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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

見上げた空、広がる海、深淵の都市を駆けて

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倶に天を戴いて 其の十

今年最後の更新になると思います。来年もよろしくお願いします。
「1、2、3……うん、大体タイミングは掴めた」

特にディレイが混ぜられるわけでもないし、やはりギミック重視のボスであるからしてどこぞの即死技武士(ウェザエモン)やら透明化狼(リュカオーン)ほどの直接的な脅威度は無い……現状は。

「十二本目が着弾した時点で五秒後に上へと戻っていく、だったらギリギリで回避すれば距離を詰める必要なく五秒間攻撃し放題……!!」

小刻みなバックステップで後ろへと下がる俺の鼻先を漆黒の触手が十度掠っていく。おや、生臭さを感じない。

「いや、これは……」

考察は後だ、まずは身体を動かせ。数えたところ十二本の触手は俺の回避軌道上に一列に並んでいる、回避を最小限で留めたお蔭で連立する触手の間隔は狭い。もう武器をケチる必要は無い、兎月【上弦】【下弦】が潮風を切り裂いて触手を斬り裂く。十二本の触手が双刃によって傷を刻まれ、逃げ帰るようにして上空の八芒星へと引っ込んでいく。
見れば既に八つの角のうち五つは触手が叩き返され、残り三つも時間の問題と言ったところか。随分とあっさりとしているようにも思うが、この手の攻略法は気付かないと延々とドツボに嵌るタイプだ。気づけば攻略は簡単という意味ではこれくらいの難易度が適当かもしれないが……まぁ、第二形態があるんだろうなぁ。

「……これで、最後」

放たれた魔力の矢が逃げ惑うモルド目掛けて落ちてきた最後の一本を貫く。漆黒の触手の、その最後の一本が八芒星へと引っ込んだことで、とりあえず第一形態の主な攻撃手段である十二掛けることの八……九十六本の細触手を叩き返したわけだが、さぁどう出てくるクターニッド。

『届かぬ高みはなく、されば至りて(のち)に人は何処へ征く……』

ボスキャラ特有のポエムか、噛み砕いて理解するなら「ゴールした後お前どうすんの?」って感じか。少なくともそれがゲームに関しての話であるなら決まってる、やり込み要素を埋めていくんだよ。それが終わったらボス討伐タイムアタック、さらに興が乗ったらリアル・タイム・アタックだ。

『信ずる己を見出せ、世界が変わり果てようと根幹は揺るがず』

その言葉と共に八芒星が動きだす。幾何学的な模様を蠢かせ、平面であった図形が膨れ上がて……まるで折り紙を開くように八芒の星が立体へと変形していく。魔法陣を構成する文字が虚空を這い回るようにして平面から触手と目が飛び出したクターニッドがその姿を変貌させていく。平面が立体となり、立体が明確な形を作り、角ばっていたそれが滑らかなフォルムへと洗練される。
ああやっぱり、その光景を見てクターニッドの触手を斬った際に感じた違和感の正体に合点がいった。クターニッドの能力を把握した時からずっと思っていた、幼稚園児の屁理屈レベルの理屈を無理やりひっくり返してしまえる奴をどうやって倒せというんだ、と。

いや無理だわこれ、何をどうやったら中身が無い(・・・・・)敵を倒せるというんだ。

「あの魔法陣、どこかからクターニッドが遠隔操作してるとかじゃなくてクターニッド本体そのもの、だったとは……」

「あれ、最終形態かな……」

「……多分、もう一段階くらい、ありそう」

「来ます、私が前に……!」

巨大な蛸の形をした立体的な「魔法陣(クターニッド)」が地面へと降り立つ。魔法陣に重さなんてものがあるはずもなく、見上げるほどの巨体でありながらクターニッドの着地に際して重量を感じさせるような現象の一切が起きない。
それに対してレイ氏がスレッジハンマーを構えて前へと出る。やはりレイ氏もまだこの先があると考えているのだろう、あの白黒鎧を取り出さないのは来る最終形態に向けて温存しているのだろう。大体予想できるとはいえやはり初見のモンスターである以上、その行動モーションを確認する必要がある。

「私はどうしますか!?」

「とりあえず俺らである程度モーションを引き出してみるからある程度対応できそうなら攻撃してくれ。秋津茜は道具の残数をなるべくケチること、まだ先があるかもしれないからな」

「はいっ!」

「……了解」

「ルスト、先にバフをかけておくよ。他の人も……」

「あ、俺はそこらへん全部弾いちゃうから……」

1コンボ!

「私もです! 」

2コンボ!

「その、ありがたいのですが……多分、自前のバフで事足りるというか、重複しないタイプなので無意味というか……」

3コンボ!

「あ、はい……」

結局、ルスト一人にエンチャントを行うことになったモルドを尻目に、俺とレイ氏が武器を構えて前へと出る。

「レイ氏、まず間違いなく触手攻撃はあるだろうけど、受けて大丈夫なのか?」

「はい、タンク系のスキルに「反撃衝突コリージョンカウンター」というものが、ありまして……多少のダメージは食らう、と思います、が……耐え切れ、ます」

名前の感じからして、相手の攻撃に自分の攻撃を当てる系のカウンターかな。いいなぁ、そういうの俺の得意分野だからちょっとタンク職にも興味が湧いてくる。まあこのゲーム調べた限りじゃステータスリセットがクソ面倒そうなので憧れは憧れのままだけれど。

「さてクターニッドどう出る?」

何が来ようと俺たちレベル99エクステンズのスペックで対処し切ってみせようぞ……ふむふむ、八本の触手を上へと掲げて? それぞれの触手の先端が異なる八色に輝いて? 光が潰れたワイングラスみたいな形状になったのをを触手が掴んで? あれ、何もしてないのに四つ勝手に壊れて……うおっまぶしっ

視界が青一色に染まる。何かヤバげなモンスターによって着色されたらしいルルイアスの青色すらも塗り潰す青い閃光、それがクターニッドの持つ青い杯から放たれたものであることは直前まで視認していた視覚情報が補足している。
とりあえずダメージを伴うようなものではないようだ、であれば何が起きる? 同じユニークモンスターだ、リュカオーンの刻傷が必ずしも効果を発揮するとは断言できない。どうやらこれもギミックのようだしひどいデバフが付与されてもなんらおかしくはない。

「サンラクさん、大丈夫ですか!?」

今の誰だ、女の声だけどルストや秋津茜のものではない。NPCの性別:女のキャラに俺をさん付けで呼ぶやつはいないし……まさか幻聴効果? クターニッドならやりそうと思えてしまうあたり奴を設計したデザイナーの思惑通りなのが腹立たしい。

よし、とりあえず全員にステータス異常がないか聞いておこう

「とりあえず全員ステータスに以上がないか確認してくれ!! ………って、あぇ?」

……………………今の誰だ、女の声だけど他人のものではない。確かに今の台詞は俺の脳が考え出したものを俺の喉が発声したもので……いや、待て。ちょっと待て。

クターニッドの能力は「反転」で、反転とはつまりAをひっくり返してBにする、ということだ。いや、この場合AとBじゃなくてXとYが入れ替わっているのではというかまさか。

「うわ、デカい」

およそハンドボールサイズ。弱ったな、女キャラを使う経験がないってわけじゃあないがE……いやまさかF? こんな重心がブレまくるものを二つもぶら下げてクターニッド戦はいくら俺でも慎重にいかないとっていやいや冷静に考えるのは大事だがここは素直に驚くべきだろう。

「性別反転……だと……!?」

どうでもいいが、上半身半裸の状態で性別反転してもすっぽんぽんというわけではなく、へそから下を切り落としたタンクトップみたいなアンダーウェアを着た状態になっていた。残念なような我が事だから安心したような……まぁいいや、とりあえず殴るか。









「煮ても焼いても食えないハリボテタコモドキがぁぁぁ!!」

「えっ、え、ひゃあぁぁ……」

視点の高さからして身長150位、体重は……やっぱり胸の分だけ重いな。ステータス自体は変化なし、兎月などのステータス条件付きの武器は問題なく使える。というか地味に声が女性的な高さに変わってやがる、マジかよ全ネカマプレイヤーが涙を飲んだ声質変更効果もあるの? ネカマプレイヤーの神じゃんクターニッド……
走りながらおおよその歩幅やら跳躍力やらを把握し、背後で思いっきりメンタルをかき乱されてへたり込んでしまったレイ氏に変わって(サンラク)改め(サンラク)が兎月のクリティカルをクターニッドへと叩き込んだ。
やっぱり直接攻撃自体クターニッドには有効打たりえないようだ、なんというか脂身の塊に斬りかかっている気分だ。クターニッドの表面(・・)を貫いて内側へと食い込んだ刃がヌメるようなまとわりつくようななんとも言えない抵抗力に止められる。少なくともこれがダメージを与えているようには考えづらいな。

「レイ氏! なんか見るからに鎧のサイズが合ってないけど動けそう!?」

「え、ひゃ、あの、えと……あ、待って! 大丈夫、判断力あります……!」

明らかに恐慌状態だったので精神分析をするべきかと兎月の柄をハンマー代わりに構えていた俺だったが、どうやら雰囲気で察したようでレイ氏はわたわたと手を振って自身の正常さをアピールする。心なしか作っている(・・・・・)声が元の地声に戻りかけているが……まぁいい。
非常に厄介なことにレイ氏の見てくれからして性別反転時の体型は恐らくランダム、そしてその時点で装備していた防具は「元の」体型に準拠しているということが分かる。つまり巨漢から一般的な高校生女子程度の背丈にまで縮んでしまった今のレイ氏は装備品がブカブカになっているということだ。

「やっぱり普通に物理攻撃もしてくるか……! 失礼!!」

「ひゃああああ!?」

よし、装備品込みなので自信はなかったが鍛えたSTRは俺を裏切らなかった。今にも脱げてしまいそうな鎧を着たレイ氏を抱え上げ、質量の無さそうな身体構造のくせに轟音を立てながら叩きつけられんとする触手の攻撃範囲から緊急離脱する。

「奴自身はほとんど座標移動しないからある程度距離を離せば安地(あんち)が多いのはデザイナーの温情か……」

「おひっ、お姫……っ、だっ…………」

とりあえず他の連中と合流して……

「大丈夫ですかぁ!?」

「ひょえっ」

目の前に障害物が突如発声し、何事かと性別反転直後以上にパニックしているレイ氏を見ていた視線を上げればそこにはギッチギチの服に浮かび上がった筋骨隆々の……いや、しかしてどちらかというと脂がノッていそうないわゆる「ガチムチ」の筋肉が視界いっぱいに広がる。そしてさらに視界を上に向けると、そこにはカイゼル髭を蓄え額に狐の面をちょんと乗せたおっさんフェイス。

「いやお前秋津茜だろ」

「はい! 秋津茜ですぅ!」

やっぱり秋津茜だったわ。

何故よりにもよってまたおっさんなんだと言いかけた次の瞬間、緑色の閃光によって何もかもが塗りつぶされる。






そして世界が(・・・・・・)ひっくり返った(・・・・・・・)
クターニッド「仮に性転換しようがお前はお前だろ!(要約)」
後にネカマの神と崇めらるクターニッド、20XX年の夏であった……



・赤の聖杯:近距離無効化
・橙の聖杯:遠距離無効化
・黄の聖杯:物理攻撃無効化
・黄緑の聖杯:魔法攻撃無効化
・緑の聖杯:??反転
・青の聖杯:性別反転
・藍の聖杯:?????反転
・紫の聖杯:????反転

封将を倒してないとユニークモンスターのスペックで魔法無効化、物理無効化をやらかす地獄絵図に変わります。
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