あなたの為のオーケストラ 其の三
シラフジお前……エリア封鎖、してないのか……?
「っっっっしゃあ!!」
サンキューパチエモン! 二度と出てくんなバーカ!! 「ウェザエモン」を名乗るなら恋人でも作ってからにするんだな!
だが油断はできない、オルケストラは英雄譚における苦難……つまり強敵を再現してくる、何が出てくるか……心当たりが多すぎて我ながら怒りすら湧いてくる。もうお前生産職になれよ、畑耕してもうちっと平和なゲームライフを送る気はないのか。
「ないなぁ……!!」
俺はサバイバアルやヤシロバードほど頭はおかしく無いが、それでも危牧なんかでは積極的に災獣に戦いを挑むタイプだ。根っこの部分がアクションゲー向けなんだなこれが。
さて、呼吸を整え体力を回復しているうちにオルケストラは第二楽章へと入ったらしい。
『【サンラクの紡いだ物語】第二楽章……「夜空、地の月」』
ヴァイオリンの数が増えた、あとなんだっけあの笛……パッケラパッケラ歌うやつ……ああそうだクラリネット。
その数を増やしたオーケストラの音圧がさらに増していく。それに対応するかのように、劇場全体が震え出して……いや違うぞ、これは音関係なくフィールドが揺れている!
「うおぉ!?」
ずごん! と眼前の地面から何かが飛び出す。まさか新手の奇襲? 音楽と見せかけてやっぱダイレクトに殺しにくるのか? だが地面から生えてきたものを、そして今なお生えてきているものを見てその疑惑は解消される。
「地の月……そして水晶フィールド……そうかよ、次の相手はお前か!!」
瞬く間に劇場が水晶に覆われていく。現れる幻影、月のない地下において、大地に輝く月光の黄金がその巨体で俺を威嚇する。その鋏脚は同族を狩ることに特化している、その尾はより攻撃的に進化している……すなわち、そのモンスターの名は金晶独蠍!!
「……………」
えー、あー、うん。まぁ確かに「サンラク」というアバターが今に至るまでを物語とするなら決して外すことのできない存在ではあるんだが……その、な?
「防具を作るにあたり、乱獲したから割と慣れてるし……」
物語的に再現しなきゃならんのは多分初めて戦った時だろうけど……さて、とりあえず戦いつつ歌を聴いて思い出すか。
『───夜空、空に月光、照らし、蓄え、地に月の蠍』
金晶独蠍は距離を離すと尻尾から毒液をレーザーの如く飛ばしてくる、だから基本的な戦術はインファイトが望ましい。
全身攻撃特化だからな、鋏や尻尾の針には相当な自信があるのだろう。奴の取る行動の殆どはそれらに依存しているし、だからこそ読みやすい。
俺の身体を挟んで断ち切らんと開かれた鋏をジャンプで回避、そのまま鋏を踏み台に蠍の胴体に跳び乗る。
すかさず串刺しを狙った針の刺突が繰り出されるが、刺突というものは横から打たれると弱い。いなし、的外れな方向に伸びていった尾に刃を叩きつけ、振り落とされない内に自ら飛び降りてスタミナを回復。
「基本はこの流れの連続だが……」
さて、初戦の時はどう戦ったっけか?
『───月を穿つ刃、されど握るは拳、幸運が、月を貫く』
「リメンバーッ!!」
思い出したぜ! お前もそうだろう傑剣への憧焉終刃! 俺の記憶が正しければ、あの時ブッ刺した湖沼の短剣は傑剣への憧焉終刃に強化した方だった筈。
ならば状況再現だ、多脚によって生み出される回転力が単純な質量以上の殺意を尾に込めて一回転する中で走り高跳びの如く身体を捻って跳躍、床から突き出した水晶を足場にしつつ着地して一気に距離を詰める。
「人力パイルゥ……!」
やけにあっさりと傑剣への憧焉終刃の鋒が金晶独蠍の目に突き刺さる、物語の再現だからこそ「正しい状況再現」が通りやすくなっているのか? まぁいい、やることはただ一つ……百秀の神腕起動!
「バンカァーッ!!」
打撃強化された拳が傑剣への憧焉終刃の柄尻を強打、押し出された刃が金晶独蠍に深々と突き立てられる。
当然再現された敵といえど深々と剣を突き刺されたならば暴れまわる。巻き添えで潰されては堪ったものではないと急ぎ距離を離して次の歌詞を待つ。
『───目覚め、波濤、同胞は、敵を呑む、故に、月光は、暁に消えゆく………』
「え? ん? えーと……………あっ、思い出したけどマジですか!?」
ゴゴゴゴゴゴ……と地面が揺れ始める。その揺れが俺にかつて何が起きたのかを思い出させる。そうだ確か俺はあの時………待って! インベントリアナーフされてるんですけど!?!?
揺れはますます酷くなっていく、剣山のごとく屹立する水晶が爆ぜるように砕け散り、新たに巨大な蠍が再現されていく。その数は三、五、十……おっと、埋まるなこれ?
「き、距離を……!!」
この後に起きるのは文字通り水晶の大津波、下手な自動車より極悪な蠍共が自滅承知で突っ込んでくるキラー・おしくらまんじゅうだ。あの時はインベントリアによるエスケープで凌いだが……この狭くはないが広くもない舞台の中でインベントリアの制限に引っかからないモンスターから離れた座標を確保できるか!?
「右!」
だめ!
「左!」
今増えた!
「前……は論外、後ろ!?」
壁! いや観客席……ダメだ! ボス戦特有の謎バリアーが張られている! 畜生どうする!!
「上だあああああっ!!」
臨界速はダメだ、天井に激突して死ぬ。どうする、臨界速に機動系スキルぶっこんでるから足で上に行くのは不可能。だったらマジックパワーに頼るしかねぇ!!
「持っててよかった使い捨て魔術媒体!」
【瞬間転移】のスクロールを使い、上空の座標へと転移、そしてその場でインベントリア!!
「っく……なんだかすげー久しぶりに使った気がする……」
外道共と話す以外だともっぱらエスケープにばかり使っていたせいか、身体に染み付いた動きが無意識のうちにMP回復アイテムを手元に喚び出している。それを使いつつ息を整え、再び現実空間へ。
「よーし、思い出してきたぞ」
いや、水晶群蠍を撃退して見せたあの金晶独蠍の姿を忘れたわけではないが、ぼんやりとした「思い出」がはっきりとした「記憶」に戻った感覚だ。この後がクライマックスだろう、さぁ歌えよオルケストラ。
『───暁の光、薄らぐ月光、消えゆく月光、朝日受けなお輝く月光……三の月輝く時、英雄は………』
「『月を断つ」』
致命秘奥【タチキリワカチ】、あの日昇る太陽の光を受けて輝いた刃の光が再び輝く。一太刀を入れ、返す刀で同じ軌跡を斬りあげる二連の斬撃があの日と同じく黄金の蠍を討った……これにて第二楽章は終わった、そうだろう。
「さぁ次は何がくる?」
再現金晶独蠍が消えていく。それと同時に床を覆う仮初めの水晶平原もまた粒子となって消えていき…………いや違う、これは、水晶が、赤く………!!
「マジかよ」
砕けたはずの水晶がどろりと溶けていく。透明な輝きは禍々しい「赤」に汚染され、どろりと広がるそれは血のようで……まるで水面に顔を出すように、一面に広がった「赤」からそれは現れた。
『【サンラクの紡いだ物語】第三楽章……「赤く、赤く」』
貪る、大赤依………!!!!
実はまだ創世さんがイジった「オルケストラの追加要素」は出ていない。つまりこの再現ボスラッシュはオルケストラの元々の性能
無論サービス開始前の段階では創世さんの意向で「当時の性能据え置き」で出てきていたがりっちゃんが頑張って「部分的再現」にナーフした




