関節技こそ孤島の技よ
インディちゃんとポネキに衣装ってマジ?
別名……いや、本来の名称は暗黒妖精神拳と言うそれは、GH:Cという従来の格ゲーとは大きく異なる戦場において生み出された禁忌の拳である。
いくつかの例外はあるが、基本的にGH:Cは一対一がデフォルトだ。それ故にこの魔拳は活用される筈のないものだった、何よりティンクルピクシーが「ヒーロー側」に属している以上、それを振るうと言うことがどう言うことなのかは言うまでもないことだった。
そう、暗黒妖精神拳……あるいはTQC邪悪スタイルの正体とは「一対多数」を想定したバトルスタイル、NPCを軒並み殴り飛ばす必要がないヒーローサイドだからこそ禁忌とされていたそれはトライアングル・トリニティの実装によって日の目を浴びるに至ったのだ。
◆◆
「行くぞオラァ!!」
駆け出した俺に反応した「機械群」の何体かが銃口を向ける。雑魚の方は照準を定めてから発砲するまでに二秒程の隙がある、プレイヤー操作でもない銃弾を喰らうほど耄碌はしちゃいない。
「そんなクソホーミングで尻に火がつくわけねーだろうが……!!」
前傾姿勢で駆け抜け、跳躍。蜥蜴のような形状の機械群を飛び越え、その頭上で宙返りしつつ背中に着地。身軽な体躯を活かして元車(リムジン?)と思しき巨躯を駆け下りる。
そこから加速、こちらへと銃口を突きつけ、狙いを定めたカブトムシとクワガタタイプの機械群のど真ん中へと突っ込む。
「粉ってろ虫どもが」
パウダー散布、先人達の検証でティンクル・パウダーは残留している限りスタン効果は複数の者に適用されることは明らかになっている。
だからこそあえて二体の機械群が挟む小さな隙間に身体をねじ込む事で確実にパウダーの射程圏内に収めることが出来る。そしてピクシーの小柄な身体であれば抜け出すのも容易!
「接近戦か、悪くないが動きが単調だぜ「戦乙女」!」
ダスト戦の時からAI更新してねーの? 時代に置いてかれるぜポンコツが。
安直に振り下ろされた突撃槍を身体を捻って回避し、駆け出し二歩踏み出した瞬間にティンクルピクシーが備える浮遊能力を発動。
浮遊時はそこまでの速度は出せない、だが例外的に最初から勢いがあれば慣性でそのまま滑るように進むことが出来る。
「ティンキー☆ケツバット!!」
アスファルトの上をあたかも氷上が如く滑って「戦乙女」の背後へと回り込んだ俺はティンクル☆ワンドによる全身全霊のフルスイングを奴のケツに叩き込む。
ティンキー☆膝カックンや禁断のティンキー☆セブンスキルでも良かったが、流石に後者は絵的にヤバいし社会的に死ぬので除外。というか一回野良で「戦乙女」にセクハラかました勇者と遭遇したことあったが………いや、あんな酷い事件を再び掘り起こす必要もあるまい。
金属の顔が表情を作ることはない、だがそれでも随分と間抜けな吹っ飛び方をした「戦乙女」を余所に、再び駆け出す。
もう雑魚に構う時間はない、ターゲットエネミーのくせに味方強化に性能全振りしてるせいで地味に体力が多い以外マジで取り柄がない……つまり、激烈に弱っちい「大佐」は機械群ターゲットエネミーの中では最も与し易いエネミーである。
「くたばれヌーディスト!!」
「読めてんだよドラッグ妖精!」
「おいやめろティンクル☆パウダーは合法だろうが!!」
「人体改造する粉のどこが合法だぁぁあ!!」
「いや全くごもっともで……がっ!!」
脇腹に強烈なブローが叩き込まれる。すんでのところでワンドでのガードが間に合ったが、小柄なピクシーは苦労して詰めた距離を無情にも再び引き離される。吹き飛ばされた拍子に手を離してしまったのか、ティンクル☆ワンドがどこにもない。
「ぐ、」
駄目だ、ほぼ全てのステータスで負けていてはどうしようもねぇ。だがどうする? 使うか? だが……いや、今だからこそ、なのか? このティンクル・ピクシーの身体であれば、あるいは。
そこで気づく、今俺が吹き飛ばされ転がった場所は……なんの偶然か、妖精の小さな手でもそれに届く場所だった。
「…………そうかよ」
よりにもよって丁度手が届く場所に吹っ飛ばされたってことは、つまり天がそうしろと言っているんだろう。
ガシャ、と握りしめたそれはティンクル・ピクシーには少々大きすぎて。だがそれは非常に懐かしい手触りとも言えるだろう。
「残り十秒ちょい、か」
あの日以来、オフライン環境でしか使えなかった。だからこそ、今この瞬間この場所という……オンライン環境に立っているがために、俺の中でずっとOFFのままだった最後のスイッチがONになった気がした。
「ふぅー………………よし」
このゲーム、今何人が見ているんだろうな……だが、そうだな、瞬きを忘れるくらいのプレイを見せてやるよ。
残り十二秒、こちらにヘイトを向ける雑魚には最早構ってる時間はない。最小限かつ最低限必要なスライディングやジャンプを駆使して突破、再び「大佐」率いる機巧の最前線へと躊躇いなく飛び込んだ。
「───ふ、ふふふ」
なんだかとても愉快な気分だ、クルクルと持ち主の喪われた銃を手の中で回しながら前へ、前へ、前へ!
障害物がたくさんある、隠れられる、飛び越えられる、奇襲できる! だが回りくどい、シンプルに行こうか。
小さな身体は余程の「ガチ勢」でない限りは絶対に油断を誘える。前へ、前へ。邪魔だポンコツ、お前ンとこの無能を助けに行こうってんだぜ? どけ。
「…………!!」
小さな身体をさらに縮こめて、限界まで速度を出しつつも同時に音もなく這い寄るように前へ、前へ、前へ。
見えた、やはりプリズンブレイカー時に「大佐」を削って再収監された時に纏うつもりか。だが……甘い。
「へぁろー」
「っ!!」
回し蹴り、回避で対応。
裏拳、回避で対応。
バックステップ、接近で対応。
「チィ……!!」
さしものプロゲーマーもプリズンブレイカーの制限時間には焦るらしい。随分と素直な軌道で繰り出された正拳……それを待っていた、燃えろライオットブラッド! 覚悟を決めろ!!
「ぐぅう!!」
「なっ───」
ゴッ!! と視界が揺れる。避けようと思えばいくらでも方法はあったはずの雑なストレート、しかし俺が選んだのは回避でも防御でもない……自ら拳の軌道へと頭突きのように顔面を叩き込む素受けだ。
真正面から受け止めた事でHPが一気に削れ……しかし乱数の女神は今度は俺に微笑みかけた。自ら受け止めるという踏ん張りはティンクル・ピクシーの身体を物理的にも存在的にもかろうじてその場に押し留め、一瞬だが確かにプリズンブレイカーを硬直させた。
刮目せよ、これこそ孤島における幼女式強制間隙生成術……不意打ち顔面シールド! 捩くれた欲望を隠そうともしない変態サイコ以外には高確率で効くサバイバル・クォーター・コンバット!!
「いたいけな少女の左目に拳を叩き込んだ気分はどうだい?」
「な、ん………何っ!?」
隙を晒したなアメリア・サリヴァン。残る体力は一割未満、だが俺が遺した残弾は六発フルチャージだ。
俺の左目に突き刺さった拳に手を掛けると、飛びかかるように跳躍してプリズンブレイカーの体勢を崩しにかかる。
「塵は塵に───」
浮遊と空中ジャンプを利用した妖精式関節技。既にカースドプリズンへと戻りつつある発光半裸の腕を捻って固め、ダストの銃を無防備な奴の後頭部へと押し付ける。
「悪魔憑きと異世界妖精からの置き土産だ」
「ぐ、おあああああああああ!!!」
一発、二発、三発、四発。
マズルフラッシュが乱舞し、放たれた善の弾丸が奴の頭を速く鋭くぶっ叩く。このゲームがR18であったなら、この時点で決着していたかもしれないが……残念、15歳以上対象なんだよね。
「ナメるなぁぁ!!」
「くっ………ガッ!!?」
あと一発、それで倒せるところまでは追い詰めた。だがそこまでだった。
再び呪われた鎧に包まれる過程でティンクル・ピクシーの身体は弾き飛ばされ……ヤケクソで放った最後の二発は冷静な防御によって弾かれた。
そして単純なトドメ以上の感情が込められたタックルによって壁と鎧とにサンドされた妖精の体から力が抜けて…………
俺はここまでだ、健闘を祈るぜ俺。
当たるとは思ってなかったパンチがクリーンヒットしたと思ったら殴られて変な角度に曲がった顔でオリジナル笑顔見せられるホラー展開から関節技に繋がって近距離連射食らわされたの図




