あなたの為のオーケストラ 其の二
しらふじ おまえ まじ ほんと おまえ
せめて りろーど しろ
晴天流「断風」……ウェザエモンが扱えばそのどれもが必殺足りうる流派に属する絶技の数々、その中でも間違いなく最速の抜刀術の名だ。
最速で抜く、最速で斬る、最速で収める……全部最速にすれば最強だよね? と言わんばかりの初見じゃなくても殺される必殺の刃が今、数ヶ月ぶりに俺の首を狙って抜き放たれた。
だが、この時点で一つわかったことがある……
「ん……っのオラぁ!!」
ガイィン!! と凄まじい衝撃が防御に用いた傑剣との憧焉終刃と傑剣への憧刃ごと俺の身体を吹き飛ばす。だが俺のステータスによって実現した攻撃的クリティカルガードは二つの黄金剣の耐久も、俺自身のHPも減らすことなく必殺の抜刀を防御することに成功していた。
「ステータスに異常なし……レベルダウン能力を忘れてるぜパチエモン!!」
完全再現じゃない、「断風」の防御なんて本来は無理だ。だがこの戦闘が開始してから変動していないステータスと第一楽章という単語で確信した………耐久か、撃破か、どちらにせよ再現ウェザエモンは本来のユニークモンスター「墓守のウェザエモン」の下位互換ってことだ。
少なくともレベルダウン結界が無いだけでも即死級チート攻撃が即死級危険攻撃、くらいにまでは軽減されている。問題は「倒すのか」「耐えるのか」って事なんだが……………いいや、今はこの幸運に感謝するべきかな?
「レベルアップして、晴天流を解放して……いつも気になっていた」
ウェザエモンのステージギミックを否定するわけじゃないが、ああいうのは一種のイベント戦と言うか通常時の戦闘とは明確に異なるが故にとある疑問が浮かぶものだ。
そう、例えばレベルダウンしていない今の自分がウェザエモンとガチったらどうなるの、とか考えちゃうんだよなぁ……!!
「来いよパチエモン、あの日の俺と同じと思うなよ? 今の俺は……かなり強い!!」
「大時化」
「見様見真似するほど知ってんだよその投げはァ!!」
再現ウェザエモンの巨体が一気に俺へと詰めてくる。伸ばされた手に掴まれれば受け身を取る暇もなく投げられ叩きつけられる。だが今の俺ならその動きを目で追えてしまう、避けながら反撃を行う事だってできる!!
「っしゃあ!!」
二つの剣を上空へと放り投げ、各種スキルを連続起動して己を高めつつ取り出したアラドヴァル・リビルドを両手で握りしめる。
致命秘奥【タチキリワカチ】、片手剣としても両手剣としても扱える混血の剣だからこそ使える月を断つ二連撃が再現ウェザエモンの二の腕に傷を刻む。手の中でその実体をインベントリの中へと消したアラドヴァル・リビルドに変わって落ちてきた二つの黄金剣をキャッチ、連続攻撃を再現ウェザエモンへと叩き込む。
「どうしたどうした!」
「雷鐘」
「ならこれで同速だな」
封雷の撃鉄・災、あの時は持っていなかった黒い雷の力が俺の身体を過剰なまでに速める。真界観測眼起動、可視化された攻撃の軌道が恐ろしい数の「死」が俺に降り注ぐことを予見する。だが遅い、一発の落雷が速かろうとDPSが回ってねーんだよ。
「だからこんな真似も出来る……!」
再現ウェザエモンを軸に一周。過剰挙動を限界まで飼い慣らした精密運動による極小の円運動は一筆書きで丸を描くようにウェザエモンを落雷で囲む。だがな、筆によって塗られた軌跡は筆自身に追いつくことは出来ない! 追尾の落雷、その最後の一発が一秒以下の時点で俺がいた場所に落ちた時……俺は既に攻撃動作を始めている!
「っ!!」
大上段に黄金剣二振りを振り上げた俺へと再現ウェザエモンが刀を振るう。だがその刃は「俺」の腰から肩へと一切の抵抗なく、まるで幻覚のようにするりと通り抜けて………ウツロウミカガミの背後では百足式8-0.5をフルスイングする俺の姿が。
「おおぉりゃあ!!!」
快打、面頬へクリティカルにめり込む機斧槍。流石に派手に吹っ飛ぶとまではいかないがイイのを食らわせてやった。このまま削り倒してやるよオラァ!!
……
…………
………………
と息巻いたのは何分前のことだったか。
「い、いつまで続くんだこれ……!?」
おかしい、まさか体力据え置き? んなわけあるか仮にジークヴルムとか出てきたら完璧無理ゲーじゃねーか。それを差し引いても確かウェザエモンって形態進行で体力が自動的に減っていくタイプだったろ!
「くっ、なめんなっ!」
これでも徹夜で孤島サバイバルとか平気でやってた身だ、やろうと思えば徹夜で戦うこともできないこともないかもしれないが……できる、とやる、では別問題だしそもそも再現ウェザエモンで終わりというわけでも無いのだからこの状況をクリアする方法を考えるしかない。
状況整理だ、再現ウェザエモンに関しては省略。この戦闘において重要なのはこれがオルケストラのギミックであるということだ。大時化回避、カウンターを入れる。
オルケストラの能力はおそらく「物語の再現」……吟遊詩人が英雄譚を謳うようにプレイヤーがこれまでに戦ってきた強敵を一部再現で召喚する。だが単純に倒せば良いというわけではなさそうだし、時間制限ってわけでもなさそうだ。余裕があるときに数えてみたがあの「歌姫」が歌ってる歌……というかオーケストラによる演奏そのものが既に4ループくらいしている。つまり何らかの条件を達成しなければ永遠に戦う羽目になるってことだ。雷鐘、ウツロウミカガミエスケープで対処。
なんども実感しているがシャンフロは設定重視、時にはゲームバランスよりも設定が優先される……というよりも設定ありきでゲームバランスが形成されている。つまりここで重要なのはオルケストラを設定面から考察すること。そういう点ではライブラリこそがシャンフロ攻略における最適解なのかもしれないな。
「オルケストラは……英雄譚を謳う!」
英雄譚は、英雄の偉業を語るもの! なら、この状況とどうリンクする!? 英雄譚、偉業、成したこと……成したこと?
「そうか!!」
よーし、考えろ! フル回転してる脳みそに頑張って空き容量を作り出せ! んでもって空いた脳みそで記憶を漁れ!! えーと、あの時は……………………クッッッソ晴天大征しか記憶にないぞ!? ええい頑張れスカベンジャー!!
『───墓守は、愛ゆえに、目を離し……英雄は、刃を、見据えて…』
「そうだ思い出した!」
BGMと思っていたが違う、「歌姫」が奏でる歌声……その歌詞は!!
これなら行け……いや武器がねーよスキルもねーよ再現無理じゃん!! いや、待て、流石に旧大陸で戦った時の装備そのままでここにくるなんて想定はされてない、なら……!!
「来い! 状況再現だ!!」
「晴天大征」
来る、ウェザエモン最後の切り札であるリキャストキャンセル即死連打! だがそこは重要じゃない、大事なのはラストの「天晴」───!!
雷の雨が降る、駆け抜けた先に雲の腕。ジャンプすれば炎が降り注ぎ、煙が俺を捕らえようとする包囲から抜け出せば神速の抜刀術。今思えば天秤で強化されていたとはいえレベル50固定のステータスでよく対処したな俺。
だが今の俺なら、油断しなけりゃ当たらない攻撃でしか無い。そして問題の最後……ウェザエモン究極の一撃、避けれず受ければ刃が毀れ肉は容易く断たれる「天晴」……あの時俺はどうしていた? 回復ポーションガチャに二度失敗しつつもその時を迎える。こうしていたのさ……!!
「奥義開眼、名付けて肉抜刀……!!」
サクッと自刃、幕末を駆けていればおのずと鍛えられる切腹テクニックによってするりと腹に刃が通る。システムの判定により確定で体力が1だけ残り……そして横っ腹に刺した傑剣への憧刃をさながら己そのものを鞘であるかのように振舞わせて抜き放つ。
狙うは刀の腹、あの時は二つのスキルが必要だったが今の俺なら真界観測眼だけで事足りる……っ!!
「訓読みフィニーッシュ!!!」
斬! と俺のすぐ隣の地面に再現ウェザエモンの刀が突き立てられる。完全再現はどう考えても無理、だとすれば似たような状況を作れば良いんじゃないか?
『───そして、墓守は、ようやく、永く、憩う……刹那、想うは、誰の顔……』
その答えは、第一楽章を〆る「歌姫」の歌詞と、消え去るウェザエモンの幻影だった。
「天晴」攻略、読みを転じて「天晴」に御座る……ってな。さぁ次行ってみよう。
英雄譚に独自解釈はいらない、演じるなら脚本に忠実に




