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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

見上げた空、広がる海、深淵の都市を駆けて

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混沌たる街に正義と悪は駆け巡る

素顔をさらすタイミングを逃し続けたせいでなんだか「こいつは覆面で最後まで通していくんだな」的な空気が漂ってしまい、俺は結局自室に食事を持ってきてもらうという選択肢を選ばざるをえなかった。まぁそれはそれとして食事は普通に美味しかった……タダ飯って素晴らしいよね、何せ自分の懐は一切痛まないんだから。
そんなこんなでいつもと違うアプローチでVRの世界へとダイブした俺は、明後日の戦いの舞台となるゲーム……ギャラクシア・ヒーローズ:カオスを起動し、とりあえずトレーニングモードへと進み、キャラ選択画面で現在進行形でお悩み中であった。

「と言っても、ギャラクシアコミックのキャラなんてそれこそ見た目くらいしか知らないし、リニアの中で読んだ作品のキャラクターくらいしか把握してないんだよなぁ……」

こういう時はとりあえず見た目で選ぶ、最終的には一通り全キャラを使うのは確定しているのだが。とりあえずこの侍っぽい「ランゾウ」なるキャラから使ってみよう……

───およそ一時間後

「んー……とりあえず一通り使ってみたが……」

作品の特性上ヒーローだけではなくサブヒーローやヴィランなんかも使えるため、全キャラの試運転はまぁなんというか、疲れた。とはいえ一通り身体を動かしてみてわかったが、シャンフロの技術が使われているというのはどうやら本当のようだ。
シャンフロ以前のゲームにはある宿命がつきまとっていた、それは現実の肉体と仮想現実内におけるアバターの体型の違いから来る挙動の違和感である。例えば現実では細身で長身の人物がゲーム内でドワーフ体型のアバターを使用する場合、歩き方や身のこなし、手足の長さや体型の違いから生じる違和感などがどうしても拭いきれないという問題があった。であるために基本的にフルダイブVRというゲームはプレイヤーの現実の肉体がアバターに参照されることが多い。特に「個人」の設定に自由が利くFPSなんかはその点では動きやすい(・・・・・)ゲームであると言える。

逆に格ゲーというものはフルダイブVRとは相性が悪い、なにせ様々な個性を持つキャラクターを操作するという特性上、デブやらノッポやら、場合によっては人外すら操作するのが格ゲーというものであり、ただレバーとボタンを動かせばいい前時代的それと違い、格ゲーマーはまず「持ちキャラの身体に慣れる」という前段階を要するのだ。そのため、「便秘」のようなアバターは現実の自分の体型を参照する格ゲーは結構多い。
流石に百貫デブとは言わないが格ゲーのアバター向きではない体型のプレイヤーなんかはどうしてもリアルとVRの身体の動かし方の違いに苦しむ定めにあり、これがフルダイブVRは健康体でやるべきという理由の一つでもあった。つまるところ、従来のフルダイブVRはデブに厳しかったのだ。

だがシャングリラ・フロンティアというゲームはその問題点をどういう原理か完璧に解消している。身長を伸ばそうが縮めようが太らせようが骨と皮だけのような姿にしようが、如何なる体格体型のアバターであってもプレイヤーはそれをまるで最初からそれこそが自分の姿であったかのように操作することができる。
そしてそれはシャンフロの血が流れているこのゲームも同じであったようで、巨漢やらチビやらを一通り使ってみたのだが、今の所体格の違いによる動きづらさを感じることはなかった。

「とりあえず本番で使うキャラの候補は五つくらいに絞って……今日明日で最終候補を決めるか」

まだ正式に発売されたわけでもない現段階で二十キャラ以上の中から己の分身を選ぶことができるのだが、その中で個人的に使いやすかったキャラクターをとりあえず五体、ピックアップしておく。
まず第一候補「ランゾウ」。どうやら嵐蔵(ランゾウ)と書くらしいそのキャラは所謂サムライ(侍ではない)キャラであり、宮本武蔵よろしく日本刀二振りを二刀流で扱うお爺ちゃん系ヒーローキャラクターだ。シャンフロにおける(サンラク)に近しい戦闘スタイルであるということもあるが、特殊技が瞬間移動じみた居合術であるのが個人的に好評価だ。

次に第二候補「カースドプリズン」。名前の通り呪われた鎧によってその力を封じ込められているヴィランであり、シルヴィアなにがしの使うミーティアスの宿敵だ。車や瓦礫などを取り込んで自身の鎧を強化することができるのだがその性質上機動力を補うには一工夫が必要になる。あるロマン技が搭載されており、それも含めて使っていて楽しいキャラであると言える。

第三候補は「ミーティアス」。シルヴィアなにがしが俺と同じタイプのゲーマーである……というカッツォの言うとおり、彼女のメインキャラは俺にとっても極めて使いやすいキャラクターであると言える。兎にも角にも機動力がぶっ飛んでおり、急カーブするには一旦止まらないといけないという弱点にさえ目を瞑れば、爆速直進による距離関係の主導権を相手から奪い取ることができる……これはあれだな、防御に回ると死ぬタイプのキャラクターだ。

第四候補……「ティンクルピクシー」。名前から既にアレなオーラが漂っているが、まぁ女性キャラである。それも妖精的な可愛らしさ重点のヒロイン的キャラ……というのは仮の姿、その本性は超至近距離戦闘(インファイト)に特化した嫌がらせの塊だ。コンボのほとんどが「近づく」「動きを縛る」「棒で殴る」で構築される、妖精というより悪鬼の類としか思えないキャラクターだ。

そして第五候補「PSY(サイ)ボーグ・ロード」。超能力とサイボーグが合体した飛び道具持ちのキャラクターだ。というか飛び道具が本体と言ってもいい、あんまりに分かりやすいキャラクターコンセプト……つまりは「近づかれたら死ぬ」。とはいえ豊富なステップ技に上手くハメれば一方的に殴り続けることができる飛び道具技、立ち回りの技術を要求されるという点では中々に好みのキャラクターだった。

「とりあえずこの五キャラで対人やって最終的に決めるか……九時五十二分か」

オンライン上で合流するのは十時からだが、別にサーバーが開く時間までも十時と言うわけではない。どうせマッチング待ちするなら今からでいいかとオンラインに接続し……

『Nu2meg とマッチングしました、キャラクター選択画面に移行します』

「んぁ!?」

ほぼノータイムでマッチングが成立したことで思わず間の抜けた声を出してしまう。このゲームでは基本的に直前に使用していたキャラクターが暫定的なアバターとされるため、キャラクター選択画面でメカメカしい外見のイケメンが間抜け面を晒していることになるのだが……いや、今それは関係ない。

「この名前……成る程、早速実力の証明をしなけりゃならんわけだ」

カッツォではない、ペンシルゴンでもない。であればこの人物が誰であるかは明白、この一戦は本番と同等の重さを持っている。

(夏目氏のプレイスタイル……聞いておくべきだったな、こっちのプレイスタイルはカッツォの奴にバラされてるし……おのれユニーク自発できないマンめ)

さぁどうする。使いやすさで言うのならミーティアスかランゾウだが、初見の相手への様子見を兼ねるのならPSYボーグ・ロードやカースドプリズンも良い。ティンクルピクシーはある程度相手の手の内を把握していないとリスキーなので今回はパス。

「……よし」







全能存在ギャラクセウスですら予期し得なかった正体不明の存在「カオス」。調和でもなく、破滅でもない、終わりなき戦いが続く混沌をこそ望むその存在はあらゆる世界のヒーローを、ヴィランを取り込み己の世界「ケイオースシティ」へと閉じ込めた。異なる正義を掲げるヒーロー達は手を組むのか? 己の欲望をこそ第一とするヴィラン達は敵対するのか? それとも宿敵たるヒーローとヴィランがタッグを組むのか!? 混沌の街に、超常の存在は嗤う───!!

という設定の今作であるが、その設定上従来の格ゲーとは大きく異なるルールで戦うことになる。
まず勝利条件は二つ、一つは対戦相手をノックアウト……つまり倒すこと。格ゲーとしてはこちらがメインではあるのだが、ある理由から単純に殴ればいいという問題でもない。
そしてもう一つが広大なバトルフィールド「ケイオースシティ」のどこかにランダムで設置される「ケイオースキューブ」を獲得すること。
基本的に格ゲーのテンプレートはコロシアムのようなバトルフィールド内で戦う、というものであるが、ギャラヒロ:カオスでは一試合ごとにオブジェクトがランダム再配置されることで常に異なる景色を見せる街一つ全てがバトルフィールドだ。

であれば対戦相手なぞ無視して高機動の……それこそミーティアスのようなキャラを使ってケイオースキューブを最速で確保すればいいと考えてしまうがところがどっこいそうはいかない。
プレイヤーは使用キャラクターによるが「ヒロイックゲージ」「ヴィラニックゲージ」をゲーム開始時点から持っている。そしてこのゲージを溜めなければケイオースキューブを回収することができないのだ。そしてこのゲージを溜めるためにしなければならないこと……まぁ言うまでもないだろう。
ちなみにヴィラン同士、ヒーロー同士でマッチングした場合はNPCとしてヴィランやヒーローが出現したりするらしい。

「さて……どうやら向こうはヴィランキャラを選んだみたいだな」

ヒーロー対ヴィランでマッチングした場合、ヴィラン側のプレイヤーは三十秒間の準備時間が与えられる。ヒーローは後から登場するというお約束のためのルールなんだろうが、ヴィランキャラはその間にゲージを溜める、罠を仕掛ける、自身を強化するなどの行動が可能だ。
これだけ見ればヴィランの方が有利にも思えるが、ヒーロー側のキャラはケイオースシティに存在するNPCを味方につけることができる。例えばヴィランの目撃情報を集めて潜伏したヴィランの場所を特定したり、災害救助などをすることでヒロイックゲージを溜めることができる。
愚直に敵を倒すことに注力するのか、それともキューブを手に入れるために走るのか……格ゲーではあるが戦略ゲーの面が強いようにも感じるな。

「ああそこのお嬢さん、ここらで暴れまわってるやつを見なかったか?」

「あ、あっちで化け物が暴れてるって……私の夫があそこにいるかもしれないのに……!!」

「成る程……ところでここらに甘味処はあるかい?」

「今そんなことどうでもいいでしょう! 老人ホームの場所を教えて差し上げましょうか!?」

うん、やっぱりか。いきなりトチ狂った質問を投げかけた老人に対して怒る女性を尻目に、俺はこのゲームの本質に気づいた。オフラインの一人対戦……流石に実機プレイのテスターといえど製品版をプレイできるわけではなく、簡単なトレーニングモードではあったがそれでもNPCにコンタクトを行うことはできた。
なので当然というか俺はいろいろ試してみた。ヴィランキャラで幼子を人質にしてみたり、ヒーローキャラで災害救助をし続けてみたり、気障ったらしい言動をしてみたり。そして今の最後の確認で分かったことがある。

このゲームの本質はシミュレーションゲームだ。
ぶっちゃけるとシャンフロが五世代先を行くゲームだとすればこのギャラクシア・ヒーローズ:カオスはまぁ三.五世代先くらいのゲームです
確かにNPCのAIは優秀ですが、シャンフロのそれと比べると数段劣るものです。問いかけに対する回答力は優れていますが五、六回話しかけ続ければ会話がループするタイプの知能ですね
ただそれでも莫大なお金の流れがあったとかなかったとか
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