挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

竜災未だ止まず、狼は吠える

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

222/240

リアル・ストロング

間章:第三段階に世界の真理書「深淵編」を追加しました。ご注意ください
気づけば夏も終わりに近く、数年間の貯蓄を全て使い切った蝉達が地に落ち始める頃。

「課題は持った、学生証もある……よし、大丈夫だな」

クリーニングされた夏服制服を着込み、寝癖がない事を確かめた俺は玄関の扉を開く。

「いってきまーす」

「はいいってらっしゃい」

母の声に送られ外に出れば季節は九月、高校生たる俺は学校に行かねばならないのだ。











セミファイナル地雷が仕掛けられた危険な通学路を歩きつつも、俺は長期の休暇が終わった事で忙しくなるこれからに想いを馳せる。

とりあえずこれまでのようなゲーム三昧とはいかないだろう、基本的に夜型になるわけだがそこら辺は慣れている。
問題はシャンフロがリアル時間とリンクしてるってことなんだよなぁ、昼と夜でモンスターの出現テーブルが変わることもあるし、そこらへんも考えて行かないと。

ユニークモンスター「深淵のクターニッド」を倒し、二つのユニークを制覇した俺であったが、やはりというかそれと比例するように面倒ごとも増えてしまった。

フィフティシアに戻った俺を出迎えたのは、恐ろしい勢いで増えていく手紙(メール)を括り付けられたピヨピヨと鳴くハヤブサの大群であった。
送り主はキョージュ……考察クランだかのリーダーであるエセ魔法少女だ。

スパムかというくらいに送られてくる「是非話がしたい(要約)」という内容のメールはハヤブサが二十羽に到達した辺りで恐怖を感じ始めたものだ。
仕方ないのでその中の一羽、どこかで見た気がするハヤブサに「そのうちメールするからスパムメールやめろ馬鹿(要約)」と返事を持たせる事で解決したわけだが、下手をすればマジで街を出歩けなくなるかもしれないと実感した。

青色の聖杯は役には立つが使用方法が面倒臭いし、やはりラビッツに亡命……もうこの際永住……

「ままならないなMMO……」

大多数がプレイしているからこそ楽しいが、それ故に面倒くさい。まるで人生みたいだ……つまり現実はMMOだしゲームは人生。

「とりあえず今日は何するか……武器の修理だよなぁ」

あのあと疲れてすぐログアウトして寝てたし。その後もしばらくゲームする気がおきなくてなぁ……

春であれば桜並木が続く道を進み、いくつかの信号と曲がり道を越えれば学校だ。ここで少し寄り道すればロックロールに行ける。

特に何か買う予定があるわけではないが、帰りに少し寄ってみるかな。
あの人乙女ゲーガチ勢だから俺より過酷かつ過密なスケジュール組んでそうだし。
あの(・・)ラブクロックを「まぁまぁ忙しいね」で片付ける女傑だ、恐らくチャート「遂行」能力だけなら俺やカッツォ、ペンシルゴンすら上回る。ハーレムルートを追うなら必須事項なんだと、ギャルゲー業界怖い。

あ、そういえば大量にゲットした海鮮系モンスターの素材で何か作れるか試さないとな。資金面の問題は完全に解決されたし、たくさん無駄遣いしちゃおう。


「…………」

さて。

時に話を変えるが、人間の気配とは人体から発せられる電磁波だと言われている。
それが残留するからこそ「誰もいないのに誰かの気配がする」というホラー映画とか見た後によくある現象が起きたりする、と。
気配に過敏になってるから残留した電磁波をキャッチする、と。

つまり何が言いたいかという、と。







(なんか……尾けられてね? と。)

いや「と」はいらない。
というか電磁波とか関係なく、明らかに違う足音がさっきからずっと聞こえてくる。
ストーカー? いやいや流石にそりゃ無いだろうが、少し落ち着いて考えてみよう。

一番高い可能性は俺と目的地が同じ……つまり同じ学校の生徒である可能性。
まぁそろそろ学校に着くし、その可能性が一番高いだろうが……なんだろう、やけに近い(・・)

(足音的に、一メートル離れてるかこれ……?)

コツコツと聞こえる足音的に、俺が急停止すれば後ろにいる何者かが衝突しそうなくらい近い気がする。

(携帯端末でも見ながら歩いてんのか……?)

この可能性は高いな。視線が俺の方を見ていないからこそこの距離、そしてやけに近いのは歩く速度が俺と近しいから。

だったら解決策は容易い。俺が少しだけ歩く速度を早めれば……

(………追いついてきたし)

え、まさかのストーカー説急浮上? いやいやまさか。
となれば知り合いか? いや、ウチは結構学区内の変な場所にあるから近くに友人の家は無い、つまり寄り道することもある下校時なら兎も角登校時に誰か知り合いと会う事は無い筈。

え、なに、だんだん怖くなってきた。後ろを振り向いて確かめれば済む話だけどマジで赤の他人だった時の気まずさが困る。
互いに「え、なんでこいつ他人についてきてんの」「え、なんでこいついきなり他人の顔見るの」という気まずさを抱きかねない。夏休み明け最初の登校日早々そんな気まずさ抱きとうないぞ俺は。

どうする……いっそ走って振り切るか? いや、だが別に遅刻時でもないこのタイミングで走れば視認せずとも存在に気付いていたことを相手に気づかれる。
それに勝ち逃げっぽいがこっちはもやもやを抱え続けるから負け逃げだ、くっ……九月早々難易度の高い、やはり現実とは全人類参加型のゲームであったか……っ!

「……あ、あのっ!」

「!!?」

喋った! いや、話しかけてきた!? 何だ、何が狙いだ!?
この局面でなぜコンタクトを取る? まさか背中に何かくっついていた? いやそれならここは紳士的対応で返答しつつ己のうっかりを笑って流すのが大人の対応!

「ハイナンデショカ」

「あの、その……陽務君、ですよね?」

振り向けば、俺の脳が勝手にイメージしていた殺し屋の如き「仮想:後ろの人」とはかけ離れた、同年代の少女が一人。

「あー、えーと、斎賀さん?」

「は、はい! 陽務君、えーと、その……夏休み! 以来ですね!」

「夏……あ、そういえば確かに」

成る程、後ろを尾けていたのは後ろ姿から俺だと確証が持てなかったためか。
あの夏の日に会った時の涼やかなワンピースとは違う、ウチの高校の女子用夏服を着た斎賀さんは残暑の暑さによるものか、若干顔を赤くしながらも嬉しそうに笑みを浮かべる。

うーむ、流石は文武両道に見た目スペックと性格まで付与された斎賀さん、文字にするとギャルゲーのヒロインみたいな事になるのにちゃんと実在してるんだものなぁ。

「あれ、斎賀さんってこっち方面に住んでたっけ?」

「え、えと、その……たまには気分を変えようかな、と違う道で通ったら偶然……そう、偶然見かけまして!」

「成る程……」

まぁ近所のコンビニで遭遇するくらいだし住んでる場所が近い、という事実も納得できる。
とはいえ斎賀さんの家なんて興味のないゲームと同等かそれ以上に縁遠いものだろうしどうでもいいか。
さて、ここでハイそうですか会話終了、とぶった切るのは人としてどうかと思うし「たわいない世間話」とやらをするべきか。

「にしても、夏休みも終わって学校が始まるね」

「そ、そうですね……これから学校、ですから、ね」

そりゃあずっと休みだったらいいのにと思わない事もないが、それはそれで人生からメリハリがなくなる。
程よくままならないから現実もゲームも楽しいのだ。まぁ世の中には自分の好きな事だけして生きてる手合いもいるのだが……主に外道二人や夏目氏。あとは米国産の怪物(プロゲーマー)シルヴィア・ゴールドバーグなんて最たるものか。

「…………」

「…………」

くっ、キャッチボール式ではなくピッチャーバッター式会話術をお望みか。
リア充(ちから)が高い超リア充ともなればガトリングの如く話題を提供できるだろうが、あいにく別方向でリアルを充実させる俺ではせいぜい六連筒リボルバーが限界だ、保ってくれよ俺の話術……!

「あー……あ、そうだ。そういえば斎賀さんシャンフロ、やってるんだっけ?」

「ふぇあ」

「ふぇあ?」

「い、いえいえ何でもないですよ!? えぇ、はい! シャンフロやってます!」

そういえばあの時は外道二人に急かされて会話を切り上げてしまったが、確かそんな話をしていた筈。
いきなり話題がゲームの方に吹っ飛んだせいか肩をビクリと震わせる斎賀さん。なんだっけ、ビバリーヒルズみたいな名前の髪型がふわりと揺れた。

「斎賀さんもやってたんだ、ヒーラーとか?」

「い、いえ、その……戦士職を」

意外……ではないな、確か剣道とかスゲーって風の噂で聞いた事がある。ウェザエモンとかが頭おかしいだけで、普通のモンスター相手なら武道経験は大きな武器になるだろう。

「成る程……結構やり込んでるの?」

「えぇ、まぁ、その……ハイ。クランとかにも、所属したりしてて……」

「おぉ、身内団だったり?」

「えと、そうですね……」

身内団はギスるとそれがリアルにまで波及する、という危険性を孕んでいるが赤の他人と組むよりもずっと結束できるというメリットがある。
俺やカッツォ、ペンシルゴンは他ゲーから流れてきたから身内団ではあるがイナゴ寄りだ。
悲しい事件を経たものの新メンバーが加入したのでもう身内団とは言いづらいけど。野菜スティックと新鮮って必ずしもペアにしていいわけじゃないんだなって。

それはともかく良い流れだ、無闇に話題を変えずともシャンフロの話題で持ちこたえられるぞ。

「新大陸、解放されたけど斎賀さんは挑めそう?」

「ど、どうでしょう……たくさんの、プレイヤーが行きたい、でしょうし……」

確かに、なんか大量に船を作っているっぽいし新規のほとんどはまだサードレマを拠点としている現状ではあるとはいえ、新大陸行きを控えるプレイヤーが百人前後ということはないだろう。
それにレイ氏達「黒狼」のようなトップクランは第一次新大陸行きの船には他プレイヤーも考慮して人数を減らしたとも聞く。

「確かに、まぁ今の大陸の方も全部が解明されてるわけじゃないし退屈はしなさそうだけど」

なにせユニークモンスターはほぼ放置だったからな。

「そう、ですね。ふふふ……」

俺程度の話術でも斎賀さんの暇をつぶす程度にはなったのか、楽しげに笑う斎賀さん。
と、そこに飛び込む小さな影。それは命のストックを吐き出し切り、子を残す事も出来ていないだろうにどこか満足気に落ちてくる一匹の蝉。

それは下向きの放物線を描いて、真っ直ぐに斎賀さんの元へと突っ込んでいる。
これがゲームの中であれば対応できたかもしれない、だがリアルの俺は思考に即対応するだけの肉体を持っていない。
蝉が落ちてきていることに気づけたのも偶然視界に入ったからに他ならず、危ないと喉を震わせ身体を動かすよりも早く蝉は斎賀さんの頭にぶつかっ

「ひゃっ」

ビシィッ!!

「おぶぁっ」

「へ? あ、あぁあ!?」

俺よりも遅くに気付いたにも関わらず、俺よりも先に動いた斎賀さんの手刀が叩くように蝉を弾き飛ばす。
そして空中でクルクルと回転する蝉はそのまま俺の頬に胴体着陸。

まさか流れ弾が来ると思っていなかった俺はそのままバランスを崩し転倒、さらに追い討ちのつもりか斎賀さんの手刀でショック蘇生した蝉がセミファイナル地雷と化して暴走。

ジジジジジジジジジジジッ!!

「いだだだだだっ!?」

あ、脚がっ! 蝉の脚が引っかかって! 羽がビヂビヂ当たってやばい!

「ご、ごめんなさいっ! い、今助け……きゃあっ!?」

不肖陽務 楽郎、夏休み明け最初の思い出は蝉もろともビンタされるという中々に得難い経験であった。

斎賀さん、強い。
Q.斎賀さんはどれだけ強いのー?
A.首裏トンッが出来る。ちなみに斎賀三姉妹は護身術としての古武術の他に長女が弓道、次女が柔道、三女が剣道を履修している。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ