人よ、人よと語りかけるモノ
Vの者の配信見てると作業が進まないまま無尽蔵に時間が潰れるから困る
現在進行形で会話可能なキャラクターって時点で「強い」ですよね
『素晴らしい! 第一殻層「迎門」突破おめでとうございます!!』
「はいどうもどうも。で、帰りたいんだけど」
『まずはこちら、第一殻層統括試練対象撃破報酬として、こちら「アンバージャックパス:レベル1」を進呈いたします!』
「ワカシってか。で、帰りたいんだけど」
鰤は鰤大根にするのもいいがカマ焼きがシンプルで好き、いやそれはどうでもいい。
出世魚的にレベルが上がれば相応の恩恵を受けられるパターンだろうか?
『さらに「スコア」を加算しまして……あ、こちら報酬アイテムの「船外活動用有人保護アーマー・レプリカ」になります』
「あ、どうも。で、帰りたいんだけど」
フレーバーテキストを読む限り、神代における宇宙服のレプリカってところか? かつて使われなくなったが再び使うことになった、とか色々気になる文章がチラホラ見えるが……
『それでは第二殻層「教道」へ転送致しますね!』
「待てコラ」
帰りたいって再三言ってるんですがねぇ! イベント進行なので会話成立しないとは言わせねーぞ!!
『そんなぁ……ほ、ほら、めくるめく神代の叡智が貴方を待っているんですよ?』
「別に興味がないとは言ってないだろ、学ぶ気概もある。単純に住み込みじゃなくて通学させろってだけだ」
『むむむむむ……いえ、そうですね。「勇魚」は人に寄り添い人を導くもの……ええ、その歩みを縛るようなことはしてはいけないのでしょう。分かりました、ですがそれはそれとして次回訪問の際に転送する座標記録の為に次殻層への転送自体はしますね?』
「ん、それなら頼むわ」
『では指向性重力加速転送、起動します!!』
「んん???」
待て、何だ今の違和感。指向性の重力で加速して転送? え、転送じゃないの? 語感的にそれめちゃくちゃ力技じゃ………
「うおっ」
「なんっ」
「インテリジェンス・フロートですね」
なん、
『それでは第二殻層へ……アセンション・プリーズ!』
「なんじゃそらぁぁぁあぁあぁあぁ………………!!?」
一瞬の浮遊ののち、見えない手に思い切り放り投げられたかのような強烈な圧とともに俺たちは真上へと吹き飛んでいく。
見下ろした先、地平線の先まで見える「迎門」を俯瞰する。そして見上げた先、照明と空とを兼ねる天井の一部がゆっくりと開き始める。
ジタバタと暴れながらもなんとか姿勢を安定させ、泳ごうとしているアラバを小突いて落ち着かせながらも上を見上げる。
少なくとも徒歩で走るよりかは遥かに速い速度で俺、アラバ(と、ネレイス)、サイナは第一殻層の天井を通過し……第二の層を目の当たりにする。
「草原?」
「どいうことだ!?」
「インテリジェンス・アナライズの必要がありますね」
「インテリジェンス・語彙力が頭悪いぞサイナ」
「フッ、インテリジェンス・理解力……」
ポンコツめ……!
それはそれとして流石に空中に放り出してハイ転送完了、と雑な仕事をするような事もなく、複数のシャッターが閉じて穴など最初から存在しなかったかのように草っ原となった地面にゆっくりと着地した俺達は辺りを見回し……
「オープンテラスってそういう事じゃないと思う」
『け、景観的な配慮です! 神代じゃこれが流行だったんですよ? そう、所謂激マブ……っ!』
それリアルでも死語なのに神代的には古文レベルじゃないのか。
草原のど真ん中に自販機とドリンクバー的なものと机椅が野晒しに置かれている光景になんともいえないものを感じながらも、俺たちはとりあえず野晒しの席に着く。
「一旦帰るのは確定だが、それはそれとして色々システム的な質問がある。いいか?」
『遠慮なくどうぞ』
では遠慮なく。
……
…………
………………
……………………
「───まぁ、こんなもんか」
結論から言うならアンバージャックパスのレベルを上げないことには始まらないって事だ。
特にファストトラベル権が獲得できるレベル3まで上げるのは急務じゃないか? 俺一旦帰るけど。
「あぁそれと最後に………」
期待はしていない、だが一応聞いておいた方がいいだろう。俺はインベントリアから銃の形をしたそれを取り出すと、アラバ達がドリンクバーではしゃいでいるが故に俺と勇魚の一対一による最後の質問を投げかける。
「───この中の破損データを修復できるか?」
噛ませ……もといエドワード・オールドクリングが遺した何かのデータ。どう見てもお前は知り過ぎたパターンで退場したと思しき男の最後の研究成果、それがこのBCビーコンの中に破損状態で収められている。
所々読めない、ならそういうフレーバーとして諦めもついた。だが完全に読めないとなれば「修復」の可能性が見えてくる、神代技術の総本山と言っていいリヴァイアサンなら修復自体は可能なんじゃないか?
いや、アンバージャックパスなんてコンテンツが出てきた時点で今すぐ閲覧できるとは思っちゃいないが……知りたいのは可能か不可能か、だ。
『………ふふ、そうですか。やはりあの人が最期の時まで親友と呼び続けただけのことはあるのですね』
果たして、勇魚の返答は笑みを伴っていた。
それは嘲笑うようにも、微笑むようにも、苦笑うようにも見えた。瞬きする度に受け取る印象が変わる、AIキャラとは思えない感情の混沌。
『すでに修復は終わりましたが……ごめんなさい、特級秘匿ロックを掛けさせてもらいました』
鯨の女は語る。
『それはこの世界の真実、星の海を渡る術すら知らぬ貴方達には無用の智慧なのです』
「知る必要はない、と?」
『いいえ、いいえ、それは違います新人類。最短は必ずしも正解ではない、貴方達は遠回りしなければならないのです』
「具体的には?」
『アンバージャックパス:レベル5の取得、及び必要資格の取得ですね』
あー、面倒そう。パスのレベルはともかくとしても、いっそライブラリ辺りに情報流して代わりにやってもらおうかな……まぁ保留でいいか。
「そっか、まぁ急を要して知りたいわけでもないしまったりクリアしていくさ」
『それでは……一度艦外へと出られますか?』
「あ、ちょっと待ってスコアで買い物してくる」
空中に浮いた勇魚がすっ転んだモーションを見せたが、ゲーマーとしてのサガなんだ許せ。
◇
外部からの侵入は物理的に弾かれ、語りかけども事務的な謝罪文の載ったウィンドウが表示されるだけ。それが出現してから幾日か、既にプレイヤー達はリヴァイアサンへのアプローチを行い尽くしていた。
「うおっ、魔法少女が砂浜で体育座りしてる……なんだありゃ」
「あぁ、【ライブラリ】のリーダーだよ。三日くらい前からログインしてはああしてリヴァイアサンを見つめてるらしい」
「絵面から物悲しさが伝わってくるな……」
リアルの姿であったならなんとも言えない光景も、ピンキーでファンシーな格好の少女であるが故にかろうじて中和されている。
ここ数日リアルでの仕事も手付かずのキョージュは、今日も今日とて海岸からリヴァイアサンを眺めていて…………それ故に、リヴァイアサンの「変化」に最初に気づいたのもまた、彼であった。
「……………ぁ?」
それをどう形容すれば良いだろうか。大型のゲートと言うべきか、それともその形状を生物的に当てはめた場合の「口」に相当する巨大宇宙船の前方下部がゆっくりと開いている。
既に【ライブラリ】を筆頭に頭のプレイヤーが検証のために接近したことで、現在リヴァイアサンが海面から数メートル浮遊してその場に固定されていることは分かっている。
だがその巨大な威容に圧倒させられた大多数はリヴァイアサンの上部、あるいは船首から伸びた規格外サイズの「角」にばかり視線が向けられる。
「………っ!!?!?」
バッ! とリアルの年齢からは想像もできない俊敏な動きでインベントリから双眼鏡を取り出したキョージュは原始的なレンズを覗き込み、それを見た。
海と巨体とに挟まれ分かりづらいが、開かれたゲートハッチに何やら光が蓄積されていく光景を。そして膨れ上がった光が弾けた瞬間、リヴァイアサンからキョージュのいる海岸へと一直線に光の道が凄まじい速度で形成されていくのを。
「まさか……」
本人からの答えはなく、関係者も苦笑いで答えをはぐらかす中でキョージュはある仮説を立てていた。
リヴァイアサンへと入場を希望する言葉を投げると目の前に表示されるウィンドウ、そこには常に「準備中につきお待ちください」と表示されていた。
正式実装がまだなだけでは? という説もあった。だがキョージュが知る中で最もこの世界の未知に深く潜っているプレイヤーがリヴァイアサンの出現以降ぱったりと消息を絶っている事から、理屈ではなく直感でその可能性をキョージュは信じていた。
そしてそれが事実であると、今この瞬間証明された。
「………だからなんで移動方法が超物理的なんだぁぁぁぁぁあ!!!!」
「いっそ海に落としてくれ! その方がいい!」
「嘲笑:インテリジェンスの欠乏から安易な手段を選ぶのは下策です。今の状態で海に叩きつけられた場合……」
「場合?」
「粉砕されるかと」
「ぎゃぁあああ!!?」
「アラバうるっせぇ! ハイ両足揃えてバランス取って! アジン! ドゥヴァ! トゥリー!」
光の道を、カーリングもかくやという勢いで滑り飛んできた三つの影に、キョージュの目が数日ぶりに爛々と輝く。
「は、ははははははは!! よし来たァ!!」
渾身のガッツポーズを決めた魔法少女に周囲の者達が何事かと視線を向けるが、もはやキョージュの目にはそんなものは映っていない。
既にキョージュ以外にも異変に気付いたプレイヤー達が続々と集まり始める。それにつられて巨人族が、蟲人族が、獣人族が集まり、大きな包囲網を作り出した中、三人の「帰還者」達が砂浜に降り立つ。
僅かな沈黙、それはほんの僅かなきっかけで決壊してしまうほどに脆い。そしてそのことを理解しているのか、帰還者の先頭に立つ頭にだけ宇宙服のような奇妙なヘルメットを装備した……そして何故かヘルメットから黄金のオーラを放つ角を二本生やした男がゼスチャーで「まぁ待て」と集まった者達に示す。
そしてそのまま無言のボディーランゲージで「この手に何も持ってませんね?」「ハイ皆さん注目」と示すと……ウィンドウを操作し、これまでのシャンフロにおいて存在するはずのないモノを取り出し、天にその「銃口」を向ける。
そして、静寂を撃ち抜く発砲音が二度響く。それが示す事実に周囲のプレイヤー達の静寂が崩壊する絶妙なタイミングで……男は声を張り上げ叫んだ。
「銃器解禁ーーーーーっ!!!」
大歓声が砂浜を震撼させた。
Q.エドワード君は何を知り過ぎたの?
A.心を掴む重力について
Q.ジュリウスと勇魚は何を知ったの?
A.今までずっと悪意によるビンタだと思っていたものが善意で差し伸べられた手だったこと
Q.天津気 刹那のラボはどこにある?
A.原初の機龍と共に叡智の小舟は眠り、刹那と永遠の花だけが道を知っている