現実は時に幻想を凌駕する神秘性を発露する
ジャパーン!!
「………。」
ヴォンッ
『Dinoscull XXX-XXX-XXXX』
掌に載せられるサイズのカードからティラノサウルスの骨格が咆哮を上げ、傷のようなデザインでダイナスカルの文字が表示される。
「………。」
フォンッ
『Zodiac Cluster XXX-XXX-XXXX』
別のカードを手に取れば、プラネタリウムの如く星座が浮かび上がり、星と星とを繋いだ線がゾディアック・クラスタの文字を描く。
「はー……無駄に高性能だなコレ……」
AR搭載デジタル名刺……これ一枚作るのにちょっとお高いレストランで四人くらい食わせるくらいのお金がかかってるとか……大丈夫か「電脳大隊」、御社の名刺は紙製だったけど文明遅れてない?
「…………困った、全く眠くならない」
あの後も大変だった……なんか話の流れで全員ランダム選出でタッグマッチをやる羽目になったり、質問大会でナチュラルにカッツォへセクハラが飛んだり、ライオットブラッドについて熱く語らされたり……あびびびび……そうですね、ライオットブラッドに関して不安の声があることは純然たる事実ではありますがそれは暗闇を恐れる心に近いんです。子供の頃にトイレに続く道を恐れた経験は? ええ、ええ、それは人として至極当然の反応です。ライオットブラッドに抱く恐怖もそれに近しいものなんです……ライオットブラッドの合法性は科学的に実証されています、後は一歩踏み出す勇気が大切なんですね。暗闇の中に何を見ましたか? 牙を剥いたゾンビ・ビースト? 悍ましい殺人鬼? それは貴方の目が見たものではないのです、謂わば脳が生み出した架空の瞳が見つめる幻……さぁ、電気をつけてライオットブラッドをぐびっといきましょう、怪物なんていませんよ? カフェインが貴方に勇気をくれる……………おばばばば、そうそうこんな感じでスラスラとレビューして……変な電波受信した?
参ったな、人類はまだWi-FiもBluetoothも内蔵できてないはずなんだが………まさか、脳内に直接? いや考えまい、ライオットブラッドは清く正しいカフェイン飲料です! 復唱!!
「さて……………これどうしましょ?」
一応家に連絡は入れたけど……これ帰れるかな。
「イッッッエへヘェーイ!! ニッポンサイコー! 二十でお酒が飲めちゃーう!!」
「いや君飲んだの酒じゃなくてただのクラブサイダー……っぐぇ」
「フィーバャー!!」
「……っ! ………っ! …………っ」
ボクササイズだかなんだか知らないが、要するに素人ではない腕力を持つシルバーの仮面を外したシルヴィア・ゴールドバーグ(状態異常:場酔い)によって締め上げられたカッツォがそっと落ちたのを視界の端に入れつつ、俺は反対側に視線を向ける。
『んで負けんだよ……っかしーだろ……あんなタイミングでガキとターゲットエネミーが揃ってんだよ……状況がジャックポットじゃねーか……』
ぐちぐちぐちぐちぐちぐち……
グビグビグビグビグビグビ……
愚痴っていた、グビッていた。
目減りしていく酒瓶をお供にただひたすら己の世界へと沈んでいく般若……もといアメリア・サリヴァン。
誰に当たるでもなく、シルヴィア・ゴールドバーグと比べると刺々しいとはいえ外向きに向いていた感情の全てが内向きになっているというか、話しかけると睨まれるのでこれはこれで面倒臭い。あとクソ早口の英語になるので聞き取れない。
誰が言い出したかも定かではない飲み会は一人気絶、一人暴走、一人悪酔……そしてただ一人暗殺幼女や壁登り衛生兵としての経験をフルで活かして極限まで影を薄くした俺。
「……マスター、フルーツオレ一つ」
「お客さん、あちらの方からでございます」
流れてくるフルーツオレ……………あっ、おいマジかよバーの定番イベントじゃん! ていうかマスターもちょっとワクワクしてやがんな!? よーし乗ってやるぜ!
「一体誰から……」
「やぁ、どうも」
闇の中に、目が浮かんでいる……いや違う、薄暗い照明だから保護色になってやがるんだ。い、いやまさか、頭巾だけじゃなくて全身まで黒ローブを纏うことを許された社員は……!
「幹、部……!?」
「ガトリングドラム日本支社で営業部の長を務めております、そうですね……私のことは毘沙門天と」
毘沙門天……日本支社は七人の幹部だと聞く……というか、声的に………んん?
「この度は全世界規模でライオットブラッドのマーケティングに貢献していただき、ガトリングドラム社としましても是非とも感謝の印を受け取っていただきたく……こちらをお持ち致しました」
「は、はぁ………」
日付すら越えてないんだけど……? 一体いつ聞きつけて………いや気にしたら負け、気にしたら……シャーっと流れてきた機械仕掛けの箱がひとりでに開いて……
「顔隠し氏の代名詞……ジャックのヘルメットをこちら、特別カラーリングに塗装したもので……」
「こ、これは……!」
ま、まさか……ライオットブラッドカラーリングのジャックヘルメット……!?
「え、ちょ、待ってこれ最新型のVRシステム拡張パーツ……」
え、嘘でしょ? 電力内蔵型? コンセントに繋げなくてもいいやつっていうかARとVRの両方に対応してるやつじゃね? この端子って携帯端末に繋げてこれ単体でリアルタイムAR展開する……えぇ? これメット型VRシステム並のプライスじゃ……
「………」
ちら、と横を見れば白目を剥いたカッツォ、何故か嬉々としてお冷やを一気飲みするシルヴィア、空のグラスを呷り続けるアメリア…………うーん、他に客も無し。
「マスター、口の硬さに自信は?」
「老い先短い身ですから、お客様の秘密は墓の下まで持って行きますとも」
「ガトリングドラム社はお客様の個人情報の一切は保護されております」
くそッ、ダンディズムのない冴えない顔した爺さんのくせにノリだけはクッソ良いな……! 最高かよあんた……!! ならば仕方ないヘルメットを脱いで、晒した素顔でちょっとだけ熱い頬を吊り上げて、新しいヘルメットを被って、
◆
「……っは!?」
あれ? え? 車? なんで?
「い、いや……確かバカ共は放置して先に帰って、タクシー乗って……」
あれ? え? 夢オチ?
「お客さん、ぐっすり寝てましたよ」
「え、え、あ……あれ、そうでした? いや、うん、まぁ今日は疲れたので……」
ふぅー…………ライオットブラッドの過剰一歩手前の摂取が見せた幻覚、かぁ……。
流石に無茶をしすぎたな、えーとホットケーキミックスに卵とラ、入れない…牛乳を入れて混ぜて焼いて完成……最後にライ、はかけない……いや甘いんだからメープルシロップの代用にしても良いのでは? 良かねーわ。
しかし悪夢というにはファンタジー色の強い夢だった……なんかガトリングドラム社だったらマジでやりそうな
ゴンッ
「……………………え?」
いや、いやいや、鞄の中に入れたジャックヘルメットに何か当たった音だろう。でも、携帯端末はズボンのポケットだし財布や家の鍵も同じくポケット……でも、こんな互いに音が響くもの同士がぶつかる音なんて……
「………」
滴る汗を拭い、僅かに首元を緩めながら何故か行きよりも膨らみが増えているように見えてならない、鞄を、開いて…………
「ひぇっ!?」
そこには、都心の煌々たるシティライトを受けて光るライオットブラッドカスタムのジャックヘルメットが入っていたのだった───
キャーーーーーッ!(ホラー特有の悲鳴)
どこからが夢なんでしょうね(すっとぼけ)
とりあえず辻褄を無理やり合わせたいならライオットブラッド絡めときゃええやろ、な精神は矯正していきたい
毘沙門天さんについては気にしないでください、シャンフロ現実世界に僅かに生き残った希少な「夜の種族」にして人に夢を見せるのが得意な感じのアレでライオット「ブラッド」の秘密に関わっている幹部の一人かもしれないし、単なる一般人かもしれない。
ただ一つだけ言えるのは今後再登場することは多分ないですし、彼女は例の姉とは違ってちゃんと結婚もできるタイプの仕事できるウーマン、ということです




