あなたの為のオーケストラ 其の七
この世から花粉症とゴキブリどちらを消滅させるか、究極の二択(現在花粉症優勢)
『…………』
「うおおおお!?」
火花を散らしてぶつかり合った二つの黄金の剣は、果たして俺の力負けという形で弾かれる。
僅かに俺の身体が怯む、その隙を見逃さない「俺」は左手をスナップさせて剣を回転、逆手に持った黄金剣で的確に俺の首を狙う。
「くっ」
回避、だが首筋に薄くダメージエフェクトが入る。避けきれなかった? いいや違う向こうが逃さなかったと言うべきか。
反撃として下段から斬り上げを狙うがいとも容易く弾かれる。だがそちらはブラフだ、対して力を込めていない握力で握った傑剣への憧刃が弾き飛ばされるのを尻目に、空いた左手で傑剣への憧焉終刃の柄尻を押し込むように両手による刺突を叩き込む。
だが、
「………嘘やん」
「俺」の両手からは黄金剣が消えていた、そして空いた両手は合唱するかのように傑剣への憧焉終刃を挟んで刺突を完全に受け止めていた。真剣白刃取り……っ!?
『………』
「ぐふっ!?」
回し蹴りが横っ腹に突き刺さる、思考の空白へと的確に刺さった一撃は俺の体力を容易く三割削り取る。呼吸に詰まるがそれどころではない、衝撃に逆らうことなく転がって距離を取ってアラドヴァル・リビルドを握る。
対して「俺」は肘までをすっぽりと包んでしまう巨大な鉄拳を装備して………あー、装備も完コピですか、そうですか。
「これは、不味いぞ……非常に、不味い」
数合打ってすぐに分かった、ほぼ確実に再現「俺」のステータスはこちらよりも上だ。速度負けし、力負けし、さらには的確にこちらに相性不利を押し付けてきやがる。
強い、そして動きの端々に見える癖……まさか、いやマジで?
「いつから? どうやって?」
シャンフロシステムが優れていることは分かっているが、いちプレイヤーだぞ? そんなこと本当に可能なのか?
「俺のトレースAI……?」
トレースAI、最近だと京極の祖父龍宮院富嶽をトレースしたAIが印象に残っている。トレース元の魂を転写するとか現実主義者の戯言のようなものではなく、トレース元が状況に対して取る手段を解析して限りなく本物に近い動きを可能とする技術。
まさかとは思うが、だとしても向こうの「俺」はあまりにもこちらの動きを知り過ぎている。バトルスタイル的な上位互換ならまだしも、こちらの動きまで完全に読み切ってるのは流石におかしいだろう。
「しかも、武器まで完全再現と来た……!」
アラドヴァル・リビルドじゃ巨大鉄拳には分が悪い。しかも単なる打撃武器ってわけじゃあない、本当に……本当にクソッタレな事に、性能まで完全コピーだ。あとね、地味にね、無言で起動するの本当にやめてほしい。単純に上位互換じゃん、モーション見逃したらケツに水晶柱がぶっ刺さる事になるんですけど?
『…………』
「はいモーション!!」
ここがチャンスだ、相性不利なアラドヴァル・リビルドを仕舞って代わりに取り出すは冥王の鏡盾と境光の宝剣。時間的に今の刀身は夜光刃、遠距離手段を支えるのは様子見として都合がいい。
レッドカーペットをブチ抜いて生えてきた水晶柱を盾に態勢を立て直し、一旦距離を取るべそれどころじゃない左に転移してきたぞ防御しろ!!!!
「ンな馬鹿な、アクセサリーに記録した魔法まで完コピ……!?」
間違いなく今のは【瞬間転移】だ、視界内の一定範囲に瞬間移動する転移魔法……そしてその魔法を俺自身は習得していない、覚えているのは瑠璃天の星外套だ。
おいおい、これは想像以上にどころか最早想像を絶するレベルで模倣されているんじゃないか。だが、どこまで? どこまで模倣されている? 検証しなければならない、この完全上位互換の「俺」を相手に?
「これは………」
脳裏に浮かぶ言葉は単純明快。
───これ無理ゲーじゃね?
「いや、負けるな、思考を負け色に染めるな俺」
まだ詰んでない、俺を完全コピーしたと言うなら逆説的に手の内が分かるとも言えるんだ。まさしくミラーマッチ、己を知る最大の敵は俺自身をマジでやる事になるとはな。
「どうする………どうする……?」
短期決戦? 地力の差を覆すだけの策がない。
長期戦? 策を練っても地力の差で磨り潰される。
これは、どうすりゃいい……? クソ、袋小路のルートに分岐した気分だ。右に行ってもバッドエンド、左に行ってもバッドエンドってな……直前のセーブデータは? 残念ながらリアルタイム進行だと時間と一緒で常にセーブデータは更新されてしまうんだ。
「クソ、再戦不可ならメール送りつけっかんな天地 律……っ!!」
隙を狙って一撃決着、これしかない。
後でも先でもなんでもいい、一撃で沈めるしか活路はない……っ!!
「早撃ちだぜ上位互換、あわよくば壁のシミになれ……!!」
封雷の撃鉄・災起動、さらに並行して真界観測眼起動!
だが「俺」から視線を逸らさない俺の目が奴もまた同様の動きをした事を認識する。やはり速度では勝てない、だが「俺」の対応からして先手は取れる!!
「っ!!」
前へ、盾を収納し床に転がっていた傑剣への憧焉終刃を拾って前へと距離を詰める。
光が点滅する、違う相手の動きが速すぎて攻撃予測が一瞬しか表示されないのか。上等、どちらにせよ受け身に回ったら勝てないのだから常に前へ!!
互いに黄金剣、そして互いに片手を相手に見えないように隠して接敵。傑剣への憧焉終刃と向こうの模倣傑剣への憧焉終刃が激突し火花を散らす。互いにクリティカル狙いで叩き込んでいるものだから、それはもう快音と言っていい金属音が響く。
互いに有効打無し、距離は取れないこのまま押し込む。
互いに片手のみを振るって剣を打ち合わせる。互いに片手を隠し続けたまま戦い続けている。そして経過した十秒───
「……っ!!」
『…………』
全くの同時、己の身体を盾に隠していたもう片方の手……引き金に指をかけた銃器が真贋共に敵へと突きつけられる。
そして二つの引き金は一切の迷いなく引かれ、放たれた魔力弾が俺と「俺」の顔面を狙って飛翔した。
「くっ」
『………』
くそッ、ヘタれた!!
身体を動かして回避した俺に対して向こうは再現傑剣への憧焉終刃で叩き落とした。向こうの方が先に動ける!!
「なっ……めんなぁ!!」
アイテムやアクセサリーを完全再現しているならば、恐らくジョブ……「神秘」もまた同様。ならば互いに「愚者」のデメリットで体力が1になっているはず。つまり俺も「俺」も一発喰らえば死ぬ、互いに背水ってわけだ。
銃弾が飛び交う、当たりさえすればいいのだからその狙いは時に腕、時に脚、時に額……一瞬でも油断すれば仕留められる。
常に動き回りつつも距離は中距離を維持、弾丸だけが相手へと届き、そして通り過ぎていく。
「弾切れ……っ!!」
どうする、銃ごと変える!!
だが、ここで「俺」と俺との行動が分岐した。
「何………?」
向こうの「俺」も俺と同時に銃を消した、だが取り出したのは代わりの銃じゃない。再現された紅い水晶の刃……境光の宝剣?
だが迷っている暇はない、向こうのAIがヘマをしたならここで決めるまで。
劇場に響く発砲音、放たれた四発の凶弾は真っ直ぐに「俺」へと向かい………すり抜けた。
「───は?」
ここに来てオリジナル要素? 違う、すり抜けたんじゃなくて避けた? どうやって? 身体が左右にブレた? エフェクト? まさか、まさか……!!
「臨界速で反復横跳びした、だと……?」
んな馬鹿な、戦闘機で逆立ちするようなもんだぞ。というか、四発、四回………あ。
『…………………』
厳密には、脳が補完した光景かもしれないが。確かに俺は奴が五歩目を踏み込む前に居合の構えをしたのが見えた。封雷の撃鉄・災に臨界速を加えた最速の踏み込み、抜き放たれた刃は晴天流の風。
晴天流「轟風」
脇腹に冷たさと痺れを混ぜたような感覚、ぞわぞわとしたそれは背中へと抜けていき……死んでいない、耐え
最後に聞こえたのは発砲音、そこで視界が暗転した。
創世さん謹製強化トレースAIはただ同じ動きをするに留まらないぞ!
非常にわかりやすく言うと徹底的に相手をメタってじゃんけんに必勝してくるぞ! どうやって倒すんだろうね!?




