龍よ、龍よ! 其の三十八
「行くぞっ! フォーメーションフルバースト!!」
「もうちょっと粘りたい気持ちもある!」
「でもジークヴルムに当てるの難しそうじゃん?」
「一理ある!」
「ならここしかないだろ! やろうよ派手に!!」
SF-Zooの屋台骨、十人の後衛を守る為に立ち塞がる五人のタンク。彼らは「最大防御」ジョゼットにこそ及ばないが、極めて高い物理防御力と五人による連携……そしてもう一つの「切り札」を持っている。
「おーい! みんな俺たちの後ろに避難しろーっ!」
「巻き込むぞぉー!」
五人のプレイヤーが散開する。下半身丸出しという少々格好のつかない姿ではあるが、迷いなく走る彼らの貢献はブライレイニェゴ戦に加わった者であれば誰もが知っている。
そうして、五人のタンク達がブライレイニェゴと小竜達を囲むように布陣した頃には、全てのプレイヤーが包囲網の外側へと脱出していた。
「合図! えーと、園長抜きの時は……そうだスモークを上に投げる!」
「スモーク来た! 5!!」
「4!」
「3!」
ブライレイニェゴ達を囲む五人による鮮やかなヘイト分散により、小竜達は渦を巻くようにして包囲の内側へと閉じ込められる。
そして、五人のカウントダウンが揃ってゼロになった瞬間。
「行くぞぉぉ……!!」
「「「「「因果積撃!!」」」」」
魔術の防御を極限まで極めた結果が【熱血門】であると言うのならば。物理の防御を臨界まで高めた頂点こそが「因果積撃」、現時点を以って判明している全スキルの中で最高クラスの反撃スキルである。
受けたダメージをそのまま返す、倍返しにする、ダメージに応じて自身を強化する。
敵からの攻撃を前提とした受動的スキルは数多くあれど、因果積撃が最高クラスと称された理由はその「範囲」にこそある。
『ナん……ぐげぁ!!?』
「押し込め押し込めーっ!!」
「やっぱこれどう見ても魔法だろーっ!」
「おごごごご! 気ぃ抜いたら後ろに吹っ飛ばされそうだ……!」
「ふぎゃーっ!」
「もう吹っ飛ばされてるーっ!!」
五人の掲げた盾から放たれた衝撃波が小竜をも巻き込み中心にいるブライレイニェゴを五方向から圧縮する。
因果積撃は「戦闘開始時から発動時点までの総ダメージ量」を参照して盾から衝撃波を放つカウンタースキル、それ故に数時間に及ぶあまりに長すぎる戦闘……さらに言えば決戦フェーズという特殊な戦闘状態故にログアウトしても戦闘状態のまま、という裁定が五人すらも予想だにしない極限の威力を実現したのだ。
あまりに強すぎる衝撃波、まるでジェットエンジンを掲げているかのような反動に一人また一人と吹っ飛んで行く。
だがそれを差し引いても凄まじい加圧の衝撃は小竜を粉砕、あるいはそれに近い状態にまでダメージを与え、ブライレイニェゴ本体を大きく足止めする。
『な゛めるなぁぁぁぁ!!』
だが、たった五人でトドメを刺すに至るほどヤワなエネミーではない。蛙のような後脚を撓ませ、ブライレイニェゴは衝撃の届かない上空にまで跳ね上がる。
対象が空に逃げたこと、放つ衝撃を制御しきれないこともあって五人のタンク達が皆、因果積撃の発動を中断あるいは終了したタイミングでブライレイニェゴの巨体が地面へと着地する。
『許ザないィ……! 五匹、五匹だッタなァ……見つケダして、喰らイ潰シテぇ……!!』
「馬鹿だねブライレイニェゴ、自分で子供を踏み潰してちゃ世話がない」
『ゲロロロ! 子なド、また作レバいい……あ?』
「ノンノン。今、手駒を自分で潰したのが馬鹿ってことっ。ケッツォ! カウントダウンは必要!?」
「合わせるし、合わせられるだろ……!!」
無尽蔵に小竜を生産できることと、今すぐ小竜を生み出せることはまた別問題である。
さらに言えば、肉塊と化したブライレイニェゴであるが感覚器そのものは舌と融合した竜の上半身にある事が仇となった。
「アウトオブストック、閉店前に一発お見舞いしてあげる!」
「舌を外に出しっぱにしたのが失策その2ってね!」
始動はバラバラ、されど肉薄する頃には既にタイミングを完璧に合わせた二人の破壊者が拳を、脚を、互いに最大の力を出せる得物を振り放つ。
「───「暴渦の連撃」!!」
「───「鬼戟の断脚」!!」
『ゴ、ギィイ……!?』
途切れることなく続く円の動きから放たれる乱打がブライレイニェゴの右頬を叩きのめし、一撃に込めた力を研ぎ澄ませた回し蹴りがブライレイニェゴの左頬に突き刺さる。
「口元を狙えーっ!」
「小竜をリスキルしていけ!」
「脚だ! 脚を狙って機動力を削げ!!」
シャングリラ・フロンティアにおいては極論を言ってしまえばダメージと怯みはイコールではない。
極めて優れたAI、まさに本物の生き物と見間違うばかりの判断を下せるからこそ、両頬を打撃されたという事実だけでその巨体を硬直させてしまう。
そして、フィールドを駆け回りながら足止めの言葉を伝達していくSF-Zooのメンバー達によってはっきりとした意図は掴めずとも「足止め」が必要であると察知したプレイヤー達による一斉攻撃がブライレイニェゴへと叩き込まれた。
口を開こうにもすぐさま魔法が叩き込まれる、かろうじて小竜を生み出してもそれ以上の暴力で即座に潰される。
『オのれ、おのレェェ……! ゲレレレェェェェ!!!』
「跳びやがった!!」
「落ちてくるぞ逃げろーっ!!」
全身に攻撃を浴び、舌を出しっぱなしにしながらもブライレイニェゴの巨体が再び跳躍する。
口の端からはタイミング悪く生産された小竜が溢れ落ち、全身から噴き出すダメージエフェクトの流れる向きが重力演算に囚われ上へ上へと流れていく。
『死ネぇェぇェぇェぇ!!!』
僅かに空中で身を悶えさせて座標修正、確実に数人は踏み潰す軌道で地面へと白い肉塊が落ち、落ち、落ち………
「バカね……「三十秒」よ」
『ハぇ?』
落ちない。地面からヌルリと這い出してきた節くれだった二つの手が、肉塊をキャッチして締め上げる。
それは生者を掴むもの、それは死を帯びたもの、それは如何なる命をもその場に留めるもの。
『ギゲゲゲゴゴゴボボァァァ!!!?』
「─── 【鷲掴む冥府の腕】、時間は稼いだわよ!」
ギリギリと肉まんでも握り潰すかのように万力の如き力がブライレイニェゴを握り締め、口の端から外に露出した舌と、その先端に融合したブライレイニェゴの竜体が絶叫を上げる。
普段は極力モンスターを苦しめないようアニマリアの意思で締め付ける力そのものが軽減されているが今は違う。まさしく命をわし掴むような剛力に締め上げられた肉塊が悲鳴を上げ、のたうち苦しむ。
「で!? こっからどう決めるつもりな訳!?」
「うふふふふ……実現杖の効果は攻撃魔法が適用外だけどねぇ……今のオイラなら……ふふっ、今の私ならこういうことが出来るのさぁ……!!」
実現杖が起動する、使い手の魔法を、使い手の望む威力にまで高める神秘の魔杖が「四十倍」に倍加させたその魔法の名は……【加算詠唱】。
魔法職であれば序盤に習得できるシンプルな「魔法威力強化魔法」が四十倍の出力で発動する。
「万雷の如くってね……【至高の喝采】!!」
実現杖を起点に放たれた星の如き煌めきがディープスローターを包み込む。拡大解釈されたとはいえ元の魔法の特性を持つ実現杖の倍加魔法は、【加算詠唱】の効果そのままに使用者の次に放つ魔法の火力を高める。
だが、本来であれば。実現杖ザ・デザイアーを使用した反動でディープスローターは装備を変更することができず、さらに攻撃魔法も実現杖そのものの制約で使用できないはず……だった。
「三ヶ所同時にいじる以外にこんな使い道があったとはねぇ……」
レイドモンスター「貪る大赤依」を撃破したことで獲得した「渇望の手」、アクセサリー欄を代償に装備枠そのものを増やす……即ち、もう一本の短杖が灯す炎。
「拡大版【フレイムアロー】……激しくインサートしてあげるよぉ……!!」
下ネタと共に数十倍にまで膨れ上がった炎の矢が、弩砲の如く射出された。
夏目ちゃん……




