飴と鞭と情報とゼリー
「いきなり話脱線して申し訳ないけどこの格好の奴前にしてよく平静でいられるね」
「そういった装備の方は珍しくないので……」
横を向いてそっと頭装備を鮭に変更、勢いをつけて正面を向く。そしてサムズアップしながら一言。
「っく……ふ、」
「アイアム海ぶどう」
「魚類全く関係ないじゃないですか……っ!!」
やったぜ。
まぁ茶番はここまでとして、本題に移ろう。
「この情報は「旅狼」内にも流していない、他人に……まぁ少なくともプレイヤーに話したのはあんたが初めてだ」
「……何故?」
何故、まぁ確かにそうだろうな。内容ほぼ忘れたけど「旅狼」有利の同盟だったか連盟だったかの規約に従っておけばこちらに一方的に有利な条件をつけることができただろう。
だが今回に限っては独占という選択肢は悪手になりかねない。
だからこそ一番最初にライブラリへと打診をかけたのだ、恩義は時に金より重い。
「ユニークシナリオEX 「果て亡き我が闘争」の発生条件は「ゴルドゥニーネとパーティを組むこと」……そして俺がパーティを組んだのは「八人目のゴルドゥニーネ」だ」
「八人目?」
「最低でも九人目はこの目で見た、現存してるのが何体なのかは分からないが……複数人のプレイヤーが「ゴルドゥニーネ」を擁立する、この方式に心当たりくらいあるだろ?」
「選挙」
インテリジェンスな答えをありがとう、でもこれゲームだから減点1。
「バトルロワイヤルってやつさ、負けたゴルドゥニーネに味方してたやつがどういう判定になるのかは知らんが……」
「……成る程、つまり大前提として独占が不可能なユニークである、と」
「話が早くて何よりだ、だとすりゃ取るべき手段は独占じゃない。先手だ」
ウチのゴルドゥニーネはヘタレだ、そりゃもう情けないくらいヘタレている。サミーちゃんさんのステルス性能が割とカッ飛んでいるからこそこれまで生き延びてこられたんだろうが、ステルス奇襲型のビルドは古今東西範囲爆撃に弱いと相場が決まっている。
特にあのゴルドゥニーネが従えている龍蛇は存在が範囲攻撃みたいな奴だ、現時点で勝てるビジョンが全く思い浮かばない。
恐らく「果て亡き我が闘争」は他ゴルドゥニーネを削りつつ、あのゴルドゥニーネを相手するため時に協力したりする……そんな変則バトルロワイヤルと考えるべきだ。
「単刀直入に言う、ライブラリにはウチのゴルドゥニーネの後ろ盾になってもらいたい」
「成る程…………成る程」
「今ここで決断しろ、って言ったら怒る?」
「教授は明日の講義で忙しいのでこの時間に起こすのは論外です」
「冗談だ、流石に他人のリアルまで削らせる程切羽詰まっちゃない」
少なくとも今すぐどうこうなるユニークではない気がするし、ウィンプは多分世界一安全な別荘でバカンス中だ。
あのポンコツインテリジェンス人形、任せろとか言ってたけど大丈夫なんだろうな……極力気にしないように目を背けてたが、インベントリアにアーミレット・ガルガンチュラの素材がものっそい勢いで溜まっていってるんだが。
「……ごほん、具体的には他のゴルドゥニーネを擁するプレイヤーの情報を掴んだら俺に流して欲しい」
「明日……いえ、明後日……いいえ、申し訳ありませんが最長で一週間は結論出す為にかかるかもしれませんが構いませんか?」
「あぁ、構わない。ただ、ウチの外道には内緒の方針で」
騙し騙されぶっ殺せのバトロワとか、あの外道鉛筆が一番フィーバーするタイプの戦場だ。最悪無関係のプレイヤーが大量に犠牲になりかねない。
少なくともジークヴルム案件が片付いていない状態で別件にまで手を伸ばされるとパシられる俺たちの苦労が増しかねないからな、オイカッツォも含めてドヤ顔かますとしたらジークヴルムユニークが終わってからだ。
「……分かりました、確約はしかねますが教授の好奇心からして高確率で色よい返事が来るかと」
「それはなにより」
さて……装備変更。
「天津甕星」
「神話ごと違うじゃないですか……っ!」
凄い、インテリジェンスツッコミだ。
───
─
さて、要件は大体済ませたのであとはシグモニア前線渓谷……厳密にはその地下に置いた移動拠点ブリュバスへと死に戻りするだけだが……ここでふと思いつく。
「なぁエムル、ブリュバスに飛べるか?」
「ブリュ……あっ、あの変な形のお船ですわ?」
「そうそう」
一応エムルもブリュバスに乗ったことはある。完成前ではあったが、少なくともあの時点でセーブポイントとしてのベッドは備え付けられていたし、もしやと聞いてみたが……
「んむむむむむむ……多分、いけるですわ」
「マジで!?」
自家用車? 自家用ジェット? 時代は一家に一匹ヴォーパルバニーの時代くる? 来てるぞエムル、時代の風が!!
「よし頼む!」
「ていうかどこに置いたんですわ?」
「ゴルドゥニーネの隠れ家」
「へー………へ?」
はい行くぞー
「ちょっ、待って! まってですわぎゃぁああああ!!?」
エムルがヘタレてゲートを消す前にその首を掴んで飛び込む。
ヘタレとヘタレが出会う時、何が起こるのか……こう、ヘタレ反発作用みたいなのが起きるのかな?
数秒のホワイトアウト、前線拠点に建てられたスカルアヅチの一室からブリュバスの狭い船室へと座標そのものが切り替わる。まぁインベントリアに収めるサイズやらアレやらを考えると結構頑張ったスペースなんだろうが。
「そっかぁ……現実空間に出しさえすればロケートとして使えるのかぁ…………」
ナーフ案件では? いやだが待て、現状テントしかないだけで移動式で永続的に使える拠点がないとは考えづらい。例えば馬車、そう馬車とかあるだろう。
つーかこれ結局のところインベントリアのナーフ案件じゃねーか、毎回公式サイトのニュース欄に「特定アイテムの性能を調整しました」って表示させるのいい加減申し訳なくなって来たんだけど。
「あ、あわわわわわ……」
「まぁそんな慌てんなよ。ラビッツの地下を侵攻してた奴とは結構……というか真逆レベルで違うタイプのやつだから」
「な、何言ってるですわサンラクサン! ゴルドゥニーネですわ!? ゴルドゥニーネですわっ!!?」
「大丈夫大丈夫、そっちは実質無害だから……だがエムル、もう一方のお方には礼儀を怠るなよ?」
サミーちゃんさんの付属パーツよりサミーちゃんさんの方が現状優先度も脅威度も高いからな。ガチステルスで奇襲されたら俺なんかイチコロだ、決闘型ではない野良の戦闘じゃ高機動型の俺にとって天敵足りうる性能をしてるからなサミーちゃんさん。
「そ、その人はどんな人なんですわ……?」
「インテリジェンスと慈愛の心に満ち溢れた蛇さん」
「サンラクサン、毒かなんかが頭に回って……ぷぎゅ」
いらんことを喋り始めたエムルの口を左右から押しつつ、俺はブリュバスから出てサミーちゃんさん、ウィンプ、サイナを探す。
「あぁいたいた、戻っ……た、ぞ?」
「やぁーっ! もうくもはいやぁー! も、もごぐぉ!?」
「好き嫌いは良くありませんね個体名称:ウィンプ。アーミレット・ガルガンチュラの運動野を支えるゼリーマテリアルは極めて高いマナ粒子を内包しています。故に結論から言えばゼリーマテリアルを摂取することでより効率的な成長を望むことができます」
「んゔ……っ、……ぉぇ、んぶゔっ!」
「素材の状態でゼリー状であることは幸いですね、流し込めます」
「ゔぉ……ゔぇえ……ざみ、サミ゛ーち゛ゃ゛ん゛がたへ゛てよぉ……」
「叱責:個体名称:サミーちゃんは既に規定値以上の実力を保持しています。故に個体名称:ウィンプは早急にゼリーマテリアルを摂取し、次の誘導群を処理する必要があります」
「だじゅげでぇ……」
じ、地獄絵図……!!
× ゼリー
◯ ゼリー状な蜘蛛の体液と肉の中間物質
アーミレット・ガルガンチュラはこのゼリー質な体内物質を身体中に行き渡らせることで衝撃耐性を獲得しており、さらに大量の魔力をゼリー質に溜め込みオートもしくはマニュアルで爆発力に変換する。
ちなみに優先度は圧倒的オート>>>マニュアル、ママンが死ねと命じたら砲弾となって散って行く悲しい定め。さっきまで命だったものが辺り一面に転がる……オーゥイェー!!
見た目は淀んだ緑色のゲルゼリー、無味無臭なのは救いかそれとも……ちなみにちゃんと料理すれば美味しくなる食用アイテム(一定時間獲得経験値が+5%、累積はしないが他経験値ブーストと重複もしない)
少なくとも生食には向いてない




