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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜  作者: 硬梨菜
竜よ、龍よ! われらが駆けるは憧れの果て
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金魚鉢の鮫


幕末のイベントにおいて大事な事は、まず自身の立ち位置をはっきりさせる事だ。無軌道に刀を振るったところで待っているのは袋叩き、バーサークプレイをするにしても頭を使わないといけない。


とりあえずガチで頂点を狙いにいく連中は歩く台風のようなものなので関わってはいけない。モラルと人間性を捨てた奴等ばかりなので気づいたら頭を串刺しにされてました、とかザラだ。

それにどうせ一位報酬はイベ終了後に獲得者を袋叩きにして行方知れずになるのだから気にするだけ無駄だ。複数本ある二位以下の報酬と違って国宝クラスの武器は雨上がりに見上げた空に浮かぶ虹みたいなもんだ、見れたらラッキー程度でいいのさ。


さて今回のイベントだが、デスゲーム風味という形式に亡霊なんて非物理アバターを用意した辺りに幕末運営の外道っぷりが見て取れる。

デスゲーム中はリスポンできないからその配慮? バカ言え、壁をすり抜けられるプレイヤーとかドローンとして使ってくださいと言ってるようなもんじゃないか。


奴等はキルスコア兼ドローンだ、絶対に買収して利用する奴が出てくる。今さっき仕留めた「戦争屋」とかな、多分お前に過剰亡霊(キルスコア)くっつけて案山子にしてたのもこいつだぞ。


今回のイベントは最終日まで生き残っているか、最後の一人になった時点でイベント期間終了を待たずに終わる、つまりこの時点で隠れる奴と刈り取る奴に分かれるんだよ。


隠れる奴は自分の危険を極力排した上で他の奴らに相打ちしてもらいたいから亡霊を使う、刈り取る奴等は見えない場所に隠れた奴等を炙り出すために行動制限が実質取り払われた亡霊を使う。


つまり今回のイベントは生存力を要求されているように見えるが、実際は如何に亡霊を上手く扱えるかという戦略を要求してんだよ。貫禄のクソ運営だ、これだから幕末は時々ログインしたくなるんだ。


「えーと、つまり?」


「無差別天誅で勝てるのは最上位の連中くらい、お前は無理だから頭を使え」


元々過疎りがちなゲームってのもあるが、ランキング最上位陣の名前がほとんど変わらないのは奴等が幕末特化した怪物だからに他ならない。

俺がランキング報酬をゲットできたのも奴等に真正面から挑んで勝ったからではなく、効率的なリスポン狩りを編み出したからだし。


「実際、その最上位層ってのはどれくらい強いわけ? 僕もそれなりの腕はあると自認してるけど」


「一回だけこのゲームでチートが流行ったことがあるんだけどランキングトップ10が変動しなかったくらいヤバい」


チーターの絶対命中火縄銃にクイックドローで勝つって頭おかしいだろ、でも事実なんですよ。最終的にランカー十人に粘着されたチーターが先に音を上げた辺りにこのゲームの深淵が見える。ひたすら笑顔のドリームチームから袋叩きにされるチーターには流石に同情しました。

このゲームの深層に踏み込んだやつほど挙動が狂ってくる、団子の串で刀に勝つとかマジでどうなってるんだ。幕末という金魚鉢の中で共食いの果てに生まれた鮫が十体もいるとか、実は幕末は怪物を封印する結界だった……?


「まぁその分良くも悪くもフォロワーが多いから亡霊が群れを成した百鬼夜行を見かけたら多分その先頭にはランカーがいるから逃走一択だな」


「あれとか?」


「うん? そうそう、先頭にいる殿様的ちょんまげの奴とか大体イベントランキング八位の「誠意大将軍」……」


亡霊の一人が俺にサムズアップ、俺は親指を下に向けた逆サムズアップ、よく見たら「戦争屋」じゃねーか死んでも血が見たいのか奴は。

そして誠意大将軍氏はにっこり笑顔。


俺、あの人から割と恨まれてるんだよね。


「逃げるぞ京ティメットぉぉぉぉ!!」


「え? え!?」


あかん、よりにもよってあいつはあかん。

いつぞやの冬イベの時、俺がリスキルでポイント稼ぎまくってランクインしたせいで圏内から弾かれたあいつがランキング報酬を逃した恨みをツケてあるので今遭遇するのはマジでヤバい!!


「天誅天誅テンチュウテンチュウテンチュウヒヒヒヒハハハハハ!!」


「くっそやっぱり捕捉されてたか!」


「ちょ、なにあれ!?」


「幕末に魂を売り過ぎて人間性を喪失した末路! プレイヤーを見つけ次第刈りにくる暴力装置だ!!」


「人間に対する評価じゃないよねぇ!?」


作戦会議のために使っていた茶屋から飛び出し、現状を理解できていないようだがとりあえず付いてきた京ティメットと共に長屋地帯へと飛び込む。


「STR偏重で助かった、AGI偏重ならとっくに射程圏内だ……」


「あ、最近AGIも上げてますよ?」


「え? マジぃ?」


並走されてるじゃーん、マジウケるぅー……あっ死


「天ちゅ───」


「うおお秘技「自前転倒」!!」


「何ィ!?」


説明しよう! 秘技「自前転倒」とは自ら足を引っ掛ける事で俺本人ですら予想できない挙動ですっ転ぶ技だ! マジで回避が間に合わない時に役立つぞ!


「シィイッ!!」


「鼻先ぃ!?」


完全に虚を突いたにも関わらず、ノータイムで顔面へと投擲された刀を鼻先寸前で回避、さらなる増援が来る前にこちらも刀を抜いて対応の構えを取る。


「ほう……よりにもよって「地布武鬼」ですか……死にたいようですね」


「悪いが切腹はしない主義でな……! ていうかどうせもう持ってんだろ」


「二本ほど……」


少なくとも去年冬イベの俺以外のランカー、二位から四位のうち二人が犠牲になっていたようだ。


「まぁそれはそれ、これはこれですよね。過去のけじめをつけろと天もそう言ってる、だから私悪くない」


「幕末プレイヤーはみんなそう言うんだ……!!」


まぁとりあえず正当防衛なので俺は悪くない、天もそう言ってる。


「サ、サンラク! 向こうからも百鬼夜行が!」


「なっ……いや待て先頭にいる奴はどんな奴だ!?」


「え? えーと……」


「チェストぉぉぉ!!」


「おい一応新撰組側だろテメー!!」


示現流使ってんじゃねーぞ! くっ、戦う場所が狭い。裏通りってわけじゃあないが左右の幅が狭いから気を抜くと壁に押し込まれる。

そして向こうは幕末の空気に完全適応した正真正銘の怪物、壁を走って来かねない。

と、なんとか凶刃をかわしていると反対方向から来るらしい百鬼夜行の先頭を見ていた京ティメットがこちらに叫ぶ。


「言葉で説明しづらい! 上半身だけ鎧兜なんだけど下半身は褌で……え、何あれ、木槌?」


「よし来たぁっ!!」


かち合わせられる! そんなよくわからん変態アバターを使ってるのは一人くらいだ! 他の変態はもっとハッキリしてるからな!!


「やはりイベ限とはいえそれなりの実力は持ち合わせているようですね……っ!」


「生憎……っ! この手の……っ! ディレイだのフェイントだのは……っ! 慣れがあるんで……なっ!!」


STRの差から受け止めればへし折られる、対ウェザエモン時と同様に回避といなし(・・・)を多用した立ち回りでなんとか天誅を回避しつつ、開けた大通りへと踊り出す。


「ハロー「十文字大福」、あんたに「誠意大将軍」のデリバリーだ」


「よくわからんが天誅!!」


「ぐぅぅ! おのれかち合わせましたか!!」


流石はランカー、説明皆無で天誅仕掛ける辺り貫禄の頭のおかしさだ。

だが助かった……「十文字大福」はランキング九位常連、積極的に上のランクに喧嘩を売る狂犬野郎だ。


「っしゃ天誅だコラァァァア!!」


「じゃ、あとは宜しく」


「あっ、待て!く……!!」


わぁわぁ(無音)で盛り上がり始めた亡霊共と、木槌が地面を震撼させる音を背後に俺は京ティメットと共にこの場の離脱を成功させるのだった……












「……と、まぁあのように不意のランカー遭遇は死に直結するので今イベでは他ランカーに擦りつけるのがベターです」


「七割くらい君個人の問題が発端じゃなかった?」


「俺は過去に囚われない男なので……あってめぇ去年のイベで後ろから刺した野郎だな! 天誅!!」


「二秒で矛盾するのやめて?」


二秒前も立派な過去だよ。


・幕末ランカー

辻斬り・狂想曲:オンラインに割とガチめに人生を捧げた狂人の集団、一般プレイヤーからは歩く災害扱いされている。

狭い金魚鉢の中で研磨されてきた鮫なだけあって幕末限定なら多分シルヴィアも負ける。他の奴らがダークソウルしてる中、挙動がアーマードコアしてるのがランカー。

とは言えどやはりプレイヤーであることには変わりなく、ランカー報酬目当てに数十人規模で討伐隊が組まれて天誅されることも多い。

ランキング一位? 百人規模の討伐隊を迎撃したとの噂があります。


ちなみに大体○位、というのはランカー間で大凡の力関係は定まっているが他プレイヤーなどの干渉によって度々下克上が起きるため。

大体八位こと誠意大将軍は大太刀でチェスト関ヶ原する新撰組、という矛盾の塊だが二十人くらいなら余裕でチェスト対応できるので強い



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― 新着の感想 ―
ランカーってことは下手したら誠意大将軍でもシルヴィア行ける可能性あるのか。ヤベェな
ヘイヘイヘイヘイ、幕末外に天誅ネタ持ち出すの天誅案件じゃねえのかい!
ヤバい。 最近リアルで天誅って言うようになっちゃった
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