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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

見上げた空、広がる海、深淵の都市を駆けて

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荒天荒波SANチェック

クライング・インスマン号、それはもはや船と呼ぶにはあまりにもズタボロであった。
マストはへし折れ、船底にはいくつもの穴が空いている。船首の損傷は、まるで巨大な船の怪物が口を開いて笑っているように見える……当然、間違っても航行できるような損傷ではない。そんな物理的に航行が不可能なレベルの損傷を負っているにもかかわらず、荒れ狂う荒波の中を跳ねながらクライング・インスマン号はこちらへと確実に迫っていた。

「わひゃあ!?」

「ぶぎゅお!? せ、拙者をソリがわりにぃぃぃぃ…………」

なにやらすっ転んだ秋津茜がマントを下敷きに船尾へと滑っていったが、それを笑う奴はプレイヤーNPCを問わず存在しない。足場が悪いとかそういうレベルの話ではない、馬の背中で踊る方がまだ簡単だぞ!?

現代人が「危険」に遭うことは早々無い。皆無でない辺りは確率論とか人の諸行無常とか哲学的な話になるので省くが、当然今のご時世嵐の中を帆船で進むような人間はいない。だがこれはゲームでありそしてファンタジーである、尋常ではない揺れは一秒として足場の平行を保つことが出来ず、俺でさえ気を抜けば体勢を崩してしまいそうになる。

「大丈夫か!? この状態で戦うんだぞ!!」

「私は、なんとか……!」

「この程度なら、まぁ」

「助けてルストぉぉぉぉ…………」

大丈夫なのは二人、大丈夫じゃないのは二人と一羽か。NPC達は……流石に海賊の役割(ロール)を背負ってるだけあって捕まることができる場所でなんとか踏ん張っているな、だっこちゃん人形よろしくマストに手と足フルに使ってしがみ付いてるスチューデは見なかったことにしてやろう……男の情けというものだ。

「闇雲に攻撃を仕掛けんなよ! 射程圏内まで引きつけて攻撃を叩き込め!!」

「め、命令を出すのは僕様だぞ!!」

「うるせぇ! そういう台詞は立ってから言え!」

「うぐぐっ」

男の情け? 魚の餌にもなりゃしねーよ、ペッ!
大砲代わりに船に設置されたバリスタに船員達が何とか取り付く。中には船員を押しのけ自分がバリスタを操ろうとするルストなんかもいたが、誰が撃とうと当たればいい。
既にこちらと向こうの距離は二十メートルを切った、それにつれて向こうの船に乗っている連中もその姿がぼんやりと見えてくる。そして眩い閃光が辺りを照らした瞬間、その姿を俺たちはハッキリと目視した。

「1Dいくつロールすりゃいいんだろうな」

「き、気持ち悪いですわぁあ……!」

それを人間と呼称するにはあまりに醜く、あまりに悍ましいものであった。人の形こそしているが、まるで腐肉を無理矢理固めたかのような爛れた全身をビッシリと鱗が覆っている。
その顔は身体以上に人間離れしており、ギョロリと眼窩から飛び出さんばかりの眼球は焦点の合わない動きで忙しなく蠢き、引き下げたかのような口には鮫や鯱とは違う、細かな針のような魚の牙が不規則に生え並んでいた。
そんな異形達は半魚人とも言える身体にボロ切れのような衣服を纏っており、さながらそれは水底に沈んだ水死体達が魚の怪となって這い出て来たかのような、人の本能を握り蝕む原始的な恐怖を開拓者たちに強く自覚させた。
深き者共ディープ・ワンの姿を直視してしまった開拓者達はSANc 成功/失敗 1D3/1D10……いやいや、何を考えてるんだ俺は。

「ひ、ひぃい……!」

「ああクソ、アイデアロールに成功しちゃいましたってか!?」

所詮はゲームの敵と割り切ったメタ視点を持つプレイヤーと違い、NPCの中には発狂しかけの奴らがチラホラと見受けられる。クソッタレめ、置物と化すならともかく下手にFF(フレンドリーファイア)されたらたまったもんじゃない。

「精神分析(物理)!」

「ぐべぇ!?」

悪いが回復魔法なんて覚えてないからな、ショック療法しか使えないんだ。

「ほ、ほっぺが痛い……」

「船長なら船長らしくパニックになった部下を正気に戻しとけ!」

恐怖のあまり前後不覚で船の外に落ちそうになっていたスチューデを文字通り叩き()し、頬を抑えるクソガキに手短に告げて改めて武器を構える。

「余り物とはいえ最高級品で生まれ変わった湖沼の短剣……いいや、初陣だぜ「傑剣への憧刃(デュクスラム)」!」

名剣と呼ばれる剣がある、聖剣と呼ばれる剣がある、魔剣と呼ばれる剣がある。それらの業物はオンリーワンであって、如何に模したところで唯一の刃に至ることはできない。
だがそんな足りない刃を重ねて一つの剣としたならば、それはきっと英傑達の剣に負けない強き刃となるだろう。
そんな「片手剣」を二振りは雨粒を弾いて雷光にその身を輝かせる。

これまでの長い戦いを耐え続けて来た湖沼の短剣系列から派生したこの片手剣には特別な効果はほとんどない、その剣が秘めた力はただただ頑丈(・・)であること。クリティカル攻撃に成功した場合耐久が減らない、というシンプルながらこれ以上なく俺向きな能力。
片手剣ではなく短剣のまま「湖光の短輝剣」に強化するルートもあったのだが、競争相手が格上キラーの兎月と状態異常付与の帝蜂双剣であるために単なる強化では物足りなかった為に片手剣二振りに「真化」させたのだ。

「交差じゃなくて衝突かよ……!!」

「射撃する……!」

こちらへと迫るクライング・インスマン号は真っ直ぐスカーレッドホイール号を目指している。それは交差するつもりのない正面衝突を自覚した直進であり、船員達は慌てた様子で船首付近から離れていく。
それに対してプレイヤー陣は後ろに滑っていった奴らはともかくとして、前衛たる俺とレイ氏は迷う事なく前へ、そして狙撃手たるルストはバリスタの狙いを定める。

「狙いを定めて……今っ!!」

荒波による揺れを上書きする、大質量同士の激突。次の瞬間、向こうの船からこちらの船へと乗り移らんとしていた半魚人の何匹かが、放たれた巨大な鉄の矢に貫かれて吹き飛んでいく。

「腐ったつみれ共が、どっちがカチコミに来たのか教えてやるよ!!」

そう叫び、俺は半魚人を蹴り飛ばしながら幽霊船へと飛び移るのだった。









実は、シナリオ名を見た時から何となく予想していたことがある。シナリオ名は「深淵の使徒を穿て」……最終的にユニークモンスターに繋がるにせよそうでないにせよ、少なくともこのシナリオ内でのターゲットとなるモンスターは「深淵の使徒」なる存在であることは明らかだ。
シナリオボスにしてもユニークモンスターよりも強いということはないであろうし、恐らくはエリアボスと同等かそれ以下のモンスターであると予想していた。そして現れた幽霊船に乗っていたエネミーMobはあの腐れ半魚人共のみ。
エムルを連れていく判断は割と迷ったものだが、この手の群体系エネミーであればエムルを守りながら戦うのはあまりに容易い。

「エムル! 離れた場所の奴を狙え!」

「はいなっ!」

短剣を二刀流で扱うのと片手剣を二刀流で扱うのでは立ち回りは別物レベルで変わる。手数と火力のバランスの変動を把握して立ち回りを慣らしていく。
単身飛び込んだ俺を囲うように襲いかかってくる半魚人共の動きはさほど素早くはないが、数の暴力は侮れない。
真正面にいた半魚人に切り掛かり、よろめいたところを蹴り倒して包囲網を抜ける。頭だけで後ろを振り向き、しがみついたエムルの射線を確保する。

「明らかに窮地ですわーっ!」

「ははは安心しろエムル、他にも面子がいるんだからむしろ安ぜ……」

バシュンッ! と俺の顔のすぐ横を鉄の矢が通過する。すぐ後ろでヒット音が聞こえたことからその意図は理解できるのだが……

「むしろ危険かも」

「帰りたいですわぁぁぁぁ!!」

「泣き言は後で聞いてやるからさ! キリキリ働けって!」

「うぁぁぁぁぁん! マジックエッジぃぃぃ!!」

幽霊船に、三つの刃が乱れ舞う。こうして切って落とされた海賊船と幽霊船の激突は、荒れ狂う空模様に呼応するかのように激化していくのだった。
半魚人達は突然奇声をあげながら襲いかかってきた頭に兎を載せた半裸の反対を直視しました、SANチェックです。


ちなみに海に落ちた場合、NPCに縄を垂らしてもらうことで船に復帰できますが、当然重い装備を纏っていればそもそも浮かばないので沈みます、死にます
+注意+
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