと違う。
「同族嫌悪? ちょっと違うか……?」
だがそれに近い、一番知ってるから一番対策できる……アレは俺の動きを読んだ上で「対応する」AIだ。ただ鏡写しで動くトレースではなくトレースした情報で対策を立てるメタゲームAI、だから厳密には俺のトレースに加えて何か別の思考ルーチンが混ざっている。
「常時背水の陣で突っ込んでくる奴に対処するなら、そりゃカウンター型になるわな」
試行回数は少ないが被弾回数なら結構なもんだ、だからぼやけた輪郭だとしても見えてくる。「俺」は自発的な攻撃をしないわけじゃないし、罠をかけてくることもあるがその本質は俺の行動を誘発させてカウンターを叩き込むことにある。
厄介なことに変わりはないが、だからこそ拳法だ。拳法とは素手、つまり武器のリーチがゼロの状態を指す。通常これはデメリットでしかないがごく限られた状況でのみこれがアドバンテージへと反転する。
最短であるからこそ、最適に取り回せる。
最短であるからこそ、最速で叩き込める。
「つまり超至近距離……!!」
カウンターさせる前に至近距離まで詰めた俺がエクストラターンを叩き込む、これが奴を倒す今考えうる唯一の策………!!
厳密にはもう一つ考えてあるけど「互いに封雷の撃鉄・災を使って体力削って範囲魔法で諸共吹っ飛ばして「幸運による食いしばり」で勝ちを狙う糞運ゲー」は最終手段な、最終手段………
徒手空拳といえばイアイフィストだが、あれは厳密にはスタイルとかテクニックだから具体的にこれ、という技がないのが難点だ。イアイフィストの真価はどんなバトルスタイルでも組み込めるところにこそある。
だから俺が求める拳法はイアイフィストと組み合わせた場合の適合率が高く、瞬間的に相手の懐に潜り込んで攻撃を叩き込む機動力にも重きを置いた格闘術──────!!
………それボクシングじゃね?
「…………いや、まだ分からんまだ分からん」
シャンフロ・イズ・ファンタジー。もしかしたらなんかこう未知の動きをする格闘術とかあるかもしれない、そうここディルモントン流道場になら!!!
ここで話は変わるが、シャンフロにおける「流派」について今一度確認も兼ねて思い返す。
取り敢えず作ってみれば大体作れる、とまで言われているくらいには数多の武器種を実装しているシャンフロであるが、当然ながら徒手空拳もプレイスタイルとしてちゃんと認められている。カッツォの「修行僧」系列も魔法が絡んでいるものの徒手空拳に部類される。
だがあれはあくまでも職業的なものだ、「流派」はもっとお手軽な……いわばスキル(場合により魔法も)詰め合わせセットと言うべきものだろう。
ウェザエモンを撃破して謎マシンで網膜から脳みそにチョメチョメした「晴天流」なんかは参考にならないので除外。基本的に流派スキルはリアル武道なんかと同じで流派を教え伝える道場やらに門下生として「入門」することが大前提なんだとか。入門条件は様々で「修行僧」のように特定職業に就職することが条件であったり、特定NPCと素手で戦うことが条件だったり……そして流派に属するスキル、魔法を覚えるためにお使いクエストじみたものをクリアしたり……まぁなんだ、つまり時間がかかる。
だが生憎と俺は修行に時間を取っている暇はない、車の拭き掃除だってやってられんわ。しかしこの手のコンテンツによくある展開というか、ただ入門しただけではその流派の上位スキルを見ることはできない。スキルツリー的な感じだな、ではどうすればいい?
ここで重要なのは「とりあえずどんな流派なのか見たい」「その流派の奥義とか見ておきたい」「それが「俺」に有効か検証したい」という事。
そして自称インテリジェンスのサイナとは異なり世が世なら「人間牧場」「遊牧蛮族」とまで讃えられた俺のミラクルニューロンが導き出した答えは一つ。
「たのもーだゴルァ!!」
───そう、道場破りである。
「何奴!!」
「俺より強い奴に会いに来た!!」
『ユニークシナリオ「道場破り:ディルモントン流」が開始されました』
どうやらNPCに混じってプレイヤーもいるらしく、なんだなんだと好奇の視線が俺へと向けられる。
道場破りイベントはプレイヤーが最もお手軽に発生させられるユニークシナリオだ、そこらの道場の扉に攻撃しながら入ればいいだけだからな。能動的に発生させるのではい・いいえの選択肢が出ないのが印象的だ。
「ディルモントン流師範代、ガンドンである!」
「まずは前座かよ? いいぜ、相手してやる」
なんかもうこの世の大体は筋肉と体格差があればどうとでもなると言わんばかりの大男が俺の前に現れる。体格差は俄然俺が不利、果たして勝てるかどうか………ああ、だが一つ補足するなら。
「イアイフィスト応用、悶絶三連」
「ぎゃっ! ぐひゅっ! ぐぼぁ……っ!?」
ここ、セカンディルだからレベル差が割とお察しなんだよね。
「地獄を楽しみな」
目、喉、鳩尾の三箇所にグーパンを食らったカツ丼さんが倒れるのを眺めながら、俺はスペイン人から教わった煽り台詞と謎ポーズを決めるのだった。
イアイフィスト流「悶絶○連」
イアイフィスト流は基本的にプレイヤー自身の本能を突くバトルスタイルである。それ故に人体の急所を的確に狙う事でアバターそのものではなくそれを操作するプレイヤーを硬直させる、それがイアイフィスト流「悶絶」である。
サンラクが用いた三連は目、喉、鳩尾を連続で叩く三連続打撃であるが、これはダウングレード版であり本来はこの後に膝蹴りによる金的を加えた四連こそが本来の形である。
達人ともなれば四連から足払いに繋げて相手を転倒させ、馬乗りになってひたすら顔を殴るというコンボにも繋げることが可能。
───あるいはそれは、孤島での流儀に似ていたが故に




