龍よ、龍よ! 其の三十四
更新しないとは言っていない
まぁ、ほら、しばらく更新止まるだろうし……
甦機装:ヴァイスアッシュ「百足式8-0.5」。
見た目はなんとも言えない奇妙な棒なのだが、これでも一応カテゴリ的には棍棒や杖ではなく槍……それもハルバードに分類される。
(三分凝視し、五分触り、舐め回しそうだったので頭にチョップを入れて合計十分経過した)ビィラック曰く、遺機装には世代というものがあるらしくその中でもこの槍は神代における最終世代……大昔の産物に対してこの言い方はちとおかしいが、どうも最新型という事になるらしい。
ビィラックは基となる素材の他にレア度の高い鉱石なんかを要求するが、流石は神匠と言うべきか……トレイノル・センチピード・ドーラの素材のみを要求したヴァイスアッシュの鍛冶はひと味もふた味も違った。
……
…………
………………
「おうおう、久し振りだからぁよう……ちゃあんと動くかな、っとぉ……」
「ビ、ビィラック! この段階で気絶するのは流石にクソザコ耐性過ぎでは!?」
「おごごごごご……」
「ビィねーちゃん! ちょ、泡噴いてるですわ!?」
ヴァッシュが自身の工房からゴソゴソと引っ張り出してきたのは、なんとも形容しがたい……強いて言うなら先端が蟹の足のように開く金属製の筆?
「おう、素材を出しなぁ」
「ウィッス!!」
起きろー、お前これ見逃したら俺にキレるやつだろー。
ぐに、となんとも言えない感じに金属蟹筆を握ったヴァッシュが軽く手首をスナップした直後、俺が手に入れたトレイノル・センチピード・ドーラの素材の数々がひとりでに浮遊し始める。
「人は火ィ吹けねぇ、爪は丸っけぇし軽く炙りゃあ悲鳴をあげる……つまるとこぁ、武器も防具も、「持ってるやつら」に近づくためのものだぁな」
「ビィラック、生きてるか」
「生きちょるぅ………」
ヴァッシュが金属蟹筆を動かす度、宙に浮かぶ百足の素材が誰も触れていないにも関わらず加工されていくのだ。
甲殻が紙の上に書かれた絵を消しゴムで消していくかのように削れていく。砕けたかと思えば目を凝らさなければ削りカスと勘違いしてしまうほどの小さな「螺子」へと加工されており、まるでパズルがひとりでに組み上がっていくようにも見える。
「だぁが、遺機装ってぇやつはよう、逆なのさ」
「逆、と言いますと?」
「人は人、獣は獣……人を獣に近づけるんじゃあねぇ、獣の力を人が扱えるようにしてより強く作り変えちまう。それが「活性」ってやつよう」
その究極系こそが単一素材による武器鍛造、木が鉄の役割を果たし石が宝石の如く輝き出す……それこそが「古匠」の絶技、究極の到達点。
金属蟹筆の描く先、エンジンを有機的にしたようなドーラの「炉心酒臓」が粘土でも捏ねるかのように組み上げられた武器へと組み込まれていく。
「おめえさん、機装はただ振り回しゃあいいってもんじゃあねぇ。人の手に依れど使うんなら識らにゃあなんねぇ……武器に使われてるようじゃあ鼻ったれだぁな、そんなんじゃああいつに勝とうなんざ百年早いってもんよ」
「おっしゃる通りで」
遺機装あるいは甦機装は素材元のモンスターの特徴に強く影響される。実際、水晶群蠍の毒が何に効きやすく何に効きにくいかを調べておくと超排撃の運用に役立ったりもするしな。ちなみに奴らの毒は有機物なら獣から魚までほぼ確実に効く、相性もへったくれもねぇな?
となればトレイノル・センチピードという種の特性を知ることがヴァイスアッシュ……ユニークモンスターが作った武器、という特殊すぎる甦機装を使いこなす第一歩になりうるってことだ。
「ほれよ、出来たぜぇ。銘はぁ……そうさなぁ、七巻半の百足は鉢巻で退治すると決まってらぁな。百足式8-0.5ってとこかぁ」
「ムカデシキタウゼント」
くっ……ヴァッシュめ、兎月とかを見るに和風ネーミングがメインと思ってたがセンスあるぜぇ……
「そいつぁ、超排撃とも吸転換とも違う……機装の基礎を仕込んでぇある。故におめえさんの技量がぁ肝要ってぇわけよ」
「それは……」
俺が持つ奇妙な棒に手を伸ばしてぴょんぴょん跳ねるビィラックとそれを若干引いた目で見るエムルを他所に、煙管で一服するヴァッシュへと問いかける。
「カカカ……俺等ぁ、最初に言ったじゃあねぇかよう」
………………
…………
……
「【超過機構】……」
振るう棒に走るラインは、まるで水と油のように赤と青の二色に分かれている。だがその境界が今、俺の声に応えて消失……二つの色が混じって紫に転じる。
それは機装の基本原理、素材の力を活性化させ強大な力を齎す……即ちその名は。
「───「賦活醒」!!」
破損する程の出力を叩き込む超排撃とも、外部からの入力で起動する吸転換とも違う。
言ってしまえば電源を入れただけとでも言うべきこの超過機構は、他の機構と比較しても何ら遜色のない性能を持つ。
『自らに、毒を……?』
「ものは使いようってやつだ、用法用量を正しく守れば毒だって万能薬になるのさ」
おごごご、最悪の気分だ。血管にゼリーを流し込まれたような、身体の中を異物が駆け巡るようなえもいわれぬ感覚と共に、百足式8-0.5から流し込まれたトレイノル・センチピードの「毒」が俺の全身を駆け巡る。
「さぁて……リアルとシステム、カフェインと毒を二重にキメて……ここで会うたが百年目! 盲亀の浮木! 泥率1%! いざ尋常に死ね!!」
『ぐぬぅ!?』
踏み出した一歩で加速、四歩で五メートルを駆け抜け八歩でジークヴルムへと肉薄した俺は、超過機構で「起動」した事でハルバードとしての真の姿を見せた百足式8-0.5でジークヴルムの脇腹に切り傷を刻みつけてやる。
「あんのガンギマリムカデめ……! もう少し自分の身を労われねぇのかってんだ……!!」
お陰で俺もガンギマリだ、身体に悪そうなんだよこれ!!
百足式8-0.5の能力はトレイノル・センチピードの種族的性質と密接に関わっている。
そも、あの巨体をどうやって動かしているのか……それが鍵だ。
トレイノル・センチピードは、タランチュラ系列故か蜘蛛であるが毒を持たないガルガンチュラ種とは異なり、砲弾として用いる劇毒を生成することができる。
だがグスタフ、ドーラの素材から読み取れるフレーバーテキストを纏めると、どうやら奴らは攻撃用の毒とは別にとある毒を体内で生成しているらしい。
それこそがトレイノル・センチピードの「狂筋毒」、敵ではなく自らが服毒する事で自身の筋繊維を過剰に活動させるナチュラルドーピングだ。
これを人間用にデチューンしたものが百足式8-0.5の中には仕込まれている。そして賦活醒をトリガーとして使い手の体内に注入された狂筋毒は俺の筋肉へと浸透し、「とあるもの」を急速に消費させながら莫大な強化効果を齎すのだ。
「発動者の魔力を消費して、全ステータスを大幅強化する……!!」
そして、二つの毒が混ざった紫の穂先は使用者に注入される「狂筋毒」ではなく、敵を蝕む「砲劇毒」の刃となって切った対象を汚染する……!!
「話は聞いてるぜ……最終的に無効化はされるが、効かない訳じゃあないんだろう?」
『ぬ、ぉぉお………!!』
「プラスドライバーだかタクシードライバーだか知らねーが、出し惜しみしてるようじゃ抱え落ちしちまうぜジークヴルム!!」
叫ぶ全身、月の光を受けて金晶戦衣がギラリと凶悪な輝きを放った。
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