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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

見上げた空、広がる海、深淵の都市を駆けて

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倶に天を戴いて 其の一

正直これ結構アレな内容なのですがそういうものであると、単なる主人公強化イベントであると流していただけると幸いです
結論から言おう、特に何も起こらなかった。
どうやら自動的にボス戦に移行、とかは無かったらしい。というわけでルルイアス攻略班は一旦解散し、最終日……黒い蛸足にルルイアスへと引きずり込まれてから七日経過した朝に備えて各自自由行動となったのだった。
最終決戦の地は円形都市の中央に位置する青い城、警戒もあってかこれまで誰一人として足を踏み入れていない……テスターなどがいれば別だが恐らく一切のプレイヤーが足を踏み入れたことのない前人未到のエリア。七日目にはNPCも含めた全員で城へとカチコミをかけ、巨大なタコ討伐に挑むのだ。

「っふぅー………「七日目にベストコンディションで挑みましょう」って言い出しっぺの俺がゲームしてちゃ世話ないな全く」

未成年なので当然リアルで喫煙すればお縄案件だ。だがここは仮想現実(VRゲーム)、ここでどれだけ酒を胃に流しこもうが煙を肺に流しこもうが、リアルの肉体にアルコールやニコチンが蓄積することはない。そもそもこのタバコ、このゲームにおけるいわゆる回復アイテムなのだ、このゲームをプレイしている限り皆喫煙者よ。
まぁ、一つ問題があるとすれば飲酒喫煙が回復手段であるのにキャラメイクは老人から児童(・・)まで無駄に幅広い、という点だな。

「見た目の犯罪臭が半端ないよなぁこれ……」

口から煙を吐き出す俺の視点はいつも以上に低く、よれた煙草をつまむ指はいつも以上に細く華奢だ。一般的にこの姿の人間を人は「幼女」と呼ぶ。


ある意味ではフェアクソ以上に悪名を轟かすクソゲー。無人島で頼れるものは己と手に持ったピストルのみ、オンライン環境では全プレイヤーが敵同士というサバイバルガンシューティングゲーム、その名を「サバイバル・ガンマン」と言う。
ある理由からオンライン環境が閉鎖されたこのゲームは、オフラインでなら起動することが可能だ。ある理由からクソゲーでありながら非常に高価な値段で取引されるこのゲーム……俺は中学二年生の時にこのゲームを手に入れることに成功していた、というか発売初日組だ。

「なんつーか、久々にこの空気を吸ったなー」

少なくとも、俺の記憶に残るクソゲーは今やフェアクソことフェアリア・クロニクル・オンラインが不動の一位に君臨しているが、人生を変えたクソゲーはと問われれば迷うことなくこのゲームを挙げるだろう。
まぁそんなことはどうでもいいのだ、このゲームに来たのは対クターニッドを見越してのことだ。そう、かつてウェザエモン戦を想定して「便秘」のボスで練習をしたように。

このゲームの特徴は無人島でサバイバルをする軽装備とはいえ武装した人間が生態ピラミッドの最底辺である、という点だ。回復アイテムとして使用出来る虫ですら油断してると毒でやられる、もしくは群れで襲われて死ぬ。魚釣りで魚に逆に釣られる経験は中々出来ないだろうよ。
だが人間を食物連鎖の最底辺に叩き込んだ元凶はそれらではない。おっと、回顧していたらどうやら来たようだ。

「んー、マトンか……割と強いけどまぁキツめのウォーミングアップとしては許容内か」

永久歯が二本以上生えたジンギスカン向けの羊ではない、背の高い木々を草むらのように掻き分けて現れたそいつは、ただの皮膚であるというのに下手なライフル弾すら通さない分厚い皮膚と、それに比例した巨大な体を持つ……()だ。すなわち魔豚(マトン)である。
ちなみにこのゲームには魔法的なアレコレは存在しない、魔豚という名前も魔物じみた豚とかそういう感じの理由だ。
野生化した豚ってそれ猪じゃないのかと思うが、クソゲーでそんな事気にしてたらスタートボタンすら押せやしない。

「短い再会だが、頼むぜ相棒」

サプレッサー付きハンドガン、威力は当然マグナムにも劣る性能だがこいつには何度も命の危機を助けられた。

「さぁ、「μ鯖の「サイレント・キル・幼女」の恐ろしさ、肉の隅々にまで焼き付けてウェルダンにしてやるよ豚野郎!」

このゲームでは基本的にめちゃくちゃ小型だが群体のMobか、めちゃくちゃ大型だが単体のMobがエネミーとして出現する。そして言うなれば「怪獣vs人間」のタイマンとでも言うべきこの状況こそが、来たるクターニッド戦に向けて取り戻しておきたいノウハウだ。

「死に晒せぇぇぇ!!」

そしてお昼はトンカツにしよう!!













「いっつつつ……やっぱ鈍ってると何発か貰っちゃうか……全盛期ならノーダメ余裕だったんだが」

ベッドから起き上がり、じんわりと熱を持つ右肩をグルグル回しながら俺は一階へと降りる。

あの後も基本サイズが大型ダンプほどある梟やら虎やらを倒してきたわけだが、なんとなく身体の奥底に眠っていた対巨大モンスターへの動きが戻ってきた気がする。
そう、モンスターでありながらある種の可動オブジェクトと想定して動く感覚……懐かしいなぁ、「鯖癌(サバガン)」の現役時代を思い出すぜ。

「トンカツの出前……おっ、あるじゃんあるじゃん」

携帯端末一つでどこでも出前が取れる、現代日本は最高だね。注文を発注して……っと

ピンポーン

「配達込みで一秒!?」

出前RTA世界一位かよ、すげーなオイ……んなわけあるか、なんだろう?
父さんは最近知り合ったらしい釣り友達と沖釣りに行ってるし、母さんは世界のカブトムシ展に出るショボクレスガクブルみたいな名前のカブトムシを見に行ってる。
瑠美は……今の瑠美に関わることはニトログリセリンの直上で線香花火するくらいデンジャーな所業だ、多分バイトでいないだろうし俺が応対するしかあるまい。

「はい?」

『どうも、お届け物でーす』

「あー、少々お待ちをー」

宅配便、瑠美が服を頼んだか? それとも父さんが新しい釣竿を? まさか母さんが新しい昆虫標本を……? 参ったな春先の「世界の蛾セレクション」の悪夢をもう一度やれってか? 割とシャレにならないハザードが起きかけたんだぞアレ。

「あーはい受け取ります」

「いえいえ、運びますよーデカいんで」

「……デカい?」

宅配のお兄さんの後ろを見れば、明らかに手荷物を運ぶためとは思えない大型トラックの中から聞く限り二人以上の男性の声で「持ち上げるぞー」と言う声が聞こえてくる。
え、待って大の大人二人以上で運ぶ必要があるもの? まさか母さんがテラリウムでも買ったのか?
去年のクリスマスに自宅に南米環境を作り出さんとした母さんを家族三人で阻止した記憶が頭をよぎるが、まさか凍結されたはずのプロジェクトが秘密裏に動いていた? いや、母さんだったらもっと上手くやるはずだし……そうだ。

「あのー、誰宛のナニですかね?」

「あーはい、こちら……「ヒヅトメ ラクロウ」様宛の「UCE. チェア型フルダイブVRシステム Pro」と後はダンボールが一つです。いやぁ、あの業務用を個人で所有する人初めて見ましたよ……あの、もしもし?」

───思考強制シャットダウン

───思考を再起動します

──────アップデートが一件存在します、アップデートが完了次第再起動します

───なんじゃこりゃ


「アノ………コレ、ダレカラオクラレタモノデスカネ?」

「へ? え、えーと……電脳大隊(サイバーバタリオン)……プロゲーミングチームからVRシステムが届くなんて、懸賞かなんかやってたんすか?」

「アーソッスネ、チョトシツレイシマスネ」

「あの、どこに運びますか?」

「オテスウデスガ、オレノヘヤマデオネガイシャス。ニカイノ……エエ、ハイ」

ちょっと俺は尋問をしなければならない。







件名:おいコラ
差出人:サンラク
宛先:モドルカッツォ
本文:どういうこっちゃねん、なんやねんあれ


件名:Re:おいコラ
差出人:モドルカッツォ
宛先:サンラク
本文:関西弁になってるのは笑うわ、その様子だと届いたみたいだね


件名:Re:Re:おいコラ
差出人:サンラク
宛先:モドルカッツォ
本文:新手のドッキリか? 着払いとかだったら割と法的手段に踏み切るぞ? お?


件名:Re:Re:Re:おいコラ
差出人:モドルカッツォ
宛先:サンラク
本文:まぁ落ち着けって、いたずらで業務用VRシステム送りつけるかよ。そりゃウチのトップが「顔隠し(ノーフェイス)」様に、ってプレゼントだよ。タダだぜタダ


件名:Re:Re:Re:Re:おいコラ
差出人:サンラク
宛先:モドルカッツォ
本文:タダほど怖いものはないんですけどー? 無償の善意とか主要キャラ以外だと大抵が後々のトラップなんですけどー?


件名:Re:Re:Re:Re:Re:おいコラ
差出人:モドルカッツォ
宛先:サンラク
本文:脳みそゲームに侵されすぎだよ、一回エナドリとゲームを絶って瞑想でもしたら? まぁ先行投資するから是非ウチに、ってのは透けて見えるよね。多分そのうち正式にメール来るんじゃない?


件名:Re:Re:Re:Re:Re:Re:おいコラ
差出人:サンラク
宛先:モドルカッツォ
本文:つーかサイダーバターケーキだかなんだか知らんけど住所教えた覚えないんですが


件名:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:おいコラ
差出人:モドルカッツォ
宛先:サンラク
本文:ああそれなら、サンラク打ち上げの時に鉛筆の奴に住所教えてたじゃん?


件名:お前ーーーーーーっ!!
差出人:サンラク
宛先:鉛筆戦士
本文:法的手段ーーーーーーーーーっ!!


件名:Re:お前ーーーーーーっ!!
差出人:鉛筆戦士
宛先:サンラク
本文:どうせ早かれ遅かれバレるんだからいいじゃーん! しれっと企業に正体バラされた私の方がダメージでかいんですけどーーーー??? それに守秘義務とかそこらへんは守ってくれるでしょ、多分


件名:お前らホンマお前ら……
差出人:サンラク
宛先:鉛筆戦士、モドルカッツォ
本文:突然名指しで馬鹿でかい荷物が届いた俺の気持ち考えろよ……


件名:Re:お前らホンマお前ら……
差出人:鉛筆戦士
宛先:サンラク
本文:今日の晩酌が美味しくなりそう


件名:Re:お前らホンマお前ら……
差出人:モドルカッツォ
宛先:サンラク
本文:笑顔って心を豊かにしますよね






「あんの外道ども………っ!」

プライバシーって法的に守られてるモンなんだぞ? あいつらそれを忘れてるんじゃなかろうか。
いや、まぁ……出どころがはっきりした以上、その内容自体はなんのしがらみもなければ三日三晩小躍りするくらいに嬉しいものではあるけど……えぇ……

「ここで開けちゃいますか?」

「あー、自分で組んじゃうんで大丈夫です」

「はい、じゃあここ指紋認証お願いしまーす」

今のご時世、住所情報と一緒に登録された指紋認識で判子の代わりになる。俺は宅配のお兄さんに差し出されたタブレッドに指を押し付けてデータを読み込ませ、数秒のロードを経て本人認証が完了する。

「うっす、ありがとうございましたー」

「お疲れ様でーす」

さて、と…………宅配のお兄さんを見送り、玄関の鍵をかけて、靴を脱いで階段を上って自分の部屋に戻って……さてこれどうしよう。これを受け取るということは実質的にカッツォが所属するチームからのスカウトを受けるに等しい。流石にこんだけのものをプレゼントされて無下に扱うのも……いやしかし大学進学は絶対条件だ、そこを揺るがせるのは家族会議……いや家族尋問……もはや家族拷問……?
思考はうだうだと底に沈んでいくが身体は正直なもので、淀みない手つきでダンボールを開封し、中にあるVRシステムを取り出して…………

「ゔぇぇえ」

思わず喉から変な声が出た。いや、まぁ確かに印象には残ったのかもしれないけど、別に俺のお気に入りのキャラというわけでもないんだが……

「手が、込みすぎている……」

取り出されたチェア型フルダイブVRシステム……強化プラスチック製の外装で機械部分が覆われたそれの外装には、右面にはデカデカとカースドプリズン、そしてプリズンブレイカーのイラストがプリントされている。そして左面にはエンブレムチックにデザインされた金属質なカボチャのヘルメットをかぶった傭兵のイラストと「NO-FACE」のロゴがプリントされていた。あとよくよく見たら椅子の背もたれ部分にしれっと電脳大隊のロゴが入っていた。


件名:追伸
差出人:モドルカッツォ
宛先:サンラク
本文:そのデザイン、両方とも原作者の直筆イラストをプリントしたものだからそのVRシステム世界に一点しかないワンオフだよ



「嬉しいけど……っ、嬉しいけど………っ! もはや脅迫じみててつれぇ………っ!!」

今の状況を簡潔に表現出来る例えが分かった、悪魔と契約した瞬間だ。

───ああ、だがそれでも。
来るクターニッド戦に向けて、最高クラスの環境が意図せずして整ったわけだ。
今回の長篇タイトル「倶に天を戴いて」はクターニッドというキャラの設定を考えた初期段階で絶対に使おうと決めていたタイトルだったりします。


あとここで明言させていただきますが、現在想定しているこの物語の本編内においては主人公の職業が学生からプロゲーマーにジョブチェンジは致しません。
+注意+
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