龍よ、龍よ! 其の二
「いやこれやっばいねぇ……」
戦場の渦中……ではなく、戦場を俯瞰することができる新大陸調査船の甲板上にアーサー・ペンシルゴンはいた。
大多数のプレイヤーからすれば初となるユニークシナリオEX、それも超大規模のレイドバトルともなれば誰もが祭りの渦中に飛び込まんと駆けていく。
そんな中、「本命」達の到来を待って不動を選んだプレイヤーもいる。
クラン「旅狼」は後者のプレイヤー達であり、何人かの欠席と何人かの部外者を加えて戦場を睥睨していた。
「秋津茜ちゃんは分かる、サイガ妹ちゃんもまぁ分からんでもない。で、ウチの鉄砲玉はどーこで道草食ってるんですかねぇ?」
「なんか用意したものがまだ完成してないとか色々言い訳はしてたけど……」
「戦艦でも持って来るつもりなのかねぇ……」
甲板から二体の竜が巻き起こす大混乱を眺めるペンシルゴンとオイカッツォの眼差しは、遠い。まるで何かから目を背けているようで……
そんな二人に、厳密にはペンシルゴンの肩に腕を回した女が喜びを隠そうともせずに囁きかける。
「一目見て分かったわ、ふふふ……貴女が名前隠しね?」
「カーッツォ……どうして連れてきたァ……っ!」
「同じエリア内にいる時点で宿命だから諦めようかペンスィールゴン……」
そう、アージェンアウルであった。結論から言えば、魔王からは逃げられなかった。
普段から余裕と悪意を半々で周囲に見せつけるペンシルゴンが何故ああも余裕を欠いた顔をしているのか、首をかしげるルスト、モルド、京極の三人を他所にアージェンアウルは肉食獣を思わせる笑みを浮かべ、静かに問いかける。
「で? 顔隠しはどこなのかしら? さっきの鉄砲玉ってのが彼なの?」
「そうだよ、奴が合流したら殴るなりなんなりお好きにどうぞ」
神速の身内売却、されど本人の姿はこの場にはなく。完全に八つ当たりのヘイトがサンラクへと積み上げられていく。
「ねぇ、ミスペンシル? 私達はここで観戦してるだけなの?」
「グイグイ来るなー………まぁいっか、私達のターゲットはあんなサブタゲ共じゃないのさ」
むしろノワルリンドを除く三体の竜には程良くプレイヤーを疲弊させてほしい、とまで考えている。
流石にウェザエモンやクターニッドのように少人数で倒せる相手ではない事はペンシルゴンも承知している、故に此度の「悪巧み」の肝はジークヴルム戦に際してどれだけの味方を得ることができるかが重要であると言える。
「そもそもたった一体二体のモンスター相手に新大陸にいるプレイヤー全員がかりってどうするんだと思ってたけど、俯瞰的に見ると酷さが際立つねぇ」
やけに馴れ馴れしい謎の女プレイヤーを一先ず気にしないことにした京極が大量の白い蠢きと、一区画丸ごとを揺らし続ける緑の巨体を眺めながらシニカルに笑う。
「プレイヤー全員を相手にしても戦えるだけのスペック、て事なんだろうけどね……」
「……複数のレイド性能が組み併さって酷いことになってる」
現在下で戦っているプレイヤー達は攻撃のほぼ全てが無差別範囲攻撃と言ってもいいブロッケントリードと、無尽蔵に小竜を生み出し続けるブライレイニェゴの二体を同時に相手取っている。
どうも色竜同士が協力する気はないらしく、時折ドラゴン同士の激突も起きているが……
「こう、なんというか……」
「蹂躙される蟻」
「無双ゲーの雑魚敵」
「米研ぐ時に失敗して零した米が排水口に流される感じ」
「京極ちゃんの例えが一番よく分からなかったので罰ゲームね」
「くっ、自炊しない人にはわからないか……!!」
竜巻同士の激突に蟻が突っ込んだところで、吹き飛ばされる以上の結果を出すのは難しいと言わざるを得ない。
そもそものシチュエーションそのものに違和感はあるものの、決戦フェーズとして実装された以上はなんらかのクリアルートが存在する、筈。
現に「黒剣」などを始めとするトップクランが臨時で共同戦線を構築する事でなんとか戦線としての体を成しつつあるのが船の上から確認することができた。
「ブライレイニェゴの小竜は魔法攻撃を連打すれば対応できないこともない、って感じかな。いかんせん数が多過ぎるから魔法職は雑魚掃除から外せない」
ブライレイニェゴ本体は残存体力的にモード移行することで動くのかは不明であるが、ペンシルゴンの見立てでは小竜生産の他に何らかのアクションをする気配を感じられない。
であれば物理火力職はブロッケントリードを攻めればいいのかと言えばそうでもない。
「……見るからに何か、吸い上げてる?」
「しかも地面が沼みたいになってない? あぁっ、タンクが転んで踏み……あ」
「……地面が踏み固められた」
十数人規模で生き埋めにされたプレイヤー達が死亡エフェクトだけを地表に出す。どうやら埋まれば即死亡であるらしい。
唯一の救いは即死判定が付与されるのは完全に埋まった者のみであり、腰下辺りまでならば身動きが取れなくなるだけのようだ。
「人柱達が散っていくのを見るのってなんか楽しくない?」
「できればもっと効率よく相手の情報を暴いてほしい」
「あぁ、順番守って死ねと」
結論から言えば、「旅狼」の戦闘は秋津茜とノワルリンド、及びジークヴルムの出現が確認されない限り始まらないわけで。
それ故にリスポンしたプレイヤー達から奇妙なものを見る目で見られながらも彼らは待機するしかないのだった。
とはいえ、それはあくまでも「本番」を想定する面々に限った話である。
「ふーん……顔隠しもそのタイミングで登場ってことかしら。じゃあ私はちょっと遊んでくるワ」
ぐるんぐるんと腕を回し、アージェンアウルが船の縁に足をかける。
ペンシルゴンが声をかけて止める暇もなく、その身は船の外へと躍り出る。
「レッツゴー!」
「は?」
オイカッツォの首根っこを掴んで。
「ちょっ、だぁぁぁぁあああ!!?」
「あー、行っちゃった……ま、いっか。どうせ赤やらなんやらもそのうち来るだろうし……はい、全員注目!!」
ぱん、と手を叩きペンシルゴンは振り返る。
「各自、自由行動!!」
「アバウトだなぁ」
「まー、なるべく余力は残す感じで。ウチの核弾頭二人が何を持ち込むか分かったもんじゃないからね……とりあえず、秋津茜ちゃんが来たら一旦ここに集合ってことで。サンラク君は……まぁなんか適当に目立つだろうから見つけ次第捕獲の方針でヨロシク」
とはいえ、この場で突っ立っているだけならゲームをしている意味がない。ある者は好戦的な笑みを浮かべ、またある者は暇つぶしには丁度いいかと言わんばかりに、それぞれが散って行ったのをただ一人甲板の上で見送ったペンシルゴンは一つ息を吐き出すと、にんまりと笑みを浮かべて残った部外者達へと笑いかける。
「さて、暇になっちゃったし……一杯やっとく?」
十四人の部外者達はただ立っている。まるで己達を動かすならば、提案ではなくただ命じよと言わんばかりに。
ブロッケントリードは地面からマナを吸い上げ、自身を回復、強化するだけではなく地面が枯渇し砂地獄化するまでマナを吸い上げた後に無理やり魔力を戻して急速に地面を固めることができるぞ!
要するに獄砂埋葬




