岩窟の主
どうも水着ユエル一発ツモ硬梨菜です
「プレイヤー名不明、多数の蛇を引き連れた女性と同行している姿を目撃された……ね」
少なくともあのゴルドゥニーネじゃあねーな、アレが多数の蛇なんか連れてたら目撃だけで終わるかよ。
となればウィンプ同様別個体、サミーちゃんさんのような特化型ではなく数を戦力にするタイプか……?
「んー……エムルはどう思う?」
「どう思うも何も蛇はあんまし好きじゃないですわ……ヴォーパルバニーの歴史は蛇との戦いの歴史でもあるんですわ」
実はさっきからずっとマフラーに擬態していたエムルは既に擬態を解いて頭の上、定位置に乗っている。一応質問してみたがまぁ有益な答えが返ってくるはずもなく。長くラビッツに侵攻してたのはゴルドゥニーネの抜け殻だったし、流石に大陸中に分布するゴルドゥニーネの事までは分からないか。
「ま、ダメ元で奴にも聞いてみるか……エムル、例の場所に」
「はいなっ!」
サイナから手渡されたコンサートチケットだが、当然ながら会場に行かなければ意味がない。そして会場があるという座標から最も近いセーブポイントは……俺が設置したシグモニア前線渓谷中心底部の洞穴だ。
最近放置しっぱなしだったヘタレニーネも気になることだし、早速転移して見たものは…………
「んー、ここはもっとまるみをおびてたほうが……」
「……何してんの?」
「へひゃあっ!?」
何やらこう……本来は人を汚染し命を蝕む筈の毒を使って岩を溶かしながら形を整えている、言うなればそう「彫刻」に精を出すアホが一名。
一丁前に布の切れっ端か何かを頭に巻いて職人気取ってるアホの周囲には何やらいくつもの完成品が並んでいる……
「ど、どうよっ! なづけて……「きけん」!!」
「そうだな、悪魔か何かかな? 動物頭モチーフってのはそう珍しいものじゃないしな。成る程? ハシビロコウの悪魔か、角や翼まで生やして本格的じゃあないかハハハ……」
「ははは……」
星外套を装備、その両末端を両手で掴んでバッと翼の如く広げて……
「誰が「危険」じゃコラァーッ!!」
「ほんものぉーっ!!?」
この俺を悪魔呼ばわりとはいい度胸じゃねぇか!
「疑問:こちらの像の詳細を問います」
「…………「きょうちょう」」
協調………? あっ、凶兆!!
「把握:敵対宣言と認定」
「ちょ、それこっちむけないでよ!」
バカかこいつは……何故よりにもよって最高の物的証拠を嬉々として並べてるんだ………メカニカルゾンビな彫像の隣で器用にも青筋を浮かべたサイナが武装をウィンプへと突きつける。それはそれとして結構出来がいいな、頭が完全に鳥である事とか目がイッてる事はこの際目を瞑ってやろう。
「このやたら雄々しい蛇は……」
「サミーちゃん」
「素晴らしい出来栄えだな、ヘタレを守護する威風に満ち溢れている」
「でしょー?」
煽ってんだけどなぁー……
どうだ、とばかりに頭を上げるサミーちゃんさん。二割増しで脚色されているというか面構えが完全に蛇じゃなくてドラゴンっぽくなってるが……サミーちゃんさんの偉大さを表現するにはそれでも不足しているくらいだ。
「しかし………」
前ここに来た時と比べて家具の位置が色々違うし、なんというか……引きこもり生活してるヘタレ色にカスタムされてね?
「あ、そうだ! ごはんなくなったんだけど! すぱいすほしい!!」
「いや買ってきたけどさぁ……」
なんだろうなー、リアルじゃバリバリ扶養される側の俺だがなんだか保護者の気持ちがわかったというか……いいのか? このヘタレニーネどころかヘタレニートをこのままにしていいのか?
いや、レベルそのものは結構順調に上がっている。サミーちゃんさんのレベルが異様に高くなってるのはもうこの際気にしないでおくが、ウィンプ自身もレベル90台に到達している。
「なんで精神力のパラメータがないんだろうな……」
いやむしろ必要なのは勇気のパラメータか? 蛇でも今は足があるんだから一歩踏み出せよ……
「まぁいいや、ちょっとお前に質問があるんだが」
「なによ」
「やたら大量にお供の蛇を引き連れた「ゴルドゥニーネ」に心当たりは?」
「そんなのいままでいっぱいみてきたわよ」
ただ、とウィンプは未完成の彫刻を毒の染み出す手で溶かし削りながら口を開く。
「はちひき」
「あん?」
「はちひきのへびをつれて、いまでもいきのびてそうなやつならしってるわ」
………ほう?
「なまえなんて、どうせわたしだろうけど……へびたちのことは「オロチ」ってよんでた」
こりゃまたメジャーな名前な事で……ただ八匹全部別個体ってのは何気に厄介だな。八回連続攻撃してくる敵とのタイマン、と八対一、は意味合いが全く違うものになる。具体的に言うとターン制なら普通に死ねる。
ていうか八匹全部オロチなの? オロチ一号二号とか呼び分けてんの?
「そいつ、へびのあつかいがうまかったのをおぼえてる」
「成る程ね」
単純な物量ではなく本体込みで精密な動きを実現してるとしたら今まで生き延びていてもおかしくはない……か。
確定というわけじゃないが思考に留めておいた方がいいだろう、そしてますますウィンプの情報は外に出せなくなってきたなコレ。
事前準備で割と致命傷っていうかウチの蛇は本体性能がゴミ、という弱点が剥き出し状態なのでサミーちゃんさんの能力が割れた瞬間詰む。サミーちゃんさんのステルスは確かに高性能だが、実体そのものはそこに存在しているのだから面制圧の範囲攻撃に弱いという欠点がある。
特にあのゴルドゥニーネは天敵と言っていい、従えている龍蛇は存在が範囲攻撃とかいう無茶苦茶スケールなのがもうずるい。しかも本体が弱いかといえばンなことはなく、毒属性付与の剣聖とでも言うべき壊れ性能だ。
「……やっぱこれ協力が大前提な気がしてならない」
単純に考えてソロで倒すとかそう言う次元じゃない、それこそゴルドゥニーネ全員で────
「……いや、そういうことなのか?」
まさか、互いに反発し合うゴルドゥニーネ達をプレイヤーがなんとかして協力させ合うのが………いや、いや、待て待て今からオルケストラに挑むってのに思考が逸れすぎだ。
第一今あれこれ考えたところでウチのゴルドゥニーネはヘタレニートだ、少なくともワンパンで死なない程度には鍛えなければお話にもならない。いやせめてメンタルをもう少し鍛えるには……
「滝……」
「いとがわからないからよけいこわい!! たきでなにするつもり!?」
滝行か、滝壺落としか……うーん、間を取って滝バンジー!!
「頑張ろうな……」
「なにを!!?」
バンジーをだよ。
……
…………
………………
ヘタレニートはなんだかんだ調味料……というか香辛料だけ渡しておけば(流石にちょっと哀れなのである程度の食料も置いていくが)止むを得ずといった様子ではあるが主食を求めて蜘蛛狩りレベリングを行うのでそのようにするとして。ひっそりと前線渓谷を突破した俺、エムル、サイナは時折加速を入れつつも大陸を南西へと突き進む。
「解説:大陸西方に行くにつれ、分布する生態系は巨大化する傾向を見せます」
「へー」
「例えばあちら、クアド・ライノトプスなどはジュラ・ヴァルカンレクスなどが広く分布していた時代からその性質を変えることなく体躯のみを巨大化させた種であり……」
「ちなみに向こうさん、すげー勢いで逃げてくけど」
「クアド・ライノトプスは「雄のみ」の場合は温厚な性格で戦いを避けます。特に契約者のような全身から危険臭を放つような者であればあのように」
人が悪臭放ってるみたいに言うな。
「ただ、「雌や仔」がいる場合、雄個体は攻撃的傾向を見せます」
「あー……つまり女子供の前ではいいカッコしてる、と」
「……端的に纏めれば、そうなります」
すまんね、生物学は専門外だ。将来的には経済学に進みたいと考えてるし……経済学ってSLGやってたら成績上がんねーかな? 戦争から学ぶ経済活性、即ち戦争経済……っ!!
「相変わらずサンラクサンはどこでも呑気ですわー」
「人の頭の上でゴリゴリ人参食ってる兎に言われたかねぇなぁ」
なんていうか、何度かあからさまに肉食なモンスターと遭遇したのだが、なんだろうね……地面に落ちたご飯粒でも見かけたみたいな目で見られてそのままスルーされるというか、釣り針に引っかかってた小魚をリリースする時の目というか。
「要約:腹の足しにもなりゃしねぇ」
「何故屈辱を感じるのだろうか……」
食材にだって、プライドはある。
なおプレイヤー同士で結束できるとは言っていない




