またの名を妖精神拳
じめんにめりこんでいる。
かべにうまっている。
てんじょうにつきささっている。
ちかてつにげきとつした。
とらっくにげきとつした。
びるにおしつぶされた。
みずにおちた。
いしのなかにいる。
がそりんすたんどふみぬいてばくはつした。
なんかもうとりあえずばくはつした。
なんならなにもしてないのにばくはつした。
もしや自分は気づいていないだけでドジっ子属性があるのではと疑いもした。だが、今や俺はGH:Cのシステムに完全適応したと言っていいだろう。
「馬鹿な……完全敗北、だと……?」
「感謝するぜ……TQCは今ここに完成を見た……! いざ成敗、ティンキー☆」
「ぐぁぁぁあ!!」
もっぱら打撃用に使われるティンクル☆ワンドが致命的一撃を叩き込み、なんか筋肉ムキムキの全身タイツが派手に吹き飛ぶ。プレイヤーネーム「Dr.ガトーショコラ」……てめーに舐めさせられた三敗の辛酸……ノーダメストレート勝利でチャラにしてやろう。
「いい仕上がりだ……」
いや、うん。お相手さんはカスプリをお望みかもしれないが、アレはアレで結構使ってて頭使うというか脳筋みたいな性能してるくせに活かすためには周辺環境を把握しなきゃいけないから使ってて疲れるし……まぁティンクルピクシーの超近接戦闘スタイルは参考になるからセーフですセーフ。
「さて……」
昼あたりからブーストかけてレートに潜ったのでそろそろ次で最上位ティアーに到達する。この手のゲームはオカルト的な連敗地獄に陥ることがままあるが……フッ、今の俺ならシルヴィア・ゴールドバーグにだって負けない。いや負けるわ、あいつ性能おかしいもん。だがそれはあくまでも非エナドリ充填時の話だ……
「お、マッチングした」
んー? 対戦相手の名前……「カッツォクラウン」? クラゲじゃねーか、というかコレ………………へぇーほぉーふぅーん?????
いやいや、別にその名前が特許ってわけでもないし奇跡的確率でそれっぽい他人の可能性もある。
とりあえず野良マッチだと遭遇と同時に挨拶する場合もあるし……おっ、見つけた。なんだっけかあのキャラ……アムドラヴァでもシルバージャンパーでもない。なんだ……? まぁいい、とりあえず声を誤魔化して……っと。
「カッツォクラウンさん対戦お願いしまーす(裏声)」
「え? あー、うんよろしくお願いします」
ほっほぉーーーーーーーん? 当確でございますな???
く、くくくくく……なんとなくGH:Cを普段使いの「サンラク」でやるのが憚られたので即席ネーミング「リカースティール」でやってたのがこんな所で役に立つとはなぁ……!!
フィールドタイプは切り株型か、ケイオースタワーを中心に円形のマップが広がるタイプで全体的に直線が少ない形式だ。なんかアプデで追加されたらしい。
「おちょくるのは確定としても……なんだあのキャラ、見たことねぇ(裏声)」
考えられる可能性としてはDLC、ダウンロードコンテンツか? もう日付は変わった、そうなると今日実装されたキャラという可能性が出てくる。
見た感じ、腰に吊るしている二丁拳銃で戦う系のキャラだろう。そして暫定カッツォ改め確定カッツォの表情からして近距離戦はあまり望ましい様子ではなかった。使い慣れないキャラだから、という可能性も捨てきれないがそれなら距離を離す動きは必要ないはず。
「遠距離主体、かつ手数で攻めるコンボファイターってところか(裏声)」
「あぁ、知らない感じの人? そうだよ、俺もさっきアプデしたばっかだけどこの「ダスト」は遠距離型のアタッカーだよ」
「わぁ、ご親切にありがとうございまーす!(裏声)」
舐めプかぁ? 面白い、ブチのめしてやるよ!!
「ティンクルパウダー☆(裏声)」
「くっ」
今使っているティンクルピクシーはクソみたいな耐久と約一メートル未満の短射程というデメリットを負う代わりに、非常に高性能な拘束と鬼性能のコンボ持続力を持つキャラだ。
若干発生が遅いのが不満だが、拘束技である「ティンクルパウダー☆」はガード状態以外で敵が触れれば問答無用でスタン状態にする。
とはいえティンクルピクシーはそれなりに研究も進んだキャラ、如何に魚野郎とはいえ、容易く捕まりはしない。
「見せてやろう……TQCを!(裏声)」
「え、なにそ……のわっ!?」
霧状に散布された不思議な粉(隠喩)から距離を取ることは想定済みだ、俺はティンクルピクシーの小柄な体躯と宙に浮いている性質を最大に利用した最短挙動で奴の背後に回り込むと、その背を蹴り飛ばして不思議な粉の中へと叩き込む。
TQC、正式には妖精格闘術。
全国、いや全世界のティンクルピクシー使い達が連綿と受け継ぎ、そしてこのケイオースシティで開花した如何に相手をスタンさせて殴り倒すかを追求したバトルスタイル! そして俺のTQCはイアイフィスト流を組み込んだ派生形。
意識の隙間を穿つイアイフィストの極意が組み込まれた事で実質的なレンジを三メートルにまで拡張している……!!
「身体の輪郭が歪むまでティンキー☆してやるよクラゲ野郎」
「あっっ!! てめーまさかサンラ───」
「ティンキー☆☆☆(裏声)」
「ぬわぁぁーっ!!?」
わははははボッコボコにしてやんよ!!
……
…………
オイカッツォ:おいティンクル羽虫
オイカッツォ:おいコラ出てこいティンクル羽虫
サンラク:ティンキー☆
オイカッツォ:後でTQCとかいうやつ教えて
オイカッツォ:いやそうではなく
サンラク:しれっと本音優先させんなよ
オイカッツォ:それはともかく! メールにユーガッタのパスとか送っといたから当日はそれで通れると思うよ
サンラク:確認した
サンラク:"顔隠し"様て
オイカッツォ:いや他にどう登録しろと
サンラク:これ素顔でパス出したらただのアホじゃねーか
サンラク:駅から覆面被って来いってか
オイカッツォ:コスプレヘルメットつけたまま居酒屋に入った奴が何を今更
サンラク:言うてくれおる……
サンラク:まぁ受けたもんは仕方ない、なんとかするわ
オイカッツォ:覆面レスラーとかってこう言う苦労してたんだなぁって、それに別に◯◯様ご来場です! なんて大々的に喧伝されるわけでもないんだしそこまで気にしなくていいでしょ
サンラク:まぁそりゃそうだろうけど
サンラク:ていうか一つ聞きたいんだけどさ
オイカッツォ:ん?
サンラク:どうせGH:Cをやるのは確定だろうけど、それについてちょっとな
…………
……
「さてと……」
ちっとばかしやる事が出来ちまったな。アプデも完了したようだし……今日は気分的にライオットブラッド・クォンタムかな、悪食的に貪欲にってか。
「徹夜行軍だ」
Xデーまであと僅か、モノにしてやるよ……!!
今、妖精神拳三千年の歴史を受け継ぐ胸に傷持つ妖精の世紀末救世主伝説が……