身体砕けど心は割れず
ユニークモンスターが刻む「呪い」というものは、どうやらユニークモンスターによって多少の違いがあるらしい。
リュカオーンの場合は牙や爪で刻む為か、浮かび上がる黒い「呪い」はなんというか粗雑だ。見ようによっては鎖のタトゥーのように見えないこともない。
ジークヴルムの場合は秋津茜の顔に刻まれているのをちらと見たことがあるが、リュカオーンと同様の切り傷のような赤い「呪い」だがリュカオーンのそれと比べるとスッパリと切れたような模様だ。
ウェザエモンやクターニッド、ヴァッシュは不明。
正体不明のオルケストラも同様。
そしてゴルドゥニーネ。この場にいるヴォーパルバニー達は皆奴から呪いを受けたことで家族に会うこともできず、ここで戦い続けているそうな。
そして当然ながら皆ゴルドゥニーネの「呪い」をその身に受けている。
「以前説明した通り、我々が侵攻するゴルドゥニーネの眷属を食い止め押し上げます」
コンコン
「俺は突出して分け身まで突っ走る、そうだろ?」
コンコンコンコンコンコン
「えぇ、単純ではありますが我々はが貴方を援護する事は難しいでしょう」
コココココココココココ……
「連打!?」
ドアノックで連打はちょっと想定外だったが、わざわざ許可を得るまで入ろうとしない律儀な来訪者にエードワードがドア近くにいた兎に開くように顎で示す。
「あ、どうも!」
「うぉっ、秋津茜?」
「はいっ! いきなりシークルゥさんにユニークシナリオのお誘いされたのでとりあえず来てみました!」
シークルゥから? っつーことはラビッツユニーク……いや、兎御殿の中に入れる「招待」ユニークを発生させたユニークに自動で発生するのか?
いいや待て、決めつけるのは早計だからここは直接聞いてしまおう。
「なぁ、一応聞くけどシナリオ名はなんだった?」
「えーと……「兎の国義勇兵」です!」
オーケー、やっぱりソロ討伐に変わりはないな。恐らく義勇兵としての参加と、防衛戦の一員としての参加ではなんらかの違いがあるのだろう。
「すまん話を止めちまったな、続けてくれエードワード」
「……では。まず最前線に到着次第、魔法部隊の全火力で敵を一掃します」
まぁすぐに後続によって埋め尽くされるでしょうが……と続け、エードワードは地図を指し示す。
「我々はゴルドゥニーネの眷属が殺到する前に戦線を押し上げ、横穴を封鎖します。その隙に貴方は前へ……そこの貴女は横穴から奇襲を仕掛ける眷属への対処及び補充されるであろう眷属を食い止める役割です」
「はいっ! ゴルドゥなんとかさんがなんなのかよく分かってないけど頑張ります!」
びしっ! と姿勢を正す秋津茜から迸るスポ根青春的なオーラに若干気圧されつつも俺は懸念を告げる。
「なぁ、一応聞くんだがこれ仮に分け身のところまで辿り着いたとしても眷属に囲まれて死なね?」
「その点は問題ありません、むしろ貴方は分け身を足止めすることになるでしょうから」
そう言うと、エードワードは先程からずっと背中に背負っていたそれを指し示す。
「父の得物の一つ「鍛龍」です、これを抜けばゴルドゥニーネの眷属は一斉にこちらへと殺到する……それこそ分け身すらも」
それは鞘に非常に精巧かつ緻密な彫り意匠が施された鍔のない刀……まぁぶっちゃけよう、長ドスであった。
「これを抜く以上、貴方には是が非でも……それもなるべく迅速に分け身を倒してもらわなければならない」
ジッと俺を見つめるエードワード。それだけじゃない、この場にいる身体の一部がヒビ割れたヴォーパルバニー達もまた俺をジッと見つめる。
果たして俺に命を預けるだけの価値があるのか、俺に任せていいのか……兎たちは実際にその目で俺を見て判断しようとしているのだろう。
「これが最後の確認です、貴方に出来ますか?」
であればロールプレイだ、それこそがシャンフロという世界観に生きるNPC達を納得させる最大の根拠となる。
勇魚兎月をあえて見せつけるように装備し、半ば代名詞と化した鳥の人を示す凝視の鳥面を整え、一歩も引くことなく視線を受け止めて告げる。
「任せろ、ウェザエモンもリュカオーンもクターニッドも……真正面から乗り越えて今の俺がある。俺を信じろ、トラストミーってやつだ」
「そうですわっ! サンラクサンならやってくれるですわっ!」
親指を立ててサムズアップ。百の言葉を並べるよりも、積み上げてきた実績と刻まれた傷がNPCを納得させるだけの力になる。
「よろしい、では貴方に我々の命を預けましょう」
安心しな、俺は外道文房具とは違って友軍NPCは大事にするプレイヤーだ。
「そういや秋津茜、十番勝負は終わったのか?」
「いえ、まだです!」
「つまり防衛戦シナリオは「招待」を受注さえしていれば発生するイベントみたいなものか……見たところ「ツアー」は対象外、ってところか」
そういえば「兎の国ツアー」では兎食の大蛇とかいうモンスターが出るんだっけ、もしかしなくてもこのシナリオと繋がりがあったわけか。
これは推測だが、恐らくトンネルの制圧率が「招待」と「ツアー」に発生するフラグになっているんだろう。劣勢になった場合、恐らく「ツアー」を行なっているプレイヤーにも「義勇兵」か「防衛戦」か……それとも別のシナリオが発生するんじゃなかろうか。
「燃えてきたな、俺たちの背後には数千数万のプレイヤーが今か今かと待ちわびているわけだ」
だが残念だったな、お前らにこの領域はまだ早い。リュカオーンに包丁で立ち向かうくらいのガッツを見せたらまた来いよな。
「そういや槍兵の次は何と戦ってるんだ?」
「ええと、なんて言えばいいのか……二人三脚のロボット?」
二人三脚……クソッ、楽しそうな敵と当たってて羨ましい! こっちなんてひたすら上空から猛毒撒き散らすクソ鳥だったんだぞ。
「まぁなんだ、俺はちょっと最前線突っ走ってくるけど秋津茜も気をつけろよ? さっきの話を聞く限り向こうは物量戦で来るみたいだし」
「はいっ! 頑張ります!」
大丈夫かなぁ……と心配になったが、よくよく考えたらこいつステータスだけなら俺をぶっちぎってるんだよな……あれ、もしかして先輩風吹かしてるけど俺の方が下位互か……いややめよう、この思考は俺の精神が崩壊しかねない。
そ、それにスキルとかの関係上俺が下とは限らないしな! うん!
広く、長く続くトンネルを進むたびにヴォーパルバニーにすれ違う。どのヴォーパルバニー達も身体のどこかしらにまるでガラスのように不自然な亀裂が走っている。
そしてその亀裂からは明らかに身体に良さそうな成分は含まれていないだろう黒煙が漏れ出している。松明があるというのにこのトンネル内に暗い印象を感じるのはこれが原因だろう。
ゴルドゥニーネの「呪い」はああいう感じになるのか。
職人芸ではないが手慣れた様子で斧を研ぐ片耳が今にも割れてしまいそうなヴォーパルバニーとすれ違いつつ改めてトンネルの内部を観察する。
ゴルドゥニーネが一体どんな姿をしているのかは不明だが、この広大なトンネルを単体で掘り抜いた、という時点でヤバさがわかるというもの。
まるで専用の重機を使ったかのように堀り貫かれたトンネル、その壁や天井、果ては地面の至る所にはコンクリート……ではないだろうがそれに類する何かで塞がれたと思しき穴が幾つも存在している。
なんかもう塞がれた穴がトンネルを水玉模様にしているくらいだ、この全てから奇襲を仕掛けてくるとかなんだこの三次元モグラ叩き、鬼かよ……蛇か。
戦線を押し上げ食い止めている間に穴を塞ぐ、成る程一大作戦だ。軍団レベルでの食い止め役がいなけりゃどうしようもねぇな。
「で、あいつらが穴を塞ぐ役割か」
今ではめっきり見なくなった壁大工のような格好のヴォーパルバニー達がコンクリート……というより粘土っぽい何かをいくつも用意している。
確かこのゲーム戦闘職とは異なる一次職みたいなジョブもあったはず、となればあれは「大工」か?
物理的な封鎖や即興の建設が出来るならトラップ系のジョブなんだろうか……生憎俺は立ち止まると死ぬマグロみたいなステータスしているので大工を取得することはないだろう。
「さぁ、いよいよ最前線付近です。ここからは安全を保障しきれていませんので念のため警戒を」
「おうよ」
「はいっ! ええと、どちら様ですか!?」
「秋津茜殿、エードワード兄者に御座る!」
「成る程! よろしくお願いします!」
元気だなぁ……これが若さってやつか。
兎にも角にもだ、藪に飛び蹴りかまして蛇を追い出す一大作戦が始まる。
お前の「呪い」……採取させてもらうぜ、ゴルドゥニーネ。
「オラオラオラどけどけどけぇ! オヤジはどこだぁ!」
「あ、あの……待って……! あんまり、足は速くないから……」
「何言ってんスかぁ! 早くしねぇと防衛戦が始まっちまうんですぜ! とっととオヤジに会わねぇと間に合わねぇ!」
「にしたって、速すぎ、て……!」
「はっはァーっ! 走れウォットホッグ!」
「プギィ!」
「うっっっるさいわ! おんどりゃあ、御殿の中じゃ静かにしろ言うちょるじゃろうがぁ!!」
「げぇっ! ビィラック姉ぇ!」
「おんどりゃあエクシスぅ……! そこに直れぇ!」
「ひぃい! 走ってくだせぇ! このままじゃアタイが致命的に殴られちまう!」
「うぅ、そろそろスタミナが……」
今すべきではないと分かっていた、しがらみが無くなるまでは「はい」を押さないように我慢していた。
だが、「鳥の人が致命的に危険」と聞いたその時、指は無意識のうちに動いていた。
鉄槌携え騎士は征く……
どうも、ヴァルナ硬梨菜改めハデス硬梨菜です




