あなたの為のオーケストラ 其の四
インベントリアが今すごい(すごい)
俺が戦った時に準拠しているらしい青竜の骸が突っ込んでくる。それを回避しつつ、尻尾から放たれたレーザーを身体を捻って避ける。
貪る大赤依、恐らく一番最初に倒されたであろうレイドモンスターであり何を隠そう倒したメンバーには俺も含まれている。当たり前だけどな。
だが問題がいくつかある、ウェザエモンは実質ソロのようなものだったし蠍は基本ソロだからまだいいが、こいつに限ってはパーティプレイじゃなきゃ倒せなかった手合いだ。
そして何より……
「どういう手順で倒したとか、覚えてねーよ……!!」
いや、大まかな要点は覚えてるんだ。問題はそれがどのタイミングでどのように発生したのかを覚えてないってだけだ。
まぁ? 俺って犬が棒に当たる確率よりイベントに遭遇する確率高いし? 記憶容量がいくらあっても足りないというか……うおお危ねぇ一斉レーザーはやめろ!! ていうか頭がやたら増えてるのって第何形態だっけ?
ビームの厄介な点は基本的にガードできないという点だ、いや冥王の鏡盾があるからその点は解決してるが一般論の話だ。
それに盾があるのは大きいが奴は複数の頭を持つ、複数の銃口を待っているのだから盾一枚で防ぎきれるとは流石に思えない。
あと冥王の鏡盾は何気に結構重いので、ならいっそ回避に専念した方がいい。
「それに……!」
さっきの蠍戦で確信した、このオルケストラによる再現モンスターは必ずしも俺にのみ敵対的とは限らない。かつて起きたことを再現するなら、貪る大赤依との戦いをなぞるのなら。
「来いよ兄弟、ワンモア共闘しようぜ……!!」
赤く穢れた舞台、オルケストラの演奏が奴の登場を演出する。
どこからともなく風のように流れてきた光が渦を巻いて塊になって、それは三つの頭とそれを支えることが出来る屈強な胴体の形になっていく。
"緋色の傷"じゃない、「傷だらけ」時代の再現されたドラクルス・ディノサーベラスが咆哮を上げる。
そうさ、例の変態やヘタレ共の勇者トットリ、エムルと俺だけじゃ貪る大赤依は倒せなかった。それでも俺たちが勝利できたのは、一重にこいつが参戦したお陰だ。MvM、いわゆるモンスター同士を争わせるテクニックの一つだが……再現された戦いであっても、テンションは上がるというものだ。
「BGMっ! 音圧上げろよ盛り上げどころだぞ!!」
実際その通りになった。轟、と音そのものが俺を叩くかのような大音量でオーケストラが旋律を束ねる。
そして地味な顔とは反対に楽器群の競い合うかのような音のぶつかり合いすらをも従えた「歌姫」の歌が朗々と響く。
第三楽章が具体的にオルケストラというボス戦のどこら辺に位置するのかは分からないが、オーケストラの規模からしても中盤くらいは行ってるのだろう。
『───赤い光、赤い炎! ぶつかる闘志、英雄は、三頭の竜と、肩を並べ視線を交わし……戦って!』
なにせ第一、第二楽章の時と比べて明らかに歌のテンションが高い、サビ前の盛り上がりのような感じだ。
パッとしないモブ顔も、「傷だらけ」と貪る大赤依が戦う中でも翳りなく声を張り上げていれば風格も出るというもの。この場において「音」を支配していると言ってもいい女はまさしく「歌姫」であった。
「おっと、」
いけないな。英雄譚の主役がボケっと突っ立ってる訳にもいかない、基本的にMvMはヘイトをモンスター間で完結させつつ横からチクチク刺していくのがセオリーだ。
だがあの時はテンションが上がったのもあって……もっと積極的だった気がする。
「一流のアタッカーはモンスターに合わせる事もできる……ってか!」
再現「傷だらけ」の股下を駆け抜け、あの時の姿そのままに再現されたからこそ、巨大な「口」だけに守られた核を露出させるべく歯を剥き出しに閉じられた胸部の大口へと煌蠍の籠手を纏う右拳を叩き込んだ。
「砕けろ! 悶えろ! 今すぐ知覚過敏になれ!」
こういう時、いろんな武器種に手を出してる弊害が出てくるな。いや、そもそも機動力と素殴りに依存してるから攻撃スキルが少なすぎるんだが……無い物は無い! 喰らえ! 歯周病になれ!
当時の傾向を反映しているのか、再現「傷だらけ」は再現貪る大赤依ただ一つを睨みつけて戦っている、だが足元の人間に敵対こそしなくとも配慮までしてくれるわけではない。
コツは欲張りすぎず、止まり過ぎないこと。しかし蜂のように刺す!
「ナパームか!」
急ぎ後退、「傷だらけ」が吐き出したゲ……可燃性の痰が貪る大赤依に付着、次の瞬間着火した痰が容易に消せぬ炎となる。
「Gyorarararararararrrrriri!!!?」
いいね有効打だ、貪る大赤依の正体は大量の飛蝗が一つの生物のように振る舞う群体存在だ。だから極論を言えば打撃斬撃などは大したダメージにならない。あの巨体からすれば爪楊枝の先端で引っかかれるか尻を押し込まれるか程度の違いでしかないだろうからな。
だが炎は面でダメージを与える上にゲロナパームはそう簡単に消えない、味方になると非常に心強い継続ダメージソースになるわけだ。
とはいえ………懸念がある。流石の俺でもはっきり覚えている戦いの記憶、俺と「傷だらけ」と貪る大赤依……この三者が同時に陥るイベントがある。
そしてそのイベントはどう考えても「プレイヤーのいち魔法程度、スルーしてもいいよね」とはならないもので……つまり何が起きるかといえば。
『───見上げ、大地、見下げ、深淵。天に土、地に闇。おお、世界は逆転する……!!』
観客席に激しく見覚えのある杖(本物ではないだろうけど)を持った人型が現れたのを見た瞬間、とりあえず奴を殴り飛ばそうとノータイムで決心してしまうくらいには奴へのヘイトが高まる。
「あんのクソ変態ィ……!」
狭くはないが広くもない筈のコロシアムが物理法則では絶対にあり得ない動きで「拡張」される。
地響きを立てて広がるとかそういう次元ではない、SEで例えるなら「にゅっ」とか「ぐいっ」とかそれくらいの気軽さで、この劇場はスタジアムと言って差し支えない広さになったのだ。そして深さも……
「くっ………わぁーったよやりゃいいんだろやりゃあ!!」
あの時はスキル連結をしていなかったが、今は違う。臨界速は立ち止まることを許さない、どうやってこの深淵の底まで降りる? 空中でインベントリアに逃げ込むのも手だが、この後に起きるイベントを考えると下にいた方がいいだろう。
真上から迫る超質量が深淵を圧し潰さんと迫る。大穴の縁から流れてくる「歌姫」の歌はこれから起きる事を歌い上げるだけでどうやって降りればいいのかなんて教えてはくれない。畜生め、具体案を出せ具体案を。
だが臨界速で高所から着地する方法は一つしかない、三歩で下まで加速して二歩で着地する。道理を無理で踏破する半自殺行為だ。
「だが、念のための保険だ……っ!」
傑剣への憧刃を真下へと投擲、俺よりも僅かに先行して落ちていく黄金の剣が暗闇に消えて………
キンッ
「はいここォーっ!!!」
暗闇の中で、聖剣でも魔剣でもない黄金剣こそが俺の命を繋ぐ。底にぶつかった音を頼りに両足裏を素早く地面に叩きつける。
臨界速は踏みつけてから発動するまでにほんの少しだけ「間」がある。
それこそステップ一つ入れられるかどうかの僅かな隙間だが……だからこそこういう芸当ができる、素早く両足を地面にぶつける事で二歩分の加速を一度に使うダブルドライブ!!
まるで地面の下から巨大な力に殴り飛ばされたような衝撃、三歩分の加速も入った落下エネルギーを二歩のエネルギーが上書きする。恐らくだが高さが足りなかった、三歩分を込めた落下エネルギーでも一歩踏むごとに加速を高める四歩目と五歩目につり合いきらなかった。
「どぁああ!!?」
だからこうなる、跳ね飛ばされた俺の身体がふたたび深淵の中をクルクルと舞って……はい最強、はい巧妙、はい百点!!!
若干六割程削れた体力を回復しつつ、轟音と共に落ちてきた二体の怪物に目を向ける。あ、巻きでいく感じですか?
「【転送:格納空間】!!」
落ちながら例の筋肉サイクロプスに変貌していた「赤」を余所に、俺はかつてと同じく格納空間へとエスケープするのだった。
今後ともますます頑張っていきます(隻狼に詰まったので更新している、また天守閣かよ)




