チャンネルはそのままで
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「あー、あー、皆さん見えてますか? チャンネルそのままっ! TVユーガッタから愛を込めて、笹原エイトのチャンネル8! 始まりますよーっ!!」
パチン、と華やかな笑みを浮かべる女性が指を鳴らした瞬間、現実空間であるはずのスタジオ内にいくつもの流れ星が流星群となって降り注ぎ、女性の真上にポップなデザインのロゴを表示する。
「見てくださいこれ! これ! 私も詳細知らないんですけど今日はスペシャル版という事でいつもの場所ではなくTVユーガッタ第二スタジオからお送りしてまーす! 凄い! 完全投影ARですよ!!」
クルクルと女性……今売り出し中のアイドル笹原エイトが人差し指を立ててクルクルと渦を作るような動きをすると、それに追随するように小さな銀河系が生み出される。
フルダイブVRではない、コスト面の問題から一般家庭への普及という点ではVRに敗北したものの、資金面での問題を解決できるだけの企業などが採用する技術が存在する。
それこそがAR、いわゆる拡張現実である。
VRが電脳に世界を作る技術であるならば、ARは現実世界をより鮮やかに彩る技術、そしてとある人物の思惑によって本来は小さなスタジオで収録するはずだった「笹原エイトのチャンネル8!」はTVユーガッタ社内でも数少ないARマシンが備え付けられた大型スタジオ、かつゴールデンタイムに生放送という大躍進を遂げていたのだった。
「いやホント、割とマジに詳細知らされてないんですけど……ドッキリなら早めに言ってくれるとエイトちゃんのメンタルが守られるんですけど?」
『※マジでドッキリじゃないです byディレクター』
「ひぇっ! 空間投影カンペ!? 特番レベルの奴ですよこれぇ……! あ、これ配信動画のコメントも拾えるんだ……視聴者の皆さんもARデビューしてますよこれ!凄いなぁ……時代ですねぇ……未来キてますよ!」
スタッフが操作したのか、エイトの背後をUFOが飛んで行った。スタッフ達もまた最上級の設備にテンションが上がっているのか、どこか浮ついた様子のエイトは気を取り直すとカメラへと笑顔を向ける。
「本日はなんと! 特別ゲストを呼んでいるのです! 私的にこの状況について何か知ってるんじゃないかなーと睨んでいるのですが……早速ご登場してもらいましょう! プロゲーマー、魚臣 慧さんでーすっ!!」
次の瞬間、AR技術によって巧妙にカメラから隠されていたセット裏から男……慧が現れる。そしてその登場はリアルタイムでARシステムによって脚色され、番組を視聴する者達にはまるでいきなりその場に転送されてきたかのように見えているだろう。
「ははは……どうもどうも」
「GGCの時にお会いしましたから……三ヶ月ぶりくらいでしょうか? お久しぶりですね!」
「そうですね……皆さんどうも、魚臣です」
スタジオ空間に投影された配信動画コメントが瞬く間に文字列の奔流となるのを眺めながらも慧はにこやかに挨拶をする。
スポーツ選手などと比較してもゲームプレイの画面を見られる、つまりテレビに出演するのと似た状況で活動するプロゲーマーは半分はタレントのようなものである。
カメラへと営業スマイルを向ける慧の立ち振る舞いは手馴れたものであり、番組は順調に進行している……少なくとも今現在は。
「で、魚臣さん? いきなりディレクターから「突然だけど今週のチャンネル8は特別放送で第二スタジオ使います」ってマジで打ち合わせなく言われた私に説明して下さるんですかー?」
「いやいや、これに関しては確かに無関係じゃないけど僕も被害者ですからね? 話すと長いんですけど……そうですね、元々エイトさんにも秘密のゲスト呼ぶかもって言ってたじゃないですか僕」
「そう! そうなんですよ! 実は魚臣さん側からシークレットゲスト呼んでもいいかー、って打診来てたんですよね! もしかしてその人が?」
「いやー……そこからさらに込み入った事情があるというか……そのシークレットゲスト絡みでさらに二人ほど割と強引に差し込んできたというか……」
「ん? それって全部で三人いるってことですか?」
「一人はマジで余分というか……んー、もう呼んじゃいますか! はい登場演出お願いします!!」
エイトは知らないが裏方として、そして番組の制作をするにあたって突発的に発生した事情を知る者達の操作によって三つの登場演出がARによって投影される。そしてそこから現れる三つの人影。
一人は少女と思しき小柄な身体に、あまり素性の隠蔽に貢献しているとは言い難い目元だけを隠す仮面をつけたシルヴ………謎の人物。
一人は仮面の少女とは対照的に男にも負けない程の長身でありながらも女性らしさを損なっていない体躯に何故か般若の面をつけたアメリ……謎の人物。
一人はおそらくコスプレ用のものであろう人面にくり抜いたカボチャをモチーフにしたのだろうフルフェイスヘルメットで顔を隠し、何故か腰にエナジードリンクを吊るしたサンラ……謎の人物。
「あの、魚臣さん? 約二名は多分私面識あるっぽいですし、あの方も見間違いじゃなければ割とものすごいビッグネームじゃ……」
「ミステリアス・シルバーマスクさんとマスクドハンニャさんです」
「え、いやあの……」
「バカンス中の全米一が日本のテレビに出演するわけないじゃないですかハハハ、あくまでも名義上はミステリアス・シルバーマスクですよ」
「ミス・エイト! おヒサし!」
「おっと誤魔化すつもり皆無なキラーパスをうまく捌けるほどエイトちゃんは司会力高くないですよぉ!?」
「うーん、僕もフォローできるほど肝座ってないですからねー………はははコラコラ、「死んだ目をした魚臣きゅん趣深い」じゃねーぞー」
一体どういうことなんだとエイトが視線を向けた先、演技ではないマジもんの諦観で澱んだ目をした慧を認識したエイトの笑顔がわずかに引きつる。
だが腐ってもアイドル、腐っても己の冠番組。なんとか自身の流れへと戻す為にシル、もとい謎銀仮面から残る二者へと視線を向け……
「あなたはノーフェイスですか?」
「…………」
カメラ映りなど一切考慮しない一点集中で顔隠しを凝視するアメ、もといマスクドハンニャと、どこか祈るように右手で腰のエナジードリンクに触れながらも無言で睨み返す顔隠しの姿に、笹原エイトは荒波の芸能界においてなお未だかつてない大嵐を予感したのだった……
同じ事務所のアイドルとかゲーム声優とかを呼んで和気藹々とゲームしたりする番組がいきなりゴールデンタイム生中継で全米一位二位、よく分からん仮面ヤローをゲストにガチバトル放送
視聴者数が国内外含めて十倍になるまであと二分




