冥府よりの招待状
エルシャドール・レダメが欲しい
なんだか被った瞬間に首筋へと注射針を刺されてライオットブラッドを注入されそうで怖いから例のヘルメットは観賞用として封印している。
デザインはシンプルに好みなんだけど所有に至るまでの経緯がホラーすぎるんだよなぁ……後からカッツォにメールしてそれとなく幹部「毘沙門天」について聞いてみたけど役に立たねぇし。
あの後帰宅してから緊張の糸が切れたのか、エナジーカイザーで延命したカフェインが切れたのか電源が落ちたかのように熟睡したもんだからスッキリとした朝を迎えた俺は……
「え? 旧大陸で始源眷属大発生してやばいってマジ?」
「知らなかった、んですか……?」
「あー、うんまぁちょっと別件でね」
シャンフロガチ廃人こと斎賀さんから伝えられた情報は、俺を驚愕させるに十分な力を秘めていた。
なんでもサードレマ近辺に「青い馬」が出現したとか、神話の大森林に「緑の群れ」がいるとか……ジークヴルムを始めとして全体的に最先端を行っていたのは新大陸側だと思われていたが、ジークヴルム撃破を発端とする次段階への移行は、旧大陸側でも騒乱の風を吹かせているらしい。
「それ以外でも、サードレマの領主と国王が険悪……と、聞いています」
「人間関係側も進んでるのか……」
ちと調べてみるか。うっ、トレンドに「チャンネル8」がまだ残ってる……いやそうではなく、えーと? 何々……
「サードレマにレイドモンスター襲来、国は支援をせずサードレマ領主の娘を嫁に要求……」
とんでもねぇ緊急事態に「お父さん娘さんをください」やらかしてサードレマ領主激おこ、と。オイオイ人間関係がシェイクみたいなドロドロになってやがる、啜ったら蜜のように甘くて美味しそうじゃあないですかぁ!!
「どうも、低いレベル程有利に戦える敵、らしく……」
「出現エリア的にも初心者参加用レイドモンスターってところか……?」
どうなんだろうな……このゲーム、世界観前提のバランス調整をする節があるから偶然そうなったという可能性も捨てきれない。
シャンフロは人口が多い上にゲーマー的人種も多いので余程多数が証言しない限りは情報の信憑性を証明することができない。特に「黒」「白」の情報が完全に錯綜している。
今の所俺が把握しているレイドモンスターは新大陸側の「青」「赤」、旧大陸側の「赤」「青」だけだ。恐らく貪る大赤依が一瞬だけ見せたあの異形の筋肉サイクロプスが新大陸側のレイドモンスターではないかと睨んでいるが……うーむ。
「この青馬? ってのは関与できそうにないね」
「ですね……体力の最大値、ごと削るらしいので」
キツイなー、普通の体力は元々ゴミだから上限はそこまでって感じだが刻傷で防げないタイプの状態異常だとどちらにせよ死ぬって感じだし……
「黒剣とかはどう動くとか聞いてる?」
「姉さんは……リュカオーン撃破に向けて、旧大陸に戻るそうです。ただ、神話の大森林にレイドモンスターが出た、という情報もあるので……」
ああ、なんかレアアイテムが取れるエリアなんだっけ? レイドモンスターは放置すると環境ごと荒らしかねないからトップクランが知らんぷりは出来んだろうな。
「午後十時軍は、新大陸に専念するようで……」
「へぇー……」
まぁ午後十時軍がどう動くにせよ、意地でもリヴァイアサンから離れようとしないだろう奴に一人心当たりはあるけど。
まぁどの口がほざく、とは自覚しているが一部プレイヤーによって秘匿されがちなユニークモンスターとは違ってレイドモンスターは時間を置いて何度でも復活することが確定している。未だ分母の多い旧大陸側の方が情報の伝達が早い、ここに来てトッププレイヤー達もまた新旧どちらの大陸に留まるかを選ぶことになるわけだ。
「陽務君は……どうする、んですか?」
「ヴォーパル運送がある俺達にどっちもクソもない気がするけど……まぁ、リヴァイアサンの攻略を進めるかなぁ?」
「確か、一層がとても広いとか……」
「……広かったねぇ」
アリバイク縛りで攻略するならちょっとした旅だからな……下手にダンジョンしてる分、距離が誤魔化されないからマジで遭難するとキツい。
「その……陽務君は、第二殻層なんですよね? もし、私が追いついたら、一緒に探索とか……」
「え? そりゃ構わないけど」
「本当ですか!?」
流石は斎賀さんと言うべきか……現状リヴァイアサンの攻略を最も進めている俺との同行をリアル方面から確約させる抜け目なさ、やはりガチ廃か……
別に断る理由もないので受けてもいい、という心理を突いた一手と言うべきだろう。
「ふっ………やっぱ斎賀さんはスゲーなぁ」
「……???」
シャンフロにかける熱意ってやつ?
畏敬の念は心にしまいつつ、今日も今日とて別々の教室に分かれるまで話に花を咲かせるのだった。
◆
なんていうかな。たとえ時間にすれば数日程度ログインしなかっただけだとしても、別ゲーでの時間が濃密すぎたせいで随分と久しぶりにこの場所に立っている気分っていうか……ある種の郷愁? に似た感情すら抱いちゃうもんなんだよな。
「……色々聞きたいことは多いが、とりあえず聞くわ……何これ?」
「落胆:契約者とはいえその質問には知性の実在性を疑わざるを得ませんね…………これは、紙です」
「原材料は誰も聞いてねーよポンコツ、用途を聞いてんだよ」
「……? 主に筆記などにおいて記録媒体として……」
「あー、うん。質問の仕方を間違えた俺が悪かった」
百聞はなんとやらだが千回質問しても状況を把握できそうにねーわ。
何故そんなキャバ嬢みたいなドレスなんぞ着てるのか、とかそもそもどこで手に入れたんだそれ、とかだからこの封筒はなんなんだよ、とか……中身を見れば済む話か。
「………招待状?」
「肯定:契約者はプロトコル「オルケストラ」における設定条件を満たしました。その為、征服人形暫定規約に基づき「コンサート」への招待状が進呈されます」
───私は、貴方を待っています。どうか、貴方の為に歌を
無感情な文体と簡潔な文面。しかしそれだけでは済ませられないような強い熱が込められた招待状。そして封筒を開くことが条件だったのだろう……普通は見慣れることはないのだろうが、かれこれ七度目のウィンドウが表示される。
『ユニークシナリオEXの条件を達成しました』
『ユニークシナリオEX「あなたに捧ぐ旋律」を開始しますか?はい いいえ』
『称号【七つ星の観測者】を獲得しました』
わぁい、遂にコンプリートしちゃったよ。
「マジかー……ちなみにプロトコル「オルケストラ」の条件は?」
「解説:征服人形との契約、及び暫定規約に基づいた旧人類知識の一定保有です」
「…………そうか」
条件が緩すぎる、樹海で間違い探しレベルのウェザエモンやクソ縛りノルマのヴァイスアッシュ、突然のギャルゲーなゴルドゥニーネと比べてこの条件……恐らくだが、オルケストラは再戦可能なタイプと見た。
となれば………流すか? いい加減秘匿三昧ってのもアレだし、どうせ遅かれ早かれ「次」は出てくるだろう。
「分かった、【ライブラリ】の処に寄ってからコンサートに行こうじゃねーか」
「承認:プロトコル「オルケストラ」を進行します」
まったく、暇しねぇゲームライフだなオイ。
「ところでドレスコードとかあるの?」
「一般的な常識に準拠するのでは?」
「武装しないという何よりの誠意、実質礼服では?」
「指摘:控えめに言って門前払いでは?」
じゃあ外套着けてお洒落レベル上げとくわ。俺の事はシャンフロお洒落界の異端児とでも呼んでくれ……っ!!
デートデートとはしゃぐヒロインちゃん、ため息をつく岩巻の図




